■ 最終話 ■ 発情☆ア・ラ・モード/玉撫子薫


【28】

 

三月とはいえ、夜はまだまだ寒い。

ましてや、サンジの住むこの部屋は、防寒に適しているとはあまり言えない。

なのに二人とも、例えようのないほどの熱に、翻弄されていた。

「ん、ぁ…ッ! ゾロっ…、も、や…、そん…そんな、とこっ…!」

サンジが切れ切れに哀願するのを構わず、ゾロはさっきから執拗にサンジの後孔を舐めていた。

体を震わせ、腰をくねらせて、無意識にか逃れようとするサンジの抵抗が、もう壮絶なほどに可愛らしい。

やだ、と言いながら涙を浮かべて緩慢に抗っているのに、ゾロが体勢を変えるために少し体を離しただけで、途端に置いてけぼりにされた子供のような心細いような目をする。

その瞳だけで、ゾロの中に何かが溢れて零れそうになる。

このままサンジを抱きつぶしてしまいそうになる。

この部屋には風呂がない。

当然の如くローションもオイルもない。

食用油はあるのかもしれないが、その為に立つ手間も惜しい。

だから、サンジのここはこうして舐めて慣らしてやるしかないのだ。

脳内で勝手な理屈をつけて、ゾロはサンジの後孔を丁寧に舐めた。

 

 

サンジはといえば、もはや羞恥で死にそうになっていた。

肛門なんて、口をつけていい場所じゃ、絶対に、ない。

朝ゼフとサウナに行ってひとっ風呂浴びたけれど、それから一日たつし、今まで働いて汗もかいてるし、だから、サンジの腰を持ち上げたゾロがそこに顔を寄せた時、サンジはぎょっとして思わず腰を引いたのだ。いやだ、と言って。

なのに、ゾロは、そんな時だけ昔のままの傲慢な強引さを発揮して、がっちりとサンジの腰骨を掴んで放さなかった。

腰を掴んで引き寄せて、強引に足を開かせて、あまつさえ両手で後孔を押し開いて、ためらいもなくそこに吸い付いたのだ。

 

どうしてこの部屋にゾロを連れ帰ってしまったんだろう。

どうしてホテルを取るとかしなかったんだろう。

ホテルなら風呂がある。

ゾロに抱かれる前に身を清める事だってできた。

せめて、帰ってくる前にいつものサウナにゾロを誘えばよかった。

サウナに行ってから帰ってくればよかった。

 

もうサンジの内心はパニックだ。

過去のゾロとの数少ないセックスで、ゾロがそんなとこを舐めたことなんて一度もない。

あの頃はいつでも無我夢中で、何回セックスしても慣れなくて、ただただゾロに翻弄されるばっかりで、サンジが細部まで克明に覚えているわけではないのだけれど。

でも、性器は何となく舐められたような記憶がないでもなかったが、こんなとこまで舐められた記憶はない。

こんな恥ずかしい、いたたまれない格好をさせられた事もない。

初めてゾロに抱かれた時はそれなりに愛撫されたような気もするけど、回を重ねるごとにそれはどんどんおざなりに粗雑になっていって、おしまいの方は、まるでレイプまがいにすら思えるようなセックスしか、サンジの記憶には残っていない。

 

こんなゾロを、サンジは知らない。

 

「や、だっ…! やっ…、あああっ…、やだぁっ…、やだ、ゾロ…ッ!」

サンジは与えられる羞恥と快楽に、やだ、やだ、と子供のように泣きじゃくっている。

その顔は涙と涎と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

かつてないほど不細工でみっともない顔になっている自信があるのに、ゾロときたらそんなサンジを、可愛くて仕方がない、みたいな目で見ているのだ。

そのゾロの目の優しい色に、サンジは余計に泣けて泣けてどうしようもない。

泣くのを必死にこらえようとすると、へぶっ、と鼻から豚っぽい音が出た。

あああ、みっともねェ。

「も、もう、や、やだ、やっ…、やめ、てっ…!」

ひんひん泣きながら訴えると、ゾロがようやくそこから顔を離してくれた。

 

ほっ…と、サンジが息を抜いた、次の瞬間。

 

