* Pure Blooded *
−10−
サンジは、呆然とゾロを見つめていた。
ゾロが自分を好きだと言う。
ずーっと前から知っていたと言う。
忘れられなかったと言う。
自分をつがいにしたいと言う。
狼でなくとも、メスでなくとも、構わないと言う。
サンジでなければ、一生誰ともつがわないと言う。
一生涯を、唯一の相手と生きる狼が。
ゾロが。
その金色の瞳で。
ぶわっと、一気に頭に血がのぼった。
のぼせて、ふらふらしそうだ。
愛される事には慣れてる。
サンジは、いつだって、あふれんばかりの愛情を当たり前のように注がれて生きてきた。
だけどこんなにも、こんなにも真摯に唯一を望まれたのは、初めてだ。
どうしよう。
どうしよう、嬉しい。
嬉しくて、だけど少し怖い。
怖いけど、どうしようもなく、ゾロが好きだ。
ゾロが好きだ。
離れたくない。
傍にいたい。
ゾロが唯一を望んでくれるのなら、その唯一になりたい。
「…ゾロ……。」
目の前の黒い狼に、夢中で手を伸ばした。
ゾロの体が、一瞬、強張るのを構わず引き寄せて、抱きついた。
「お、れも、ゾロとつがいになりてェ…。」
しゃくりあげそうな呼吸の下から何とか言葉を繰り出した。
ゾロが耳元で息を呑むのが聞こえた。
すぐに物凄い力で抱き竦められた。
「…本気か?」
そう囁く声は、獰猛な唸り声とほとんど変わらない。
サンジは必死で頷いた。
「俺だけ、って事だぞ? 他のメスにサカりやがったら喰い殺すぞ?」
刹那、ゾロの鋭い牙に噛み千切られる自分を想像して、ぞくん、と全身が震えた。
恐怖ではなく、陶酔で。
嬉しくなって思わずうっとりした目でゾロを見上げてしまったら、ゾロが小さく舌打ちした。
「喰い殺すって言ってんのに何でそんな顔してんだ。誘ってんのか?」
「え…。」
ゾロがまた舌打ちする。
「お前がタチ悪いっての忘れてたぜ…。」
ぐい、っと体を抱えなおされた。
顔を上に向けさせられた、と思ったら、がぶりと口に噛み付かれた。
無防備な口腔に、ゾロの舌が入り込んできて、めちゃくちゃに舐め回される。
「ん、ふ…っ…!」
いつ息をすればいいのかわからなくて、苦しくなってサンジがもがくと、それすら封じられて、尚も深く舌を入れられた。
「っ、や、ゾ…っ、息…っ!」
「うるせぇ、もう待たねェ。てめェのその無自覚に振り回されんのはもうやめだ。」
ゾロの舌が充分に口中を蹂躙すると、顔ごとべろりと舐められ、耳に噛り付かれた。
ちくん、と痛みが走る。
もう昨日すっかり覚えてしまった、甘い痛みが。
「ぁン…ッ!」
サンジの体が跳ねた。
「他の奴に、こんなことした事なんかねぇぞ…ッ!」
耳元で叫ばれて、サンジは息が止まりそうになる。
「うん…、ごめん、ゾロ…。」
信じなくて、ごめん。
サンジは、ゾロの首に手を回して、きゅうっと力を込めた。
そうしたら、もっと強い力でぎゅうっと抱きしめられた。
またゾロの舌が口の中に入ってくる。
そうされるたび、心臓がどこどことすごい音を立てる。
ゾロが好きだ、ゾロが好きだ、って鳴ってるんだと思った。
自分も「好き」を伝えたくて、サンジは必死で、自分の舌もゾロの口の中に入れた。
はふはふと必死で息継ぎしながら、ゾロの口の中をいっぱい舐めた。
舐めてたら何だか下半身がうずうずしてきて、サンジは、ゾロを舐めながらもぞもぞとゾロの足に自分の股を擦り付けた。
すぐにゾロが気がついて、くっくっと笑う。
「俺の足にサカるつもりか?」
「違…っ…。」
かああっと顔が赤くなる。
「て…めェは、平気、なのかよっ…!」
─────余裕がある顔しやがってちくしょう。
「平気なわけねェだろうが。ほれ。」
ぐり、と下腹に硬いものを押し付けられた。
「お前と交尾したくてこんなんなってんだぜ…?」
低く掠れた、ひどく扇情的な声で囁かれた。
「こ、うび、」
その言葉に含まれる淫蕩な響きに、サンジの背筋が続々と総毛立つ。
「おれ、ゾロ、に…、種…付け、される、のか? お、んなのこ、みたいに…?」
くらくらして、言葉がたどたどしくなった。
自分で言った言葉に、自分の下半身が反応した。
うず、とまた、ゾロの足に自分のそこを擦り付けてしまう。
「していいのか?」
意地の悪い笑い方で、ゾロが言った。
そんな顔にもぞくぞくしてしまう。
まるで本当に、自分が発情したメスにでもなってしまったかのような気がした。
サンジの頭の後ろにあったゾロの手が、ゆっくりと背筋を下りて、しっぽの付け根を触る。
「んっ……、」
ズボン越しに、ゾロの手がサンジの後孔を撫でて、
「ここを、」
と、そこをつついて、
「俺の子種でいっぱいにしていいのか…?」
いやらしいことを囁かれた。
それだけでもう、サンジの性器は、ずくん、と弾けてしまいそうになった。
「なァ、サンジ…?」
