ちびねこSS
● | ゾロ | ..... | 犬・3歳 |
● | サンジ | ..... | 猫・生後2ヶ月くらい? |
◇ 第一話 ◇
散歩から帰ってきて、晩のかりかりを食べ終わって、さて寝るか、と思っていたゾロは、夕闇にまぎれて微かに「みゃ、みゃ、」と猫の鳴き声がするのに気がついた。
どこか甘いような高い声に、ゾロは、冬に入ろうと言うのにサカってる猫共がいるのかと眉根を顰めかけて、…気がついた。
盛りのついた声ではない。これは、─────仔猫の鳴き声だ。
この寒さに耐えかねているのだろう、頼りない鳴き声は震えている。
─────捨て猫か。
ちっ…とゾロは小さく舌打ちした。
にゃあ、とちゃんと鳴けずに、みゃ、みゃ、と甘鳴きしてる声を聞けば、猫がどれだけ幼いかわかる。
「おい。」
暗闇に声をかけると、びくっと怯えた気配がした。
「んなとこで鳴いてたって母猫はこねェぞ。てめぇは捨てられたんだ。」
気配が、ひゅっと息を呑む。
「鳴いてる暇があったら寝床でも探すんだな。夜は冷えるぞ。」
「うるせぇ! わかってるよそんなこと!!」
思いもかけず気の強いシュガーボイスが返ってきて、ゾロは驚いた。
「おれはきのうだってきのうのきのうだってひとりでねたんだからなっ!」
言い返しながら闇の中から姿を現したのは、黒いちびっちゃい仔猫。
ゾロの鼻面程度の大きさしかない。
見たとこ生後二ヶ月か三ヶ月か、この夏に生まれた夏仔だろう、まだ全身がほわほわの産毛に覆われている。
「ならぴいぴい鳴くな。うるさくて眠れねェ。」
無下に言い捨てると、チビ猫はぐっと言葉に詰まった。
今にも泣き出しそうな顔をしている。
俯いて、その場にへたり込む猫の腹が、くー、と鳴った。
ああ、腹が減って鳴いてたのか、とゾロは気づく。
さてどうしたものか。
ゾロは自分のエサはさっき残さず食べてしまった。
ナミがいれば、あれは自分は仔を産んだ事もないくせによく捨て猫を拾ってくる奴だから、自分のエサを分けてやったかもしれないが、今の時期は寒いので、ナミも夜には家の中に入ってしまっている。
仕方ねェな、とゾロはため息をついて、
「おい、チビ、こっち来い。」
と呼んだ。
「ちびっていうな!」
威勢よく言い返してくる。
その元気の良さににやりとしながら、
「いいからこっちに来い。」
とゾロは尚も呼んだ。
すると仔猫は、とことことゾロに近づいてきた。
自分で呼んでおいて、あまりに無防備にチビ猫が近づいてくるので、ゾロは驚いた。
こんな警戒心のなさでよく生きて来れたな、と。
犬に、こんなにほいほい近づいてくるなんて。
近くまできたチビ猫は、ちっちゃな顔をあげてゾロを見ている。
ゾロがその気になれば一呑みに出来そうなくらい小さい。
ゾロに猫を食べる習性はないが。
寄ってきた猫のえりくびを、ゾロはひょいっと咥えて、腹巻の中に押し込んだ。
驚いた仔猫が腹巻の中でじたばたしている。
そのままゾロは犬小屋に入って、自分も横になった。
もがいていた仔猫が、ようやく腹巻から、ぷはっと顔を出した。
「なにすんだよっ!」
「いいから寝ちまえ。ここんちの人間は早起きだから、誰か起きてきたらおれが飯貰ってやるから。」
ゾロの言葉に仔猫がきょとんとする。
「…ほんとか?」
「おれは嘘は言わねェ。」
すると、チビ猫は、にぱっと満面の笑みを浮かべた。
「おまえいいやつだなっ。ありがとお!」
安心しきったような全開の笑みに、ゾロは思わず虚を衝かれる。
しばらくゾロの腹巻の中でもぞもぞしていた仔猫は、やがて位置を決めると、丸くなって寝息を立て始めた。
懐に入ったほわほわの産毛の毛玉は、小さいくせにゾロに驚くほどのぬくもりを伝えてくる。
そのぬくもりにうとうとしながら、ゾロは、こんな無防備な奴はちゃんと見ててやんなくちゃだめだなぁと考えていた。
2007/11/17