■ 最終話 ■ 発情☆ア・ラ・モード/玉撫子薫
【5】
その日はサンジの17歳の誕生日だった。
誕生日だからと言って、バラティエでの日常は何も変わらない。
というより、サンジは、今日が自分の誕生日だなんて、まったく気づかずにいた。
元より家族も友達もいないサンジには、誕生日を祝ってくれる人もいない。
そもそもサンジの誕生日を知っている知り合いというのすらいない。
サンジ自身ですら忘れてしまいそうになるその日にちを、それでもかろうじて覚えているのは、サンジの名が誕生日からつけられているからだ。
3月2日生まれで、「サンジ」。
笑えてくるほど安易なネーミングだ。
語呂合わせじゃねェか、ただの。
けれど、そのおかげで、サンジ自身も自分の誕生日を忘れないでいられる。
まあ、覚えていたからどうということもないのだけれど。
ここ最近で、誕生日を覚えていてよかったと思ったのは、履歴書を書いた時だけだった。
だから、その日の朝、今日こそはジジィに蹴りをあててやる、と、バラティエのドアを開けたサンジは、ゼフがもう起きていて、しかも厨房に立っているのを見ても、いったい今日はどんな風の吹き回しだ?と、驚いただけだった。
目をぱちくりさせながら立っているサンジを見て、ゼフが、座れ、と顎をしゃくって促す。
どうやら今日の朝食はゼフが作るらしい、と悟り、けれどそれが何故なのかわからないまま、サンジは椅子に座った。
サンジが作るいつもの朝食は、大体いつも和食だ。
ご飯と味噌汁と焼き魚。それにだしまき卵とおひたし。
焼き魚が煮魚になったり、おひたしがごま和えになったりという変化はあったが、大体いつもこんな感じだ。
なぜならサンジはそれ以外の朝食のレパートリーがないからだ。
それはサンジの人生から培われたメニューではない。
ゾロの好むメニューだ。
孤児院で育ったゾロは、今は自堕落な生活をしてはいても、その根底には規則正しい生活と管理された栄養食がある。
和食中心の子供時代を送ってきたせいか、ゾロは今でもハンバーグなんかより、焼き魚の方が好きだ。
対して、サンジは、和食どころか、そもそも朝食などまともに与えられたことすらない。
朝に母親が起きてきたという記憶もない。
朝飯抜きで学校に行き、学校で給食を食べ、夜はコンビニで弁当かラーメン。
それが、ゾロに出会うまでのサンジの食生活だった。
チン、とガスコンベックが鳴った。
厨房で忙しく手を動かしていたゼフが、コンベックを、がこんと開ける。
ほわっとバターとチーズと肉のにおい。
─────なんだろう。ミートパイと、ピザ、かな。
そんな感じのにおい。
食欲をそそるいい匂いだが、肉とチーズって、朝から食うには、ジジィにゃ重すぎねぇか? と、サンジはちょっと心配になったりもする。
だってサンジのアパートの隣の爺さんの朝食を前に見た事あるけど、たくわんとご飯だけだった。
それだけしか食わなくて大丈夫なのかと聞いたら、隣の爺さんは「朝はこんなもんだ。」と言っていた。
それでもサンジが見かねて、ついつい味噌汁を作ってやってしまうと、具はじゃがいもより大根がいいとか文句をこかれた。
文句こきたおしながら、爺さんは片手鍋いっぱいの味噌汁を全部飲んでくれた。
ゾロの定番朝ご飯も和食だったし、サンジ自身がバラティエに来てからも和朝食を作り続けていた事もあって、朝からこってりチーズの匂い、というのは何となく違和感がある。
─────俺は若いから朝からピザでもどうって事ねェけど、ジジィは朝っぱらからんなもん食えるのかな。
心配するサンジの目の前に、ゼフが料理を並べていく。
パイ生地の焼けるバターの匂いと、肉の焼ける匂いと、チーズのとろける匂いがしていたから、てっきり、「ミートパイとピザ」等と想像していたが、出てきたものは少し違っていた。
