GRAYxCLAUDIA III


くっくっく、と、グレイは、さもおかしそうに笑っている。

クローディアの中で、グレイのその笑みが、あの夜のそれとオーバーラップする。

息を呑み、顔を強張らせるクローディア。

グレイが、ゆらりと立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。

クローディアは、思わず後ずさった。

とん、とクローディアの背が後ろの壁にぶつかった、かと思うと、どんっ!と、グレイの大きな手が、クローディアの顔のすぐ横を通って壁についた。

びくっと肩を竦めるクローディア。

「辱めた相手を責めるより先に、まず己が謝る…か。」

辱めた相手、とはっきり口に出され、クローディアの顔色が変わる。

「そういう女だったな…、お前は…。」

グレイの口元には笑みが浮かんでいる。

けれど、目は笑ってはいない。

まるで見下すかのような、冷たい瞳。

「………………何故、俺を責めない?」

「えっ………?」

「何故、責めて、なじらない? クローディア。それともあの夜の事は忘れたか? それともうに許したつもりにでもなっているのか?」

「やめ………グレイ………」

壁とグレイに挟まれて、クローディアは逃げることもかなわない。

「何故、またこんな時間にのこのこと俺の部屋へ来た? もう俺が何もしないとでも思ったか? まさか、俺に抱かれたくて来たんじゃないだろうな?」

その一言で、クローディアは恐怖に凍りついた。

反射的に顔を上げた。

間近に、グレイの顔があった。

先刻までの冷たい瞳はなかった。

燃えるような、ぎらぎらとした強い目の光。

クローディアは、それを、憎悪…だと思った。

それほどに鋭い、射抜くような目だった。

クローディアの瞳に怯えが走る。

グレイの手が、クローディアの顎を掴む。

冷たい、口付け。

グレイの舌が、クローディアの唇を割り、吸い返す事も知らない舌を絡め、吸う。

「う……………」

クローディアが、苦しさにうめく。

口付けをするのならグレイと…と、思っていた。

だけどそれは、こんなにも無残なものではなかったはずだった。

夢見ていた口付けは、もっとずっと、甘いものだったのに…。

クローディアの瞳から、涙がひとしずく零れ落ちた。

それが、グレイの逆鱗に触れた。

いや、嗜虐を煽ったというべきか。

グレイの手がクローディアの服の中に滑り込み、その乳房を掴む。

「いやあっ!」

クローディアは逃れようとするが、グレイの体が密着して、壁との間に挟んでいるため、動けない。

必死にもがくと、グレイの下半身の硬い感触が、クローディアの腹に触った。

びくっとクローディアが、怯えた目を向ける。

クローディアの脳裏に、あの激痛と恐怖が蘇る。

「いっ…いや……………!」

必死で抗う、クローディア。

クローディアの抵抗を意にも介さず、グレイは、動きを封じ、クローディアの裾を割る。

その足を担ぎ上げる。

クローディアの体が恐怖に強張ったその瞬間、グレイがその禍々しいほどに怒張したそれをクローディアに捻じ込んだ。

「いやああああぁぁあああぁあッッッッッ!!!」

クローディアを貫く激痛。

立ったままの不自然な姿勢で、ムリヤリ犯されるクローディア。

その足は限界まで広げられ、狭い秘裂に、グレイの巨大な凶器が、深々と食い込んでいる。

グレイが残酷な活塞を開始する。

「ひっ…! ああっ…! はうっ…!」

クローディアがのけぞり、何度も何度も壁に頭がぶつかる。

最初の時と同じく、濡れてもいない狭すぎる秘裂は、到底グレイに快感をもたらすものではなかったが、グレイは、苦痛に喘ぐクローディアに、激しく欲情していた。

こんなにも犯し汚されているのに、クローディアの気品は、少しも損なわれない。

そのくせ、泣きながら腰をくねらせて逃れようとするその様は、恐ろしく扇情的だった。

普段のあの、凛とした透明感のある聖女然とした様子からは想像もつかないほど、艶かしい姿。

硬質な白磁かと思わせる肌は、触れてみると驚くほど柔らかく、なめらかで、しっとりと吸い付いてくる。

優しく言葉を紡ぐ声は、淫らにかすれ、うわずり、喘いでいる。

片足はグレイに担ぎ上げられ、体を支えるもう片足は、耐え切れずに痙攣しだしている。

「グ…レ…イ… ど…してこんな… 」

どうしてこんな事するの? という言葉は、激しく突き入れられ、悲鳴に溶けた。

 

