∞ シャケノベイビー 5 ∞
【 SANJI 】
勢い込んでラウンジに入ってきたゾロは、部屋の真ん中に置かれた七輪に驚いた様子だった。
ぽかんとした顔で、鮭の切り身を眺めていた。
それがなんだかおかしくて、サンジは思わずくすりと笑った。
そうしたら今度は、ゾロはぽかんとした顔をしたままサンジを見た。
それがあんまりにもアホ面なので、サンジはもうおかしくておかしくてたまらなくなった。
もうできるから座れ、というと、素直にゾロはテーブルについた。
そして何度も何度も、鮭とサンジを交互に見ている。
もう少し待ってろ。うまい鮭食わせてやる。
コンロに両手鍋と片手鍋にそれぞれ湯を沸かし、片手鍋の方にはダシを入れる。
豆腐を出して、水気を切って、半分に切る。
片方は賽の目に切って片手鍋の中へ、もう片方は、もう半分に切って青じそを引いた小鉢に入れる。
上に小さくとんぶりとめかぶ。更にかつおぶしをいっぱい乗せる。
油切りした油揚げを細く切り、豆腐を入れた片手鍋に追加する。
両手鍋には塩一つまみを入れて、よく洗ったホウレンソウを湯がく。
ゾロが、じっと自分を見つめているに気がついて、サンジの鼓動は早くなる。
顔赤くなったりしてねぇだろうな、クソ。とか思う。
ゾロはこの頃よく、サンジを見ている。
それはいつも二人きりになった時に限ってだ。
とはいっても、この小さな船の中では二人きりになる事など、そうそうないのだが、それでも稀に、こんな風にラウンジで二人っきりになる事が時々ある。
そうすると、ゾロは決まってサンジを見ている。
以前に、昼寝でもしてるのだろうと思い振り向いて、思いっきり目が合ってうろたえた覚えがある。
調理に忙しいサンジは、飯のしたくの時までゾロにけんかを吹っかける暇はないので、見られていると分かってても放っておくことにしている。
それに、ゾロに見られているのは、そんなに悪い気分でも、ない。
ゾロが何を思ってサンジを見ているのかは知らないが、たぶん料理の過程が面白いとか、他に動くものがこのラウンジの中になにもないので仕方なく、とか、そんなとこだろうとは思ってはいるが、それでも、ゾロが、あの深い深い森のような色の目で、じっと自分を見ているのは、なんともいえず、くすぐったくて、きまり悪くて、…心地良かった。
心地良い、と感じる自分に気がついて、俺もだいぶ脳が沸いてるなあと思う。
普通こういう気持ちはナミさんに抱くもんだろ、と思う。
ナミに見つめられても、もちろん嬉しいし幸せなのだが、ゾロから受けるそれの方が、なんだかもうサンジの心の底から一気に浚うような、そんな、引力がある。
やばいなあ、と思う。
冗談じゃねぇよなぁ、と思う。
思うのだが、どうしようもない。
ゾロに見られて沸き立つ自分の心を、もうどうしようもない。
だから、うきうきとゾロに飯なんぞも作ってしまう。
サンジは自分の感情が何なのか、気づいている。
2004/05/27