■ 第17話 ■ 倒錯双葉/まやさん


【2】

 

額から流れた汗がぽたりと滴り、極上の肌に澱みを作り・・・・・・曲線に沿って流れ落ち、その先にある、ペニスの存在を知らしめた。

 

 

 

「ひァ! っあ、や、・・・・・・ソコ・・・・・・はっ・・・・・・っっ!」

 

 

 

弾け、仰け反った体を上から強く押さえ込み何故か触れる事を拒んで邪魔する華奢な腕を払いのけ・・・・・・女装の中心を握りしめれば拒否を示した筈の体に、歓喜が溢れて身悶えた。

 

「・・・・・・ソコ・・・・・・っ・・・・・・ヤ、だ」

「ヤ、じゃねえだろ」

 

 

 

扱いてやればぞくぞくと、肌を震わせ快感を示しておきながら頬は瞬く間に朱色に染まり、小さな頭を振り乱す。体の方が正直だった。

 

 

 

「・・・・・・前、自分でヤってたよな?」

「っつ、・・・・・・ってね・・・・・・っ、あは、ァっっ!」

 

「誰に扱かれてる夢見てた? 言ってみろよ」

「やだ、・・・・・・・そん、なっ・・・・・・」

 

「・・・・・・この指か」

「ひゃうっ!」

 

 

後ろから掴んだ手を上下に扱けばがくがくと、体が小刻みに戦慄いて全身が鮮やかな薄桃色へと染まっていった。

 

 

「あの野郎に二度と会うな。会ったらもう・・・・・・二度とコレしてやんねえぞ」

「ァ、わ、っっ、ァあっ!」

 

「判ったな?」

「う、う! うァ・・・・・・あっっ」

 

 

 

 

前も後ろも責め立てながら、執拗なまでに言い含め了解を示そうとする口に指を差し込み唾液を弄る。

 

 

しっかりと抱き込んだ痩身は今にも弾けそうに身を震わせて・・・・・・内から迸る絶頂が自身に訪れる事を懇願し、狂おしく藻掻き戦慄いた。

 

やがて迎えた吐精を待って、哮りを最後の一滴まで解き放てば余韻に悶える表情の中に、至福の時間を刻み込む。

 

そして髪から漂う甘い香りと汗ばんだ肌を、心ゆくまで楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横たわったまま肩で息する痩身に、眩しさを感じながらも立ち上がる。

 

素肌に引っかけた上着のポケット、金の行方を探ったが、腹を満たせる余力は皆無。

サンジは不安を隠した表情でゾロを見上げ、呟いた。

 

 

「何処・・・・・・行くんだ?」

 

 

か細い声に記憶が混ざる。死にかけたヒヨコと目前の阿呆・・・・・・どちらも庇護無しには生きられず・・・・・・だが自分が養う義務も無い。

 

それなのに

 

 

この弱い生き物を利用し、再び危ない橋を渡る気になどなれなかった。

古いジーンズを素早く履いて、行く先も告げず外へ通じる扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

何故拾ったのかと問われれば、自分は何と答えるだろう。

 

一日中同じ姿勢で縁石を暖め、虚ろな表情で見えない何かを探している・・・・・・そんな姿を踏みつけられた、ヒヨコと重ねてしまったのか。

 

それとも手の中で砕けた骨の・・・・・・行く末を知りたかっただけなのか。

 

雑踏の中を足早に抜け、目的の場所へは迷いもしない。

通い慣れた女の元に・・・・・・金をせびりに行くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・もう飽きられたかと思ったわ」

 

 

ロココを気取った扉の向こう、女が揶揄す笑みを浮かべ一旦閉じられた扉はチェーンを外す音の後、男を静かに招き入れ。

 

勝手見知った回廊を越えて、広いリビングの長椅子に寝そべったゾロをロビンは珍しそうに眺め見た。

 

 

 

「シャワーは如何? 獣じみた匂いは嫌いじゃないけど」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

ゾロは無言で席を立ち、渡されたバスローブを手に豪華な浴室へと向かってゆく。

そんな情夫を静かな視線で見送った後、ロビンは緋色のキャビンからグラスを二つ取り出して・・・・・・男が気に入る高価な酒を、なみなみ注いで時間を待った。

 

 

夕焼けの街は色鮮やかに、今日の終わりを告げている。

開けはなった出窓の向こうから心地よく吹く風は穏やかな夜を暗示して独り寝の寂しさに憂いだ宵を、解消してくれる事だろう。

高価な玩具に想いを馳せる・・・・・・ロビンの表情は艶めいていた。

 

