地に伏して恋歌を聞け
【弐】
「出すぜ、サンジ。」
ゾロが激しく胴震いした。
「ひううぅっ…!」
サンジが呻いて、ゾロの射精を受け止めている。
驚いたことに、いつの間にかサンジの性器も屹立し、ピンクの先端から白濁を零していた。
余すことなく、すべてサンジの中に注ぎ込んで、ゾロが大きく息をついた。
サンジは放心したようにベッドに沈んでいる。
正気をなくしたように茫洋と見開いた瞳からは、涙が後から後から流れていて、姿だけ見れば強姦されたようにしか見えない。
ゾロがサンジから体を離した。
ずるり、とサンジの中からゾロの砲身が引き抜かれる。
散々に犯されたサンジの後孔はぽっかりと穴が開き、そこからどろりと精液が垂れてきていた。
思わずパウリーがそこを凝視していると、後孔はひくひくと不規則に痙攣しながら閉まっていき、何も知らないかのような可憐な窄まりに戻っていった。
「大丈夫か? サンジ。」
自分で容赦なく犯しておきながら、ゾロが優しい声でサンジに聞いた。
するとサンジは、涙でぐしゃぐしゃの顔に、へらっと笑いを浮かべて、
「ん。」
と頷いた。
頭が遅れているのだろうか、このガキは。とパウリーは思う。
それほどにゆるそうな笑みだった。
ゾロは起き上がると、身動き一つできなくなっているサンジを無造作に抱えあげた。
そのままバスルームに歩いていく。
バスルームに二人の姿が消えると、パウリーはやっと息をついた。
口の中にあの淫売の後味が残っている。
自分のしたことが信じられなかった。
股間も隠しようもないほどに勃ち上がっている。
男の性器を舐めて、自分が勃起してしまったことに、パウリーは愕然としていた。
「おい、パウリー! 拭いてやってくれ!」
バタン、とバスルームのドアが開き、ずぶ濡れのサンジが出てくる。
慌ててパウリーは駆け寄った。
びちゃびちゃの体のまま、サンジが部屋に入ってこようとしているので、パウリーは咄嗟にタオルを取って、その痩身を包んだ。
仕方なくそのまま、ごしごしと乱暴にサンジの体を拭いてやる。
─────コイツは一人で体を拭くこともできやしねェのかよ…。
サンジはなすがままだ。
ガキだと思っていた痩身は、意外に背が高い。
体格差のせいで小さく見えていたが、背はゾロとそれほど変わらないかもしれない。
顎にうっすら無精ひげも生えていて、歳ももしかしたらゾロよりいくつか若いだけかもしれなかった。
せめて18才は超えててくれるといいのだが、とパウリーは暗い気持ちになる。
体のあちこちについた痕は、連日の荒淫を雄弁に物語っている。
子供が親に体を拭かれているように、サンジはぼうっと突っ立っている。
気のせいでなく、本当に精神の遅滞したガキなのかもしれない。
フランキーがサンジを“白痴のガキ”と呼んでいた事を今更のように思い出した。
もし、サンジが本当に頭が足りなくて、しかも17才に満たなかったら、ゾロのしていることは、未成年淫行の上に、知的障害者への性的虐待だ。
パウリーの内心を、冷たいものが撫ぜる。
こんな厄介な代物を、ゾロはいったいどこで拾ってきたのだろう。
うっかり考え込んで、パウリーの手が止まる。
それを拭き終わったと思ったのか、サンジがパウリーの腕からするりと抜けた。
「お、おい…。」
まだ拭けてねェ、と思わず言いそうになったパウリーは、
「ありがと。」
にこっと笑った、サンジのその邪気のない笑顔に虚を突かれた。
先刻までの淫らな様子などどこにも感じられない、幼さすら感じさせる笑み。
