↑ Vouloir ↑
【 1 】
─────なんだってんだ。…ったく…。
ゾロは苛立ちながらダンベルを振り下ろした。
何日か前、サンジとケンカした。
それはまぁ、いつものことだ。
サンジとのケンカなんて日常茶飯事だ。
ゾロにとっては昼の取っ組み合いなんて、夜の取っ組み合いの前哨戦みたいなもんだ。
前戯だ、前戯。
だからその日もなんかの弾みでサンジが着火したとき、掴みかかってきた時のセリフが
「ひどいわっ!あたしのカラダだけが目当てだったのねっ!」
という、どう聞いても正気とは思えないものだったこともあって、ゾロはいつもの通りに、サンジの蹴りを、抜刀して謹んでお受けしたのだ。
だが、どうも今回は、いつものそれとは違っていたらしくて、甲板でゾロの一刀を靴裏で受けたサンジは、突然、そのまま棒立ちになってしまった。
その目から、ぼろぼろっと涙が零れ落ちる。
ぎょっとするゾロ。
サンジは、やおらエプロンの裾を持ち上げて噛むと、
「あたくしっ! 実家に帰らせて頂きますっ!」
と、ヒステリックに喚き、そのまま「うわぁぁぁぁぁぁん」と走り去ってしまった。
一瞬、ゾロは、今回はどういうプレイなんだろう、としか思えなかった。
実家ってどこだ。
バラティエか。
今さらどうやってイースト・ブルーまで帰るつもりだ。
ゾロが、ぽかんと口を開けていると、騒ぎが聞こえたのか、ナミが女部屋から顔だけ出して、ひんひん泣いているサンジを引っ張り込むのが見えた。
なんだ。
実家って女部屋か。
いつから女部屋が実家になったんだ。
つか、今回はそういうプレイなのか?
ゾロは憮然としたまま、それを見ていた。
それが“そういうプレイ”ではどうやらないらしい、と、ゾロが気づいたのは、その日の夕飯時だった。
まず、惰眠を貪るゾロを夕飯に呼びに来たのは、サンジでなくルフィだった。
ラウンジに入っていくと、それまで談笑していた女どもが、ぴたりと話を止めてゾロを睨みつけてきた。
サンジはゾロを見もしない。
なるほど、女共を味方につけやがったか、クソコックめ。
非常に居心地の悪い空気の中、それでもがつがつと飯を食うゾロに話し掛けるものは誰一人いない。
ウソップとチョッパーは空気に怯えて黙り込んでいるし、こんな時のルフィは完全にナミに首根っこ掴まれている。
未来の海賊王ともあろう男が女の尻に敷かれやがって。と、見当違いの怒りすら起こる。
その日から、ゾロとサンジは冷戦状態になった。
なにしろサンジが口をきいてくれないのだ。
やたら態度がよそよそしいし、話し掛けようとしてもふいっと顔を反らす。
業を煮やして掴みかかろうとしたら、卑怯にも女部屋に逃げ込みやがった。
女二人がまた忌々しい事に、あの手この手でサンジに近づこうとするのを邪魔する。
もう知るか!と思い、ゾロが自分から近づくのをやめたら、なんだかんだでもう一週間もサンジと口をきいていない。
ぶっちゃけ、一週間、サンジと、していない。
これはきつい。
どんな苦痛にもどんな修行にも耐える自信のあるゾロだが、サンジに触れられないというのは、どんな苦行よりもきつい。
こればっかりは耐えられる自信がない。
そもそもが、ゾロとサンジは、ナミが「バカップル」と称するほどにらぶらぶなのだ。
告ってからこっち、ほぼ毎日サカっていた。
それでもゾロは足りなかった。
一晩に1回や2回ではとても足りない。
できることなら一晩中、朝が来るまで抱き合っていたい。
いや、正直に言うなら、昼間も一日中、あの肌に触れていたい。
朝から晩までまぐわっていたい。
あの白くなめらかな肌に、あますところなく触れて、キスをして、舐めて、しゃぶって、噛んで、まさぐりたい。
薄ピンクの乳首が赤く色づくまで摘まんだりひねったり舐め回したり吸ったりしたい。
ひんひん喘ぎながら振り乱す純金の髪に鼻を突っ込んで匂いを嗅ぎたい。
止めどもなくガマン汁があふれるチンコを咥えこんで、音を立てて舐め回したい。
ゾロの脳裏に、ペニスを咥えられて、泣きそうな声を上げながら体を震わせるサンジの姿が浮かぶ。
たまんねェ。
奴は竿をしごかれるより、亀頭を舐め回される方が弱い。
カリ首のところを軽く歯を当てるようにコリコリと刺激してやりながら、鈴口に舌を突っ込むだけで、イキのいい魚みたいにビクビクとあの体は跳ねる。
ついでにケツ孔も物欲しげにひくひくするんで、チンコを咥えたまま、ケツ孔に指を捻じ込んでやる。
焦らすように、わざと浅いところを何度も何度も擦り上げてやる。
そうすると、奴は、奥まで突っ込んで欲しくて、無意識だろうが、ねだるように腰を持ち上げて揺らしてくる。
そんで、せつなげな声で俺の名前を何度も呼んでくる。
あれはほんとは、「お願い」って言いたいんだ。
「挿れて欲しい」って言いたいんだ。
だけど、高いプライドがそれを言う事を拒んでる。
だけど、体は欲しくて疼いてたまらないから、わかってほしくて、必死で俺の名を呼ぶ。
それがもう壮絶にいじらしくて可愛くてエロいので、ゾロのチンコは一気にサイズMAXになる。
勃ちすぎて、角度を下げられないほどにMAXになる。
釘でも打てるんじゃないかってほど固くなる。
勃ちすぎて痛い。
それをあの乳首と同じ薄ピンクをした、小さくて狭い孔にぶち込むのだ。
きゅうきゅう締め付けてきて、中でぐにぐに動く、あの孔に。
ゾロはもう限界だった。
ちくしょう。
ヤリてェヤリてェヤリてェヤリてェヤリてェヤリてェヤリてェ。
なんだってヤレねェんだ。
俺が何をした?
