■ 第26話 ■ REIZEND GRUNGELB/氷川美弥さん
【2】
ゾロが好きだ。
好きで好きで仕方ねぇ。
こんなに人を好きになったのは初めてだ。
優しいわけじゃない。
どちらかというときっとひどいことをされてると自分でもわかってる。
でも、ゾロだけだから。
手を差し伸べてくれたのはゾロだけだから。
傍においてくれたのはゾロだけだから。
投げ捨てた大事な口紅はゾロが持っていてくれた。
どんなに後悔したか。
後で戻ったときにはもうなかった。
ゾロが拾ってくれていたなんて。
また買ってやるってそう言った。
好きだとは言ってくれなかったけど。
それだけで俺は幸せになれる。
どんなにつらくったって俺にはこれがある。
ゾロは相変わらず、冷たかったり、優しかったり、それで傷ついたり喜んだりして。
そして時々抱き合う。
いつも乱暴で俺のことはお構いなしに事を進めるけど。
それだけでも、俺を抱いてくれるだけで俺は嬉しい。
それにあれから家に女があまり来なくなった。
そのかわりゾロがひとりでふらっと出て行くことが多くなったけど。
でも隣の部屋でゾロが俺以外の人とSEXしてるのを感じるのも嫌だ。
ゾロの息使いだとか、乱暴だけど実は優しい手とか。
そんなのを感じるのは俺だけでいい。
そう思うけど。
欲張ると、失くしてしまうから。
耳を塞いで冷たい布団の中で眠れない夜を過ごすよりも、ひとり何も音のない暗い部屋で過ごすほうがいい。
他の女のところに行くけど。
ゾロはここに必ず帰ってくるから。
だから、それでいい。
そう思っていてもやっぱり一人の夜は寂しくて。
どこか遊びに行こうかと思うこともある。
でもきっとゾロはそれを嫌がるだろう。
だからこうしていつも夜が明けるまで眠らない夜を過ごす。
静か過ぎる時間は余計なことまで考えてしまう。
どうして、俺は男なんだろうって。
もし、俺が女だったらゾロは他の女のところに行かないだろうか。
抱くときもちゃんと向き合って抱いてくれるだろうか。
いつもうつ伏せにされて。
ゾロを抱きしめたくて震える手はしわくちゃのシーツを掴むしかできない。
乱暴に扱かれて、いきなり突っ込まれるときもある。
痛くて、せつなくて、悲しいのに。
躰はすぐに喜んでいく。
ゾロに触れられて嬉しくて哀しくて。
零れる涙を見られまいと終わるまで顔を上げることもできない。
終わったらゾロはすぐに俺の部屋を出て行くから、泣き顔なんて見られることもなくてそのままなきながら眠ることだってあって。
それでも、それでも、抱かれると嬉しいんだ。
胸が痛くて、切なくて、哀しくて。
でもそれ以上に嬉しくて幸せなんだ。
俺はきっとゾロのためならなんでもできる。
一度はもう、だめだって。
終わりにしようって傍にいるのはつらくてあきらめたけど。
ほんの少し離れただけで胸が張り裂けそうだった。
ゾロがいなけりゃ俺は生きていけない。
冗談じゃなくほんとにそう思う。
もし女だったらって思うけどきっと俺が女だったら多分今ここにいない。
何回か抱かれて終わりだった
傍に置いてくれることなんてなかった。
男だから傍においてくれたんだと知ってる。
だからここから出て行けって言われるまでは絶対にもう自分から出て行ったりしない。
ここが俺の家だもの。
静かすぎて、バカなことを考えるけど、最後にはこうしてここにいる理由を俺は見つける。
あのとき、傷ついてたのは縛られてた俺じゃなくて。
ゾロだったから。
だから俺はゾロから離れないことに決めたんだ。
どんなに寂しくても。
ひとりじゃないんだって、わかってもらえるまで。
いつかこの腕でゾロを抱きしめるために。
ゾロが好きだ。
窓から差し込む朝日はきらきらと部屋の中を照らす。
冷たい空気が少しずつやわらかくなって。
俺はゆっくりと布団から出る。
ゾロはもう昼頃まで帰ってこないだろう。
昼食でも一緒に食べよう。
たまには作って待ってるのもいいかもしれないと思って24時間営業のスーパーに行くことにした。
ぶらぶら散歩しながら気持ちのいい朝を歩く。
店まで結構歩かないといけないけどこんな清清しい朝は歩くほうがいい。
あと少しで店だってとこで声を掛けられた。
「あ?なんだよ」
肩をたたかれ振り向いてみればそこにはにっかりと笑ったエースがいた。
「よ!朝帰り?」
「違ぇよ、買い物」
「あ〜24時間のところ?」
「あんたこそこんなとこで何してんだよ」
「ん?飯食ってた」
エースが指差す先にはファミリーレストランがあった。
やっぱり24時間やってる店。
なんで・・・・・。
なんで、こんなとこにゾロがいるんだろう。
女の家がこの近くなのかな。
ゾロの横に並ぶ髪の長い綺麗なひと。
「ゾロ」
無言で近づいてきたゾロにいきなり張り倒された。
殴られた頬がじんじん痛い。
なんで?
なんで殴られなきゃならねぇ?
「おい、あんた!いきなり何してんだよ!」
エースがまだ殴ろうとするゾロと俺の間に入ってゾロをとめようとしてた。
「うるせぇ、てめぇに関係ねぇだろ!!」
ゾロはエースを力任せに押しのけると俺の胸倉を掴んで無理矢理立たせる。
「あいつとは会うなって言ったよな?」
「ちが・・・偶然・・・・・」
「ああ、知ってる。そこで俺も食ってたからな。それでも会うなつってんだ。無視すりゃすむだろう?愛想振って媚びて今度はこいつに抱いてもらうか?」
「おい、あんた無茶言ってんじゃねぇよ」
ゾロの肩をエースが掴むとゾロはエースに一瞥しただけで俺から手を離してくれた。
「ゾロ・・・ごめんなさい。俺が悪かったんだ。だから許してくれよ・・・?」
「知らねぇよ。てめぇの好きにしな。そいつにケツ突き出してあんあん言ってりゃいい。あんたこいつの具合はいいぜ?」
それだけ言うとゾロは女の元に戻ってしまった。
一度も振り返ることなんてない。
「どうする?ほんとに俺のところに来る?もちろん何もしないし」
ん?と優しげな笑みを浮かべて顔を覗き込んでくるエース。
きっとエースは優しくしてくれる。
俺を一人の人間として見てくれる。
なんで、なんで、俺がすることは裏目に出てばかりなんだろう。
好きでしかたねぇのに。
傍にいてぇのに。
どうしてゾロには伝わらないんだろう。
「俺、ゾロが好きなんだ。好きで好きで狂いそうだよ」
ポロリと零れた涙は拭われることもなく地面に吸い込まれていった。
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