■ 第28話 ■ とねりこ通信/みうさん
「俺は元に戻ったから」と「覚悟しとけ」と不敵に笑った男は、ゾロの知ってるサンジではなかった。
手際よく飯を作り、ゾロが寝そべっていれば遠慮なく蹴りを入れた。
あれこれと世話を焼き、引っ切り無しに話しかけてくる。
うるさいと怒鳴っても首を竦めて見せる程度で、タバコを咥えたままニヤニヤと馬鹿にしたように笑う。
こいつは誰だ。
正直、ゾロは戸惑っていた。
コンビニの前で拾った哀れなひよこは手の中でぴいぴいと鳴いて縋るばかりだったのに、目の前にいる男は不敵に笑い、怯えも恐れも見せない。
こいつは誰だ。
開き直りと言うにも、あまりの豹変振りにゾロは戸惑っていた。
サンジが笑う、サンジが怒る。
どこのスーパーのちらしが安いとか猫が喋りながら煮干を食ったとか、どうでもいいことを話しては声を立てて笑う。
ゾロの背中にじゃれ付いて、自分からキスを強請る。
シャツを肌蹴て下腹部をゾロに押し当てて、頬を赤らめて「好きだ」と呟く。
こんなに生き生きとあからさまに、けれど照れ隠しからか乱暴に振舞うサンジから、いつしかゾロは目を離せなくなった。
サンジが見せる表情を見逃したくない、その声を聞き漏らしたくない。
その視線から外されたくなくて、その金髪の光だけでも視界の隅において置きたくて・・・
なんてこった。
とうとうゾロは自覚した。
サンジに囚われている。
こんな筈ではなかったのに。
いつだって、選択するのは自分の方だった。
棄てるのも殺すのも、自分次第だ。
か弱くて儚いモノたちは、愛だけを頼りに生きて求める。
それに応えてやれば至上の喜びとなり、手放せば死に近い絶望となる。
決めたのはゾロ自身だった。
いつだって、誰だって。
ゾロが執着するものなど、何一つなかったはずなのに。
畜生───
悔しさに歯噛みしながら、今日もゾロは女の元に出かけることができなかった。
傍らには、元ひよこ今はがあがあうるさいあひるのサンジが小さな寝息を立てて眠っている。
真っ直ぐにゾロを見つめて、てめえが好きだと告げてくる。
迷いのない、濁りのない綺麗な蒼い瞳で。
目を逸らすことも見返すこともできず、追い詰められていく自分に苛立ちを感じながら、それでもゾロはサンジを突き放せないでいた。
サンジの想いを受け容れたくはない、だが手放したくない。
相反する感情に、ゾロ自身が一番戸惑っている。
変わってしまったのは、サンジなのか、俺なのか。
とっくに答えの出ている問いをゾロは自問し続けていた。
2005.6.21
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