ゾロの、ただでさえ容量の少ない脳みそは、ケンカの原因を皆目理解していない。
何でケンカになったのか、ゾロには全然分からない。
ゾロ的には、「なにもしてないのに突然サンジが怒り出した」くらいの認識しかない。
その前に何を会話してたか、なんて、もうとっくに忘却のかなただ。
「覚えてない」、は、ゾロにとって「無かった事」、と一緒だ。
無かった事をいつまでも怒ってるサンジは理解できない。
何も無かったのにサンジとめくるめくスケベエが出来ないのは大変に理不尽だ。
それでもゾロは考える。
だってサンジの怒りが収まらなくちゃヤリたくてもヤレない。
ヤリたきゃ、サンジの怒りを鎮めなければいけない。
怒りを鎮めるには、何で怒ってるのか知らなくちゃいけない。
ゾロは、足りない頭を一生懸命巻き戻す。
『あたくしっ! 実家に帰らせて頂きますっ!』
…いや、そこはたぶん、関係ねェ。
もっと巻き戻す。
綺麗な綺麗な蒼い瞳から、宝石のように零れ落ちた大粒の涙。
…ゾロの心がぎゅうっと締め付けられるように痛む。
痛い。すごく痛い。サンジが泣くと、ゾロの心臓は、心筋梗塞を起こすんじゃないかってほど痛くなる。
もっと巻き戻す。
『ひどいわっ!あたしのカラダだけが目当てだったのねっ!』
…もう全然訳が分からないセリフだ。
カラダ
あほか。
カラダだけが目当てだったら、何も毎度毎度苦労して濡れもしない硬い男の体なんぞ抱かんでもいいのだ。
ぶっちゃけセンズリこく方のがなんぼか楽だ。
カラダ
カラダ
あれは俺ンだ。
俺のもんだ。
カラダも、ココロも。俺だけのもんだ。
あのさらさらの金髪も、白い肌も、グルグルの眉毛も、透き通った蒼い瞳も、隠れてる左目も、でこも鼻も唇もアゴヒゲも、神経質そうな指先も、薄ピンクの乳首も、形のいい臍も、敏感なわき腹も、ちょこっと弄るだけでガマン汁垂れ流すチンコも、小せェくせに俺の自慢の逸物を根元までくわえ込むケツ孔も。
喘ぎ声も怒鳴り声もナミに向けるバカ面も、イク時のエロ面も、空気を裂くような鋭い蹴りも、みんなの為に必死になる心も、仲間の為ならたやすく投げ出す命も、優しいしぐさもおいしい料理も、気遣いも、笑顔も。
サンジがサンジであるための、サンジを構成する何もかも。
全部。
全て。
何もかも。
─────俺のもんだ。
だから抱きたい。
だから触れたい。
だから自分の想いを忠実に表わして硬くデカくなってる、ぎんぎんのこいつを、ぶち込みたい。
もうゾロは半ば自分が何を考えているのかよく分からない。
ケンカの原因を探っているはずが、頭の中の全部が「ヤリてェ」だけで占められていく。
パソコンのデフラグ画面を見た事があるだろうか。
いくつも並んだ小さな■が、次に次に並び替えられ、綺麗に整理されて、上から新たな色で塗りつぶされていく。
あんな感じに、ゾロの頭の中のいろんな記憶やら知識やらは「ヤリてェ」一色に染められていく。
というか、こんな妄想部分だけで既に文字数7KBだ。
3700文字だ。
400字詰め原稿用紙で9枚とちょっとだ。
9枚延々と、ゾロはサンジへの滾る愛だか性欲だかをモノローグしていたようなものである。
まだ前置きなのに。
本編にかすりすらしていないのに。
結局、ゾロは、ケンカの原因をさっぱり思い出せなかった。
そして更に3日がたった。
たった10日ばかりサンジに触れていない、それだけで、ゾロは10日前とは別人のように面変わりしていた。
顔色は悪く、やつれきっていて、頬はこけ、肌は荒れ、唇はかさつき、目の下には「おめェ、ギンか?」と言われそうなほどのクマができ、落ち窪んだ目だけが血走って、ギラギラした異様な光を放っている。
しかも股間は勃ちっぱなしだ。
頭の中がサンジの白い肌のことだけでいっぱいになってるせいか、もう、鍛錬してようが敵が襲ってこようが飯を食おうが勃ちっぱなしで、風がそよいだだけで射精しそうだ。
ついにはナミをして「歩く性犯罪者」と言わしめた。
「同じ空気吸うだけで妊娠するから寄らないで。」とも言われた。
実際、ゾロはかなりヤバくなっていた。
かなり切羽詰っていた。
視界の隅に金髪が掠めただけで、チンコは破裂しそうな勢いで天を衝く。
