■ 光の魔法 ■ coral prince/フカヒロさん


 

「ん、これでいいわv」

 

 

大きな背中を小さく丸めて棚の整理をしていた店員が、満足げな声をあげて立ち上がった。

大きなガラス越しの通りの日射しは、梅雨入り後とは思えない眩しさで、例年以上に紫外線対策商品の売れ行きが早い。

期末試験中なんだろうか、店内には近所の女子高生の姿が目立って、早い時間から賑やかだ。

 

 

最近の子は制服でも露出度高いわよねぇ、ちょっと冷房が効き過ぎかしら、あぁもう肌が乾燥しちゃっていやんなっちゃう、いいわよねぇ若い子は保湿なんて考えなくったっていいんだもの、、、あら、このグロスいい感じねぃ。

 

 

皮脂腺がないくちびるは、他のどの部分よりもデリケートで、とりわけ乾燥をひどく嫌う。

春から夏にかけてのシーズンは紫外線が強いから、それの対策も必要だろう。

銀座の高級品は買えなくたって、オシャレしたい気持は誰にも負けない高校生達が、買うのにはちょうどいい値段と品質だ。

これは、そしてこの店は。

 

 

そういえばあの子、あれっきり来ないけど、ちゃんと彼氏にグロスを買ってもらえたのかしらん?

 

 

誰もが羨ましがるほどの際立つ容貌をしているのに、どこか不安げで慣れない様子だった、金髪のあの子。

何にもしなくても綺麗な肌に、しっくりと馴染んだコーラルピンクの唇が、今もどこかで幸せに、少し恥ずかし気に笑ってたらいい。

 

 

「ねぇねぇ、この子そばかすが気になるんだって。ファンデとかコンシーラとか、いいのない?」

 

 

ちょっとの間、ぼんやりとしていたらしい。

馴染みの女の子が、新しいクラスで同級生になったという子を引っ張って、声をかけてきたのに驚いてしまった。

 

「ん?そうねでもね、塗ったらかえって目立っちゃうわよ?若いんだし、パール入りの下地を使う程度でいいんじゃないかしら、えぇとこんなのドゥ?、、、ちちんぷいぷい、光の ま・ほ・うvv」

 

「わ、ほんとだ。ほーらね、自分の化粧はケバイくせして、絶対に外さないんだから!さっすがぁ!」

 

「んーもうやーねー、オカマ相手に誉めても無駄よぅ?」

 

 

くるくると思わず回って踊りだした店員に、女子高生達が明るく笑う。

昼下がりのドラッグストアは、今日も綺麗になりたい少女達に、素敵な魔法をかけている。

 

2005/10/18

END.

 

■ 最終回祭り ■


きぬこさん作第3話に出てきたマツキヨの店員を、フカヒロさんが味付け。



 

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