【21】
神殿の中の冷たい石畳の上で、サンジはまたゾロに抱かれた。
キスを交わしている内に、お互いどうしようもなく昂ぶってしまったからだ。
サンジは振り絞るように、風呂に行こう、とゾロを促したけれど、ゾロはもう止まらなくなっていた。
それでも、「石畳は冷てぇ。」と口先だけの抵抗をしたら、「あっためてやる。」と抱き締められ、ほんとに体の中も外もあっためられた。
もう拘束はされていない体で、サンジは力いっぱいゾロの体を抱き締めた。
自分の両腕が、ゾロの体の厚みを覚えていくことが、嬉しかった。
石畳の上で寝転がって、いつまでもじゃれ合っていたせいで、二人の体は、さすがにすっかり冷え切ってしまった。
サンジがくしゃみを一つしたところで、ゾロが我に返り、二人で縺れ合うようにして、浴室に向かった。
熱い湯に浸かりながら、二人はまだ飽きずに、お互いの体に触れ合った。
何度もキスをした。
お互いの口内を余すところなく貪るような深く濃厚なキスも、舌先だけを絡めあう悪戯な甘いキスも、優しく唇を触れるだけの優しい淡いキスも。
たくさんたくさんキスをした。
お互いの思いを伝えあう、雄弁なキスを。
二人で体を洗いっこして、サンジは中出しされた後孔をゾロに掻き出されて、また勃ってしまった性器を愛撫しあって、また抱き合って、またキスをした。
せっかくゾロに精液を掻き出してもらったのに、サンジのそこはすぐまたゾロの新しい精液でいっぱいになった。
体の奥にゾロの熱い体液を注がれる感覚に、サンジは全身で酔いしれた。
「も、ギブ…。ギブだって、ゾロ…っ…。」
「泣きごと言うな、まだ足りねェ。」
「んァ…っ…、も、もぉ、ほん、とに…っ、ああっ…。」
「ほんとに嫌なら蹴り飛ばせよ。」
「できっかよ…、ん、んっ…、あ、ん…っ…。」
「やめてほしいなら、エロい声出すな。」
「おまえのほ、が、エロいっ…! あっ…ああっ! あああっ…!!」
浴室での営みで、サンジはすっかり腰が立たなくなり、結局、礼拝堂への移動もまたお姫様抱っこだった。
サンジを抱いたまま、ゾロが礼拝堂の扉を開ける。
室内に待ち構えていた光景に、サンジは絶句した。
「こ…これは…。」
室内は、サンジが過ごした昨夜とは様相を一変していた。
─────ピンク……
真っ先に目に飛び込んできたのは、可愛らしいピンク色だった。
部屋に鎮座している、あのやたらでかいベッドの上に、淡いピンク色の薄い花びらが無数に撒き散らされている。
おかげで、昨日は白一色だった室内が、やたらと明るく見える。
ゾロがサンジを抱いたまま、部屋に一歩踏み込む。
すぐに、サンジは室内に漂う柔らかな芳香に気がついた。
今朝とさっき飲んだお茶と同じ香りだ。
けれどお茶のそれよりも、ずっとふくよかで華やかで甘い。
花びらから香ってくるものだろう。
それほどきつい香りではないのに、体の芯が疼くような、どこか官能的な香り。
ベッドサイドにも、昨日はなかったピンク色の花が飾られている。
すぐ傍にリボンに結ばれたワインらしきボトルと、グラスが二つ。
フルーツの盛られたかごと、プチフールやオードブル等の盛られた器。
その隣にご丁寧に、儀式の時に使われた、あの花の香りのするジェルの銀容器。
それはもう見事なまでに…
「新婚さんのお部屋……。」
思わず呆然と呟いた。
部屋の隅にはゾロとサンジの着ていた服もきちんと揃えてあって、その横にはゾロの三本の刀も立てかけてある。
その刀にまで、何故か小さなブーケがくくりつけてある。
臥月祭の儀式が、月神と戦神の結婚の儀式なんだろうと気づいてはいたが、…まさか、巫女と戦士がここまで念入りにそれを踏襲しなければならないとは。
これほどムーディーに演出されたなら、そりゃあ、たとえ意中の相手ではなかったとしても、否が応でも愛は深まるだろう。
儀式を終えた巫女と戦士が、その後本当に結婚するのが当たり前というのも頷ける。
─────え、じゃ何、…つまり、俺…は、このマリモくんと結婚…すんのか…?
