↑ Vouloir ↑
【 3 】
「好きだ」とか「惚れてる」とか「愛してる」とか。
そんな言葉じゃ足りない。
この感情をどんな言葉で表わしていいのかわからない。
「好き」は、なんだか薄っぺらい。
「惚れてる」は、温度が足りない。
「愛してる」は、甘すぎる。
どれもこれもこの感情を表わす言葉ではないような気がする。
もっと熱くて、もっと焼けるようで、もっと痛くて、もっとせつなくて、もっと疼いて、もっとどろどろとしていて、もっと生々しくて、もっと血が沸きかえるような、もっと底知れない、もっと物狂おしい…。
そんな、想い。
「独占欲」とか「執着」とか「妄執」とか「狂熱」とか「恋着」とか「欲火」とか。
そんな言葉の方がまだ近い気がする。
「殺してやりてェ…。」
それもどこか違う、と思ったが、ゾロは一番近いと思った言葉を口にした。
サンジが驚いたように目を見開く。
「てめェを殺して、喰っちまいてェ…。」
動きを止めたサンジの唇に、噛み付くようにキスをする。
「てめェの全部。目も、耳も。」
「…全部?」
「全部だ。鼻も、口も、体も足も、指も爪も、髪の毛も、全部。」
ここもな、と薄く笑いながら、ゾロは、サンジの張り詰めたペニスに触れた。
サンジが、ふっと息を吐く。
「全部、喰っちまいてェ…」
でも、とゾロは続ける。
「喰っちまっててめェがいなくなったら、」
俺は多分、
“壊れる”。
サンジの動きが完全に止まる。
信じられないものを見るような、目。
一瞬、笑みのような形に口元が歪み、けれどそれは変な泣き笑いのような顔になった。
そのままサンジはゾロの胸元に突っ伏す。
「…泣くな。」
「…泣いてねェよ。」
では胸元に落ちるこの熱い液体は何なんだ、とゾロは思った。
思ったが、口には出さなかった。
かわりにサンジの髪の中に顔を埋める。
サンジの髪の匂いがした。
料理とタバコとシャンプーの匂い。
サンジの匂い。
俺ンだ。
全部。
俺のもんだ。
深く、サンジの匂いを吸い込む。
それだけで体の中にサンジが満ちていくような、酩酊感がある。
背中を抱いていた手を、つうっと滑らせて、サンジの尻を撫でる。
引き締まって、無駄な肉のない、尻。
しばらく尻たぶの感触を楽しんでから、尻の割れ目に、指を滑らせた。
サンジが身じろぐ。
熱くぬめるアナルに、指を突っ込む。
「んぅッ…!」
サンジが顔をあげた。
心なしかまだ目は潤んでいたが、泣いてはいない。
口元には艶かしい笑みを浮かべている。
俺が欲しかったか。
俺が欲しかっただろう?
俺が欲しいと、言え。
そう言う代わりに、ゾロはサンジのアナルに指を押し込む。
熱い、狭い、孔。
「ゾロ。」
熱い吐息と共に、サンジがゾロの耳元に囁いた。
「ぶち込めよ。」
てめェのモン。 と、かすかな声がした。
ぞくり、とその声だけでイきそうになり、ゾロは慌てて腰に力を入れた。
サンジがゆっくりと上体を起こす。
自分の後腔に、ゾロの勃起しきったペニスをあてがう。
「慣らさなくて、いいのかよ。」
いきなり突き込めば、苦痛を伴う。
だがサンジは、
「いい。」
と、事も無げに返した。
淫靡な笑み。
「てめェが欲しくて、たまんねェんだ。」
頭が、くらくらする。
「さっきからずっと、ひくついてんだ。」
わかってんだろ?と、笑う。
ちっ、とゾロが舌打ちした。
次の瞬間、ゾロはサンジの腰を押さえつけて、下から強引に突き上げる。
いきなり太い楔に貫かれ、サンジの背が弓なりにそった。
「んぁぁぁぁぁぁッ!」
サンジの背ががくがくと震える。
濡れもしない狭すぎるそこは、突き入れたゾロにとっても、締め付けられるように苦しい。
受け入れる方のサンジの苦痛は相当なはずだ。
10日もしていない。
アナルは常にほぐしていなければすぐに締まってしまう。
相当に、辛いはずだ。
だがサンジは、荒く息を乱しながら、驚いた事に、自ら腰を落としてきた。
両膝をたて、しゃがむ格好で、尻だけを落としてくる。
一番、結合が深くなる体位。
「あ、あっ あ、あぁ、あ…」
上体をそらし、後ろに手をつき、腰だけを前に突き出してゾロを迎え入れる。
一気にゾロの根元まで、熱い狭い肉に包まれた。
「く…ッ…」
さすがにゾロが、微かな声を漏らす。
それを聞き漏らさず、サンジは満足そうな笑みを浮かべた。
「き、もち、イイ、か? ハニー。」
「…ハニーはてめェだろ。」
からかい混じりにゾロが返しながら、ぐり、と中を回すように穿つ。
「ふ、あ…ッ…!」