声なんか聞こえちゃったらちょっと出ちゃったりする。
だから今日に至っては、ついに、むしろなるべくコックを見ないように、自分からこそこそ避けていた。
飯も何となく食いっぱぐれて、こんなみかん畑でごろりと横になったきり、もう夜もだいぶ更けてきた。
いつまでこんな事が続くんだろう、と思う。
脳内の「ヤリてェ」は、「犯りてェ」に変換されていた。
犯りてェ犯りてェ犯りてェ犯りてェ犯りてェ犯りてェ犯りてェ。
もういい。犯してやる。
あのクソコックが犯らせねェなら強姦してやる。
あの金髪を引きずりまわして、床に組み伏せて、ああ、なんなら肩のひとつも外してやったっていい。そんでシャツを引き裂いて、あの狭い孔に慣らしもせずに根元まで、突っ込んでやる。
泣いたって喚いたって知るもんか。
俺は犯りてェんだ。
けれど頭の片隅に残ったほんの僅かの理性が、それをやっちまったらサンジとの仲は永久に終りだぞーと告げている。
それがぎりぎりのところで、ゾロを性犯罪から踏みとどまらせている。
なにより、ゾロはサンジの心を傷つけたいわけではない。
断じて、ない。
不思議だ、と思う。
サンジとこうなるまで、自分はそれほど性欲の強いタイプではなかったはずだ。
別に女など抱かなくてもよかったし、溜まれば適当に自分で抜けばそれでよかった。
あのストイックな自分は一体どこへ消えうせたのか。
不思議で仕方がない。
完全にあの金髪頭にイカレテいる。
ハマッちまっている。
勝ち負けで言うとこれは負けのような気がするので、なんだか悔しい。
全てにおいて勝ちたい男・ゾロとしては、自分だけがこんなに切羽詰ってるのはなんだかものすごく悔しい。
あいつは、平気なのかよ。
サンジだって、10日あまりもゾロとしていない。
サンジは何ともないのか。
ゾロに触れられなくても平気なのか。
ゾロが欲しくてその体は疼いていないのか。
ひっきりなしにケツ孔がひくついたりしてないのか。
頭の中がゾロで占められはしないのか。
こんなにも奴を欲してるのは───────俺だけか。
それは恐ろしい想像だった。
ゾロが抱く時、サンジはいつも貪欲にゾロを求めてくる。
もっと、もっと、と掠れたせつなげな声でねだってくる。
だから、ゾロは、サンジもまた自分と同じようにゾロを欲してくれているのだと、そう思っていた。
だが、ケンカしてから10日、ゾロから見るサンジはいつもと変わりないように見える。
いつもと同じくおいしい料理を作り、いつもと同じくみんなに笑顔を振り撒き、いつもと同じく女どもに媚を売っているように見える。
自分だけだ。
自分だけが、切羽詰っている。
どくん、と心臓が、鳴った。
もし──────
もし、このまま、サンジがゾロと別れるつもりだったら。
ちょこっと言い争いしただけじゃねェか。
…いや違う。
もしかしたら以前から別れたいと思ってて、あの日のケンカは、きっかけに過ぎないとしたら。
もしかしたらサンジの愛情は既にゾロから、とっくの昔に、離れていたと、したら。
もしかしたら、もう二度と、サンジは、ゾロに、抱かれる気は、ないと、したら。
もしかしたら。
サンジの心には。
既に。
ゾロじゃない。
別の誰かが。
住んでいると。
したら。
恐ろしいほどの喪失感。
ゾロの背筋を冷たい汗が伝った。
胃の腑まで、冷えた。
腹の底に沈んだ冷たい冷たい塊が、
灼熱の、マグマに変わった。
─────許さねェ
その刹那、ゾロは自分の感情に目が眩んだ。
サンジが他の誰かを好きになる。
サンジが他の誰かに笑いかける。
サンジが他の誰かに抱かれる。
サンジが他の誰かに触れる。
サンジが他の誰かを見る。
─────サンジが、他の誰かに─────奪われる。
ぐらり、とゾロの視界が歪んだ。
─────許 さ ね ェ …
あ れ は 俺 の も ん だ 。
誰にも渡さない。
誰にも触れさせない。
俺だけのものだ。
もし俺から離れると言うのなら
───── 殺 し て や る 。
2004/03/25
コメディのはずなのに、ロロノアさん、「殺す」とか言ってます。
まぢになってます。
でもチンコ勃ってます。