思ったとたん、かああああっ、と見る見るうちに、サンジの顔が赤く染まっていく。
結婚。
ゾロと?
え、もしかして、俺がお嫁さん?
俺、お神輿乗って、ゾロにお嫁入りしちまったのか?
白い肌が劇的なほど赤く変わっていくのを見て、サンジを抱えていたゾロが噴き出した。
笑うんじゃねェ!と怒鳴りつけようとしたサンジの体が、おもちゃのようにぽぉんと放られる。
花びらを舞い上がらせながら、サンジの体がベッドのスプリングに弾んだ。
驚くサンジの体を、圧し掛かってきたゾロが押さえつける。
「至れり尽くせりじゃねェか。」
サンジを覗き込んで、ゾロが獰猛に笑う。
凶悪にすら見えるその顔が、くらくらするほどセクシーだった。
─────あー、もういいや、俺お嫁さんでも。
だってもう、何一つ抗えない。抗おうとすら思わない。
観念してサンジは、ゾロの首に腕を絡めた。
ちゅ、と音のするキスをしてから、ゾロは、
「そういやお前、一日何も食ってないんだよな。」
と、思い出したように聞いてきた。
「ん? あァ…朝になんか、桃みてぇなの食っただけだな。」
それを聞いて、ゾロが、サンジから体を放し、サイドテーブルの皿に手を伸ばした。
小さなパイを摘まんで、自分の手からサンジに食べさせる。
さくっと軽い歯ごたえ。
口の中に広がった塩味に、サンジは、スモークサーモンかなにかのパイだな、と見当をつけた。
一口食べたら急に思い出したように空腹を感じて、二人でオードブルを平らげ、ワインを飲んだ。
ふと、ゾロが皿の下に差し込まれた手紙に気がついた。
手に取って中を読み、やがて、その顔ににやりと笑みが浮かぶ。
「…なんだ?」
首をかしげたサンジに、ゾロがその手紙を差し出す。
それを見て、サンジは目を見張った。
手紙には、太守のものらしい達筆で、儀式が無事に執り行われたことへの感謝とねぎらいがこまごまと書かれている。
そして、“ログがたまるまでの一週間、この神殿で二人でゆっくり過ごされたし”、と。
「いっ…しゅう、かん…?」
『食事も酒も全て必要なだけご用意いたしますが、世話びとは決して戦士殿と巫女殿の前には姿を見せずお世話するしきたりになっております。一般の者も蜜月の間は決して神殿には立ち入りませんので、どうぞ、ごゆるりと戦神と月神の祝福をお受けください。』
「蜜…月…。…戦神と…月神の祝福…って…つまり…。」
─────戦神と月神は夫婦や恋人達の神でもあるんですよ。
女官の言葉がサンジの脳裏に蘇った。
恋人達の愛を司る夫婦神の祝福を受けろ、ということは。
「一週間、ヤりまくれって意味だろ? こいつァ。」
ぬけぬけと言い放ったゾロに、サンジが目をむいた。
「冗談じゃねェ!!」
咄嗟に叫んで、ベッドの上であとずさる。
「冗談なんか言うかよ。」
ゾロがすぐにじりじりと追ってくる。
もちろん、太守の言葉の意味はゾロが言ったとおりなのだろう。
要するにまるっきり新婚夫婦扱いだ。
この島の人達は、男同士とかいうことには何の違和感も抱かないらしい。
だけど、一週間なんて冗談じゃない。
「嫌なのかよ。」
サンジは広いベッドの上をどんどん逃げて、もう隅の方まで追い詰められている。
そこに覆いかぶさりながら、不意にゾロが、暗い声で言った。
その、消沈したような、不安なような声音に、サンジは慌てて顔を上げる。
