.*・゜゚・*.。.。.:*・゜恋人は土気色゚・*:.。.。.*・゜゚・*.

 

* 1 *

 

「好きだ。」と言ってみた。

 

 

「はあァ???」と素っ頓狂な声で返事をされた。

おまけに、

「何の冗談だ? あァ?」

と、殺意を滲ませた三白眼で睥睨すらされた。

だもんでゾロは思わず、

「だよなァ。」

と、しみじみ返答してしまった。

途端にコックさんの額に、びしっと太い血管が浮く。

次の瞬間、凄まじい衝撃がゾロの脳天を襲った。

ぷりぷりと湯気を立てながらラウンジに戻っていくコックさんの背後で、ゾロは蒼天を仰いで大の字になっていた。

 

 

空が青いなぁ…。と思った。

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

さて、ロロノア・ゾロ(19)が同じクルーであるところのコックさんに、やんごとなき関心を抱くに至ったのはかなり前に遡る。

かなり前には遡るのだが、その時はまだ自覚がなかった。

むしろムカムカするいけ好かない奴、と思っていたのだ。

それが実は、ムカムカではなくてムラムラだったと気がついたのは、アラバスタの風呂辺りだっただろうか。はたまた空島のピンクのシャツ辺りだっただろうか。

とにかく気づいてしまったらそれはまごうかたなく恋心であったのだ。

戀!!

自慢じゃないが、一番自分には縁遠い言葉だと思っていた。

剣士たるもの恋などに現を抜かして何の大志の成るものか。

しかも相手は男だ。

あまつさえこれまでケンカを繰り返してきた相手だ。

しかしながら惚れてしまったのだからしょうがない。

それに、ゾロが惚れたサンジという男は、コックという職業柄、作る飯の美味なるは他に比類なく、コックでありながら強きこと一味の主力の一端を担い、姑息に策を巡らせる小器用さを持ち合わせ、且つ、時に慈悲深く、時に情け容赦ない。

金髪は古来より美人の象徴だし、色白は七難隠すというし、しなやかでぷりっと引き締まった尻はまさしく柳腰と呼ぶに足るし、くるりと巻いた眉毛は愛嬌があって可愛らしい。

別にゾロは巨乳フェチじゃないからサンジの乳がまっ平らでも構わないし、むしろ、桜の花もかくやと思うほどに可憐なピンク色の乳首はまさしく垂涎の逸品ですらある。

唯一の欠点かと思われた男であるという点についても、そもそも女房子供などというものは剣の妨げになると忌避してきたものなのだから、女でもなく孕みもしないというのは、却って理想的ですらあるといっても過言ではない。

つまりサンジはゾロの伴侶となるに何ら遜色がない。

それどころか完璧。パーフェクト。非の打ち所なし。

だがしかし。

ゾロは自覚に至るまでに、少々サンジを虐め過ぎていた。

だってサンジ君可愛いんだもん。

アホだのバカだのクソだのぐるぐるだの素敵マユゲだのダーツまゆげだの信用できねェだの料理しか取柄はないだのと思いつく限り言い垂れていたら、気がつけば、今更サンジに好きだと言っても、全く信じてもらえない状況になっていたのだ。

 

だよなァ。

俺がコックでもここまで悪口言われた相手から好意は感じ取れねェわ。

 

だから今のこの状況はゾロが悪い。全てにおいて。

好きだから虐めちゃいました、なんて言い訳がきくのは、せいぜいが小学校低学年までだ。

十九歳にもなってそれをやるのはおバカさんだけだ。

やってしまったロロノア・ゾロ(19)に弁解の余地はない。

とはいえ、このままサンジを諦めるつもりもない。

思い込んだら命がけのさそり座なのだ、ゾロは。

さそりの星は一途な星なのだ。

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

 