サンジの腹筋がビクビクと波打った。
ゾロのモノを根元まで咥え込んで、あられもなく開いた足の間に、勃ちあがるモノを認めて、ゾロは軽い驚きを覚えた。
てっきり痛みで萎えていると思ったのに。
「辛くねェのか…?」
それを握りこんで、軽く上下にしごく。
「っは…、あ、アっ… ん…っ!」
途端に、サンジの中が、きゅ、と締まる。
「つ、らい、けど… キモチい…っ」
すげ、イイ、と何度も口走る。
ぐあっ と、その瞬間、サンジの中のゾロが、体積を増した。
「…っ、うゥ…ッ!」
さすがにサンジが苦しげに眉根を寄せる。
「でけ、よ…、てめ…」
「…誰のせいだ。」
答えるゾロも、強く締め付けられすぎて、些か苦しそうだ。
たまらず、下から抽迭を始めようとしたゾロを、サンジの手が軽く制する。
何を、と言いかけたゾロの唇をキスで塞いで、サンジが、腰を動かし始めた。
「──────っ」
サンジが、SEXの時、こんなにも能動的に動くのは初めてだった。
ゾロが息をのむ。
自分の体の上で、サンジが、白くなめらかな裸体を惜しげもなく晒して、いやらしく腰をくねらせている。
「ア、アア… は、んっ… んぁ…っ ああ…」
零れ出る喘ぎを、抑えようともしない。
いつものサンジなら、喘ぎ声は押し殺す。
プライドの高いこの男は、女のような嬌声が自分から漏れるのが許せない。
そんな声を、自分を組み敷く男に聞かれる事を、ひどく嫌がる。
いつでも、ゾロがやりたがってるので仕方なくやらせてやってる、というポーズを取りたがる。
快楽に浸りきってしまえば声も出すし、ゾロ、ゾロ、と呼びながら縋りついても来るのだが、初めからこんな風に喘ぐのは、今までなかった。
ましてや、自分から腰を振るなど。
耐えられるはずがない。
こんな淫らなサンジに。
握りこんでいたサンジのペニスを、やや乱暴にしごく。
既にそれは滴る蜜に濡れてどろどろになっている。
「ふああッ」
サンジの中が、締め付けながら、ビクビクと蠢く。
たまんねェな。
と呟いて、ゾロは緩やかに律動しているサンジの腰を掴み、力任せに突き上げた。
「あああああっ」
サンジがのけぞる。
白い内股に、くっと力が入ったかと思うと、ゾロに握られたサンジのペニスから、白濁が飛び散った。
絶頂の余韻に浸る暇など微塵も与えず、ゾロが容赦なく腰を使う。
「あっ あーっ ゾ、ロっ…! ああっ 」
サンジの弱いところなど、ゾロは熟知している。
そこを狙って、がつんがつんと己の剛直をぶち当てる。
喘ぐというよりは、もうほとんど悲鳴を上げて、サンジが強すぎる快楽にのた打ち回る。
その甘い悲鳴に、白い肌に、淫らな躰に、ゾロは溺れた。
とてつもなく陶酔しながら、ゾロは、サンジの一番深いところへ、濃く熱い欲望を、激しくぶちまけた。
柔らかな陽光が顔に当たるのを感じて、ゾロは目を開けた。
いつの間に眠ったのか、全然わからなかった。
幾度睦み合い、幾度精を放ったのか、それも覚えていない。
最後には二人とも声も嗄れはて、お互いの精液にどろどろにまみれ、力尽きるように意識を失っていったような気がする。
ゾロの傍らには、精液のこびりついたままの体をしどけなく弛緩させて眠っているサンジの姿がある。
ゾロが起きた時に傍にサンジの寝顔があると言うのも、実に珍しいことだった。
眠るサンジの顔は、やたらと幼い。
その寝顔を見つめていると、昨夜感じていたような、骨まで食いつくしたいほどの性衝動とは全く違った、ほわほわと温かくてじんわりしたものが心に満ちる。
やべェな、と、ゾロは何となく思った。苦笑しながら。
性欲なら、男の生理だ、と言い訳もつけられる。
この躰に溺れ、執着しているだけだと。
だが、こんな感情は。
ただやみくもに温かく、顔を見つめているだけで幸福感に包まれるのは。
ただそっと抱きしめて、その眠りを邪魔したくないなどと思うのは。
うっかり気を抜くと、なぜか泣いてしまうような気がするのは。
せつない、と、思うのは。
愛しい、と、思うのは。
たぶん、本来、ゾロが志を目指すのに、妨げになるもの。
本来、真っ先に切り捨てなければならないもの。
けれど、今のゾロはそれを捨て去ることができない。
それどころか、この想いがこの心の中にある限り、自分は何度でも立ち上がれる、とすら、思う。
これを抱えたまま、強くなる、と思う。
離しはしない。決して。
窓から陽光が差し込んで、サンジの髪を輝かせた。
その美しさに、刹那、目を奪われる。
だが次の瞬間、ゾロはハッとした。
─────陽光…?