皿の上には、六角形の器になったパイ。
パイの器の中には、ごろっとした肉の塊とアスパラがホワイトソースと一緒に入っている。
たぶん、子牛肉のシチュー。
お店で出ているものよりずっと肉がごろごろしていて、ソースが少ないけど。
アスパラの緑が鮮やかで綺麗だ。
それに、やっぱりピザっぽいものが細長い扇形に切って添えてある。
でもよく見るピザよりもずっと分厚い。
土台もピザ生地じゃないみたいだ。
宅配のピザとは比べ物にならないほど、どっさりチーズがかかっている。
配膳を終えたゼフが、サンジの向かいに座る。
いただきます、と頭を下げたのを見て、ゼフと料理を何度も見比べていたサンジも、慌てて、いただきますをした。
どこから食べようか少し考えて、パイの器の中の肉にフォークを刺した。
一口大の肉の塊に、フォークはあっけないほど簡単に刺さる。
口に入れてみて、サンジはその肉の柔らかさに驚いた。
口の中で自然と溶けていくような柔らかさ。
まだゼフの店で働くようになって、3ヶ月もたっていないが、こんなふうになるまで肉を煮込むのに、どれだけ手間も時間もかかるか、サンジはもうよく知っている。
─────いったい何時から起きてたんだ?ジジィ。
まだ、外は小学生が登校しているような時間なのに。
肉はとても柔らかいのに、味付けはむしろ素朴といっていいほどシンプルだ。
優しいホワイトソースの味。
マッシュルームとたまねぎも入ってるかも。
添えられてるアスパラは別茹でしたのだろう、しゃきしゃきと甘い。
そして、器のパイ生地はさっくりほろほろと口の中で心地よく崩れていく。
付け合せのピザにもフォークを入れる。
─────あ、これ、ジャガイモだ。
さくっとフォークを入れてみてわかった。
土台はピザ生地じゃない。
細切りにしたジャガイモだ。
それをホットケーキのように分厚く敷いて、その上に、ベーコンとプチトマトとたまねぎを乗せて、大量のチーズを乗せて、焼き上げてある。
ジャガイモの鉄板に触っていた下の方はさくさくかりかり、少し上の方は程よく蒸されてほくほく、チーズと交ざったところはとろとろしていて、そのチーズがまた、濃厚で、餅かと思うほど伸びる。
これも味付けはシンプル。
塩と胡椒と、プチトマトの酸味とベーコンの塩味と、ジャガイモの自然の甘みとチーズのコク。それだけだ。
朝からこってりだな、と思った事も忘れて、サンジはそれらを平らげた。
サンジがすべて食べ終えたのを見て、ゼフが席を立った。
冷蔵庫を開けて、ガラスの器を持って戻ってくる。
中には、牛乳粥というかリゾットというか、そんな感じの物が入っている。
え、でも今、冷蔵庫から出てきたよな。
冷たいんだよな、これ。
器も透明なガラスで、見た目はデザートな佇まいだ。
だが、中に入っているのは明らかにどう見ても、ご飯だ。
ご飯が牛乳っぽい物に浸ったもの。
「ジジィ…、これなに。」
恐る恐る聞くと、
「デザートだ。」
と、答えが返ってくる。
「…米に見えるんだけど、これ。」
「米だな。」
ゼフは顔色ひとつ変えない。
それを見てサンジは、おっかなびっくりスプーンを手にとった。
見た目はとても食欲をそそるとは言いがたいが、ゼフが出すものにまずかった物は今まで一度もない。
それに、残したら渾身の料理長キックで沈められる。
スプーンで、それを掬う。
─────うわー…、やっぱ、ご飯だ。牛乳のお粥。
嫌そうな表情を隠しもせず、サンジはそれを口に入れた。
「…あ。」
おいしかった。
確かに牛乳粥だ。
だが、ご飯、という感じはしない。
普通に、おいしいミルクベースのデザートだ。
冷たくて、ふわりとシナモンとメイプルシロップの香りがして、優しい甘さで。
