.*・゜゚・*.。.。.:*・゜恋人は土気色゚・*:.。.。.*・゜゚・*.
* 3 *
ゾロは今、人生最大の危機といってもいい事態に直面していた。
周りはゾンビだらけ。だがゾンビ達は、ゾロの周りを取り囲むだけでゾロを襲おうとはしていない。
それどころか、ゾロの周りに車座になって寛いですらいる。
そして全員がにやにやしながらゾロを見ているのだ。
ゾロの前にはさっきの犬ペンギン。
それが、「ほぉらやってみろ♪ そぉれやってみろ♪」と歌いながら、ペッタンポッタンと踊り、尻をぷりぷりと振っている。
ナミとロビンは、犬ペンがサンジらしい、と気づき、更に成り行きを知るや、さっさと二人連れ立って立ち去ってしまった。
ゾンビ達は口々に囃し立てながら、ゾロを酒の肴にしている。
「どうした、マリモ人間。やっぱ口だけだったか?」
ふふん、と犬っぺがせせら笑う。
目の前の犬ペンギンの姿はサンジとは似ても似つかないのに、その、人を小馬鹿にしたような笑い方だけはサンジにそっくりで、ゾロの頭に、かあっと血が上った。
「やれるかやれねェか、てめェの目でよく見やがれ!」
啖呵を切るや、ゾロは威勢よくズボンから己の陰茎を引きずり出した。
何でこんな事になったかと言うと。
犬ペンギンの中身がサンジだと確信した瞬間、すぐさまゾロは、犬っぺの首根っこを捕まえた。
すると、どこからともなくブルックが現れた。
「おおお、なんと! こんなにも早く恋人様を見つけられたのですね! なんという愛の力! ラブパワー!」
「ラブパワーはいいから、どうしたらコイツからコックの影を抜けるのか教えやがれ!」
「おおお、それは簡単です。彼の口から“あなたを愛してる”と言わせればいいだけです。」
「はあ!?!?!?」
ゾロと、押さえつけられている犬っぺが同時に叫んだ。
「あ…愛…?」
サンジからも言われなかった言葉を、この犬ペンギンから???
「冗談じゃねェ!! 誰がこんなマリモ人間愛してるか!!」
ゾロに押さえつけられたまま、犬っぺがじたばたともがく。
「ヨホホホホ! 愛があれば大丈夫!!」
「愛なんかねェ! ひとっかけらもねェ!」
無下に言い捨てるその容赦のなさは、まさにサンジを髣髴とさせて、ゾロの胸中穏やかならざるものが走る。
「さっきの美しいレディ達なら心から愛してると言えるが、誰がこんなむさくるしい男に!」
犬っぺがナミ達の名前を呼ばないことに、不意にゾロは気がついた。。
「コック、お前、まさか記憶が…?」
「ヨホホホホ、“影”は本体の記憶を持っていないのですよ。」
ブルックの解説に、ゾロが愕然と目を見開く。
「何…だと?」
サンジの記憶がない犬ペンギンに、自分を愛してるなどと言わせられるものなのだろうか…?