ゾロの頭が一気に覚醒する。
がばっと跳ね起きた。
いったい今何時だ。
クルー達が起きてくる時間ではないのか。
誰も来ない格納庫ではない。
起きたら真っ先にみんなが集まるラウンジだ。
ゾロは辺りを見回して、その惨憺たる室内に一瞬呆然とした。
脱ぎ散らかされた衣服。
汚れた床。
室内に立ちこめる濃厚な匂い。
「おい…、おい、コック!」
とりあえず、サンジを起こす。
「う、ん…?」
「しっかりしろ、起きろ、てめェ。朝飯作んなくていいのか!」
サンジは目を開けはしたものの、ぼんやりとしたまま、焦るゾロを見ている。
ゾロは舌打ちして、とにかく自分だけでも何とかしようと、あたふたと立ち上がり、衣服を身に着け始める。
「…てめェ、タフだなぁ。」
ぼーっとした声でサンジが言った。
「昨日あんだけやったのに、よく腰立つなぁ。」
「なに呑気にしてやがんだ、アホコック! てめェも早く服着ろ!」
こんな姿をクルー達(特にナミ)に見られたら何を言われるか。
例え女達には全てがバレバレだとしても。
「ゾロぉ。」
もうほとんど寝ぼけてるような声でサンジが呼んだ。
「てめェ、アホだろ。」
まっぱの寝ぼけにアホ呼ばわりされて、ゾロは切れた。
「アホはてめェだろ! フルチンのままぼーっとしてんじゃねェ! みんなが起きてくんだろが!」
本能のままに怒鳴るゾロを見ながら、サンジは気怠げに体を起こした。
「…こねェよ。」
「は?」
「みんなはこねェ、つってんの。」
「あ?」
「よく見ろよ、太陽、頭のてっぺんに上ってんだろうが。もう昼だっての。」
「え?」
「ついでに言うなら仮にも船乗りなんだから、船が動いてんのか泊まってんのかくらい、体で分かれ?」
言われて、ゾロは慌ててドアに駆け寄り、開けて外を見た。
船は港についていた。
「いつの間に・・・」
「昨夜のうちにな。」
「じゃあみんなは・・・」
「とっとと降りた。今頃は街でランチだろうさ。」
聞く者はいないと知っていたからこその嬌声。
覗かれる心配はないと分かっていたからこその媚態。
「計算ずく、か。」
「まぁ、そういう事だ。」
サンジがにやりと笑う。
「どこから計算だ? てめェとのケンカもそうか。」
「んなわけあるか。ケンカは本気でむかついたんだ。そしたらナミさんが同情してくれたんだ。」
ま、ちょっとナミさんも悪乗りしてたけどな、と、昨夜の事を思い出したのか、サンジが照れたように笑う。
悪乗りしすぎだ、とゾロはため息をついた。
昨夜の、サンジの体からロビンの“手”が咲いた瞬間、己のうちに沸きあがった殺意を、ゾロはまだ生々しく覚えている。
その瞬間、何もかも吹き飛んだ。
仲間だとか、女だとか、船内だとか、戯れ事の最中だとか。
研ぎ澄まされた純粋な殺意だけがそこにあった。
あの状態は、自分で思い返してみてもやばかった。
ロビンがすばやく“手”を消さなければ、激情にかられて斬っていたろう。
もしかしたらサンジごと斬っていたかもしれない。
昨日までの自分がどれだけ切羽詰っていて、どれだけ自分を見失っていたか、今日になってみればいやというほどわかる。
ロビンもナミの策略で斬られたんじゃたまらないだろう。
それにしてもあの魔女は。
見事に自分は表に出ず、演出をやってのけた。
まったく感服する。
でもまぁ。
結果的には仲直りできたし、魔女には感謝しとくべきか。
サンジが起き上がろうとして、小さく呻いた。
「…なにやってんだ。」
ゾロが問うと、
「…風呂入りてェ。でも立てねェ。」
と答えが返ってきた。
完全に腰がバカになってるらしい。ヤリスギだ。
しょうがねェな、と、ゾロはサンジに手を貸そうとして、自分も相当に腰にガタがきてる事に気がついた。
さっきは慌てていて自分の腰の不調に気がつかなかったらしい。
二人してこれじゃ、今敵襲が来たらひとたまりもねェな、と思ったら、腹の底から笑えてきた。
「腰抜け剣豪」
と、サンジが言った。
「腰抜けコック」
とゾロも返す。
二人で笑った。
腰を庇いながら、よろけつつサンジを抱き上げ、立たせる。
ふと、サンジがゾロを覗き込んだ。
「ゾロ。」
「何だ?」
「“ゴメンナサイ”は?」
悪戯っ子の目が聞いている。
ゾロは観念した。
降参だ。もう。
ゾロ自ら負けを認めた、珍しい瞬間だった。
「ゴメンナサイ。」
それからゾロは、軋む腰に気合を入れて、サンジをお姫様抱っこした。
結局、ケンカの原因はなんだったんだろうなぁと思いながら。
END.
2004/04/07
Vouloir
の意味は、仏語で「欲する」。
あづちさんがつけてくれました。
結局、この二人のケンカの原因は判明せずじまい