上に、アーモンドスライスとレーズンと、紅茶で煮込んだかなにかしたリンゴの角切りが乗っている。
チーズと肉でちょっともったりしたお腹に、それは優しくしみこんでくる。
全て綺麗に平らげてから、サンジは、小首をかしげた。
「どうした。」
ゼフが聞いてくる。
サンジは小首をかしげたまま、
「なぁ、ジジィ、これって、別に、俺が来る前のジジィのいつもの朝ご飯とかじゃねぇよなぁ?」
と言った。
朝、ゼフが厨房を立っているのを見たとき、サンジは、てっきりゼフが、ゼフの朝食、というものを作ってくれているのだと思った。
だが出てきたものは、朝に食べるには少々重いものばかりで、しかも、このデザート。
食べてわかったが、これは明らかに大人向けのデザートではない。
子供向けの、優しい甘さの素朴なデザートだ。
そう思って見ると、この朝食は、すべてゼフらしからぬ、といっていい。
確かにおいしいし、フレンチっぽいといえばそんな感じだが、どれもバラティエで客向けに出される洗練された料理には及ばない。
優しくて、素朴で、言ってしまえば野暮ったい。
サンジには、この食事の意味がわからなかった。
「うまかったか?」
ゼフが聞く。
「うん。うまかった。…優しかった。」
サンジが答える。
子牛肉に、バターに、シチューに、チーズに、と、ボリュームのあるものばかりだったのに、その料理は全て優しかった。
ややあって、ゼフが言った。
「この飯は俺のお袋が、俺の誕生日によく作ってくれた料理だ。」
─────たんじょうび?
サンジはまた、大きな目をぱちくりさせて、─────次の瞬間、ぶわっと、その顔が真っ赤になった。
まさしく今日が、自分の誕生日である事に気がついて。
この口の中でとろけるような肉も、口にしてすぐにわかった上質のチーズも、ひんやりと優しいデザートも、全て、サンジの誕生日のために作られたもの。
「なん、…ど、して、俺の誕生日、知って…。」
「てめェ、この店勤めるとき、俺に履歴書出したろうが。」
そういえばそうだ。
初めて書いた履歴書。
誰にも受け取ってもらえなかった、空欄だらけのそれを、ゼフは受け取ってくれていた。
だけど。
まさか、覚えててくれるなんて。
覚えてて、サンジの為に、お祝いの料理を作ってくれるなんて。
「あっ…あ、あ…、あー…、」
ありがとうございます、の一言がなかなかいえなくて、サンジは真っ赤になったまま俯いた。
そんなサンジを見るゼフは、いつもと同じような仏頂面で、けれどその目は優しい。
どうしよう。
どうしよう、嬉しい。
誕生日おめでとう、とは、ゼフは一言も言ってない。
なのに、この料理からは確かな優しさと祝福が感じられる。
ゼフの母親が、ゼフに作ってくれたのと同じ料理を、ゼフがサンジに。
それがとんでもなく嬉しい。
「へへ…、じゃ、じゃあ、これ、ジジィの、お袋の味だ。」
真っ赤な顔のまま、へらっと笑うサンジを見て、ゼフが笑いながら鼻を鳴らす。
「ふん。ま、そうだな。」
「そっか。…へへ…、そっか…。」
サンジはスプーンを持ち直して、皿に僅かに残ったソースを、丁寧に丁寧にこそいで、口に入れた。
口に入れて、また、へへっと笑う。
「ジジィのお袋さんってどんな人?」
「俺によく似た美人だった。俺は母親似なんでな。」
「…うん。ごめん、ジジィ。俺の想像力にも限界があった。」
「どういう意味だ。」
軽口を叩きながら、サンジが、皿を片付けようと立ち上がった。
するとゼフが、「ちょっと待て、チビナス。」とサンジを呼び止めた。
「チビナスって呼ぶな。なんだよ?」
ゼフは、何か赤いものを手に近づいてくると、サンジの襟元にそれを留めた。
「今日一日、こいつ外すなよ。」
にやりと笑って、ゼフがさっさと踵を返す。