グラスに満ちた琥珀色の液体を揺らし、没落する夕日に見惚れてると何時しか音を見失い、背後の警戒を怠った。

 

 

「ァ・・・・・・、」

 

不意に抱きすくめられた体、熱い抱擁・・・・・・すぐさま首筋に這う舌は違う事無くポイントを稼ぎ、潤いを瞬時に与えていった。

手落としたグラスの行く末を案じる間もなく塞がれた唇・・・・・・手は淫らに乳房をまさぐり、背後から分け入った足の中心に昂ぶる男の真意を探る。

・・・・・・ロビンは不穏に眉を潜めた。

 

 

「待って。お酒を少し・・・・・・」

「いらねェ」

「ダメよ。・・・・・・悪い子ね」

「煩ェ、・・・・・・黙れ」

 

 

「でも」    

 

 

・・・・・・くすりと笑う。女は何時から魔力を讃えた笑みを零す術を覚えるのか。

するりと逃れた豊かな肉体を追う事も叶わず、ゾロは両肩を突かれて長椅子の上に封じられた。

 

 

「あなたにその気が無さそうだもの」

「・・・・・・・・・・・・ちっ」

 

 

 

 

 

事実だった。・・・・・・勃起しない。

唇を寄せた肌は別人の物。掻き上げた髪も細いうなじも、似ている所など何一つ無い女の体。豊満な肉体を抱いているにも関わらず、ゾロは無意識にサンジの体を模索した。

 

ばりばりと頭を掻きむしる男に起こった異変、ロビンは瞬時に察知した。

「契約は終わりね」そうとだけ告げ、目で出口を促す・・・・・・報酬は無い。

テーブルに並べてあったグラスに腕を振りかざし、斜めに払う事で憤りを解消しようと試みた。

 

 

 

「・・・・・・あら。それ気に入ってたのよ?」

 

惜しそうな様子も見せずにロビンは笑う。この女ともこれで縁が切れるだろう。

乗れなくなった馬に朱色の鞍を乗せるほど、甘い女とは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に寂しいのは誰なのかしら?」

 

 

女が発する不快な言葉は耳障りで、忌まわしい過去と同じ色を織り交ぜながら立ち去るゾロの鼓膜に張り付いた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの雑踏も不快だった。 薄暮に紛れ視界に色が重ならず街はただ騒然とした灰色の中で夜の賑わいを待ち焦がれ、その時間、不意に感じる心許ない感覚が、ゾロは何より嫌いだった。

 

駆け寄ったが車の動きに遮られ、信号が変わるのを待つ羽目に落ちた。

戻りたくない気持ちと戻りたい感情が苦渋となって喉を枯らし、不快すぎる交錯の時間を苛々と待つ内、ふと眺め見た横断歩道の向こう側に極彩色の輝きが在った。

 

色を持たない薄暮の中で、一際目立つその姿・・・・・・逢いたくもあり逢いたくも無い、混乱の根源そのものだ。

 

足は無意識に数歩後ろに退いたが、体が勝手に前へと進み目に焼き付く細いラインを、もっと見ようと中途半端な姿勢になった。

 

 

信号はまだ赤だと言うのに金髪の阿呆は、左右を忙しなく確かめ隙あらば三叉路を横断しようと狙っている。向こうもこちらの姿を確認したらしくサンジは大きく手を振って、ゾロに存在を気付かせようと飛び跳ねた。

翻ったスカートに・・・・・・頬が緩んだのは攪乱だったと思いたい。

 

 

クラクションが一斉に抗議を浴びせる中、サンジはとうとう耐えきれなくなり一瞬の隙をついて道路に飛び出すと言う飛んでもない暴挙をやらかした。

「危ねェ!」と叫んで走り出す。

 

急ブレーキとクラクション、騒音の中サンジは真っ直ぐ、ゾロに向かって駆けて来た。

 

 

思わず両手を伸ばしたら・・・・・・手の中に突然ヒヨコが現れ元気に鳴いた。

唐突すぎる幻覚に「うっ」と全身強ばらせ・・・・・・動悸やら息切れやらに襲われたゾロは、一瞬サンジを見失った。

 

 

 

 

「この、浮気モンがァ!」

 

 

 

 

飛び込んで来たのは痩身ならぬ、痛烈な跳び蹴りの洗礼だった。

 

2005.6.6

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