 

翌日。

クローディアとグレイは、仲間達と別れ、迷いの森への帰路についた。

2度もあんな事をされておきながら、何故クローディアが同行を許したのか、グレイには分からなかった。分かろうともしなかった。

旅立つ際、シフとバーバラは、泣きはらしたようなクローディアの様子が気にはなったが、その気持ちを押し込み、笑顔で二人を送りだした。

 

* * *

 

迷いの森。

人間がこの森に入ろうとしても、いつのまにか外へ出てしまうという不思議な森。

しばらくぶりで森へ帰ってきたクローディアは、一歩足を踏み入れた瞬間、慄然とした。

森の空気が、異様に緊迫していた。

ただならぬ雰囲気に不安を感じ、クローディアはオウルの元へ急いだ。

木々の間を走り抜け、クローディアがオウルと暮らしていた東屋に駆け込む。

「オウル!」

息せき切った駆け込んだクローディアが見たものは、死の床についているオウルの姿だった。

「オ…ウ…ル…!」

クローディアの脳天から血の気が引く。

その体が後ろへよろけるのを、グレイが慌てて抱きとめる。

ベッドに横たわっていたオウルが、ゆっくりと、目をあけた。

その傍らには、狼のシルベンと熊のブラウが、心配そうに付き従っている。

「やっと帰ってきおったか、クローディア。」

「オウル…」

「わしはもう死ぬ。お前の役に立つかどうかは知らんが、最後に一つ昔話をしてやろう…。」

老女のその言葉に、グレイは内心、ぎくりとした。

この死にゆく老女が、“あの話”をしようとしている事は明白だった。

「ある国に、一人の赤ん坊が生まれた…。その子は国の後継ぎじゃった。それ故に命を狙われた………」

よせ…。やめろ…。それ以上話すな…!

グレイは、ともすれば、すぐさま老女に駆け寄ってその胸に大剣を突き立てて口を塞ぎたい衝動と戦っていた。

こんな形で、クローディアが知る事になるなんて…。

22年前に連れ去られた、一人の赤ん坊…。

名を、クローディアといった──────────…。

 

「私が…帝国の皇女………?」

バファル帝国の皇帝には拝謁した事があった。

バファル帝国の首都メルビルの下水道で、泥棒を捕まえた時、フェル6世皇帝陛下に直々に声をかけていただいていた。

優しそうな、けれど寂しそうな、どこか疲れているような、そんな印象の方だった。

あの方が……私の…?

ああ、そういえば…。御前を辞すとき、不意に陛下に呼び止められた…。

「そなた、名はなんという?」  と…。

「…クローディアでございます。陛下」 と答えると、陛下の目がすうっと細められたのだ。どこか遠い、切なげな目に…。

「…よい名だ…」と陛下はつぶやかれた…。

では…陛下は…ご存知でいらした…? 私が…娘だという事を…?

呆然とするクローディア。

 

長い長い告白が終わると、オウルは、ふう…と息を吐いた。

「しゃべりすぎたわ…」

そうして瞑目すると、老女の瞼は二度と再び開かれる事はなかった。

「オ…ウル…?」

クローディアがふらふらとその傍へ近寄る。

「オウル…? オウル…… オ…。」

見開かれた瞳に、見る間に涙があふれる。

「いや……オウル…………いやあ…………ッ…………!」

崩れるように床に膝を付き、遺体に取りすがるクローディア。

グレイは、ただじっとそれを見ている事しか出来なかった。

 

小一時間もそうしていただろうか。

クローディアは既に泣き止んでいたが、放心したように、遺体の傍らにへたり込んでいる。

ぼんやりとオウルの遺体を眺めたまま、時折、何事か小さく口の中でつぶやいている。

そんなクローディアの様子を、戸口に身を預けて立ったまま、ずっと見つめていたグレイだったが、さすがに少々心配になり、声を掛けようか、と迷い始めた時、クローディアがぽつりと、

「ひとりに……なっちゃった……」

と、つぶやいた。

俺がいるだろう、と喉元まで出かかったが、グレイはそれを噛み殺した。

力尽くで犯したくせに、そんな事を言う権利がどこにあるというのだ。

それ以上、打ちひしがれたクローディアを見ているのが辛くなって、グレイは、そっと外へ出た。

 