そこに舌なんかよりもっと熱くてもっともっと硬いものが押し当てられていた。

 

「ひッ─────!!」

サンジが硬直して目を見開く。

「……悪ィ…っ…。」

押し殺した、切羽詰ったような、低く掠れた声が耳に届き、サンジの体をその硬いものが貫き始めた。

「や、あっ、ああああッッ!!!」

ぐり、ぐり、と後孔に押し当てられた硬い肉が、少しずつ体の中に入ってくる。

狭い粘膜を強引に押し広げて。

「あっ…、アッ…、あ、」

いっぱいに見開いたサンジの目にはなにも写っていない。

ただただ襲いくる衝撃に追いつこうと必死になっている。

「ぞ、…ろ、ッ…!」

無我夢中で名前を呼ぶと、

「煽んな、バカがっ…!」

と、上擦った声で怒鳴り返された。

息の上がったような、掠れたゾロのその声が、たまらなくセクシーだと、サンジは蕩けた脳のどこかで思った。

ずる、と中に入ってきては、少し引いて、また更に体の奥に入ってくる、ゾロの性器。

愛しい。と、不意にサンジは思った。

こんな、女装が似合いもしなくなった、可愛くもなくなった、男の体の中に、必死ともいえるひたむきさで入ってこようとしているゾロの性器。

一突きごとに、好きだ、好きだと言われているかのような気さえする。

愛しい。

愛しくて愛しくてたまらない。

自分を組み敷いている男が、眩暈がしそうなほど、泣きそうになるほど、好きだ。

「う、あっ…、ああ…」

三年もの間、誰も受け入れてなかったサンジの後孔は、すっかり処女還りしていて固い。

ゾロが自分の性器をねじ込もうとしているそこは、出すように作られている。逆に入れようだなんて土台無茶な話なのだ。

無茶を承知で、自然の摂理に反していることは承知で、それでも尚、ゾロは挿れようとし、サンジは迎えようとしている。

 

ああ、なんて、滑稽なんだろう。俺達は。

滑稽なのに、なんでこんなにも、いとおしいのだろう─────。

 

「あっ…! ああああっ…!」

ごりゅ、ずちゅ、と濡れた粘膜の擦れる音がする。

体を穿つ圧倒的な感覚に翻弄されながら、サンジは、ともすれば瞑ってしまいそうな目を必死で開いて、自分を食らおうとしてくる男の顔を見上げた。

ゾロも目を開けてサンジの顔をじっと見ている。

隠しようもない欲情にぎらついているのに、優しい慈愛に満ちたような、切なそうな、懐かしそうな、そんな、不思議なまなざし。

狭いサンジの中をじりじりと割り広げながら進むゾロの全身は汗でびっしょりだ。

体が進むたび、ゾロの顔から汗が滴り落ちて、サンジの頬を濡らす。

その顔が愛しくて愛しくて、サンジは必死で両腕を伸ばして、ゾロの首に縋りついた。

弾みで、ぐぐっと、更に深くゾロを迎え入れてしまう。

「ひあァッッ!!」

サンジが悲鳴をあげるのと同時にゾロの喉がぐうっ、と鳴る。

それでも構わずサンジはゾロの首を引き寄せて、その唇に吸い付いた。

母親の乳房を求める赤ん坊のように、無心に。

「…てめェ…、姦り殺すぞ、クソ…っ…!」

ゾロがサンジの唇を吸い返しながら…、というより、もうほとんど噛み付きながら、獰猛に囁いた。

思わずサンジが笑みを漏らしそうになった時、急に勢いよくサンジの中のゾロの熱が引き抜かれた。

「ゾ…?」

 

次の瞬間、その熱が力任せにサンジの最奥に叩きつけられた。

 