「だから愛してねェっての!」
「俺は愛してるって言ってんだろうが、このアホコック!」
「俺は犬っぺだ。“アホコック”なんて変な名前じゃねェ。」
「コックはてめェの職業だろうが! 忘れてんじゃねェよ!」
コックという職業に高い誇りを持っていたはずのサンジが、こんなにもあっさりと自分がコックであるという事を忘れてしまっている事実に苛立って、ゾロは犬っぺの胸倉を掴んだ。
だが犬っぺは、今の言葉から違うものを読み取ったらしい。
一瞬きょとんとした顔を見せた後、いやな笑いを浮かべた。
「…てめェ、愛してる奴を職業で呼んでんのか?」
ゾロがぎょっと息を呑む。
確かにゾロはサンジの名前を呼んだ事は一度もない。
だけどそれは。
「妙だと思ったんだ。この俺がマリモ男なんざ相手にするわけないし。もしかして俺、てめェにいいように弄ばれてただけなんじゃねェの?」
ゾロが蒼白になる。
記憶はない、と言っていたのに、犬っぺの言い草はまさにサンジそのものだ。
あまりにも。
「ふざけるな! 俺はちゃんと惚れてる!」
「へーえ? 体に?」
「体や見てくれじゃねェ! お前の魂そのものにだ!!!」
何故信じてくれない。
記憶を失ってまでも、ゾンビになってまでも、何故信じてくれない。
もうゾロは半ば泣きそうにすらなっていた。
周りで仲間のゾンビ達が興味津々といった目で傍観していなければ、本当に泣いちゃっていたかもしれない。
「へーえ、“魂”に。ふぅーん。」
犬っぺの目がせせら笑うように狡猾そうに光った。
「だったら、今のこの俺も愛してるはずだよな? 俺ン中の魂はてめェの愛してる“アホコック”とやらのもんらしいからな。」
犬の顔がゾロを覗き込む。
どこからどう見てもブルドックだ。
口からちょっと舌がはみ出ていて、ハアハアと生臭い息を吐いている。
その口が、仰天するようなセリフを吐いた。
「ならよう、マリモマン。ぜひ、この俺に欲情してみちゃあくれねェかな。できんだろ、見てくれ関係なく魂を愛してるってんなら。」
そんなわけで、ゾロは今、猛烈な勢いで己が性器を擦っている。
周りをゾンビに取り囲まれたままだから、公開オナニーだ。
え、それってなんていう羞恥プレイ。
何しろ、成り行きとはいえ犬っぺ相手に欲情しなくてはならない。
欲情という事はつまり、犬っぺで勃起しろとそういう事だ。
なのに、手の動きが高速すぎて見えなくなるほどの勢いで擦っても、もはや火が熾せるんじゃないかという勢いで擦っても、手の中のそれはぴくりともしない。
生きの悪いナマコのようにだらんとしたままだ。
ご自慢のマグナムだけあって大きさだけは立派だが、うんともすんとも言わないので、いよいよナマコっぽい。
さもあらん。
だって犬見て勃ったらそれって変態だろう、普通!
おまけにゾンビ!!
如何な惚れてるのは魂だと言っても、ものには限界がある。
しかも、可愛らしい犬ならまだしも、つぎはぎだらけで、ほっぺたがだらんとした、片目の潰れたブルドック。
体はペンギンだから、ぷりっとしたお尻が可愛いといえない事もないが、動物相手に勃起するっていうのはどうなんだろう、人として。
だが勃たせない事には話にならない。
事ここにきてしくじるわけにはいかないのだ。
ここでしくじったら、もはや復縁は望めまい。
それどころか、下手をすると永遠の別れだ。
だからゾロは必死になって自分の性器を奮起させようと擦る。
赤剥けるんじゃないかってほどの勢いで擦る。
なのにゾロちんは反応しない。
ぴくのぴの字もしない。
なんという正直者だ。正直にも程がある。