いったい何をつけられたのだろうと、サンジは自分の胸元を見て、そして、絶句した。
胸元に赤いリボン。
リボンの下に名札がついていて、こう書いてあった。
『今日の主役』
□ □ □
「ウェイターさん、どうして“今日の主役”なの?」
また聞かれた。
これでもう三人目だ。
「え、と、その、今日は、おれ…ぼく…私の、誕生日で…。」
「あら。それはおめでとー♪」
「あ、あ、あり、ありがとうございます。…あの、あの、今日、その…、イベントデーになっておりまして、こ、これに気がついて“おめでとう”を言ってくださったお客様に、オーナー特製のガトーショコラをプレゼントする事になっているのですが、お持ちしてよろしいでしょうか。」
「え、ほんとに? わあ、うれしー♪」
「食べていきますか、持って帰りますか?」
「じゃあ、食べていきます。」
「はい。コーヒーか紅茶のどっちかをつけれますけど。」
「お紅茶ー♪ ミルクで♪」
「わかりました。」
オーダーを受け、軽く頭を下げて、厨房に戻って、サンジは、はあ…と息をついた。
顔が熱くなってるのが自分でわかる。
心臓もどきどきだ。
「チビナス。」
ゼフがフライパンをゆすりながら声をかけてきた。
「“食べていきますか”じゃねぇ、“お召し上がりになりますか”だ。“お持ち帰りになりますか”、“コーヒーと紅茶のどちらかをお付けする事ができますが、如何いたしますか”。“わかりました”もダメだ。“かしこまりました”だ。」
「うるせぇな! わかってるよ!!」
「オーナーに向かってその口の聞き方はなんだ。注文受けたらとっととティーサーバーの用意。ほら、6卓のシルバーも出てねぇぞ。2卓にサイドサラダ持ってったか?」
しれっとした顔でゼフに言われ、サンジは忌々しそうに舌打ちして、仕事にかかる。
なにより忌々しいのは、ゼフがちょっと楽しそうなことだ。
ゼフがサンジの胸につけた、“今日の主役”の効果は絶大だった。
ウェイターの胸元なんか、客は見ちゃいないだろう、との予想を裏切って、来る人来る人みんなサンジの胸元を不思議そうに見ている。
中には、今のように理由を聞いてくる客もいる。
“サンジに「誕生日おめでとう」を言った客にはケーキサービス”は、ゼフが決めたことだ。
だから、サンジは、客に理由を聞かれたら、今日が自分の誕生日である事を説明しなければならない。
説明すれば当然、客は「おめでとう」と言ってくるので、今度は、ケーキのサービスの説明をしなければならない。
実は。
バラティエに勤めはじめて三ヶ月ほどたつサンジではあったが、鍋磨きもトイレ掃除も食材の下拵えも、どれも苦になるどころか楽しくて楽しくて仕方なかったが、一つだけ苦手なものがあった。
それは、“接客”。
サンジの対人スキルは、中学生の頃で止まっている。
口の利き方も知らないし、まともに敬語も使えない。
当然、バラティエでも、サンジの接客態度はとても客に対するそれとは言えなかった。
仕事そのものは熱心なので、メニューや価格の覚えも早いし、充分な知識も身につけつつあったが、どうにもそれを客に説明する、という事ができない。
おかげで、この頃のサンジは、やたらそっけなく客から注文をとると、そそくさと厨房の中に逃げ込むようになってしまっていた。
ゼフは、内心でそれを憂いていた。
掃除の仕方や鍋の磨き方は、容赦なく蹴り飛ばして教え込んでもへこたれないサンジだったが、接客だけは叱り付けると何故か過剰なほど萎縮してしまう。
それが、保身のためよりも、自分がヘマする事によってゼフに迷惑をかける事を恐れている、と、気づいた時は、ゼフは頭を抱えたくなった。
サンジはゼフに迷惑をかける事を何よりも恐れていた。
自分がいる事で、バラティエの評判が落ちはしないかと。
