ちびねこSS


 

◇ CAST ◇
ゾロ ..... 犬・4歳
サンジ ..... 猫・1歳
ナミ ..... 猫・3歳
ルフィ ..... 小学二年生
エース ..... 兄・中学三年生
シャンクス ..... パパ・28才・受
ベックマン ..... ママ・31才・攻

この第七話は、時系列的には、「チビネコ ふきのとう れんげ草」よりも後になります。

 

 

◇ 第七話 ◇

 

ぴょーん、と、何かが跳ねるのが視界の隅に入った瞬間、シャンクスもベックマンもぎょっとして硬直した。

「…今の何だ?」

「ぴょーんて跳びましたね…。」

二人とも、裏社会にその名を知られた存在とは思えないほど間抜けな顔で、お互いに顔を見合わせる。

「…今の…もしかして…。」

「ノミ…ですかね。」

その正体に思い当たった瞬間、二人は揃ってさあっと青ざめた。

「ま、まずどうします?」

「にゃんこを捕獲だ、捕獲!」

「サンジの方なら庭で遊んでます!」

「とりあえずそっちでいい、捕まえろ!!」

ベックマンが即座に立ち上がり、サンジの好きな猫おやつを掴んでママサンを突っ掛けて外に出ていく。

「捕まえたら風呂に連れて来い!」

シャンクスは出て行くベックマンにそう声をかけると、風呂場に行き、戸棚を物色して一番奥から猫シャンプーを取り出した。

いつ買ったんだかも覚えていないそれは、飼い始めてからこの方、一度も猫を洗ったことなどないせいで、ほこりは被っているが未開封だ。

これでノミ所持疑惑の容疑者を洗ってしまおうと言うわけだ。

容疑者、という点では、ナミもサンジも等しく疑わしいのだが、ナミがシャンクス達に素直に洗わせるとは思えないし、それ以前にシャンクス達に捕まってくれるとも思えないし、更にはナミの方はメスだけあって毎日の毛づくろいも非常に丁寧かつ完璧だが、サンジときたらそろそろ1歳になるはずなのに未だにゾロに舐めてもらってる上に、自分ではさっぱり毛づくろいをしないし、毎日わんぱくに泥んこだし、何より外犬と同衾してる時点で、サンジの方がよりノミ疑惑の真犯人っぽい。

─────に、しても、猫ってどう洗うんだ?

─────ルフィの頭洗うみたいにシャワーぶっかけてシャンプーごしごしでいいのか?

シャンクスが内心で小首をかしげる。

何しろこの家ときたら、犬一匹と猫二匹飼っているにもかかわらず、誰一人として正しい飼いかたというものを知らないのだ。

まあなんとかなるだろ、で早四年だ。

アバウトにも程がある。

「サンジ、捕まえました!」

ベックマンがサンジを抱いて戻ってくる。

シャンクスが先に浴室に入ってベックマンを手招きする。

「抱いたままお前ごと入って来い。」

言われたとおりにベックマンが浴室に入ると、シャンクスが素早く戸を閉めた。

すっかりあまったれの抱き癖のついたサンジは、大好きなベックマンに抱かれてご満悦だ。

今まで入った事もない風呂場に連れて行かれて、床に下ろされてもまだ、呑気に辺りを興味深そうにくんかくんか嗅いだりしている。

それが、シャンクスがシャワーのコックをひねった瞬間、全身の毛がぶわっと逆立った。

知ったこっちゃねぇとばかりにノズルをサンジに向けて、ざびーっとお湯をかける。

途端に、

「ピギャッ!?」

と、今まで聞いたことのない声を、サンジが出した。

「ベックマン、押さえとけ!」

シャンクスは片手が利かないからシャワーを持ってしまうと猫を押さえることができない。

そのシャンクスに代わって、ベックマンが両手でしっかりと猫を押さえつける。

猫の方はもう必死だ。

タイルに爪を立てて逃げようとしている。

シャンクスが湯を出しっぱなしのシャワーヘッドを壁にかけて猫シャンプーを掴む。

ベックマンに押さえつけられて床の上でじたばたしているサンジに適当にぶっかける。

それを大人二人でわしゃわしゃと洗う。

シャンプーが泡立ち始めると、サンジは観念したかのように、ややおとなしくなった。

わしゃわしゃ全身をまさぐられてちょっと気持ちよかったのかもしれない。

だが爪だけはしっかりタイルの床に立てている。

タイルだからもちろんツルツル滑るばかりなのだけれど。

サンジの動きが止まったので、シャンクスもベックマンも一瞬油断をした。

その隙にサンジがつるりと逃げる。

「あっ! くそっ!」

「落ち着いてください! ドアは閉まってますから逃げられやしません!」

だがサンジは浴室内をめくらめっぽうに走り回って逃げている。

棚に並べていたボディシャンプーやらヘアトニックやらが軒並みがちゃがちゃに倒される。

「わああ、バカ猫!」

「シャンクス! あぶない!」

慌てた拍子にシャンクスがしたたかに頭っからシャワーを浴びてしまう。

ベックマンは泡だらけになりながらサンジの捕獲を試みる。

「あー、ちくしょう。服脱いでやればよかった。」

いい歳した大のオトナが二人してびしょ濡れの泡だらけである。

それでもどうにかこうにかサンジの泡を洗い流す。

「うわ、手ェ毛まみれ。」

「抜けるもんですねェ…。」

サンジはまだじたばたしている。

こいつの体力は無尽蔵なのか。

いい加減諦めておとなしく洗わせればいいのに。

「うし、こんなもんだろ。」

シャンクスがシャワーを止めると、ずぶ濡れのサンジがぷるぷると体を大きく震わせて水を弾き飛ばした。

「うわっ!」

もうシャンクスもベックマンも疲労困憊だ。

「とにかくサンジをふかねェと…。」

そう言いながらシャンクスが浴室の戸を開けた瞬間、サンジが小さな隙間から脱兎の如く逃げ出した。

慌てて追うシャンクスとベックマン。

しかし二人ともずぶ濡れなので、フローリングの床で滑って転びそうになる。

サンジは家中を駆け回り、壁といわず絨毯といわず片っ端から狂ったように濡れた体を擦りつけ、僅かに開いた窓から外に飛び出して行ってしまった。

「うわ、逃げた!」

「あああ、もう…!」

ずぶ濡れのままでサンジが風邪を引かないかな、なんてことより、シャンクスもベックマンも浴室と家の中の惨状に顔を見合わせ、ため息をついた。

どこもかしこも、びちゃびちゃの毛まみれだ。

ベックマンが黙ってびしょびしょの床を雑巾で拭き始める。

その姿を尻目に、シャンクスはポツリと呟いた。

「…もう猫を風呂になんか入れねェ…。」

 

ちなみにサンジはそのままプチ家出して、二日間帰ってこなかったという。

2008/05/31

 

二日目の夜に帰ってきました。

 


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