ちびねこSS
● | ゾロ | ..... | 犬・3歳 |
● | サンジ | ..... | 猫・生後2ヶ月くらい? |
● | ナミ | ..... | 猫・2歳 |
● | ルフィ | ..... | 小学一年生 |
● | シャンクス | ..... | パパ・27才・受 |
● | ベックマン | ..... | ママ・30才・攻 |
◇ 第六話 ◇
「うーん…。」
ベックマンは玄関に置いてある猫の餌皿を見ながら考え込んでいた。
餌の減りが異様に早い。ような気がする。
ベックマンが嫁に来てから飼った猫はナミだけなので、それが猫の習性なのかナミの習性なのかベックマンにはわからないのだが、とにかくナミは一度で餌を食いきるという事がない。
いつでも半分くらい食べて残す。
そして夕方にまた餌をやるまで、その残したのをだらだら食べるのだ。
出したら出しただけ全部一度で平らげるゾロと正反対だ。
だがこの頃は、夕方になる前に餌がなくなって、ナミが催促してくる事が多い。
実は以前にもこんな事が二度ほどあった。
その両方とも、ナミがどこからか仔猫を拾ってきてエサを与えていた。
ナミは避妊しているから仔を産んだことがないし、これから先も母猫になる事はない。
母性と言うものは、子を持つから生まれるわけではなく、本能として持ち合わせているものなのかもしれないなあ、と、ナミと同じく子を持つ事の出来ない身でありながら一児の母となっているベックマンはしみじみ思った。
─────まあ俺の場合は万が一孕んだとしても産むのは亭主の方だがなぁ…。
何故なら突っ込まれてるのは旦那の方だから。
それはともかく、ナミのエサのこの状況からして、ナミがまた仔猫を拾ってきた事は間違いない。
過去の二匹は、一匹はいつの間にか来なくなって、もう一匹は糞詰まりになって病院に連れていった。
ナミは仔猫を拾ってきてエサは与えるが、母猫がやるように仔猫の尻を舐めてはやらないのだ。
というより、ナミは基本的に動物嫌いだ。
ナミはルフィだけに懐いている猫で、シャンクスにもベックマンにもあまり懐いていない。
近所でも評判の美猫なのでもてるらしく、女王様よろしくオス猫を連れ歩いてるのをよく見かけるし、連れ歩くオス犬もメンツがころころ変わるのだが、そのオスが少しでもナミに触れようとすると、ナミは全身の毛を逆立てて激怒するのだ。
そうしてどんな猫にも、ナミは自分の体には、指一本触れさせない。
メスのくせにケンカもなかなか強いようで、相手がオスかメスかは知らないが、傷だらけで意気揚々と帰ってくる事もある。
せっかくの美猫なのに顔に怪我をして帰ってくるのだから、やんちゃにも程がある。
同族の猫にすらこんな調子なのだから、犬のゾロに対しては人間が見てあからさまにわかるほど小馬鹿にした態度をとる。
わざとゾロの鎖の届く範囲ぎりぎりまで近づいて、挑発するような態度を見せて、ゾロが怒ると嘲笑うかのように身を翻して逃げて行く。
なかなか性悪な小悪魔ちゃんなのだ。
そんなナミが唯一見せる動物への愛情のようなものが、仔猫を拾ってきて自分のエサを分けてやる、という行為だ。
ナミの猫餌は玄関にあり、猫専用入り口を通って中に入ってくる。
時には餌を狙って侵入しようとする野良猫もいるが、ナミはそれを一切許さない。
中に入って餌を食べているよその猫がいるとすれば、それはナミが許可した猫なのだ。
そしてナミがそれを許すのは生後一年未満の仔猫だけ。
「仔猫…だったら、保護してやんなきゃこの寒空じゃあ死んじまうかもしれないしなあ。」
ベックマンは呟いて、ママサンをつっかけて外に出た。
仔猫といえば心当たりがある。
ニ、三日前から、ゾロの犬小屋に仔猫が入り込んでいるらしいのだ。
今朝がたもゾロに埋まるように猫が寝ていたとシャンクスが言っていた。
ルフィは見てないらしいが。
ゾロとナミは致命的に仲が悪く、ナミが連れ歩く猫達も便乗してゾロをからかうものだから、ゾロはすっかり猫嫌いになっているのだが、そのゾロが猫を小屋に入れているとはどういうわけだろう?
話を聞いたときは何の冗談かと思ったし、そりゃ寝てるんじゃなくて噛み殺されてるんじゃないかと思ったのだが、仔猫は何故かゾロと同衾しているらしい。
せいぜい生後二、三ヶ月、といったところの仔猫らしいから、あまりに小さくてゾロもお味噌扱いにしたか、はたまた猫と気づいてないとか?
まさかなぁ、と思いながらゾロの犬小屋まで来たベックマンは、
「あァ??」
と、自分の目が見た光景が信じられずにぽかんとした。
半開きの口から咥えていたタバコが落ちても気がつかないほどに驚愕していた。
うららかな日差しの中、ゾロはひなたでぐうぐう昼寝をしている。
それはいい。いつもの事だ。
飼い犬ゆえか、動物の危機感の欠片もなく仰向けで腹を出してお股おっぴろげで寝ている。
それもまあいい。いつもの事だ。
そのゾロの無防備な腹の上に、ちんまい毛玉が乗っている。
ふわふわのうぶうぶのその毛玉は、ゾロの腹の上でくうくうと昼寝をしていた。
「こらまた…レアな光景だな。」
昼寝する犬の腹の上で昼寝する猫、という珍しい光景を、写真に撮っておけばよかった、とベックマンがようやく思い至ったのは、猫が目覚めてベックマンに驚いて逃げ出した後だった。
2007/12/27
「美猫」と書いて「びじん」と読む(笑) 小さなお茶会システム(笑)