【22】

 

それから一週間後。

ログの溜まったゴーイングメリー号は、出航の準備をしていた。

臥月祭の終了した島は、もう、普段の落ち着きを取り戻していた。

それでも、祭りの巫女と戦士が誰だったかよく知っている島民達が、麦わらのクルーを見送ろうと、港に集まってきている。

そこには、太守や歴代の巫女達、神官、戦士達など、錚々たる顔ぶれも並んでいる。

島民達からの食料や酒も、次々に船に運び込まれている。

麦わらのクルー達も、忙しく出港準備に終われていた。

臥月祭の間、捕り物を禁じられていた海軍が、祭終了と同時に海賊共を一網打尽にしようと集まり始めているからだ。

けれどその船上に、剣士とコックの姿はない。

二人はまだ、港に姿を現していなかった。

 

「おい、コック、急げ。」

「うるせぇ! 誰のせいで走れねェと思ってやがるんだ!!」

「だから俺が抱えてやるっつってんじゃねェか。」

「お姫様抱っこされてる俺なんか、ナミさんにお見せできるか!!」

「さっそくナミかよ、エロ眉毛!」

「誰がエロだ! エロはてめェだ、クソエロエロマリモ!」

 

遠くの方から、聞き慣れた口げんかが近づいてくるのに気がついて、ナミはホッと息をついた。

祭りの間中抱えていた、サンジへの罪悪感と心配を隠して、いつものような顔で「あんた達、遅いわよ!」と怒鳴ろうと振り返って、─────目を瞠った。

「マリモ」だ「ぐるぐる」だと口汚く罵りあいながら走ってくる剣士とコックの手が、しっかり繋がれている。

どれだけ罵りあいながらも、二人は繋いだ手を離そうとはしない。

見ているナミの方が恥ずかしい。

ナミは赤くなりながら、それでも嬉しそうな笑顔を浮かべて、

「さっさと乗んないと、置いてくわよ、二人とも!!」

と怒鳴ってやった。

 

 

「本当に心より感謝いたします。麦わらのまろうど方。」

麦わらの船長に、島の太守は深々と頭を下げた。

「いや。俺達こそ悪かった。」

船長もまた、笑顔で詫びる。

太守の後ろには、元の巫女と戦士の若者がいる。

巫女だった娘が、サンジに微笑みかけた。

「月神の加護はありましたか? サンジ様。」

ほんの少し頬を赤らめながら、サンジは、ちらりと傍らの剣士を見て、「ああ。」と頷いた。

娘がふんわりと笑う。

「ね? 月神は間違いを犯しませんでしたでしょう?」

その誇らしげな笑顔を、眩しい思いで見ながら、サンジは、娘の手をとった。

突然の事に戸惑う娘を笑顔で見て、その隣に立つ若者の手を同じようにとる。

サンジの手のひらの上で、恋人達の手が重なる。

 

「月の満ちゆく時は愛にめぐりあう為に。

月の欠けゆく時は真実にめぐりあう為に。

月は闇を照らし、闇を祓う。

人の子よ。我が黒き翼の元で人の子としての幸せを求めよ。

そのゆく先は、月の光に満ちている。」

 

少し照れたように、サンジの低い甘い声が告げる不思議な言葉を、娘も若者も、太守も、島の人々も、呆然としながら聞いていた。

「それは…、失われた、月神の福音…! 何故まろうどのあなたが…!」

愕然と呟いた神官の言葉に、島民達がざわめいた。

サンジは、目の前の娘の目をじっと見て、こう言った。

「幸せになってね。君なら絶対、来世までも繋ぐ愛を貫けるから。」

大きな目を見開いてサンジを見上げていた娘の目が、見る見る潤んだかと思うと、大粒の涙が転がり落ちた。

「ありがとうございます…………月神さま……………………!」

娘が感極まったように泣き伏した。

 

「月神さま…?」

「月神様だ…。」

「本物の月神様だ…!」

「月神さまが鍛冶屋の息子達に祝福を。」

「来世へのお約束を下された…。」

「あの方は、本当の月神様だったんだ…!」

「月神様が、巫女を使わず臥月祭にご降臨されたんだ…!」

「儀式が穢されたのはご降臨のためだったのか。」

 

島民達が興奮したように口々に叫んだかと思うと、突然、島民達が一斉にその場に跪いた。

サンジに向かって、恭しく頭を下げる。

島の人々の行動に慌てるサンジを、ゾロがいきなり後ろから羽交い締めにした。

「てめ、何す…」

皆まで言わせず、ゾロがサンジを抱きすくめて、その唇を重ねる。

 

島民達が一斉に息を呑む。

けれどそれは驚きというよりも、どこか陶然とした尊いものを見る眼差しだ。

「戦神様……………!」

誰かが呟く。

男同士の濃厚なラブシーンを、島民達はありがたそうに見つめている。

 

可哀相なのは、麦わらのクルーだった。

最悪に仲が悪いはずだった二人が、仲間が見ている前で堂々と熱烈なキスを交わしている。

がぼーんと顎を落としたまま、メリー号の時間が止まった。

そりゃもう見事に。

目を閉じてサンジの唇を貪っていたゾロが、目を開ける。

ちらりと横を見る。

二人をじっと見つめているルフィと目が合った。

目で何事かを合図すると、ルフィが、にかっと笑った。

 

「しゅっぱああああああああああああつっっ!!」

 

その声と共に、メリー号に海賊マークのついた帆が翻った。

 

 


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