■ 第一話 ■ とねりこ通信/みうさん
「新色だってよ。似合うんじゃねえか。」
そう言って、ゾロはレシートが入ったままのナイロン袋をぽんと投げて寄越した。
今年の春もピンクが主流らしい。
壁に立てかけただけの鏡の前に袋を置いて、サンジは食事の支度を始めた。
遊び疲れて行くところもなくなって、コンビニの前で膝を抱えて座っていたのは先月のことだ。
通りかかったチンピラみたいな男が声を掛けて来た。
家出娘だと思ったらしい。
さっさとやって知り合いの店に売りつけようと思ったらしいが、男だと知れたらその気がなくなったと言って、それでも追い出したりもせず一緒に暮らすようになった。
ゾロの部屋には女の忘れ物が山ほどある。
それは女同士のマーキングみたいなものらしいけど、その中の新品の下着一揃いなんかを出してきて、それをサンジに押し当てて笑った。
ぱっと見、女みたいにも見えるから、ちょっと一緒に稼いでみろよ。
そう誘われて、それから二人して夜の街へと繰り出している。
サンジは紺のミニスカートにグレーのカーディガンを引っ掛けて、念入りに化粧までして街を歩く。
声を掛けて来た男の隙を見てカバンを引っ手繰り、追いかけてくる男にゾロが声をかけて引き止める。
その隙にサンジは遠くへと逃げおおせた。
一種の美人局かもしれない。
別にボコって金を巻き上げてもいいんじゃないかとも思うけど、ゾロは平和主義者なんだそうだ。
狭い部屋で二人で寝てても、ゾロは全然手出ししてこない。
男に興味はないんだと、そう笑って押しかけてくる女を招き入れる。
「坊やも一緒に楽しみましょうよ。」
アルコールの匂いをぷんぷんさせて、艶やかに笑うレディに愛想だけ返して、サンジは奥に引っ込んだ。
隣の部屋からは、ひっきりなしにアンアンギシギシ音が鳴る。
鏡の前で、新品のグロスをひいて唇をむにっと合わせた。
やっぱりオレンジよりピンクの方がサンジには似合う。
前の女の忘れ物はぽんとゴミ箱に投げ捨てて、サンジは大切にグロスを仕舞った。
なんせぴちぴちの16歳だ。
色も白いし金髪は本物だし、そんじょそこらの女には負けないのに。
早くゾロも、俺の魅力に気付けばいいのに。
もう一度唇を合わせて尖らせて見せて、鏡の中の美少女は寂しそうに笑った。
2005.5.20
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