まともな接客ができない事など、当のサンジが一番分かっていて、一番気に病んでいたのだ。
けれど自分でどうしていいかわからず、だからこそ、萎縮するしかなかったサンジの心を思って、ゼフはため息をついた。
敬語など使えなくとも。
サンジが料理に対してどれだけ真剣か、それを客に供することにどれだけ誇りを持っているか、それに対して自信をもちさえすれば接客に臆する事などないはずなのに。
言葉遣いが未熟でも、心遣いでいくらでもカバーできるのに。
サンジは自分で自分の魅力に気がついていない。
親もろくな育て方をしなかったようだし、一時期一緒に暮らしていたゾロというチンピラも、サンジを食いつぶすだけだったようだ。
出入りする女達も、サンジを人間として扱いすらしなかったらしい。
実際はサンジが来てからバラティエの客は増えていた。
サンジ目当ての客は、女性客から男性客まで幅広かった。
臆せず、サンジがほんの少し笑むだけで、それで充分に客が満足する空間を作り出せるだけの魅力があるのに。
だから、ゼフは、誕生日のこの日に、こんな事を仕掛けたのだった。
案の定、客たちは、目ざとくサンジの胸の“今日の主役”に気づき、口々にサンジに話しかけている。
ただでさえ少女のような顔をしたウェイターが、おめでとうを言われるたびに、顔を真っ赤にして恥ずかしがるのは、ゼフから見ていても可愛らしい。
そもそもバラティエは歓楽街の中にある。
ランチタイムの今は、大通りを挟んだ向こうのビジネス街のサラリーマンやOLの客が多いが、夜になれば、来る客はホステスや酔客が多くなる。
サンジをひそかに可愛がっているホステス達が、今日がサンジの誕生日だと知れば、恐らくは店はプレゼントや花束で埋め尽くされるだろう。
接客が苦手、などと言っていられないほど、今日のサンジは客に構われまくるのだ。
そうして、自分がどれだけ客たちに愛されているか知っていくといい。
ゼフはそんな風に思っていた。
ホールに目をやれば、ほんの少しは慣れてきたのか、サンジが客に今日のサービスのケーキの説明をしている。
サンジにはケーキを事前に食べさせ、一通り作り方や材料を説明してある。
それをそのまま客に伝えるのではなくて、サンジは、拙いながらもちゃんと自分の言葉で自分なりの説明をしているのがわかる。
「小麦粉はね、使わないんです。チョコだけですよ。ええと、クーベルチュール?
最高級のチョコだってジジィ…オーナーが言ってたから、ぜひ食べてみてください。
いえ、そんなに甘くないです。だから、出すときは生クリーム添えてます。この生クリームがまためちゃくちゃクソうまいですから。
あ、ありがとうございますっ。オメシアガリですねっ。お飲み物は? あ、えっと俺は紅茶かな…。あの、すげぇうまいアールグレイ、俺、淹れられるようになったんですよっ。
はいっ。ありがとうございますっ。」
危うく噴き出しそうになるのを、必死で押し殺して、ゼフは努めてしかめっ面で料理を作り続ける。
「おいしいお茶が淹れられるようになった」等と、わざわざ客に申告するウェイターがどこにいるというのだ。
けれど、サンジがまるで子供のようににこにこ笑いながらそう言うので、客も釣り込まれているのがわかる。
おかげで今日は、飲み物のオーダーがすべてアールグレイだ。
そうして、サンジにとっては怒涛のようなランチタイムもピークの時間を過ぎ、客もまばらになってきて、そろそろランチ終了になろうかという時間になった頃だった。
新しい客の入店の気配に振り向いたサンジの目が、そのまま大きく見開いた。
ドアを開けて入ってくる、鮮やかな、緑の髪。
「ゾ、ロ…!」
2006.5.31
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