もはや高をくくっているのだろう、犬っぺはゾロの目の前でわざとらしく尻をぷりぷりと振りながら、ペッタンポッタン踊っている。
「イーンーポ♪ イーンーポ♪」
はやし立てる言葉もひどいことこの上ない。
まさに苦行。
無理です、ごめんなさい。と言えたらどんなに楽だろう。
魂に惚れてるとか嘘でした。やっぱり見てくれって大事です。
あのサラサラキラキラした金髪とか、すべすべの手触りのいい白い肌とか、くるんくるんの巻いた眉毛とか、快感に潤むと少し色が濃くなるアクアマリンの瞳とか、強靭な蹴りを放つしなやかな足だとか、引き締まって形のいい尻だとか、薄い胸板の上にぽつんと乗った桜色の乳首だとか、そういうの全てひっくるめて惚れていました。
けれど、決してその中に棲まう、この蒼く燃える焔のような魂を軽んじていたわけじゃない。
この魂が棲んでいたからこそ、あの器が愛しかったのだ。
例えば、サンジの見た目が今とかけ離れていたとしても、この魂に触れた瞬間、ゾロは恋に落ちていたろうと思う。
金髪じゃなくても、蒼い目じゃなくても、白い肌じゃなくても、ピンクの乳首じゃなくても、コックじゃなくても。
だが。
人間じゃないってのはどうにもハードルが高い。
だって犬。
だってペンギン。
だってゾンビ。生きてすらいない。
男の尻に突っ込んでも変態で済むかもしれないが、犬の尻に突っ込んだらもはや犯罪者の域に達しているような気がする。
獣姦で死姦で動物虐待だ。
まあ賞金一億二千万ベリーのロロノア・ゾロは、獣姦なんてリスキーな真似をしなくても既に充分犯罪者なのだが。
だがしかし、海賊として犯罪者になるのと、変態として犯罪者になるのでは、何かが雲泥の差だ。何かが。
そんな事をうっかり考え込んでしまったせいで、ゾロのマグナムは、ますます沈黙してしまった。
もうくってり。しなびたナマコ状態。
ふふん、と耳元でせせら笑う声がした。
「やっぱり無理なんだろ?」
顔を上げると、犬っぺが口元を歪めてゾロを覗き込んでいた。
ハッハッと犬っぺが呼吸するたび、饐えた腐ったような異臭が漂う。
妙に嗅ぎ慣れた臭気だと思い、すぐ気がついた。
ああ、…これは死臭だ。
死んでいるのだ。『サンジ』の魂を入れたこの器は。
ゾロの心臓が、真冬の冷気を吸い込んだかのように、きりりと痛んだ。
例え仮初めの器であっても、『サンジ』から死臭が漂ってくることが、ゾロの心にはこんなにも痛い。
黙り込んだゾロをどう思ったのか、犬っぺが更に距離を詰めてきた。
「見てくれが変わっちゃあ、欲情する事もできねェだろう?」
いっそ優しいとすら言ってもいいような、囁き声だった。
「魂に惚れてるなんざ、詭弁だと分かったかよ、マリモマン?」
犬っぺが口元を歪めて笑う。
「てめェは“コック”とやらの外側に惚れてただけなんだよ。体の快感を、恋愛と勘違いしてただけだ。」
犬っぺから出た言葉に、ゾロが呆然とする。
不意に、ゾロの脳裏に、先刻ロビンが言った言葉が蘇った。
『人は、生理学的変化と心理学的変化を区別する事ができない。異性と高い吊り橋を渡った時、その恐怖による興奮を、相手への恋心と錯覚してしまうのよ。』
犬っぺも同じ事を言っているのだ。
ゾロの恋心は、錯覚だと。
ゾロは『サンジ』への肉欲を、恋と勘違いしているのだと。
犬っぺが笑う。
「なぁに、気に病む事はねェ。人生は長いんだ。またすぐに好みの見てくれと体の奴が現れるさ。そいつは素直にてめェの求愛に答えてくれるかもしれないぜ? ゾロ。」
その瞬間、ゾロは全身が雷に打たれたような衝撃を受けた。
今、間違いなく、犬っぺは「ゾロ」と呼んだ。
知らないはずの名前を。
─────こいつ…! 記憶……!
