■ 第二話 ■ 発情☆ア・ラ・モード/玉撫子薫


 

「ねぇ、これもつけてみましょうよ。」

そう言って、女が化粧ポーチからマスカラを出してきた。

 

その小さいポーチは四次元ポケットか、と思うほど、後から後から化粧品が出てくるのを、サンジは感心して眺めた。

 

女は今、サンジに念入りな化粧を施しているところだ。

 

ゾロの部屋にやってくる女達は、初めてサンジを見ると、大概が敵意をむき出しにしてくる。

けれど、サンジが実は女装している男で、しかもゾロが何の興味も示していないと知ると、一様に、手のひらを返したようにサンジに馴れ馴れしくなるのだ。

そうして、ゾロとサンジと3人でSEXしたがったり、ゾロの目を盗んでサンジとSEXしたがったり、女装したサンジを犯したがったり、サンジの目の前でゾロとSEXしたがったりする。

 

その中に、こうしてサンジを飾り立てるのが好きな女もいた。

 

彼女達は、ゾロとSEXの傍ら、サンジの金髪をはしゃぎながら梳き、サンジの肌に化粧品を塗りたくる。

ファンデーションの塗り方も、グロスの引き方も、全部彼女達が教えてくれた。

 

お肌つるつるね、ファンデ塗るのもったいない。

グロスで十分。

え? グロスは持ってるの?  自分で買ったの?

あら可愛い。新色ね。ピンク色。

似合うわ。可愛い。

じゃあアイシャドーの色も合わせようか。

お肌の色が白いから、明るい色にしようね。

 

女は慣れた手付きでサンジの肌の上に色を乗せていく。

 

サンジはひとえで、少しきつい目をしている。

それが、女のメイクで、柔らかな目元に変わっていくのを、サンジは鏡越しに見ていた。

 

彼女たちにとって、サンジは等身大の着せ替え人形なのだろう。

ひととおりサンジの顔を弄り終わると、女は今度は、マニキュアを取り出した。

本当に、いったいいつ空になるのだ、そのポーチは。

「どんな色が好き?」

赤とピンクと水色と白っぽい色とオレンジっぽいのの中から、サンジが選んだのはやっぱりピンク色だった。

グロスとシャドーがピンク色だったから、なんとなく同じような方がいいと思ったのだ。

女はくすくす笑いながら、手の爪と足の爪に、ピンク色のマニキュアを丁寧に塗ってくれた。

 

乾くまでそのまま待てと言われたので、サンジが両手を宙に浮かせたまま、ぼうっとしていると、どこかへ行っていたゾロが帰ってきた。

 

サンジの傍らにいた女が、すぐさま立ち上がり、ゾロの体に絡みつく。

キスをねだるように唇を尖らす女に目をやることもせず、ゾロは部屋に入ってくる。

ゾロはいつでもこんな時、やけに冷淡だ。

男には興味がないから、という理由で、ゾロはサンジを抱かないが、男どころか、本当は女も好きじゃないのかな、と思ってしまうくらい。

 

そういえばサンジは、何かに夢中になるゾロ、なんて見たことがない。

サンジを、部屋から追い出すこともしないかわりに、抱こうとはしない。

数多いる女たちも、やることはやるくせに、甘い言葉ひとつ囁いたことがない。

誰か一人にも絞らない。女が去っていっても追おうともしない。

 

男にも女にも、誰にも何にも関心がないのかもしれない。

自分自身にも。

 

ゾロの腕にしなだれかかっていた女が、「ねえねえ、見てよ。」と、サンジを指差した。

「ねぇ、かわいくなったでしょう?」

 

ゾロが胡乱げにサンジを見る。

 

その目が、一瞬見開いたので、サンジは「えっ?」と思った。

だがすぐにゾロは元の無表情に戻り、

「いいんじゃねぇの?」

と、興味なさげに言った。

 

サンジが軽く落胆を感じていると、ゾロが、「やんぞ。」と言って女を寝室に引っ張り込んだ。

いくらなんでもムードもへったくれもない言いように、女がうろたえながらも憤るのを、ゾロは構わずベッドの上に放り投げた。

 

いつものようにサンジは隣の部屋に逃れる。

逃れても声は丸聞こえだ。

 

聞こえてくる女の声は、喘ぎというより悲鳴に近い。

時々、ゾロはこんな風に激しく乱暴に女を抱く。

まるで強姦でもしているかのように。

 

この前ゾロにそんなふうに抱かれた女は、失神してしまった。

いつもの“美人局”に失敗した日だったから、サンジは良く覚えている。

 

財布をひったくって逃げるつもりが、逆に押さえ込まれて、パンツに手を突っ込まれて、男だとバレた。

何とか蹴り倒して逃げたけれど、財布は盗り損ねた。

「なんでバレた。」とゾロに聞かれたから、サンジは正直に、「ちんぽこ触られた」と答えた。

サンジは見知らぬ男に股間を弄られてショックを受けていたのに、ゾロは「間抜け」と言って笑った。

「次は失敗しない」と涙をこらえて言ったサンジに、ゾロは「今日はもういい。飽きた。」と言って、二人で帰った。

帰ったら、珍しくゾロの方から女を呼んで、壊すつもりみたいに荒々しく組み伏せていた。

 

それを隣の部屋で聞きながら、サンジは、見も知らぬ男に触られた性器を自分で慰めた。

ゾロがここを触ってくれたらいいのに、と思いながら。

2005.5.21

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「GOLD FISH」/きぬこさん


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