ゾロの声で囁かれる自分の名前は、なんて特別な響きを持ってるんだろう。
「こんな小せェ孔ン中、俺の子種でいっぱいにしちまったら、お前でも孕んじまうかもしんないなァ…?」
ゾロがそう囁いたとたん、
「ア…ッ!!」
サンジがふるふるっと全身を痙攣させた。
「あ…、あ…っ…、」
かくかくと腰が空打ちする。
「…サンジ…?」
「見、るな…ッ…!!」
ゾロから顔も体も隠すかのように、サンジが縮こまろうとする。
その顔が真っ赤になっているのを見て、ゾロは、逃げを打つサンジの体を力ずくで押さえ込んだ。
サンジの股間をゾロの手が鷲掴みにする。
「ひゥッ…!」
くちゅ…とズボン越しにぬめる音がした。
「お前…、エロいこと言われただけで出ちまったのか…?」
図星だったのだろう、サンジが猛烈に手足をばたつかせて逃げようとする。
その動きも封じて、ゾロはサンジのズボンに手をかけた。
「やだっ! やめろバカ! やめろってば!!」
「何でだよ。見せろよ。」
「いーやーだーー!!」
子供の癇癪のように暴れるサンジをものともせずに、ゾロが性急にサンジのズボンを脱がせる。
現れた真っ白な尻に、ゾロは目を奪われた。
サンジはしっぽを丸めて、何とかして股間を隠そうとしている。
有無を言わせず、ゾロはサンジの股に手を突っ込んだ。
びくっとサンジの体が硬直する。
ゾロの手のひらに、ぬるりと粘液が付く。
吐精の痕跡。
ゾロの顔が思わずほころぶ。
「なァ、サンジ…。」
「な、んだよっ!」
サンジの顔は真っ赤になって半泣きだ。
「お前、これ、初めて出したんだよな…?」
ゾロが言ったとたん、ひゅっとサンジが息を呑んだ。
赤い顔が更に赤くなる。
答えを聞かずともわかるその反応に、ゾロが、くっくっと笑い出した。
「そうか…俺が初めてか。」
満足そうに笑って、ゾロは、自分の手についたサンジの精液をべろりと舐めた。
ひくん、とサンジが跳ねる。
「な…んだよっ…! てめェは出したことあんのかよっ!!」
悔し紛れにサンジは叫んだ。
ゾロだって、今だ誰ともつがったことがないのなら、射精経験はないはずなのだ。
だが、「俺も出したことない」とすぐに言うかと思ったゾロは、一瞬、なんとも言えない微妙な顔をした。
「え……。」
愕然とサンジが目を見開いた。
「ま、さか…、てめ、…出したこと、あんのか…?」
すると、ゾロはなんともバツが悪そうな顔でさんざん躊躇ってから、
「あー、…………ルフィに搾り取られた事ならある。」
と答えた。
サンジの目が更に大きく見開く。
かっと赤くなったかと思ったら、次の瞬間にはさーっと青ざめて、まるで酸欠を起こした金魚みたいにパクパクと何度も口を開く。
「る…る…ルフィ…が…なん、で…」
サンジの認識では、飼い犬が飼い主にサカるのはイケナイコトだ。
サンジもうっかりナミさんの足に腰を擦り付けてしまったことがあるが、優しくきっぱりと窘められた。
なのにルフィはゾロから子種を搾り取ったと言う。
ゾロはルフィにサカったのだろうか。
まさかルフィは人間なのにゾロとつがいになってしまったのだろうか。
それならサンジはゾロを諦めないといけない。
ルフィはリーダーだ。
リーダーのつがいに手を出す事は、狼の社会では絶対冒してはならない禁忌だ。
「ルフィ、は…、ゾロ、と…?」
呆然と吐かれた言葉に、今度はゾロが目をむく。
「バカ! 違ェ!!」
サンジの言わんとするところをゾロはすぐに悟って、慌てて怒鳴った。
「ルフィは俺以外にも色んな動物から子種搾ってる! よくはわかんねェがそれがルフィの仕事かなんかなんだろう。俺とルフィがつがったわけじゃねェ!」
「ほ、ほん、とか…?」
「当たり前だ。疑うなって言ったろうが。」
ゾロが憮然として言う。
「じゃ、おれ、俺…、ゾロとつがってもいいんだよな…?」
「さっきっからそう言ってんだろうが。」
はあ、と困ったようなため息をついて、ゾロは、サンジに口付けてきた。
「俺がつがう相手はお前だけだ。」
くちゅり、とサンジの性器がゾロの手にやんわりと掴まれた。
サンジの体が、ひくん、と震える。
体の全てをゾロに委ねながら、サンジも叫んだ。
「だったら…、もう、絶対、る、ルフィに…子種やったらだめだっ…!」
叫びながら、子供みたいなやきもちだな、とサンジは自分で思った。
だめだと言ったって、ルフィがゾロの子種を欲しいのなら、ゾロにもサンジにもそれを拒む事はできない。
わかっていても、言わずにはいられなかった。
「ああ…二度とやらねぇ。これからは全部お前の中に出す。」
にぃっと欲望にまみれた目が笑う。
ひどく扇情的で、いやらしい笑い方だった。
それだけでサンジの全身はぞくぞくと震えてしまう。
「俺の子種は全部お前にやる。だからお前が出した子種は全部俺のもんだ。」