男にさんざん犯されていたのを見られた相手に、こんな無防備な笑みができるものなのだろうか。
台所に歩いていったサンジは、素っ裸のまま、食事の支度を始めた。
そのてきぱきとした手際のよさと、全裸のままという格好のちぐはぐさに、パウリーは、サンジという人間の判断がつかない。
天然なだけか、本当に頭が弱いのか、或いはそれを装ってでもいるのか。
「何だ、サンジ。いつまでまっぱでいやがる。」
バスルームから出てきたゾロが、サンジの格好を見て、あからさまに眉を顰めた。
その目が自分を睨みつけている事に気づき、パウリーは焦る。
冗談じゃない。このうえ、ボスの悋気まで付き合っていられるか。
パウリーは廊下で待たせてもらおうと、踵を返しかけた。
が、突然、その腕を強く引かれる。
ぎょっとして振り向くと、サンジが袖を引いていた。
「メシ。」
「あ?」
「くえ。」
サンジが食卓を指差す。
そこに三人分の食事が並べられているのを見て、パウリーは目を丸くした。
「お、俺の、分も?」
思わず問い返すと、サンジがこっくりと頷く。
「い、いや。俺はい…」
「パウリー。」
ゾロが不機嫌な顔のままパウリーを呼び止める。
「サンジの飯は断るな。…座って食え。」
苦虫を噛み潰したような顔でゾロはそう言い、先にどっかりとテーブルにつく。
ボスの顔を見れば、その言葉は彼の本意でないことくらいわかる。
だが、そう言われてしまった以上、ゾロの真意がどこにあろうとパウリーは席に着くしかない。
パウリーは躊躇いながら、ゾロの対面に座る。
素っ裸の淫売は、鼻歌を歌いながら給仕をしている。
「サンジ。」
ゾロの声にサンジが、ん?と振り向く。
「服着てこい。犯すぞ。」
脅すようにゾロが言うと、サンジは慌てて奥の部屋に駆けていった。
悪戯をして叱られた子供のような仕種。
見るともなしにパウリーがその後姿を見送っていると、不意に強い視線を感じた。
正面を向くと、険の篭った目でゾロがパウリーを見据えていた。
「アレをあんま見んな。」
今の今まで犯してる現場を見せ付けていたくせに、そんなことを言う。
入れ揚げてる、というのはどうやら嘘ではないらしい、とパウリーは嘆息した。
ロロノア・ゾロともあろう男が。
頭のいかれたガキに。
ぱたぱたと音がして、着替えたサンジが駆けてくる。
襟ぐりの大きく開いた黒い長袖のTシャツに黒いジーパンという何の変哲もない格好だが、その肌が白すぎるせいか、鎖骨まであらわになっているせいか、それはやけに艶めかしく煽情的に見える。
何故か目のやり場に困って、パウリーは下を向いた。
さっきまで散々、裸体を見てきたというのに、着衣の方が目のやり場に困るなんて、どういうわけだ。
下を向くと、並べられた食事が目に入る。
丁寧に盛り付けられたそれは、まるで料亭の食事のように美しかった。
誘われるように一口食べてみて、パウリーは更に驚く。
料亭の食事のよう、どころではない。
まるっきり一流料亭の如き味だ。
こんなものを作れる人間が、白痴だなんて事があるだろうか。
思わず顔を上げる。
サンジは、自分の食事などそっちのけで、ぽやんと柔らかな笑顔を満面に浮かべながら、食事をするゾロを見ていた。
見惚れている、といったほうがいいほどに。
その笑顔は、どこかねじの外れたような、熱に浮かされたような、ぼんやりとした笑顔だ。
陽だまりで微睡んでいる猫だって、もう少ししまりのある顔をしている。
