■ 第26話 ■ REIZEND GRUNGELB/氷川美弥さん
【1】
このせつなさは。
あの小さなひよこを握りつぶしたときにも似て。
求めれば求めるほど、裏切られ。
自分ひとりなのだと。
誰にも必要とされなければ。
それはそれでいいと。
あきらめたときにすべてを捨てた。
愛することも愛されることもなく、ただ一人で生きてきた。
近くに他人をおく理由は役に立つか立たないか、それだけしかない。
サンジを使えば面白いように金が入る。
サンジは金づるでしかない。
こいつが稼げなくなったら捨てりゃいい。
サンジを傍に置くのはただ、それだけだったはず。
なのに、男に触れられるサンジに腹が立ち、女共に遊ばれるのを見るのも腹が立つ。
どんなに冷たくしようと、あいつは縋ってくる。
俺が好きだ、と。
泣きそうな顔で。
そうじゃねぇ。
サンジは棄てられたくねぇだけだ。
棄てられる恐怖を、寂しさを悔しさを、絶望をあいつは知ってる。
だから、「棄てられたくない」ってのを「好き」だって気持ちに摩り替えてるだけだ。
サンジは俺が好きなわけじゃねぇ。
傍にいてくれる人が好きなだけだ。
「・・・・ゾロ・・・・・ん・・・ねが・・・」
俺が与える愛撫にびくびくと躰を震わす。
視線が合えば、うれしそうに笑う。
「サンジ・・・」
イトシサをこめて名を呼んでやれば一瞬目を見開いて綻ぶように笑う。
イトシサ?
愛しさか?
ばかげてる。
そんな言葉が浮かぶなど。
もう、言葉にならぬ声しか紡げぬ唇の代わりにサンジは縛った腕を解放してくれと前に突き出す。
それをかなえてやればサンジは今以上に抱きついてくるだろう。
そんなことをされたらきっと俺はこいつを離せなくなる。
そしてきっと、壊してしまう。
あの手の中で冷たくなった小さな命のように。
細い腰を掴み突き上げながら喉の奥で笑う。
ただ、俺は精を吐き出してぇだけだ。
だからサンジを抱いてる。
ただ、それだけだ。
このぬくもりはいつかきっと消えちまう。
消えるものなら最初から手にしなければいい。
これは、ただ、いつも女とするSEXと変わりねぇ。
その行為に愛なんてばかみてぇな想いはねぇ。
だから、抱きしめる腕をおまえにはやらねぇ。
「んん・・・・ゾロォ・・・・」
俺の名を呼びながら果てるサンジは痙攣したように躰を震わせ、うっとりと俺を見つめる。
俺もひくひくとうねるサンジの中に熱を迸らせる。
そうして俺はやっと、サンジの手を自由にしてやった。
「赤くなっちまったな」
「ん・・・でもいい」
寝転がったままサンジは笑みを浮かべる。
まくれたシャツ、汚れたスカート。
手に残る縛られた赤い跡。
これでいい。
これでいいんだ。
こんなSEXに愛は見えねぇ。
「どこ行くんだ?」
「風呂」
立ち上がった俺に不安な顔を見せたがそういうとサンジはほっと息をつく。
そしてへへ、とまたいつもの笑み。
「なぁ、ゾロ俺が好き?」
部屋を出る俺に不安そうに声をかける。
ころころとよく表情が変わるもんだ。
「さぁな」
口の片端をあげて笑うと、サンジはひゅっと息を飲んで悲しそうな笑みを作った。
そのまま傷つけてしまいてぇ。
でもこれ以上傷つければこいつは出て行く。
棄てられるのが怖いくせに俺を棄てていく。
俺はポケットからそれを取り出してサンジの前に投げる。
サンジはぱっと飛び起きるとそれを掴むとぎゅっと大事そうに胸の前で握り締めた。
「それはおまえのだろう?また買ってやっから」
それだけいうとサンジの顔も、見ずに俺は部屋を出た。
見なくてもあいつは綺麗に笑ってるだろう。
涙まで流してるかもしれねぇ。
「ありがとう」
と小さな声が追ってきた。
・・・・・ずるいのは分かってる。
好きだなんてもう二度と言わない。
俺はすべてを棄てたつもりで何も棄てちゃいなかった。
ただそれを押し殺してきただけだ。
憎しみだとか、悔しさだとか、悲しさだとか、負の感情しかねぇ。
そんなもんばかりしかねぇ。
今更だろう?
胸が温かくなるようなこんな想いは早く消したほうがいい。
俺は傷つくのが怖ぇ、ただのガキだ。
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