傷つきやすいくせに強がって、嘯いて、突っ張って。
寂しがり屋のくせに甘え方も知らないで。
勝手に誤解して、勝手に決め付けて、勝手に自分から離れようとして、勝手に犬ゾンビになんかなりやがって。
ゾロの腹の底から猛然と憤怒が湧き上がってきた。
怒り以外のものも同時に。
「………無理かどうか、てめェの目でよく見ろと言った筈だ。」
我ながら、ぞっとするような底冷えのする声が出た。
しゅるり、と肩のバンダナを外して頭に巻く。
犬っぺがゾロの異変に気づき、ぎょっとして硬直した。
「お、お前っ…! 何で勃ってんだよっ…!?」
「犬ペンのてめェに欲情できたら、俺の愛を信じるっつったよなぁ? このバカコック。」
ゾロの性器は天を衝かんばかりに雄々しく勃ち上がっていた。
魔獣覚醒。
その瞳が、爛々と、その場の動物達の誰よりも、獣の光を放つ。
形勢逆転。
逃げ惑う犬っぺを、ゾロが追いかける。
「てめェ、犯してやる!!!」
「うーわーあああああ!! 犯されるーーー!!!」
仲間の動物ゾンビ達も慌てふためいて右往左往している。
「だだだだ旦那! 落ち着け!」
「いけねェ! そいつはいけねェ! 獣姦だから!」
「うっわ、旦那、デカイっすね!」
「うるせェ、てめェらそこどけ! その犬、ぐっちょぐちょになるまで犯してやる。」
「きゃあぁあぁあぁあ!!!」
ゾンビ達が野太い悲鳴を上げる。
止めたいが、止めたら最後、自分達が強姦されそうで止められない。
ちょこまかとすばしっこく逃げ回る犬っぺを、
「百八煩悩鳳!!」
ゾロが斬撃を飛ばして仕留める。
「!!!!!!!!!」
声もなく転倒する犬っぺを、ゾロは駆け寄って抱え上げた。
そして、息を荒げてぐったりしている犬っぺの体を、自分の顔の高さまで持ち上げると─────
「ヒッ!」
「うわっ!」
「ウソだろ…?」
ゾロは犬っぺの口に、思いっきりディープなキスをした。
犬っぺが、片方しかない眠そうな目を、限界まで見開く。
じたばたじたばたと力の限り抵抗する。
ゾロはちゅぽん、と唇を離すと、無言で犬っぺの体をひっくり返した。
ペンギンの尻がぷりん、と持ち上がる。
「まっ…待て待て待てェェェ!!! そんなバカデカいブツ、入るわきゃないだろうが! サイズを考えろ、クソバカマリモ!!! 貫通するって!!! 死ぬって!! もう死んでるけど!!!」
確かに、ゾロの股間でヘソまで反り返っているイチモツは平均よりもかなり逞しく、片や犬っぺはといえば身長は1mあるかないかというところで、こんなモノを突っ込まれたら確実に串刺しだ。
だが、完全に魔獣モードに入っているゾロは、全身に殺気を漲らせながら、持ち上げた犬っぺの尻に、無造作に自分の勃起を押し当てる。
「やややややめろ、ゾロ!!! やめろ、やめてっ…、─────らめぇッ! 犬っぺ壊れちゃうぅッッッ!」
犬っぺが絶叫した瞬間、ゾロの動きがぴたりと止まった。
助かった…? と、一瞬、犬っぺが気を抜いた途端、ゾロが、乱暴にぐいっと犬っぺの襟首を持ち上げ、思い切り怒鳴りつけた。
「どんなお前でも愛してるって言ってんだろうが!!! サンジ!!!」
犬っぺがびっくりした顔でゾロを見ている。
「てめ…、俺の名前……」
犬っぺが呆然と呟いた。
「照れくさかったし、大切すぎて名前呼べなかっただけだ。」
ゾロがぶっきらぼうに吐き捨てる。
こんな公衆の面前で大声で呼ぶ羽目になるとは思わなかった。
だが公衆の面前だからこそ、はっきりきっぱり言ってやる。
「サンジ。俺はお前に心底惚れてる。一生一緒にいたい。」
呆然と見開いていた犬っぺの瞳に、じわりと涙が浮く。
「ゾ、ロ…っ…!」
涙はみるみるうちに盛り上がり、ついには溢れ出した。
後から後から溢れ続ける。
「俺、もっ…! 俺も、お前が好きだっ…! 愛してる…!」
その刹那、犬っぺの口から黒い影が飛び出したかと思うと、その体は風船のようにしゅるしゅると萎んでぺらぺらの皮だけになってしまった。
「おい…、おい! コック!?」
ぎょっとして叫ぶゾロ。
「恋人様は元の体に戻ったのでございます。」
いつの間にか、ゾロの傍にブルックが立っていた。