だからといって、強姦という手段をとるのはどうだろう。と、さすがのゾロも煩悶した。

全ての事が済んだ後に、である。

これを、『後悔先に立たず』、という。

立たなかったのは後悔だが、ちんこはしっかり勃っていた。

しかも大変気持ちよく発射させていただいた。

いよいよもってゾロは、自分が弁解のきかない立場に追い込まれた事をいやというほど自認した。

はあ、と、大きな溜息をついて、ゾロは、絶望的な気持ちで傍らに目をやった。

そこで力なくぐったりと横たわる白い裸身に。

 

 

ゾロがサンジに「好きだ」と告白し、サンジから渾身の踵落としを返された後、ゾロは、猛然とサンジにアタックを開始した。

周りに他のクルーがいようがいまいがお構いなしに、サンジに「好きだ」を連発し、女達を威嚇まがいに牽制すらしてみた。

サンジは怒り狂ったが、クルーはみんな、生温かい目でゾロの恋心を応援してくれた。

ナミは「誰もサンジ君を取りゃしない」と確約してくれたし、ルフィは明らかに面白がっていたし、ウソップはゾロが発狂したのかと本気で心配してくれたし、チョッパーは動物界における同性愛事情を詳らかに説明してくれたし、ロビンに至っては、微に入り細に入り、よりディープかつグローバルなホモなトリビア、略してホモビアを懇切丁寧親切に教えてくれた。

ちなみに、野生動物の世界においても、同性間でつがいになったり交尾をしたりするのはわりとよくある事らしい。

なんとなく無駄に自信をつけたゾロであった。

ところが、仲間のそんな後押しがサンジの逆鱗に触れた事は言うまでもなく、ゾロとサンジの仲は以前にも増して氷河期の如く冷え切ってしまう事態になった。

怒ってくれるのならまだいい。

サンジの怒る顔を、ゾロは嫌いではない。というより好みだ。

つんと取り澄ましたような白い貌が、ぱぁっと紅潮して、機関銃のように罵詈雑言をまくしたてる。

その変化は劇的ですらあって、サンジのそんなところもゾロは大変にお気に入りだった。

だが、怒りが沸点を遥かに越えてしまったサンジは、罵倒すらしてくれなくなった。

冷たい冴え冴えとした目で、ゾロを無視するようになった。

これにはゾロも少々堪えた。

構ってくれるから挑発していたのに、却って無視されるようになってしまったのだから。

困ったなと思いつつも、ゾロが、さそりの星の宿命に従って地獄の果てまでついていかんばかりにサンジを掻き口説き続けていたら、ある日突然、サンジが、

「お前の“好き”って何?」

と、聞いてきた。

皆が寝静まって、二人きりになったラウンジでの事だった。

すわサンジが遂に我が本意を得てくれたかと狂喜乱舞して、その問いに答えようとしたゾロだったが、はたと困り果てた。

「…好きは好きだ。何っつわれても好き以外のなんでもねぇ。」

禅問答のような返事しか出来なかった。

サンジは無表情でゾロを見据えている。

日頃のサンジが人一倍表情豊かなだけに、目の前の能面のような顔は、見も知らぬ他人のような違和感をゾロに与えた。

「お前のさァ、好きっつう意味がよくわかんないんだよね、俺。」

いっそ穏やかといえるほど静かに、サンジが言った。

「俺に“好き”っつって、何がしたいの、てめェ?」

「何…って…。」

ゾロは口ごもりつつも答えた。

「一緒に過ごしたり…」

「毎日同じ船の中だろうが。」

「二人で買い物とかしたり…」

「買い出しに付き合わせた事あるよな?」

「お前の作った飯食ったり…」

「食ってんだろ毎日。俺はコックだぜ?」

「二人で一緒に風呂入ったり…」

「アラバスタで入ったよな。」

「え、エロい事したり…」

「そこだよ、ゾロ。」

不意にサンジが語調を変えた。

思わずゾロは、どこ?と辺りを見回してしまった。

「きょろきょろすんな、バカ。そういう意味じゃなくてよ。基本的に俺らファミリーだろうが。だから、お前が今言った買い物だの飯だのなんてな、お前がいちいち好きだの何だの言わなくたって、これまでもできてたし、これからも変わらねェだろ?」

