■ 第七話 ■ とねりこ通信/みうさん


 

「ホシイ…」

 

唇が勝手に形作って伝えた言葉。

サンジはとろんとした目で戸口に立つゾロを見上げた。

手の中のそれは、もう一度とくりと小さく震えてぬかるんだ。

薄暗闇の中でそこだけ濡れて光る気がして、サンジは立てた膝を抱えて足の爪先を僅かに丸める。

 

ゾロはゆっくりと部屋に入り、サンジの元へと近付いて来る。

相変わらず感情を見せない冷めた瞳。

どんな美人にもセクシーな女にも色を変えないその瞳が、今はまっすぐに俺を見てる。

 

ゾロ、その手を伸ばして

今すぐそれを、俺に頂戴

その目で俺を見て、俺に触れて、声を聞かせて、俺の名を呼んで───

一度でもゾロが俺を愛してくれたなら、俺はもうどこに売られても捨てられても構わないから。

 

「サンジ」

 

うっとりと耳を打つゾロの低い声に、サンジの手の中に潜んだそこが、また小さく脈打つ。

ゾロの手が自分に向かって伸ばされ、大きな掌が、長い指が、震える頬に触れて撫でた。

 

───ゾロ

目を閉じるサンジに、ゾロの含み笑いが届く。

「俺相手に、ナニ色目つかってやがる。」

驚いて目を見開くと、ゾロは困ったように笑っていた。

「てめえの相手はオヤジだろうが。せいぜいそうやってだまくらかしてやれよ。」

そう言って、ゾロは笑って手にした買い物袋を置いて踵を返して出て行こうとした。

 

「ゾロっ」

サンジの声は悲痛に響く。

けれどゾロは振り向かない。

「表に女が待ってんだ。今夜の仕事は、なしだ。」

そう言ってパタンとしまる扉の音を、サンジは絶望的な思いで聞いていた。

 

俺は、ゾロを彩る花の一つにすらなれねえのかよ。

じわんと潤んだ視界の向こうに、もうその姿はない。

2005.5.24

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