↑ Vouloir ↑
【 2 】
嫉妬と独占欲で暗く淀んだ瞳で、下を見下ろす。
ラウンジから灯りが漏れてるのが見えた。
話し声などは聞こえない。
全員もう部屋か。
するとラウンジは
──────コックだけか。
ざわり、とゾロを包む空気の色が、変わった。
まるで戦闘に赴く時のような色へ。
とたんに、何の気配もしなかったラウンジから、はっきりと呼応するような戦闘的なオーラが立ちのぼるのが、わかった。
ほら、サンジは気がついた。
自分でもわかる。
自分自身が撒き散らす、凶暴な、生臭い、獣の気配。
みかん畑を下り、ラウンジのドアを開ける。
開けた瞬間。
ふわり、と。
ふわりと、サンジの匂い、のようなものが、ゾロを包んだ。
ラウンジの空気に染み込んだ、サンジの匂い。
それは料理の匂いだったり、タバコの匂いだったり、サンジの纏う空気の匂いだったりするのだろう。
どくん、と、心臓に血が集まった。
ついでにチンコにも血が集まった。
心の底から欲していたものが、すぐ目の前にある。
「ずいぶんと遅いお目覚めじゃねェか。飯はねェぞ?」
ドアを開けた真正面。
ビール棚を背にして、サンジが立っていた。
こちらを向いて。
紫煙をくゆらせ、口元に薄く笑みを浮かべて。
目はまっすぐにゾロを見ている。
くらくらする。
「飯ならあるじゃねェか。」
大股でサンジに近づく。
「ここに。」
サンジの胸倉を掴む。
「とびきりうまそうな飯が。」
そのまま強引にシャツの前を引き裂いた。
ボタンが飛んで、床に転がる。
裂かれたシャツの下から現れる、白い肌。
たまらず、引き寄せて口付けようとした。
触れる寸前で、何かにものすごい力で首根っこを引っ張られた。
一瞬、息が止まる。
ゾロの体が勢いよく後方に吹っ飛んで、壁に叩きつけられる。
どこからか、くすくすと女達の笑う声がした。
『踊り子さんに手を触れないでくださぁいv』
くすくす くすくす と笑い声が、さざめく。
─────女共…!
姿は見えない。
どこから笑っていやがる…?
「何が“踊り子さん”だ。ストリップでも見せてくれんのか?」
唸るようにゾロが言うと、サンジが口元に薄く笑みを浮かべた。
「いいぜ? 見せてやっても。」
するり、と、肩から、裂かれたシャツを滑り落とす。
ゾロが思わず目を見開く。
その瞬間、ラウンジの明かりが消えた。
代わりに卓上のランプが、ぼうっと灯る。
─────どんな手品だ。こりゃ。
ランプの灯に浮かび上がる、サンジの白い上半身。
シャツを脱いだサンジの指が、ベルトにかかるのを見て、ゾロはぎょっとした。
思わず周りを見回した。
まさか。
本気で、脱ぐ気…か?
こんな…、女達が見てるかもしれない、状況で…?
この男はそういうのを一番嫌う奴ではなかったか…?
サンジの指が、軽い金属音を立てながら、ベルトをゆっくりと外していく。
ゆっくりと、バックルからベルトを引き抜く。
ズボンのボタンを外す。
ファスナーを…
──────半分下ろしたところで、サンジの手は止まった。
息を詰めてその部分を凝視していた事に気がついて、ゾロは慌てて視線をサンジの顔に戻した。
サンジは口元に薄い笑みを浮かべたままだ。
「そういやあ、てめェは俺になんか言う事があるんじゃねェのか?」
穏やか、と言えるほど静かに。
「言う事…?」
にやり、とサンジの笑みが、はっきりと意味ありげな形をとる。
「“ゴメンナサイ”は?」
「なっ… 誰がっ…!」
思わず、そう口走る。
「違うのか? やっと姿を現したから、てっきり謝りにきたんだと思ったのによぉ。」
にやにやとサンジは笑っている。
よせ、とゾロの頭の中で声がした。
ここはおとなしく謝っとけ。
ケンカの原因なんてわかんなくっても謝っちまえ。
ここでコックにヘソ曲げられるとまた長ェぞ。
せっかく目の前でコックが生肌さらしてんだ。
食えなくなるぞ?
だがゾロの脳みそは容量が足りなかった。
あっさりとゾロの頭に血が上る。
「何もしてねェのになんで俺が謝らなきゃならねェ。」
「ふぅん?」
サンジが面白そうに言った。
「ゴメンナサイするまで、お預けにするぜ? …ゾロ。」
ゾロ、と呼ばれた瞬間、ぞくん、と背筋に電流が走った。
それでもまだ、口は強がりを言ってみる。
「てめェのカラダが…俺なしで、もつのかよ。」
今度こそサンジは、くくっとはっきりと、笑った。
「試してみるか? てめェなしでも俺が平気かどうか。」
何を、とゾロが言いかけた時、突然、サンジの体から、ぶわっと無数の手が咲いた。
──────ロビン…!