外はもう、夜の帳が落ちかけていた。

空には、ぎくりとするほど大きな、銀色の月がぽっかりと浮かんでいる。

なぜか月が自分をじっと見つめているような気がして、グレイは思わず月から目を背けた。

ブルーの薄闇の中、森は、異様なほどしんとしていた。

何の生き物の気配も感じられない。

皆、オウルの死を悼んでいるのだろうか…。

グレイは、東屋の横の大きな樫の木まで歩いてくると、その幹に背を預け、ゆっくりと空を振り仰ぎ、深くため息をついて、目を閉じた。

クローディアは、知ってしまった…。

これから、クローディアはどうするだろう…。

バファルへ…?

いや、勿論それが一番いいのだろう…。

旅を…終わりにして…。

旅が…終わる…?

それは、とりもなおさず、二人の別れを意味していた。

バファルへ行けば…ジャンが出迎えてくれるだろう…。

クローディアをジャンに渡して…そして…いくらかの金をもらって…それで、今までの日々は終わりを告げるのだ。

グレイの胸中に、恐ろしいほどの焦燥がつき上げる。

クローディアと…別れる…?

 

その時だった。

 

「シルベン! ブラウ!!」

クローディアの悲鳴のような声。

急いで行ってみると、いつ外へ出たのか、クローディアが、ふらふらと闇の中へ彷徨さまよい出ていた。

「シルベン! どこなの? ブラウ!」

2匹の名を呼びながら、狂ったように辺りを探し回るクローディア。

「クローディア!」

駆け寄り、その体を抱きとめる。

「どうしたんだ?」

「シルベンとブラウが…いないの…。どこにも…。」

幼い時から常に一緒にいた2匹…。クローディアが辛いときには、必ず傍にいてくれたのに…。

今、2匹の姿は何処にも見えなかった。

気配すら感じ取ることが出来ない。

「いや… シルベン…ブラウ…!」

グレイの腕を振り払って尚も2匹の姿を求めようとするクローディアを、グレイはたまらず抱きしめた。

「やめろクローディア! …俺が…俺が傍にいるから…!」

けれど、腕の中のクローディアはグレイを見ようともしない。

クローディアを、絶望と、孤独が襲っていた。

自分の世界がことごとく崩されていく。

まるで、何もかもが自分に生きていくなと言っているかのように。

「クローディア!」

「シルベン… ブラウ…!」

弱々しい力でグレイを押しのけ、黒い森の中へ手を伸ばすクローディア。

その瞳から、ぽろぽろと涙が零れる。

グレイを映さない、ヘイゼルの瞳…。

 

ちっ、とグレイが舌打ちした。

ぐいっと、クローディアの顎を掴んで、強引に自分に向かせる。

「お前のこの頭の中から、何もかも追い出してやる。」

押し殺した、不気味なほど静かな声。

グレイの瞳に、クローディアが今まで見た事のない、暗い光が宿っていた。

クローディアが恐怖に竦む。

グレイが、クローディアの腕を後ろ手に捻り上げ、あの大きな樫の木まで引きずっていく。

「や…! いやぁっ!」

そしてクローディアの腕を捻り上げたまま、その体を乱暴にその木に押し付けた。

「痛ッ…!」

動きを封じ、クローディアの服をめくりあげる。

「グレイ…っ… やめて…!」

必死で抗う、クローディア。

足元が滑り、落ち葉の上に二人折り重なるように倒れ込む。

「今はいや…! ここではいやぁ…ッ…!」

オウルの眠る、迷いの森。クローディアの聖域。ここでこんな風に汚されるのは、耐えられなかった。ましてや、オウルが死んだばかりなのに。

「やめてグレイ! こんなのはいやあっ!!」

泣き叫ぶクローディア。

ふと、グレイがその動きを止めた。

「やめてほしいか?」

その目に邪気が篭もっている。

クローディアは、あふれる涙をぬぐいもせずに必死で頷いた。

「じゃあ、その口でこいつを咥えるんだ。」

言いながら、グレイは立ち上がり、既に脈打っていた己の剛直をクローディアの眼前に突きつけた。

まるでそこだけ別の生き物のように黒々とそそり立ったそれを目にして、クローディアは「ひっ…」と声にならない悲鳴を上げる。

「舐めな。お前の口で俺を満足させられたら、痛いことは勘弁してやるぜ?」

冷たい声で命ぜられ、クローディアは呆然とグレイを見上げた。

この人は……いったい誰? 本当にあたしの知ってるグレイなの…?

