■ 第27話 ■ 海の碧 空の蒼/天羽窓花さん
【2】
「あの子、彼と一緒にどっかに行っちゃうんだ」
「・・・早く食え」
「追いかけないの?ゾーロ」
「いいから食えよ」
「食べるわよ?私がお金出したんだから」
背を向けてしまったから、もうわからない。
嬉しそうに笑っているのか。
泣きそうな顔のままなのか。
最近よく見る笑っているはずなのに泣いてる様な顔なのか。
それとも、あの時だけに見ることの出来る、蕩けそうな顔で・・・?
ぐわっと、何かが迫り上がってきて、立ち上がりたくなる。
「座ってなさいよ」
「・・・」
「そんなに気になるなら、振り返ってみれば?」
「うるせぇ」
「あの子・・・すごくきりっとしてるのね」
「はぁ?あいつが?」
「見てみれば?可愛いっていうより、あれはかっこいいよね。不思議」
聞いたことのない言葉を言われて、思わず振り返る。
そこに居たのは。
ガラスの向こう。
まっすぐにエースを見ているサンジ。
そして、いつもサンジがしているのと同じような顔をしているエース。
そうして、エースより先立って歩いていくサンジ。
今までと違う、頼りない後姿じゃなくて。
あれが、ゾロをひたすらに待っていたサンジなのだろうか。
捨てられたくないと、ゾロが好きだと縋っていたサンジの姿はどこにもない。
強く、しなやかな姿。
「サン・・・ジ?」
「やっぱり最近の子は違うのねー」
か弱く、連れて帰らなくてはいけないと、ゾロでさえ思ってしまったサンジはどこにもいない。
あのサンジからは見付からない。
「やっぱり・・・棄ててくんじゃねぇか」
「なに?ゾロ」
「いや」
「・・・ふーん。じゃあ今日はありがと。また誘ってね。今度は一人でね」
「気が向いたらな」
「そうそう、今度あんたに仕事頼みたいっていう人と会わせてあげるわね。楽しみにしてて」
「・・・ああ」
一緒に席を立ち店の外へと出る。
さっきまでここに居たサンジは、居ない。
今までゾロの側に居た、あのサンジは、もう、居ない。
好きにしろといった言葉の通り。
エースの元に行ったのだろう。
別にいいと、そう思う。
そう、思い込む。
自分の手で殺してしまった過去と、自分の手からすり抜けて行ってしまった現在。
好きだと言っていたサンジ。
いつでもゾロの行動だけを伺っていたサンジ。
どうにかして守らなければいけない、そんなサンジ。
消してしまえばいい。
また。
好きだなんて、甘ったるい感情は。
たった一時の惑わされた想いは。
棄ててしまえばいい。
いつものように、今までのように、これからも、ずっと。
それが当たり前。
甘さなんて、思い出してはいけない。
棄てられる事なんて、思い出さなくていい。
棄てるのは、ゾロなのだから。
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