■ 第13話 ■ GOLD FISH/きぬこさん


【3】

 

サンジは三日、帰って来なかった。

 

最初の夜こそ落ち着いていたゾロだったが、翌日からは街に出てサンジを探した。

あのアホは目立つから、夜でも正真正銘本物の金髪がきっとどこかでふらふらしてる。

そう思って、繁華街をふらついてみたりもした。

 

けれどサンジはどこにもいなかった。

 

「なぁに、サンジ君いなくなっちゃったの?」

馴染みの店でナミが笑った。

「あんたには勿体ない子だったもんね。家に帰ったほうがいいのよ。」

ムカついたが、ナミの言う事は正しい。

ただ、サンジに戻る家があるのかどうかさえ、ゾロは知らなかった。

 

 

「あれ、サンジは?」

あやしい芸術家たちが集まる深夜のカフェで、ウソップが言った。

「しょうがねえな。見かけたら伝えとくよ。お前んとこに戻れってよ。」

そんな事言ってねえだろ、とはゾロは言わなかった。

 

 

「久しぶりね、ゾロ。」

深夜でも人通りの絶えない街で、ガードレールに座っていたらすぐそばにデカイ高級車が止まって、左ハンドルの運転席からロビンが顔を出した。

ちらりと視線をくれて、すぐに向こうの通りに戻す。

「誰か人をお探し?」

答えないゾロを気にしたふうもなく、ロビンは微笑む。

「珍しいわね。あなたがそんなふうなんて。」

深夜だというのに美しく艶やかな唇が、意外そうに楽しそうに笑った。

「たった3回寝ただけの女とは、口もきけない?」

3回も同じ女と寝たのはお前だけだとは、ゾロは口には出さなかった。

たぶんもう、お互いにどうでもいい事だ。

ロビンは軽く指先を振ると、緩やかに車を発進させて行った。

 

 

「何やってんだぁ、ゾロ。」

通りのむこうから大声で叫ぶ男がいる。

小柄で黒髪。

「ゾロー!?」

ルフィだ。

返事をしないでいると、あかんべーをして行ってしまった。

 

 

これだけ人が溢れているのに、探しているたった一人の奴がいない。

あの女装少年だけが、見つからない。

とうに真夜中を過ぎても、街はまだ眠らない。

 

 

 

夜明け間近になって、ゾロはアパートに戻ってきた。

 

馬鹿馬鹿しい気持ちと、今日も見つからなかったあの馬鹿野郎という気持ちと、あと何故か胸の奥がざわざわするような何かを抱えたまま、部屋の鍵を取り出す。

 

アパートの下に車が止まった音がした。

こんな時間に、と何気なく見ると。

サンジがいた。

街灯の下、止まった車から、あの日見た女子高生姿のままのサンジが下りてきたのだ。

 

「・・!」

カッとなって何か怒鳴ってしまいそうになる。

サンジはゾロに背を向けて、車の中の男に何か喋っているらしい。

何がおかしいのか、時折肩を小さく揺らして笑っている。

『あの野郎・・・!』

どれだけ人が探したと思ってやがる!

車の中の男が運転席からひょいと顔を出す。

サンジは笑って体をひこうとしたが、男の手が一瞬早く。

男がサンジにキスをした。

 

「てめえ!」

知らぬうちにゾロは怒鳴っていた。

弾かれたようにサンジがこちらに顔を向ける。

そして、信じられないものを見るような表情でゾロを見た。

 

頭に血が上ったゾロは、アパートの錆びた外階段を下りる間も惜しんで、手すりを掴むと思いきり飛び越えた。

二階から下まで危なげなく飛び降りると、道を越えて車のところまで走った。

サンジのところまで。

 

ぶん殴ってやる。

誰を。

あの男をか?

それとも、たぶん本当に援助交際だか売春だかをやらかしてきやがったサンジをか?

「両方だ!」

ゾロがそう怒鳴る。

 

驚いた顔のままだったサンジだが、ゾロが走ってくるのを見た瞬間。

 

それはそれは嬉しそうに、笑ったのだ。

しかも、

「ゾロ!俺、勃たなかった!勃起しなかったんだ!」

と、嬉しそうに叫びつつ。

 

 

「・・・んだと?」

まだ額に青筋を浮かせたまま、ゾロは足を止めた。

サンジの立っているすぐそばに。

「なあゾロ。俺さ、やっぱダメだったんだ。」

「だからてめえは何言ってやがんだよ。それにどこ行ってやがった!三日も!!」

しゃべっているうちに怒りがこみ上げてきて、ゾロが怒鳴る。

「なあ、何だかお取り込み中のようだけどさ、時間考えて怒鳴るのはやめたほうがいいよ。内容が内容だから、警察呼ばれちゃうし。」

のんびりとした声が、そう言った。

血走った目でゾロが声の主を睨みつける。

主は、車の運転席にいる男だった。

「あ、申し遅れましたが、俺の名前はポートガス・D・エース。しがない御曹司です。どうぞよろしく。」

ふざけてんのか本気なのかよくわからない自己紹介をして、男はにかっと笑った。

 

「ゾロが言ったんじゃねえか。『思い込みだ』って。『愛情に飢えてんだ』って。だから俺、試してみようと・・・」

「俺がこの子、買いました。なんだかわーわー泣いてるとこ、道で拾ってね。」

「で、エースんちってすげぇんだ。でっけぇお屋敷でよ。ベッドなんかクソでかくて。」

「サンジ連れ込んで、いざ事に及ぼうとしたら」

「エース、最初っから俺が男だって知ってたって言うんだぜ。変態め。」

「見る人が見ればわかるんだよ。こんなかわいい女の子がいるもんか。」

「それってなんか日本語、ヘンじゃねえ?」

「そうか?俺、普段はアメリカに住んでるから。」

「関係ねえし。」

二人なんだか仲良く喋っている。

ゾロを無視して。

 

「あ、そんでな、ゾロ。」

いけね、と思い出したようにゾロのほうを見る。

「俺さ、さっきも言ったけどエース相手じゃ、勃たなかったんだ。」

さも重要な事を告げるように、サンジは頷きながらそう言った。

「そりゃ、てめぇ、男相手に・・・」

「男相手でも俺は勃つよ。サンジならね。」

「エースはちと黙っててくんねぇ?ややこしくなるからさ。」

「つれないねぇ。」

そう言うわりに笑っているエース。

 

「馬鹿じゃねえのか、てめえら。勃つの勃たねえのって・・・」

吐き捨てるようなゾロの口調に、サンジが静かに口を開いた。

「ゾロ、言ったよな。『お前のそれは思い込みだ』って。でもさ、俺エース相手じゃ勃たなくてできなかったんだ。何回も試してみたけど、ダメだった。」

でもよ、とゾロの目をまっすぐに見ながらサンジは言った。

 

「俺さ、ゾロの事考えながらマスかけるんだ。それも、物凄く気持ちよく。」

 

ゾロが絶句する。

サンジは構わずににこりと笑った。

 

「ゾロは?俺じゃ勃たねぇ?」

「たっ、勃つか馬鹿野郎!男相手に!!」

 

 

「やってみりゃいいじゃん。」

ハンドルに肘をつきながら、エースが事も無げにそう言った。

2005.5.30

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「Eld Vind」/橙ポコさん


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