「────────ッッッッ!!!!」

サンジの喉から、声にならない絶叫が迸る。

無意識に逃げを打つサンジの体を、ゾロは乱暴に引き寄せて、押さえ込んだ。

「アアアッッッッッ!!!」

サンジがその背をのけぞらせる。

「逃げんな。」

「ああッッ、ひあっ、あンっ! あ、ああっ…、」

浮いた腰を抱えられて、更にゾロが深く深く抉ってくる。

反り返った胸にも吸い付かれ、サンジは激しく体を震わせた。

「ふ、あっ…!」

千切れそうなほど乳首を噛まれているのに、サンジの背はぞくぞくと快楽に痺れた。

屹立した性器から、とろっと白濁が零れる。

「…乳首噛まれて漏らしてんのかよ…。」

気づいたゾロが、くくっと喉の奥で低く笑いながら、尚も執拗にサンジの乳首に歯を立てた。

「や、あっ…、噛、むな…!」

「噛まれんのも、気持ちいいんだろう…?」

「んああッッ…!」

ゾロがサンジの乳首をきつく吸いながら、その剛直でサンジの中を貫くたび、サンジの体はびくびくと跳ねた。

「あっ、あっ、あっ…」

乱暴に引き抜かれて、荒々しく穿たれる。

まるで三年前に戻ったかのような、がつがつと貪るような動き。

 

もしかしたら。

ゾロの本質はあの頃と何も変わっていないのかもしれない。

今のゾロの面映いほど優しく甘い想いを、あの頃のゾロも持っていたのかもしれない。

 

不意にサンジはそう思った。

 

あの頃のあの、サンジを性処理に使っているとしか思えないような、一方的で横暴なSEX。

あれは…、もしかしたら蹂躙などではなく、想いの強さをそのまま表したものだったのかもしれない。

 

「ぞろ…」

 

あの頃も、今も、ゾロは、ずっと、変わらずに、サンジの事を─────

サンジの体をいとう余裕すらないほど─────

 

「ぞろ…………、すき……………」

 

 

陶然としたまなざしでそんなことを言われて、ゾロは瞠目した。

ちっ、と忌々しく舌打ちをする。

─────本当に姦り殺されたいのか、この馬鹿が!

ただでさえ切羽詰っていると言うのに。

サンジの両足を肩に担いで、サンジを押し潰すようにして無理矢理体を繋いでいるというのに、サンジは苦痛などないかのようにとろんとした熱に浮かされた目でゾロを見ている。

苦痛がないはずはないのに。

身長が伸びても変わらずに細い腰。慎ましやかな後孔。

力任せにのしかかって、小さな蕾を強引に暴いた。

欲望に硬く膨れ上がったものを捻じ込んだ。

辛くないはずなどないのだ。

その証拠に、限界まで広げさせた股関節はぶるぶると小刻みに震えているし、高く抱え上げられた足先はすっかり血の気を失って冷たい。

なのにサンジの吐息もまなざしも喘ぎ声も、淫靡な熱を含んでいる。

 

サンジが、やっと宝物を見つけた子供のように笑うから。

両腕をいっぱいに広げてゾロを迎え入れるから。

 

だからゾロは、自分の劣情が抑えられなくなる。

大切にしたい気持ちと壊してしまいたい気持ちの両方が同じくらい強くて、理性なんて吹き飛んでしまう。

ゾロの欲望をわかっているのかいないのか、サンジはさっきから縋りつくように口付けをしてきたり、潤んだ目で好きだと言ってきたりするから、ゾロは自分の理性の限界に挑戦しなければならなくなる。

思いのままに貪ったら、きっとこの体を壊してしまうに違いないのに。

なのに、まるでSEXを覚えたてのガキのようにがっついている。

浅ましいほどに。

 

わざと内壁をごりごりと擦り上げながら、サンジの奥に叩き込む。

「ひぃあああッッ!!!」

サンジがあられもない嬌声を上げてのけぞる。

サンジの中の敏感なところを何度も突くたび、サンジは白い腹を波打たせる。

それがとんでもなくなまめかしい。

屹立しているサンジの性器は、内側をこりこりと擦るたびに、白い蜜をとろとろと零す。

きっと触れたらその瞬間に遂情してしまうだろう。

だからそこには触れず、サンジにも触れさせず、ゾロはサンジの中を嬲り続ける。

さっき容赦なく歯を立てた乳首は、可哀相なほど赤くなってしまっている。

それを咥えて強く吸うと、ゾロを収めたサンジの中がびくびくと収縮した。

「やっ、あ…、ああっ…!」

潤んだ碧眼から涙がぽろりと落ちたのを見て、ゾロはそれも唇で吸い取った。

涙が甘いはずはないのに、甘く感じた。

いっそこの眼球ごと舐め啜ってしまいたい。

瞼に口付けると、サンジが甘えるような微笑んだ。

その子供のようにあどけなくすら見える微笑みが、じわりとゾロの心に沁みる。

強烈な欲望と同じくらい強い、全身を突き動かすようなこの震えるような想いを、なんと名づけたらいいのか、ゾロにはもうわかっている。

この三年で、ゾロはこの想いにつける名を知ったのだ。

 

