■ Crime of Pain ■
【2】
その日も、サンジはゾロに抱かれていた。
ゾロのキャブワゴンの中ではなく、サンジの家の寝室で。
外での情事、という垣根は、崩れ始めていた。
サンジは、家にゾロを招き入れるようになっていた。
きっかけは、キャブワゴンの助手席に無造作に投げ出されてあった、コンビニの袋だった。
中に、食べ終わったばかりの弁当のパックが入っていた。
こんなものばかり食べているんだ、と思った瞬間、ゾロにちゃんとした食事をさせたくなった。
ほとんど衝動的に、サンジはゾロを家に連れ込んでいた。
あの頃毎日毎日そうしていたように、ゾロの為にゾロの為の食事を作った。
ゾロの好きな、ふわふわ卵のオムライス。
一口、口に入れた瞬間、ゾロの表情が、ふっと柔らかくなった。
「……………旨い。」
たったその一言で、サンジはもう、必死でごまかしてきたゾロへの思いをごまかしきれなくなった。
自分からゾロを寝室に招きいれ、自分から服を脱いだ。
自分からゾロの性器を迎え入れた。
もう抑えなど、利かなくなっていた。
それから、情事の場所は、ゾロの車内からサンジの家になった。
情事の前に必ず、ゾロに食事を作るようになった。
そうなると二人の関係はどんどん甘く優しく濃密なものになった。
ゾロは、情事が終わっても、なかなかサンジの体を離さないようになった。
裸で抱きあったまま、ゾロはいつまでもいつまでもサンジの髪を撫でている。
優しく。
慈しむように。
そうして、サンジの携帯がルフィのお迎えの時間のアラームを鳴らすと、それをきっかけにしてゾロは出ていく。
サンジは手早く身支度を整え、バスのお迎え場所に急ぐ。
男の匂いを体に纏いつかせたまま、我が子を抱き締める事に、抵抗がないといえば嘘になる。
けれど、体中に残るゾロの痕を洗い流してしまう事も出来なかった。
─────俺はきっと地獄に落ちる…。
そんなふうに思う。
自分は狂っていると思いながら、ずるずるとゾロとの関係は続いていた。
ただ一つだけ、サンジには気にかかっていることがあった。
ゾロが何故、ロロノアの家からこんなに遠い町で、リンゴ売りなどしているのか。
リンゴの移動販売、など、ロロノアの家が許すはずがない。
ゾロの父親のウソップならばともかく、執事のクラハドールが知ったら卒倒するだろう。
クラハドールは何をしているのだろう。
何故ゾロにこんな事を許しているのだろう。
それとも、クラハドールの与り知らぬところで、ゾロはこんな事をしているのだろうか。
仕事は?
…家庭は?
……まだ、ゾロは一人なのだろうか…。
聞けるはずもなく、サンジはゾロの体にしがみつく。
そんな時、それは起こった。
いつものように、ゾロはサンジの家を訪れていた。
人目を気にしながら、サンジの部屋のチャイムを鳴らすと、急いた様子でサンジが出てくる。
ドアの外にいるのがゾロだとわかると、とろけるような笑みを浮かべる。
その笑みだけで、ゾロの心は愛しさでいっぱいになってしまう。
もはや二人の間に、再会した時のような冷たくよそよそしい空気はなかった。
あの頃に戻ったかのような、甘く穏やかな空気だけが満ちている。
世間から見れば、それは不倫という関係でしかなかったが、二人とも、その事は意識的に考えないようにしていた。
ゾロは部屋に上がるなり性急にその体を抱き締める。
抱きあいながらリビングに入ると、テーブルにはもう、ゾロの分の食事が作られている。
5年離れていたとは思えないほど正確に、サンジはゾロの嗜好を覚えていた。
あの頃と寸分違わない味に、ゾロは舌鼓を打つ。
懐かしい味。
5年間ずっと忘れられずにいた味。
ゾロがずっと餓えていたのは、サンジ自身に対してだけではない。
サンジが作り出す食事に対しても、ずっとずっと餓えていた。
この5年、何を食べても物の味が分からなかった。
このたった一口に、自分がどれほど餓えていたか、いやというほどわかる。
目の前では、サンジが、黙々と食事を口に運ぶゾロをじっと見つめている。
その瞳は優しい。
ひどく幸せそうな顔をしている、と思う。
幸せな家庭を壊した張本人であるはずのゾロを見ながら。
何故こんな顔でゾロを見る。
サンジにとっては、ゾロは忌み嫌う存在であるはずだろうに。
だからこそ逃げたのだろうに。
けれどサンジはゾロを拒まない。
口ではいやだと言いながら、体はゾロを受け入れた。
今はもう、ゾロを心から受け入れているように見える。
それなら何故。
何故、5年前、裏切るようにゾロから逃げたのか。
何故、ゾロを愛してると言いながら、他の男の子供を産んだのか。
サンジの言葉の、どこまでが真実で、どこからが嘘なのか。
心の奥のそれを押し殺して、ゾロはサンジを抱き寄せる。
サンジは拒まない。
抱き締めて口付けると、サンジは答えてくる。
何故拒まない。
何故受け入れる。
何故答えてくる。
何故。
何故───────!