くすくす くすくす
と、また、女たちの笑い声。
サンジのなめらかな肌を、ロビンの手が悪戯するようにまさぐる。
くすくすくす
手は、サンジの頬を撫で、首筋を辿り、胸元を遊び、わき腹をくすぐり、下腹部に、差し入れられる。
くすくす
あ・・・と、声を漏らしてサンジが心もち首を反らせた。
くすくすくすくす
──────やめろ!!
ゾロの手が、腰の刀にかかった。
斬る。と、明らかな殺意が沸いた。
途端にサンジの体からロビンの手は消え、すぐさま背後の壁から咲いた手が、ゾロの刀を叩き落す。
はっとした瞬間、無数の手が伸びて、ゾロの体を壁に完全に縫いとめた。
バランスを崩して、ゾロはその場に腰を落とす。
しゅるん、と腹にロープが掛けられた。
ぐるぐる巻きにされる。
ついでに後ろ手に回された手首に、かしゃん、と何かが嵌められる。
至れり尽せりだ。
さっきの“手品”もロビンの仕業か。
裏で糸引いてんのは………
「てめェ、何のつもりだ!」
叫ぶと、サンジがまた笑った。
「踊り子さんに手を触れないでくださぁいv」
さっきのナミの口調を、そのまま真似をする。
その目がすぐさま、にやり、と狡猾そうに、光る。
「ちゃんと見てろよ、踊ってやっからよ。」
ぺろり、と、サンジが自分の唇を舐めた。
そして、淫らな笑みを浮かべる。
ごくり。
ゾロの喉が、滑稽なほど大きく鳴った。
サンジが自分で自分の体を掻き抱く。
ゾロの目を捉えたまま、自分の指を、ゆっくりと咥える。
赤い舌が覗いて、指を舐める。
ちゅ…と濡れた音がする。
唾液でぬらぬらと濡れた指を、口から引き出す。
その指が、喉元を滑り降りて、乳首に触れる。
自分の指で転がすと、それはぷつりと固くなった。
もう片方の手は、下着の中に滑り込んでいる。
淫らに蠢いている。
「サ、ンジ…」
しゃがれた声しか出なかった。
「この縄を、とけ。」
触れさせろ、てめェに。
「いやだね。」
サンジがまた笑う。
その笑みにはもう、快楽が滲み出ていて、ありていに言えば…エロい。
ゾロが焦れて身じろぎをした。
身体に巻かれたロープはちょっとやそっとじゃ切れそうもない。
手首に嵌った何か金属のようなものも、どうやら手錠かなにからしく、両手が繋げられていて、引きちぎろうとしても、かしゃかしゃと耳障りな音を立てるばかりでままならない。
サンジが下着ごとズボンを脱ぎ落とす。
そこはもう、勃ちあがって誘うように揺れている。
先端からは透明な雫があふれている。
サンジの指が、それに絡んだ。
ユルユルと上下に扱き出す。
くちゅ くちゅり と、淫らな音がする。
ゾロが目を見開いた。
足を開いて、ゾロに全てを見せ付けながら、手淫に耽るサンジ。
このうえもなく贅沢で淫靡な光景。
いつものゾロであったら、腰を据えて堪能したろう。
それ以前に、サンジがこういう痴態をゾロに見せること自体、信じられない。
だが、今のゾロに、目の前の光景を楽しむ余裕はない。
目の前に最高級の生肉ぶら下げられててお預けをくってる犬と同じだ。
しかもその犬は10日間絶食している。
「この縄をとけ! サンジ!」
思わず怒鳴った。
触れてェ。舐めてェ。しゃぶりてェ。猛り狂ったこいつを根元までぶち込んで一番奥でぶっ放してェ。
気が、狂いそうだ。
拘束された両手首を何とか自由にしようと、めちゃくちゃに動かす。
サンジは、怒鳴ったゾロに、一瞬動きを止めたが、すぐにまた自分のペニスを弄び始める。
あまつさえ、床に座り込み、モノを扱きながら足を開いて腰を上げて、その奥を、ゾロに見せつけすら、した。
艶然と笑みながら、アヌスに指を入れてみせる。
「う、ん…っ アっ…!」
普段は押し殺してしまう喘ぎ声も、抑えようとしない。
「あ、ん、ふっ… あぁ…」
脳が、焼き切れてしまいそうな光景。
「はァ… ッ… んあ ア …ふあっ…」
くちゅり、くちゅり、という音が、ひどく淫猥だ。
「あ、 あ… ア ぁ あッ…!」
サンジが白い首をのけぞらせる。
白い尻がびくりと震え、濃いピンク色をしたペニスの先がぱくりと開き、より濃いピンク色の裂け目を見せながら白い液を噴出させるのを、ゾロの目は半ば呆然として見ていた。
