■ 第五話 ■ Mong-Hai/あづちさん
「…んっ」
一人の部屋に、鼻にかかった甘い息が響く。
「はっ…、ぁ…。」
腰に走る緩い快楽に、サンジはフルリと身を震わせた。
ナイロンだかシルクだかの薄い布越しの感触では物足りず、サンジは申し訳程度に局所を隠すパンティから片足を抜くと、剥き出しになった己のペニスを握った。
「んっ!」
脳が求める直接的な快感に、サンジの背中が無意識にしなる。
コシコシと上下に右手を動かせば、たいした時間も置かずにその先からプクリと透明の液体が滲み出てきた。
ちゅく…、と聞こえる小さな水音が、短いスカートの布地の奥から漏れ聞こえる。
緩くボヤける視界の端に、先程塗りたくるのを我慢したグロスが入った。
初めて貰った 『ゾロから』 のソレ。
マツキヨで言われた、高級品と言われたソレ。
『見立て上手な彼氏でいいわね』
店員の、羨ましげな言葉がリフレインされる。
『新色だってよ。似合うじゃねぇか。』
ゾロから貰った、褒め言葉。
あの時、目元が優しげに緩められたように思えるのは自分の願望か?
「ふッぁ・・・。」
次第に右手の動きが早くなり、サンジは快楽の急流に身を任せた。
鏡の前でいやらしい仕草で舌を動かし、その唇を舐め廻す。
片足の足首で丸まったパンティ。
短いスカートから投げ出された白い脚。
唾液とグロスが交じり合い、艶かしく光る唇。
薄暗い部屋の中でも、発光するかのように浮き上がる白い肌。
そして、朱を帯びた頬。
この股間にあるものさえ違えば、正真正銘の美少女だ。
この部屋に来る、どの女よりも若くてキレイなはずだと思うと、サンジの目の奥がジワリと熱くなった。
そんな仮定形は重力に反することぐらい無意味で惨めだ。
それが分かるからこそ、この想いへの敗北感に息を詰まらせる。
「ぞ、ろ・・・。」
求める男の名を呼び、サンジは鏡の前で乱れる自分から目を逸らした。
両足を開き、忙しなく右手を上下に動かす。
電流のように流れる快楽に、投げ出された白い脚にピクリと力が入る。
ペニスの先からダラダラと涎のように流れ出る透明の液が尻の割れ目を伝い、その感触にサンジは我慢出来ずに大きく身を震わせた。
「ハぁ、アぁ・・・・・、ンッ」
ちゅくり、ちゅくり、ちゅくり
こすり上げる手の動きに合わせ、しとどに濡れた股間からイヤラシイ音が絶え間なく上がる。
「ア、ア、ア・・・。」
ただ一点だけに意識が集中し、サンジの脳は次第に空白に侵食され、だらしなく開かれた唇からは喘ぎに似た呼吸がこぼれ出す。
ガシャン
薄い壁向こうで、鋼製のドアに鍵を挿す音が聞こえた。
(!!)
誰かが帰ってきた。
『誰か』 なんてまどろっこしい言い方をしなくとも、帰ってきたのはこの部屋の持ち主だ。
(やべっ!ゾロッ!)
こんな姿のままで自慰にふけっているところを見られたらシャレにならない。
以前に 『間抜け』 と言われた時のように、きっとくだらないモノを見るような目で、たった一言の罵倒で自分を打ちのめすのだ。
(止めねぇと!)
だけど、粘液を纏わりつかせた右手の動きを止められない。
若い雄の性は、あくまでも本能に忠実で快楽に弱い。
「帰ってきてんのか?」
ガチャリと音がしてから、玄関先からゾロの声が聞こえた。
きっと、狭い玄関に投げ出されたサンジの靴を見つけたのだ。
(なんだ、って、チキショー!)
ちゅくちゅくと擦り上がる水音の速度が上がる。
ゾロの声に脳が震えた。
ゾロが欲しいと願いつつ自慰にふけるサンジにとって、それは最高の餌だ。
「帰ってんのか?」
再度ゾロは部屋に向って声を掛けてくる。
(いつもは、オレの事なんて気にしてねぇクセに!)
多分、カーテンが引かれたままの部屋の暗さに不審を感じているのだろう。
ゴソゴソとブーツを脱ぐ音がいつもより遅いのは、部屋にある気配を感じ取ろうと警戒しているのに違いない。
ガサリ、とビニール袋を床に落とし、ゾロが玄関に繋がったキッチンを横断する気配が近づく。
二人を隔てているのは、鍵のない薄い木製ドア一枚。
「おい。いるのか?」
見られてはイケナイ。
そう思いつつも、サンジの手は止まることなくピンクのペニスを擦り上げる。
「いるのか?─────── サンジ?」
低い声で名を呼ばれ、サンジの心臓が跳ね上がった。
そして、
「・・・んっ、っぁあっ、ぁ!!」
手の中で欲望が、弾けた───────────。
2005.5.22
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