一番聞きたいはずの、一番大切な事は、どうしても聞けなかった。
聞けない代わりに、ゾロはサンジの体を強く強く抱き締める。
柔らかな金髪に指を絡める。
薄く開いた唇に口付けて、その口腔を味わう。
ん……、と、微かに、サンジの鼻から声が抜ける。
たったそれだけの微かな声が、ゾロをどれだけ煽るか、わかっているのだろうか。
舌を絡めあっているうち、サンジの体からはどんどん力が抜けていく。
ゾロが崩れそうになる体をぐいっと引き寄せる。
体が密着すると、お互いの性器が既に猛っている事がわかる。
舌を絡めたまま、ゾロは、気早にサンジのシャツをまくりあげ、ズボンに手をかけた。
サンジの手もゾロのシャツの中に潜り込み、ゾロの肌を弄っている。
こういう積極性は、5年前には見られなかった。
ゾロの知っているサンジは、際限なく相手を受け入れるくせに、自分からは求める事はほとんどしない男だった。
それをゾロは、愛しくも歯がゆくも思っていた。
今のサンジは、まるでなにかに急き立てられているかのように、ゾロを求めてくる。
ゾロもまた、追い立てられるようにサンジのズボンを剥ぎ取る。
リビングの床にサンジの痩躯を押し倒して、うつぶせの姿勢から、尻だけを持ち上げる。
露になった下半身に、ゾロは舌を這わせた。
「んあ……ッ…!」
サンジの白い尻が震える。
覗く薄桃色の後孔に、ゾロは舌を捻じ込んだ。
「ああッ…、ゾ、ロ、い…から、早く…欲しいッ…!」
切羽詰った声でねだられ、ゾロは慌しく自分もズボンのファスナーを下ろすと、太く大きく育ったモノを取り出した。
まだ解れきっていないサンジの後孔に、それを押し当てる。
早く、と催促するように、サンジが腰を揺らした。
ぐぷ…、と固い肉が柔らかな粘膜に押し入る。
「ひ、あァッッ…!!」
サンジが苦悶し、床に爪を立てた。
「悪ィ…止まんねェ…。」
ぐぷ、ぐぷ、とゾロの剛直が、サンジの中に沈んでいく。
「あああ…あ…、んん…。」
サンジの中がひくひくと蠢きながら、ゾロを更に奥に誘う。
サンジの前に手を回すと、無理な侵入に苦痛を感じているだろうに、そこは勃ちあがり、とろとろと蜜を零していた。
「アアッ! ば、か、触んな…! 出…ッ。」
サンジが訴えるのよりも早く、ゾロの手に熱い飛沫が何度も飛んだ。
まだ吐精を続けるサンジのそれを、ゾロの手が掴む。
「やああっ!」
きゅうっとサンジの中がゾロを痛いほどに締め付ける。
狭い内壁を、ゾロは何度も何度も抉った。
「あっ、あっ、ああ、や、あっ、んああっ、ゾ、ロ、ああっ、ゾロ…!」
サンジの艶やかな声にどうしようもないほどに煽られて、ゾロはサンジの最奥を犯す。
「ゾロ、イク…っ…!」
「イッちまえ。サンジ。」
柔らかな耳たぶを噛みながら囁くと、サンジの全身が痙攣した。
サンジの中も不規則な収縮をする。
途端に、ゾロの剛直が弾けた。
「ひ………!」
サンジの体をあらん限りの力で抱き締めながら、ゾロは、サンジの中に全てを注ぎ込んだ。
「…悪い、サンジ…、こんなとこで…。」
ゾロが脱力しながら囁くと、サンジもけだるそうに身じろぎしながら、小さくくすりとした。
「ん、でも俺も…ゾロが欲しかったから…。」
慌しく繋がった為、ゾロもサンジも、上半身は着たままだ。
ゾロは、射精後もサンジの中から抜かずに、白いなじにキスをしながら、サンジのシャツを脱がせていった。
その時だった。
2005/12/24