■ 第23話 ■ Key Ring/きりんさん


【2】

 

押さえ付けていた手首の力がふっと緩んだ。

そして今放したばかりの手でそっと涙に濡れた頬に触れた。

 

「もし俺が好きだと言ったら、お前は俺を棄てないか?」

 

多少声が上擦っていたかもしれない。

なにしろこんな弱音を吐くのは今までに無かったことだから。

いつだって強気で人の意見など聞かずに、自由気ままにやって来たのに、こんなところで自分を曝け出すことになろうとは。

 

「俺も、お前と同じだ。もう二度と棄てられるのは嫌なんだ。」

 

 

 

 

 

棄てられるよりも棄ててやる。

そうすれば心は痛みなど感じずに済む。

そうやって生きてきた。

あの日からずっと。

 

 

 

あの日、ようやく貰われていく家庭が見つかった。

ずっと子供の出来ない、少し年老いた夫婦。

咳き込みながら自己紹介をした。

「ロロノア・ゾロです。」

年老いた夫婦は柔らかい日差しの中でにっこりと笑った。

俺も釣られて不器用に笑った。

この夫婦の元でいい子になろうと努力した。

 

 

なのに、世間はそれを許してはくれなかった。

何か問題が起こると全部俺のせいになった。

 

『遠足の費用が無くなった』

『誰かのノートが盗まれた』

『窓が割られた』

『自転車が盗られた』

 

 

 

やっぱり孤児院の子は・・・

聞こえよがしに口にされた陰口は当然養父母の耳に入り、養父母は謝るのに疲れてしまった。

そして疲れきった夫婦は俺を孤児院に戻したのだ。

 

「ごめんね、さよなら。」

 

 

 

棄てるくらいなら初めから拾うな。

 

大声で叫びたかった。

でもそうしても何の意味も無いことを理解出来るくらい、中途半端に俺は成長していた。

 

だから心に誓ったのだ。

棄てられるより棄ててやる。

それがあの日に覚えた自分を救う唯一の方法。

 

ずっとずっとそれが正しいと思い込んできたのに、この無邪気な泣き顔の男がそれは間違いだと言っている。

 

「ゾロは俺が好き?」

 

壁が崩れた。

 

「好きだ。」

2005.6.13

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