「おめでとうございます。あなた方の愛は、全ての困難に打ち勝ちました! もう私、感動のあまり何も見えません! ガイコツだから、目は、ないんですけどォォォっ!」
ブルックの何もないガイコツの眼窩から感激の滂沱の涙が溢れていた。
つられて、ゾロを取り囲んだ動物ゾンビ達もええいああもらい泣き。
「泣けたッス! マジ泣けたッス!」
「うおおおおお、この素晴らしい愛をもう一度ー!」
「時に愛は心に目隠しするんっすね!」
「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけないー!」
「愛を止めないでー!」
「愛し愛されて生きるのさァァァ!!!」
いい加減にしろ、お前ら。
「さァ! 早く船に戻って、恋人様を抱きしめてあげてください!」
その言葉に、ゾロは弾かれたようにサニー号へと走り出した。
* * * * * * * * *
燦々と柔らかな陽光が降り注ぐ展望台に濡れた淫靡な音が満ちている。
「あ…や…ァ、もぉ…、や、め…」
哀願しながらすすり泣く、壮絶な色香を湛えた声。
「うるせェ、聞かねェ。ぐだぐだくだんねェ事ほざいて俺の純情弄びやがって。おしおきだ、おしおき。」
「な、何、が…、じゅんじょぉ…、あっ…、アッ…!」
突き上げると、サンジが白い頤を晒しながらのけ反る。
その真っ白な肌の色に煽られて、なんだか何かが許せないような気持ちになって、ゾロはサンジの首筋に噛り付く。
「ひゥッ!!」
途端に、びくんとサンジの全身が震えて、その華奢な後孔をこじ開けてズッポリ埋め込まれたゾロの完全復活して生きの悪いナマコを脱却した大業物一工を、きゅうっと締め付ける。
「んな嬉しそうに締め付けてんじゃねェよ。今日はゴムつけてねぇからてめェん中にぶちまけちまうぜ?」
─────まァ、さっきっからもう何発もぶちまけてっけどな。
サンジの耳元に口を寄せて、わざと淫猥に囁いてやると、またサンジの躰はふるる、と震える。
「誰がっ…! 嬉しそ、うぅッッッ………!」
「嬉しそうじゃねェか。てめェのちんぽもガチガチだろうが。」
勃ち上がって蜜を零すサンジのそれを、ゾロの手が擦る。
「やめ…、さわん、なっ…!」
抵抗のつもりなのか、サンジが緩慢に身をくねらせる。
だがそれはゾロの情欲を煽る役にしか立っていない。
ぐぷぐぷと濡れた音を立ててサンジの中に欲望を埋め込みながら、ゾロはサンジの屹立をぬるぬると扱いた。
「あああッ…、さわ、さわんな…、アアっ!」
のけぞるしなやかな肢体をこの世で一番美しいと思った。
反り返ってのたうちながら、サンジはそれでもしがみついてくる。
それをしっかりと抱きかかえて、ゾロはサンジの中を穿つ。
そこはまるで、放さないでと甘えるように、きゅうきゅうとゾロを締め付けてきた。
もっともっと甘えてくればいいのに。
もっともっと縋ってくればいいのに。
サンジを女のように庇護する対象として見ているわけじゃない。
ゾロが庇わずとも、サンジは充分に一人の足で立っていられる。
けれどそれとは全く別次元で、ゾロはサンジに必要とされたいのだ。
自分が、サンジを失えないと思っているように。
「二度と俺の心を疑うな。…サンジ。」
今までずっと呼び惜しみしていた名前を囁きながら口付けると、サンジの躰はひくひくと震える。
何を言われても、何をされても、ゾロから与えられる全てのものが、気持ちよくて仕方がない、という反応をサンジは返す。
それがどれだけゾロを幸せにするか、このぐるぐるコックはわかっているのだろうか。
「ッ…、クソ…。閉じ込めて頭っから食っちまいてェ…!」
たまらなくなって思わず吐露すると、サンジが、快楽に潤んだ瞳をちょっと見開いて、それから、ふっと笑った。
何が言いたげに口を開く。
「………………ゾロ………。」
けれどその唇から零れ落ちたのはただゾロの名前だけだった。
吐息混じりに呼ばれた己の名に、サンジのどんな気持ちが込められていたのか、ゾロはこれほど知りたいと思った事はない。
思いの限り抱いても抱いても、幾度愛を囁いても、どれほど躰の最奥に精を注いでも、一度たりとも自分のものにはなりえなかったサンジ。
─────俺も、お前が好きだっ…! 愛してる…!