ひくん、ひくん、とそれは何度も痙攣しながら、快楽を吐き出し続ける。
とろりとした液が、幹を伝い、陰嚢に絡む。
射精してしまっても、サンジは後肛から指を抜かなかった。
陰嚢を持ち上げ、アヌスをゾロの眼前に晒しながら、白濁で汚れた指を、そこに突き入れる。
あの狭い小さな孔に、サンジ自身の指が根元まで埋め込まれては、引き抜かれる。
にゅぷ…と、粘膜に液体が絡む音がした。
瞬間。
ぶつり。
何かがぶっちぎれる音が、ゾロの耳元で、した。
理性とか欲望とか最後の箍とか脳の血管とか、手錠とか、身体を拘束したロープとか。
気がついたらサンジに駆け寄っていて、その裸身を抱きすくめて、柔らかな唇を無我夢中で、貪って、いた。
「んっ…! ん、んーっ んんっ… ん…」
キスは、もう脳裏に刷り込まれたいつものサンジの味がして、ゾロは一気にそれに酔った。
決して酒に酔わない男が、男とのキスに、酩酊していた。
がっつく以外のなにものでもない荒々しい動きでサンジの唇を貪りながら、手はせわしなくサンジの顔だとか頭だとか乳首だとかわき腹だとか尻だとかを、まさぐる。
「ちょ、…待っ… それ、いてェ。」
サンジがゾロのでこを手の平で押し返して、やっとのことで自分の唇から離し、言う。
それ?と思いながら見ると、力任せにぶっちぎった手錠は、鎖だけが切れ、手かせはまだ手首に嵌ったままだ。
そのままサンジの肌をまさぐったものだから、手かせがサンジの肌に傷をつけていた。
薄く、血が滲んでいる。
それにすら煽られ、傷をべろりと舐めた。
「あ…っ! だ、から、ちょっと、待てって…」
サンジが、ゾロに抱きつかれたまま、ずりずりと後ろに移動し、ビール棚の横から、テープに貼られた小さな鍵を取り出す。
その鍵でゾロの手かせを外してやりながら、
「馬鹿力。」
と、くすっと笑う。
だがその目は、ふと何かに気づき、不審そうな目になった。
「…ゾロ?」
密着した身体を離そうとするサンジ。
離すまいとするゾロ。
それを足まで使って引っ剥がして、サンジは、ゾロの股間に手をやった。
そして驚いた目になる。
「てめ、もしかして…。」
途端にバツが悪そうに横を向くゾロ。
珍しくゾロが抵抗しようとするのを、これもまた珍しくサンジが押し倒すような格好で、腹巻と下着とズボンをまとめて手にかけた。
ひきさげると、むわりと生々しい雄の匂い。
明らかに精液の匂い。
「てめェにキスした途端に出ちまったんだよ。悪ィかよ。」
舌打ちしながら、決まり悪そうに言うゾロ。
天を衝くほどに怒張したそれは、既に一度射精して、どろどろの精液にまみれていた。
それでもまだ、萎える事を知らないそれ。
ふわりとサンジが笑った。
嬉しそうに。少し照れたように。
そのままゾロに馬乗りになるようにしてゾロを床に押し倒し、キスをする。
「サン─────…」
「そんなに、溜まってたのかよ、早漏野郎。」
サンジの顔はまだ笑っている。
「…てめェは溜まってなかったのかよ。」
ゾロが憮然として言い返すと、
「だからてめェの目の前で抜いて見せたろうが。」
と、笑って返す。
そしてまた口付ける。
「なあ。」
サンジが動くたび、サンジの尻にゾロのペニスがあたる。
「どんな気分だった? 10日間。」
囁くように、問われる。
「俺に触れたかったか?」
「……ああ。」
「俺のことだけ考えてたか?」
「……ああ。」
「夢には…?」
「……見た。」
「俺で、シたか?」
「……もったいねェ。」
「挿れてェ、か…?」
サンジが、誘うように尻をゾロのペニスに擦りつける。
「……ああ…。」
「お、れが…欲しい…か?」
「……欲しい…サンジ…。」
ゾロも腰を動かして、サンジの尻孔をペニスの先で探る。
「…………俺が…好きか…?」
欲望に潤む瞳の中に、思いもかけず真摯な色を認めて、ゾロは驚く。
こんなにまで切羽詰らないと聞けないのか?
今回の“ケンカ”は、そこまでサンジの矜持に障ったのだろうかと、ゾロは一瞬、苦しくなる。
それを顔に出すかわりに、ゾロはサンジを優しく抱き寄せた。
そして囁く。
「そんな言葉じゃ、足りねェ…。」
2004/03/30