この想いから、必死で目をそらし続けたこともあった。

自分の中で認めることができずにサンジを傷つけたこともあった。

サンジがゾロに向ける感情は刷り込みでしかないのではないかと疑っていたこともあった。

自分のプライドと、サンジへの想いが、自分の中で折り合いがつかずに苛ついたこともあった。

 

なのに、一瞬たりとも自分の中から消え去ることはなかった、想い。

 

「は…、やべ…。まじで壊しそうだ…。お前の事…。」

愛しくて愛しくて、壊すまで抱いてしまいそうだ。

それを聞いて、サンジがゆるく微笑む。

「ゾロにだったら、壊されてもいい、よ…。」

幸せそうな顔で言う。

 

─────ゾロにだったら壊されてもいい。

 

不意に、ゾロの脳裏に柔らかに囁かれた声がよみがえる。

そうだ。三年前にもこいつはこう言っていた。

 

─────俺、ゾロが好きだ。

─────ゾロでなきゃダメなんだ。

─────ゾロにだったら壊されてもいい。

─────ゾロが好き。すげぇ好き。

─────ゾロは可哀想だ。

─────ちゃんと好きで居てえんだ

─────おまえを好きになって、初めて自分も好きになった

─────俺はお前をしあわせにしてェんだ。

─────好きだ、ゾロ

─────誰よりも、お前だけが

─────この先だってずっと

─────約束する

─────約束を破ったら、俺を殺していい。

 

何度も何度も…ゾロに向けて差し出されていた無垢で無防備な心。

やっと。

やっと今、受け取ることができる。

「サン、ジ…。」

何かを問うように名を呼ばれて、サンジは潤む目を開けた。

間近にゾロの顔がある。

「…さびしい…思いをさせて…、すまなかった…。」

ほとんど吐息にまぎれてしまうような囁き声で、そんなことを言われたものだから、瞬間、サンジの涙腺はまたも決壊した。

「ぞ、ろぉっ…!」

せっかく泣き止みかけていたのに、またしゃくりあげてしまう。

しゃくりあげると中が締まるのか、ゾロが微かに呻いた。

「ゾロ、ゾっ…、も、どこにも、行くな…っ…、行くなよぉっ…!」

子供が駄々をこねるような声で、サンジが訴える。

「あァ…。行かねェ。ずっとお前の傍にいる。ずっとだ。サンジ…。」

ゾロとは思えないほど甘く切なく囁かれた。

「ふっ…う…ッ…!」

サンジの目からまた涙が溢れる。

絶対に明日の朝は明けられないほどに腫れあがるに違いない。

その涙を舌で拭い、ゾロはいっそう深く、サンジの最奥を容赦なく穿った。

 

─────愛してる…。サンジ…。

 

そう、蕩けるほど甘く囁きながら。

 

 

□ □ □

 

 

 

ゾロとサンジが飽くことなくいつまでも抱き合っている頃、バラティエでは誰がウェディングドレスを買ってやるかという話で最高潮に盛り上がっていた。

酔客達の中で一番浴びるように酒を飲んでいるのは珍しいことにこの店のオーナーで、多分明日はお店は休みだろうな、とその場の誰もが思っていた。

 

それから、恋人達が幸せで濃密な夜を過ごしているまさにその部屋のお隣は、いつもだったら遅い時間まで話し声やら物音やらでうるさいというのに、この日だけは何故か不気味なほど物音一つしなかったと言う。

 

2009/02/14

 

 

 

-------女装♀♂少年(仮)完結-------

長い間応援してくださいまして、ありがとうございました。

 

 


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