「早くしろ。それともまた犯されたいか?」

クローディアがびくっとする。

それでもまだクローディアが迷っていると、グレイが、焦れたように、クローディアの頭を押さえつけ、その口にいきなり剛直を突っ込んだ。

「ぐっ…!」

苦しさに呻くクローディア。

が、すぐに、ぎゅっと硬く目を瞑り、ぎこちない仕草で、それを舐め始めた。

 

ぬちゃ ちゅっ くちっ くちゅっ …

闇の中に、濡れた淫猥な音が響く。

「んっ… んんっ… く…っ… ふ… 」

髪を掴まれ、強引に上を向かされて、その赤い唇は、禍々しいほどに巨大なモノにこじ開けられ、喉の奥にまで突き立てられている。

ぐっ ぐちゅっ ちゅるっ くちゅっ …

苦しそうに、クローディアの眉根が寄せられている。

それを無視して、まるで膣を犯しているかのように、激しく腰を動かすグレイ。

「んんー……っ…!」

クローディアの瞳から、涙の雫がつうっと一筋零れ落ちる。

その涙に、グレイは一瞬ぎくりとする。

それをクローディアに気取られまいと、わざと乱暴に、クローディアの唇から己の欲望を引き抜く。

「くふっ…」

いきなり抜き取られ、クローディアの体が支えを失って大きくぐらつくのを、グレイは、クローディアの髪を掴んだまま荒々しく地面に突き倒す。

「あうっ…!」

うつぶせに地面に倒れこんだクローディアの頭を、そのまま上から抑えつけ、クローディアの腰を力任せに持ち上げる。

「……っ!?」

クローディアの目が驚愕に見開かれる。

「や…っ… そんな…! しないって言ったのに…!」 

「満足させたら、って言ったはずだ。まだ俺は満足してないんでね。」

クローディアの頭を地面に押し付け、グレイは、クローディアの下着を引き下ろした。

真っ白な尻が月に照らされる。

「いや… ひどい…!」

クローディアの足を割り広げ、後ろからその秘裂に剛直をあてがうグレイ。

クローディアの体が、恐怖に竦む。

思わず手繰り寄せたのだろう、落ち葉の束を、指が色を失うほどにきつく握り締めている。

背中越しでも、硬く目を瞑り、唇を噛み締めて、すぐに押し寄せるであろう苦痛を思い、必死で耐えているのが容易に想像できる。

一瞬、グレイの心に鋭い痛みが走ったが、躊躇ためらいはなかった。

そのままクローディアを貫く。

「くうっ…! ああああっ……!」

さすがに耐え切れずに、クローディアが喘いだ。

無意識に逃れようとしてか、その背中が反り返ろうとするのを、グレイは力任せに引き寄せる。

クローディアの華奢な体に秘裂に深々とねじ込まれたモノが、幾度も幾度も、その柔らかな粘膜を、えぐる。

「あっ… あああ… ひあ… ううっ……」

落ち葉の上に、堪え切れぬ涙が、止めどもなく零れ落ちるのが見える。

涙を流しながら、苦痛に喘ぐクローディアの姿は、たまらなくなまめかしかった。

突き上げるたび、白くしなやかな肢体がのけぞり、のたうつ。

グレイは、陶然としてクローディアを蹂躙しつづけた。

────不意に、気配。

ハッとして頭を上げるグレイ。

折り重なった二人を、無数の小さな光が遠巻きにして囲んでいた。

内臓をえぐられる激痛に苛まれているクローディアは、それらに気がつかない。

グレイだけが、訝しげに周囲を窺う。

光の正体を知るや、グレイは慄然とした。

それは、動物の目だった。

森中の動物達が、二人の周りを取り囲んでいた。

動物達は皆、一様に微動だにもせずに、グレイを見つめている。

その物言いたげな一途な瞳に、グレイはかっとなった。

「散れ! この女は俺のものだ!!」

グレイの怒号が、闇に響き渡る。

激しく周りを睨めつけるグレイの目に、動物達は一斉に蜘蛛の子を散らすように、闇に掻き消えていった。

だが、一匹だけ、去らない光があった。

姿を消したはずの、銀色狼シルベンだった。

シルベンはその場に佇んだまま、じっとこちらを見つめている。

グレイが、燃えるような視線でシルベンを見返す。

しばし見つめ合う両者。

やがて、シルベンはふいっと踵を返すと、闇の中に姿を消していった。