こうして見ると、いかにも頭の悪そうな表情はともかくとして、サンジの外見は確かに美しい。
顔の半分を隠すように伸びた前髪はやや鬱陶しいが、却って丸く小さな頭の形を強調させている。
その髪が自前の純金なのは、もうさっき同じ色の体毛を見たからわかっている。
瞳はガラス玉のようにひんやりと透き通ったアイスブルーだ。
なぜか眉毛がくるんと巻いているが、そのせいでサンジの顔は更に幼く見える。
その幼い顔で、自分の食事もそこそこに、ぽうっとゾロを見つめている。
パウリーは完全に眼中に入ってないようだ。
ゾロがサンジの視線に気がついて、食事の手を止め、子猫をあやすようにサンジの顎の下を指で撫ぜる。
そうするとサンジは、へらっとした、更に頭のゆるそうな笑みを浮かべた。
完全に二人の世界だ。
セックスを見せ付けられていた時よりも今の方がずっと恥ずかしい、と思いながら、パウリーはやけくその勢いでその絶品料理に食らいついた。
□ □ □
それからはもう、パウリーは当てられっぱなしだった。
いや、パウリーだけではない。
事務所に下りてきたゾロは、傍らにサンジを伴っていた。
打ち合わせの間も、部下への指示の間も、サンジの腰に手を回したままだった。
サンジも嬉しそうにゾロにしなだれかかり、膝に座ってみたり、頬にキスしてみたりしている。
繁華街で辺りも憚らずいちゃついているカップルと大差ない。
周りの構成員達が目に入ってないのか、といいたくなるほど、二人は密着している。
しかも隙あらばゾロの手は、サンジの服の中に滑り込む。
部下が上がりの報告をしている最中も、ゾロの手は怪しげな動きを止めず、そのたびに「あっ…、あっ…、」という掠れた喘ぎが、サンジから漏れる。
事務所の中の部下の何人かは真っ赤な顔で前屈みになっている。
「…俺のいない間、ずっとこうだったのか?」
そうパウリーがひきつりながら傍らのヨサクに尋ねると、ヨサクはきまり悪そうに頷いた。
なんてことだ。
構成員でも何でもない者が、我が物顔で組織に入り浸っている。
馴れ馴れしい態度でボスにタメ口を叩く。
あげく、部下達の前でいちゃつく。
示しがつかない、どころの話ではない。
部下達だって、サンジをどう扱えばいいのか戸惑っている。
構成員として扱えばいいのか、ボスの
情夫 として敬語を使えばいいのか。もっとも、ゾロがサンジを片時も傍から離さない上に、自分以外と関わるのを許さないため、構成員達がサンジに話しかける事はほとんどないのだが。
それもまた困りものの一つだ。
色事に関心がないと思われていたゾロの、極端なほどの豹変ぶり。
サンジに対する、凄まじいまでの独占欲と嫉妬。
人が変わったとしか思えない。
ゾロがこんな有様では、組織の屋台骨が揺らぎかねない。
「若…、社長。そ…の人をどうしていくつもりなんですか。」
そいつ、と言いそうになり、一瞬躊躇して、その人、と言い直した。
こんな躊躇いは、これから先も増えていくに違いない。
ゾロがサンジの立場をはっきりさせない限り。
「あァ?」
めんどくさそうに問い返したゾロは、今まさに座った膝の上に対面でサンジを乗せ、Tシャツを捲り上げて、乳首に吸い付こうとしているところだった。
部下達は皆、見ぬふりすることも忘れて、食い入るように凝視している。
漆黒のシャツの下から現れた、真っ白な肌とピンク色の乳首。
女っけすらろくにない下っ端どもになどは、刺激が強すぎるだろう。
「何言ってんだ?」
「だから!
