■ 第17話 ■ 倒錯双葉/まやさん
【1】
・・・・・・殺してやりてェ。
疑心に曇った心の中、自制が利かない憤りを表情にさらけ出していた。
縋るように見上げる青い瞳は海の青みたいに清らかで・・・・・・自ら汚した自虐に表情を歪め、意識をソコに集中させる。
胸を焦がす苦い感情は一体何を意味するのか。
判らないまま体を沈め、締め付けにぶるっと肌を震わせば、再び男根を咥え込んだ痩身が、歓喜の中で・・・・・・戦慄いた。
・・・・・・ガキの頃。
祭りが終わった境内の片隅、俺の足下には幾つもの塊が落ちていた。
小さな山になっていたのは無惨に踏まれ殺された、色とりどりのヒヨコ達。
弱ってしまった商品は、テキ屋の手を煩わせるだけ・・・・・・賑わいの後には必ずと言って良いほど、こうした影がつきまとう。
捨てるだけならまだしも踏みつけて殺そうとするなんざ、到底人がやる仕業じゃねえと頭の片隅で思いながら、弱々しく羽を震わせたヒヨコを1羽抱え上げ、はあっと息を吹きかけた。
ぴい、と鳴いた小さな命に胸ん中が熱くなった。
買ってくれと強請る事さえ諦めた、孤独で力のねェガキが誰に迷惑かけるでなく手に入れた・・・・・・それが手中の生き物だ。
折れた足に絆創膏を巻いてやり、小箱に入れて揺らさないよう忍び足で持ち帰る。
庭の片隅に置いてある汚ェ倉庫の端っこに・・・・・・隠す目的で押し込んで、明日になったら河原に行って、バッタでも捕まえてやっからと命じておいて叱られる為に院へと入る・・・・・・俺は、何時も邪魔者だった。
騒々しすぎる団らんの中、俺の居場所は何処にも無い。
食事は強ばって固く、不味く味気ないものだったが食えるだけマシだ。
親を知らないガキ共が、たむろす萎びた孤児院じゃ・・・・・・授業参観を知らせる紙を、手渡す事も出来やしねえ。・・・・・・渡すつもりは無かったが。
隔離する目的で押しつけられた部屋の電気は薄暗く、湿った布団に横たわり、普段の俺は、不幸なんぞ考える暇無く眠りに落ちる。もしかしたら寝てる時だけ俺は幸せなのかもしれなかった。
だが耳障りな鳴き声が盛んに響き、俺の睡魔を打ち払う・・・・・・倉庫に隠したヒヨコはひっきりなしに親を呼び、やがて階下の電気がついた。
年老いた保母が呪いを吐きながら上着を探している隙を縫い、俺は二階から木の枝を伝い倉庫に走り、小箱を掴んで裏庭を抜け・・・・・・そのまま河川敷まで突っ走り、保母と同じように口の中で呪いの言葉を吐き出した・・・・・・。
騒ぐだけ騒いでいたヒヨコはどういう訳か、箱を開けた瞬間静かになった。
折れた片方の足を引きずって小箱の縁をよじ登り、俺の手の中にぽたんと落ちるピンクのヒヨコ。・・・・・・何故だか鼓動が高鳴った。
心臓が忙しなく、だが心許なく早い動悸を繰り返す。
何でそんな事になったのか理解出来ない俺はただ、闇に突っ立ってヒヨコを凝視し、阿呆みてェに震えていた。
不意に耳の後ろから全身に向け、強烈な悪寒が突っ走った。
腋を伝った電流が腕を通って指の少し手前まで痺れさせるような感覚は、今思えば秋風が・・・・・・単に肌寒かっただけなのかもしれねえが
当時俺ァ、ガキだった。親に抱かれた事もねえ見捨てられたクソガキが手中のヒヨコをどうして愛しいと思えるだろう。
不意に憤りが湧いてきた・・・・・・見苦しく温もりを求めるヒヨコに嫌悪を感じ、己の力だけでは生きられない、哀れな末路を自分に重ね・・・・・・苛立った。
甘えた声で鳴けば餌を貰えると思っているのか。
温もりを分かち合う事で心の隙間が埋まるって? それは単なる戯れ言だ。
傷を負った哀れなヒヨコを、養う術を持たない俺は、甘えている訳じゃなく、息絶えようとしているヒヨコに恐怖を感じ、無意識に両手を渾身の力で握りしめ・・・・・・・・・・・・
殺意を呟き、絞めた首は気弱に軋み気の抜けた風船のような音を立て、しきりに苦痛を訴える。脅えを宿した目は見る見る潤み、肉棒をくわえ込んだ粘膜も恐怖に煽られる収縮を見せた。
他の誰かに奪られるくらいなら? ・・・・・・ナニをしようと言うのだろう。
この細い首が小気味よい音を立て折れるのを待つのか、それとも迂闊な囁きを再び口から発する事で・・・・・・つけ上がらせてしまうのか。
勃ったから何だ・・・・・・簡単だ。目前の穴に欲情した、それだけの事だ。
自分以外の人間に執着を持つ事・・・・・・それはゾロにとって、有り得ない世界の戯れ言だった。
何時もそうしてきたし、これからも変わる事がないだろう。