だからあの時、犬っぺの口から漏れた言葉を、ゾロはすぐには理解できなかった。
ややあって、その言葉が、やっと言葉として脳に沁み込んできた時にはもう、犬っぺの体は萎びた包茎ちんこの皮のように縮んでいた。
「言えよ、サンジッ…!!」
もう一度、その口で。
ぐぷん、と音を立てて、サンジの躰の奥を犯す。
「ああああァッッッ!!!」
サンジが全身をがくがくと震わせる。
今まで、こんなに深くサンジの奥を暴いた事はなかった。
ゾロだって、自分のイチモツがどれだけ凶暴なものか充分に自覚があったから、ぎりぎりの理性で、それを根元までサンジの中に収める事は我慢してきたのだ。
けれど、今日はもう、そんな理性は完全に吹っ飛んでいる。
ただでさえ人並外れた長さと太さを兼ね備えたものが、今日は、更に欲望の赴くままに巨大に育っている。
太い血管をびっしりと張り巡らせ、サンジが欲しいと咆哮するが如くに脈打っているのだ。
それをゾロは、容赦なくサンジの中にねじ込んでいる。
サンジの躰が無意識に逃げを打っても、許さず押さえ込んで、自分の腰を叩きつけた。
「アアッ! あああッッ! や、あ、ああっ!! ゾロぉっ!!」
サンジの後孔からは、ゾロが既に何度も射精したものがかき混ぜられ、泡立ちながら滴り落ちている。
そのぬめりを借りて、ゾロは尚も深く深く、サンジの奥深くを、自分の性器で貫いた。
サンジの全身がぶるぶると震えて、勃ちあがったピンク色の性器からとろりと白濁が零れる。
ゾロよりも多く遂情しているその性器は、もう迸らない。
とくりとくりと白蜜を溢れさせる。
空っぽの前立腺を裏側からごりごりと擦られるのは、どんなにか辛い事だろう。
だけど今日だけは許してやれない。
失うかと、思ったのだ。
もう永久に、サンジの事を。
腕輪を外して、倒れて、腕の中で息もしなかったサンジ。
犬ペンギンに変わり果ててまでもゾロを否定したサンジ。
ゾンビと化したその体に死臭を纏いつかせていたサンジ。
何もかもが、ゾロにサンジの喪失を突きつけていて、ゾロはその瞬間、心の底から恐怖というものを感じたのだ。
失えない。
失えないのだ。この男だけは。何があっても。
ゾロの性器を飲み込んだサンジの中が温かいのが嬉しい。
ゾロを迎え入れて締め付けてくる強さが嬉しい。
全身から伝わってくる脈動が嬉しい。
もっとサンジの息吹を感じたくて、もっとサンジの魂を感じたくて、ゾロは、尚も萎えない己の剛直を、ぎりぎりまで引き抜いて、勢いよく最奥にぶち込んだ。
「やあああッッッ!!」
もう喘ぎなのか悲鳴なのかわからない声を上げて、サンジの躰が、びくびくと魚のように跳ねる。
限界まで開かれた足は、ひっきりなしに痙攣している。
それでもゾロはサンジを犯すのをやめなかった。
サンジも、一言もやめろとは口にしなかった。
そうだ。思い起こせば、サンジはこれまでの関係で、一度たりともゾロを拒絶する言葉を吐かなかった。
性欲処理だと言ったくせに、ゾロの恋心は勘違いだと言ったくせに、ゾロの腕だけは一度も拒まなかった。
いつでもたやすいほどあっけなく、ゾロに体を開いた。
この、プライドの塊のような男が。
それがどんな意味を持つのか、ゾロは今まで考えたことがなかった。
もしかしたら。
もしかしたら最初から、サンジの心はゾロの傍にあったのだろうか。
たまらない気持ちになって、ゾロはサンジの躰を抱きしめた。