「いや、とかじゃ、ねぇっ…!」
嫌なはずはない。
欲しくて欲しくて、やっと手に入れた、心から渇望していたもの。
もっと欲しいと思いこそすれ、嫌だなんて思うはずはない。
だけど。
「一週間もこんなふうに抱かれたら、壊れちまうっ…!!」
耳までどころか全身を羞恥に染めて、サンジは白状した。
ゾロの抱き方は、そりゃあもう濃厚だった。
まるで食べ尽くそうとしているかのように、サンジは全身くまなく舐められ、しゃぶられ、歯を立てられた。
ゾロが射精するまでに、サンジは何度射精させられただろう。
祭壇でも、神殿でも、浴室でも、ゾロは執拗なほどにサンジの体を撫で回した。
サンジが息も絶え絶えになるほど何度も絶頂に追い上げられ、泣きながらねだると、ようやくゾロはその熱い飛沫をサンジの奥に迸らせた。
これから一週間、ずっとこんなセックスに溺れさせられたら、きっと壊れてしまう。
体も。─────ココロも。
それでなくとも、もう心の中はゾロでいっぱいなのに。
爪の先までゾロ用に染め替えられたのに。
これ以上、ゾロに溺れてしまうのが怖かった。
なのに、心のどこかに、このままゾロに食いつくされてしまいたいと思っている自分も確かにいる。
このまま、骨の一片も残らないほどに。
そんなふうに思ってしまう自分が本当は一番恐い。
「てめェがおとなしく壊れてくれるタマかよ。」
舌打ちと共に苦々しく言われて、サンジは驚いた。
目の前には、眉根を顰めたゾロの顔がある。
以前ならきっと、ただ不機嫌だとしか思えなかった、顔。
「俺が抱いたくらいで、本当にてめェが壊れてくれるんなら、一週間だろうが二週間だろうが抱き続けてやる。てめェのケツが、がばがばに開きっぱなしになるまで犯してやるよ。だけどどうせてめェは、どんだけ抱いたって100%俺のもんになんかなりっこねェ。どんだけ抱いたって、お前はメリー号に戻れば、ナミやらロビンやらにへらへらすんだろ。そんで戦いになったら、真っ先に自分を投げ出すんだ。俺じゃない、他の奴らの為に。」
一気に捲くし立てたゾロを、サンジは呆然と見つめた。
そんなふうに思ってたのか。
手に入らないと思ってたから、あんなふうに切羽詰った抱き方をしてたのか?
一分一秒を惜しむような。
喰らい尽くすようなセックスを。
「…この一週間くらい、俺だけのもんになりやがれ。」
まるで拗ねた子供だ。
サンジは、泣きそうな顔で笑った。
バカだなぁ、お前。
そんなに俺のこと好きだったの。
両腕を広げて、ゾロの頭を抱き寄せる。
ゾロはおとなしくなすがままになって、ぽすんとサンジの胸元に納まった。
その頭を、サンジは、ぎゅうっと抱き締める。
「好きだよ、ゾロ。」
小さく小さく呟くと、腕の中のゾロがびくりと震えた。
もうほとんど、恐る恐る、というような感じで、ゾロが顔を上げる。
その間抜けな額にキスをしながら、サンジは、淫らに見えるように、笑みを作った。
「てめェこそ一週間俺に全部よこせ。」
ゾロの目に魔獣の光が閃く。
「上等だ。」
口元に笑みが浮かぶ。
「この一週間で、ケツだけでイけるようてめェを仕込んでやるよ。」
くくっとサンジも笑い声を立てる。
「てめぇこそ、俺以外じゃ勃たねぇくらい抜いてやるよ。」
そうして二人で、まるでケンカ直前のようなキスをした。