疎ましくなれば捨てればいい。今まで抱いた・・・・・・女達と、同じように。
見下ろす体は次第に強ばり、喘ぎながらも強固な腕に爪を立て呼吸の再開だけを願って微かに首を、横に振る。
込めた力を抜いた瞬間、咽びながら体を丸め・・・・・・サンジは激しく咳き込んだ。
「好きか、嫌いかなんつーモンは・・・・・・こんな事にゃ関係ねえ」
咳き込む体に圧力を加え、下からぐぐっと押し込めば呼吸を整えられない苦しさの中で、青い瞳が滴を流す・・・・・・
頬に伝わった涙に煽られ、根拠の見えない辛辣な嘔吐が再びゾロに舞い戻った。
「だって、俺は・・・・・・ッ、ゾロが好・・・・・・・・っあ、ァ、いッ!」
みなまで言わせず突き上げて、そのまま内部を蹂躙した。
込み上がって来た吐き気を抑える為に打ち付け、抜けば生々しい音が局部から何度も何度も喘ぎを放ち、先に放った精が油圧に応え・・・・・・ぶちゅ、っと恥音を連れて来た。
羞恥に染まった肌に向け、原因の判らない苛立ちを暴徒と化す事で抑えようと試みる。
然し悲痛に表情を歪めながらもサンジは必死に瞳を開けて自分を抱く乱暴な男から目を放そうとはしなかった・・・・・・。
「しゃらくせェ!」
捨て犬のような目が逆鱗に触れた。今すぐ物言わぬ屍にしたい・・・・・・憤りをそのまま拳に植え付けて、振り下ろすことで溜飲を望む。
サンジは体を苦痛に丸め、暴れる拳から身を守った。
「何で・・・・・・乱暴すんだよぅ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・クソ・・・・・・っ!」
怯えた体は小刻みに震え、暴君を正気へと覚醒させた。
不意に後悔を感じたゾロは、気を落ち着かせようと大きな深呼吸を繰り返したら熱の籠もった手で両頬を掴まれ、そのまま平らな胸元にまで引き寄せられた。
「嬉しい」
「・・・・・・何がだよ」
「ゾロが嫉妬してくれて」
「誰が・・・・・・」
反論しかけたが止めておいた。複雑な心境を言葉に表すほど饒舌では無く、抱いた感情を口から漏らしてしまうと負けを認める事になる。
拳に痛めつけられた頬に親指を乗せ、暴力の謝罪だけは口にした。
それが自分に出来る精一杯の主張だろうと感じたから。
「・・・・・・悪かった」
「違う、俺が・・・・・・」
蒸し返す嫌悪に眉を潜め、それ以上無駄なおしゃべりをさせない為に唇を塞いだ上で脇の曲線をするりと撫でる。
中身の無さそうな軽い頭が僅かに傾きにへっと笑顔を見せて来た。
目の下に浮いた青痣が、白い肌に惨かった。・・・・・・流石に罪悪を禁じ得ず
「ウゼェ。言うな」・・・・・・やっとの思いで、そう告げた。
素っ裸のまま組んだ足に軽く手を乗せ、サンジが顔を覗き込んで来る。
期待に輝く瞳は眩しく、股間に三度目の兆しが起きて・・・・・・思わず「ちっ」と舌打ちし、ゾロは視線を泳がせた。
無造作に立ち上がると反動で、細い体が転がった。
似合いすぎる白いシャツは胸元も露わに寝乱れて、短いスカートから覗く足は今まで抱いたどの女よりも細く、長く・・・・・・しなやかだった。
半分落とした足と立てた足、中心に存在する男である事の証明は欲情を隠そうともせず屹立を示し、悩ましい液を滴らせつつ・・・・・・ねっとりとした表情で、淫らな誘いをかけて来る。
・・・・・・グロスに光る唇が、見下ろす自分に向かって開く。
表情が妖艶に崩れ、「もう一回」と声を出さずに懇願した。
「・・・・・・壊れたって知らねェぞ?」
「それでもいい。・・・・・・ゾロにだったら壊されてェ」
留め具を失ったシャツを引いて、むしゃぶり付くようなキスをした。
「ひあッ、あ、ィ、うああっ!」
背後から抱きすくめて内部の粘膜ををかき回し、それでも足りずに腰を浮かせ・・・・・・奥へ、更に奥へと突き立てる。
次第に上へとずり上がる腰を、強く掴んで引き戻せば・・・・・・サンジはぐぐっと顎を上げ、内部の自分を感じている。
肩胛骨までたくし上げたシャツも腰で引っ掛かっているだけのスカートも本来の役目を忘れていたが、全裸よりも悩ましい体のラインを浮き立たせ・・・・・・視覚の欲情を誘った。
ずくん、と込み上げて来る快感に怯み淫唾を飲む。
包み込んで放さない粘膜は暖かい包容でゾロのペニスを苛み始め蕩けていながらも緩む事を頑なに拒む、後孔に至高の快感を得る。
「んんっ・・・・・・」
堪らず喉から呻きが漏れた。
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