「ちくしょう…! 二度と離さねェからな! お前は一生俺といるんだ。一生俺と添い遂げるんだ。俺と共に生きて、そんで俺と共に死ぬんだ!!」
子供の駄々のように、ゾロはサンジを抱きしめて喚いた。
喚きながら、サンジの奥を犯し続けた。
そうして、何度も何度もサンジの名を呼んだ。
ゾロの最大限にまで育ったモノを奥まで受け入れて苦痛でないわけはないのに、サンジの口元には笑みが浮かんでいる。
硬く雄々しい屹立で最奥を穿たれて、声が掠れるほどに喘がされても、サンジは、涙を浮かべたまま、緩く微笑んでいた。
時折、ぽろりと真珠のような涙がその蒼い瞳から零れ落ちる。
けれどサンジの顔から、その幸せそうな笑みが消える事はなかった。
* * * * * * * * *
「愛よねェ…。」
ナミがラム酒を啜りながら言った。
「愛ね…。」
ロビンもにこやかに答えてグラスを傾ける。
「愛でございますねェ…。」
ブルックが感無量、と言った感じで呟いた。
「何でお前までサニー号に乗ってるんだよ…。」
フランキーが突っ込む。
「まあ、いいじゃねェか。」
船長が、にししし、と笑う。
「ちょっと怖かったけど、楽しかったなあ、スリラーバーク。」
チョッパーはゾンビからわたあめを貰ったらしい。
「んなことよりもよぉ……………」
ウソップがげんなりした顔で手の中のグラスをがぶ飲みした。
「誰か展望台に教えてやれよ。拡声器オンになったままだって……。」
サニー号の甲板には今、サンジの艶めかしい喘ぎ声が響き渡っている。
あまりにもいたたまれなくて、クルー全員アクアリウムバーに集まっているのだが、フランキー作成拡声器の性能が良すぎて、バーの中にまで声は漏れて聞こえてくるのだ。
真っ昼間だというのに、しかも行楽帰りだというのに、クルー全員が酒をかっくらっているのはこういうわけだ。
仲間の、しかも男の喘ぎ声なんて、とてもじゃないがシラフじゃ聞いていられないのだ。
女性陣だけはそれを肴に酒を飲んでいる、と言った風情だが。
「言いに行ったが最後、サンジくんに蹴られてゾロに斬られるのがオチだと思うけど。」
「だよなぁ…。」
ウソップは溜息をついて、そそくさとバッグから耳栓を取り出して、クルーに配り始めた。
男連中は全員素直にそれを耳に詰める。
「私は詰める耳がないんですけど! ガイコツだから!」
ヨホホホホ、とブルックも笑いながら耳栓を受け取る。
「っていうか、だから何でお前いるんだよ。」
「それより、特殊メイクって嘘よね。ガイコツよね、あんた。」
「ヨホホホホ、特殊メイク、特殊メイク!」
「…まだ言い張るか…。」
『ウソップ耳栓』を無事装着終えた男性陣は、本格的に酒盛りを始めたナミとロビンを残して、男部屋へと下りていった。
男部屋までは声は響いてこない。
ちょうどいいからこれからお部屋でみんなお昼寝タイムだ。
何しろ、みんなスリラーバークで遊び疲れていたのだから。
麗らかな陽光の下、芝生がそよそよとそよぐ甲板には、全身余すところなく可愛がられたコックさんの甘ったるい啼き声が、やんなるほどいつまでも響いていた。
END.
2007/10/30
* BACK *
初出/同人誌「土気色のマーメイド」ゲスト原稿
発行/heart beat様・2007.11.18
イラストはBUGGYBEEN・まめ蔵さん・同人誌裏表紙。
画像クリックででかいイラストになります。