情夫 イロ なら情夫 イロ と、一言そうおっしゃってくれれば、俺達もそういう対応ができますから!」ゾロがパウリーのあまりの剣幕に、サンジの乳首を弄ることを諦めて、いかにもいやいやといった顔をパウリーに向ける。
「何言ってんだ?」
ゾロはもう一度繰り返した。
「サンジは
情夫 イロ なんかじゃねぇぞ?」「なら舎弟ですか? 舎弟なら舎弟らしく、若に対して敬語を使ってもらわないと…」
「なんで舎弟にしなきゃならねェ。」
「若!!」
パウリーが声を荒らげてもゾロは意にも介さない。
「サンジはサンジだ。
情夫 イロ でも舎弟でもねェ。」「それじゃ、示しが…!」
激昂しかけるパウリーを、フランキーが止めた。
「まァ待てよ、風紀委員長。」
「誰が風紀委員長だ!!」
パウリーの役職は“専務”だが、古参の幹部は、規律に厳しいパウリーをよくそう言って揶揄う。
今もフランキーがその呼称を口にしたことで、パウリーがむきになって振り返った。
その隙にルッチの鳩が、
『ポッポー そろそろ七武海との会食のお支度を。社長。』
とゾロに耳打ちした。
これ幸いとばかりに、ゾロがサンジを抱えたまま奥の部屋に引っ込む。
「どういうつもりだ、ルッチ!!」
パウリーが矛先を替えてルッチに食って掛かった。
それをルッチはまあまあといなす。
『落ち着け、パウリー。クルッポー 若い衆の前でする話じゃねぇだろう? ポッポー』
見回せば、構成員達は皆、固唾を呑んでパウリー達を見ている。
パウリーは、ぎり、と唇を噛んで押し黙った。
「おい! 若があのガキをどこで拾ったか、知ってる奴はいるか?」
腹立ち紛れに室内を見回して怒鳴ると、ジョニーとヨサクの二人が「は、はいっ!」と慌てた様子でまろび出てきた。
「お前達が同行してたのか? いつ、どこでだ!」
「は、はい、専務がウィスキーピークに行かれてすぐぐらいだったと思います。店回りの帰りに、道っ端でオカマが痴話喧嘩してやがって、うるせぇからってヨサクが蹴散らそうとしたら、そのオカマが社長の知り合いだったとかで、オカマバーに引っ張り込まれまして、」
「そうっす。そしたら、その店で働いてたのがあのサンジとかいうガキで、頭おかしいとかでへらへら笑ってるばっかしだったんすが、社長が、何を気に入ったんだか、持って帰るとか言い出して、オカマにごり押しして持って帰ってきちまったんす。」
「それからはずっとあの調子で…。」
聞きながら、パウリーは頭痛がしてくるのを抑えられなかった。
どっかりとソファに身を沈めて溜息をついた。
顔見知りのオカマ、と言うのは心当たりがある。
たぶん、『Oh! Come Way』というオカマバーのボン・クレーとかいう珍妙なオカマのことだろう。
だが、いくら馴染みの店とはいえ、行きずりでお持ち帰り、などというゾロのその警戒心のなさには絶句するしかない。
もしあのガキが敵の刺客か何かだったらどうするつもりなのか。
今までの様子を見る限りその線は薄そうな気もするが、その迂闊さはゾロとも思えない。
心痛の余りハゲそうだ、と、パウリーはまた重い溜息をついた。
ところが事態は更にパウリーに追い討ちをかけた。
会食に出かける時間になり、姿を現したゾロは、またしても傍らにサンジを侍らせていたのだ。
至極当然、という顔をして二人は密着したまま事務所を出て、地下の駐車場に向かう。
「社長…、まさか…、そいつを連れていく気ですか?」
呆然と聞くパウリーにも、ゾロは一切頓着しない。
二人でさっさと車に乗り込む。
「ちょっと…、ちょっと待ってください、社長!!」
パウリーが血相を変えて追いかける。
「ただの食事とはわけが違うんですよ? 七武海が全員集まるんです! ミホーク会長の顔に泥を塗る気ですか!!」
はいはい、とゾロがまるで取り合わないので、パウリーの焦りは尚募る。
「社長!!」
「パウリー、早く乗らねェと置いてくぞ。」
けろっとした顔で言われ、絶句したところを、フランキーにぽん、と肩を叩かれた。
「諦めな、風紀委員長。」