訳のわからない不安が、刹那、グレイの心をよぎる。

それをかき消すかのように、グレイは、いっそう激しく腰を動かした。

「ひいぁああっっっ!」

えぐられ、揺さぶられて、半ば失神しかけていたクローディアは、新たな痛みに悲鳴をあげた。

かすむ意識の中、クローディアは、彷徨う視線で去り行くシルベンの後姿を見たような気がした。

シル…ベン…!

………そう………私達…お別れなのね… もう私は、この森にいては…いけないのね…

 

* * *

 

翌日。二人はバファル帝国の首都メルビルにいた。

久しぶりにメルビルの地を踏んだクローディアは、感慨深い面持ちで、深く、息をついた。

何だかやけに懐かしく感じる。

メルビル…。迷いの森を出て、生まれて初めて見た、“外”の町。

初めて見たときは、人が多くてうるさい町だと思ったのに…、旅を続けた今は、この町が、クリスタルシティやエスタミルに比べて、いかに活気に乏しいか、よくわかる。

思えば、全てはここから始まったのだ…。

グレイと初めて会ったあの時から…。

その想いは、グレイも同じだった。

どちらからともなく、自然に見つめあう。

目を反らしたのはグレイだった。

「…行くか。」

そっけなく言ってメルビル宮殿に向って歩き出す。

クローディアは、俯き、浮かない顔で、その後を追った。

本当にこのまま、宮殿へ行ってしまっていいのだろうか…。

 

だが、二人の意に反して、ジャンは不在だった。

来週まで戻らない、という門兵の言葉に拍子抜けする二人。

とりあえず宿屋へ行き、部屋に入ると、クローディアは張り詰めた糸がぷつりと切れ、思わずその場にへたり込んでしまった。

そのクローディアに、葡萄酒ワインのグラスを渡しながら、グレイはつぶやいた。

「一週間、か…。」

ジャンが戻るまで、一週間。

一週間後には、別れがくる。

クローディアがグレイを見上げる。

その視線を、グレイが捕らえる。

今度はグレイは目を反らさなかった。

じっとクローディアを見つめる。

グレイの顔が近づいてくる。

クローディアは逃げなかった。

二人の唇が重なり合う。

クローディアの手からグラスが滑り落ちる。

ことん、と軽い音がして、葡萄酒ワインが、カーペットに薔薇色のしみを作った。

 

陵辱の一週間が始まった。

 

* * *

 

一週間、という期限は、グレイの自制心の箍を外した。

もはや、グレイは、クローディアに触れたいという思いを、抑える事などできなかった。抑えようとも思わなかった。

昼間だろうが夜だろうが、グレイは、抱きたいときにクローディアの体を抱いた。

意外にも、クローディアは抵抗らしい抵抗はしなかった。

喜んで抱かれている風でもなかったが、そしてまた、喜んで抱かれるにはクローディアの体はあまりにも性的に未開発だったが、クローディアは、グレイが求めれば、素直に体を開いた。

グレイはそれを、クローディアがオウルの死で自棄になっているもの、と思った。

事実、グレイが夜中に、気配で目を覚ますと、クローディアがオウルの名をつぶやきながら声を殺して静かに泣いている、という事が時折あった。

束の間、グレイに抱かれる事で、それを忘れようとしているのかもしれない。

そうか…そういう事なら…。

グレイは、わざと酷く、クローディアを抱いた。

かみ締めていた唇から悲鳴が漏れ、ついには泣き声になるまで責めたてた。

それでなくても、グレイのモノはクローディアの華奢な体には大きすぎるのだ。

クローディアが耐え切れず失神する事もしばしばだった。

クローディアが己の腕の中で、己に組み敷かれながら涙を流す姿は、グレイに、狂おしいほどの苦痛と快感をもたらした。

できるなら、クローディアを、あらん限りの愛をこめて、優しく愛撫したいと思う。

だが、クローディアに、恐らくは憎まれてすらいるだろう今、その思いはもう、遠いところにあるような気が、した。


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