サンジの言葉に、ゾロはどこか腑に落ちないものを感じつつも、反論の余地がないので黙って頷く。

「俺だって、ぶっちゃけお前の事を本気で嫌ってるわけじゃねェ。ファミリーだかんな。マリモでサボテンで腹巻だが、一本芯が通ったとこやら戦闘能力の高さやらには正直一目置いてるとこも無きにしも非ずだ。飯も残さねェし、好き嫌いもねェし、ちゃんといただきますも出来て偉い。お前の事を好きか嫌いかのどっちかに絶対入れろっつったら、まァ、好きの端っこくらいにゃあ入れてやるのもやぶさかじゃあねェ。」

なかなかにサンジの言い方は回りくどい。

だからゾロは眉間に縦じわを刻んでサンジの話を聞いた。

「でもそれは、ルフィやウソップに対してだって同じ事だ。同じように俺は好きだし大切に思う。だから尚更、お前のそのバカの一つ覚えみてェな“好きだ”の連発がわかんねェんだわ。俺。」

「だからそれは……!」

「それでさ、」

焦って口を開きかけたゾロの言葉を、サンジが強引に遮った。

「どういう意味か聞いたんだが、今の答えでよくわかったよ。」

何をどう、わかってくれたというのだろうか。

ゾロは息を詰めてサンジの口が開くのを待った。

 

サンジはその双眸に軽蔑の色を浮かべて、こう言い放った。

 

 

「お前、単に溜まってんだよ。」

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

 

それからの事を、ゾロは断片的にしか覚えていない。

 

それほどに衝撃的な一言だった。

 

違う、そうじゃない、と何度も言ったゾロの言葉を、サンジは綺麗に無視して、ゾロの恋心は単なる性欲だと切って捨てた。

男のサンジに欲情している事を、お前はホモかと揶揄われた。

ホモに付き纏われるのは初めてじゃない、とまで言われた。

バラティエ時代、その容姿ゆえに如何にその手の男客からの秋波に辟易したかを自慢げに滔々と語られた。

ゾロは、自分の想いが否定された事に憤り、サンジに懸想した過去の男達に嫉妬した。

あげく、サンジは自分からネクタイを外し、蠱惑的な視線と扇情的な言葉で、ゾロを誘いさえした。

 

 

挑発されてると気がついた時には、もう頭に血が上っていた。

 

 

丸っこい頭を鷲掴みにして床に叩きつけた事は何となく覚えている。

 

シャツを引きちぎった辺りはかなり記憶が曖昧だ。

怒りなのか何なのかよくわからないものにゾロは呆気なく我を忘れた。

破ったシャツの間から覗いたサンジの肌の白さに目が眩んだ。

触れた肌の、絹地の如きなめらかさに理性が飛んだ。

淡い桜色の乳首に歯を立てながら舐め啜った。

尿道に舌を捻じ込みながら、後孔に指をこじ入れた。

乱暴に突き入れた、猛る欲望を包み込んだ狭さと柔らかさと熱さに、無我夢中になった。

押し殺しきれずに漏れる、掠れた喘ぎに全身が震えた。

身も心も溺れて、ありったけの欲望をサンジの中に放った。

 

 

…我に返ったのは、何もかもが終わってからだ。

 

 

何度目かわからない射精を終えて、体から急速に熱が去った瞬間、それはいきなり目に入ってきた。

 

自分の体の下でぐったりとしている白い肢体。

ぎょっとしてよく見れば、白い肌のあちこちに吸ったり噛んだりした痕が生々しく残っていて、陵辱以外の何ものでもない。

裂かれたシャツは、もはや服としての形態を成していない。

我ながらどうやったのか革のベルトが乱暴にちぎられている。

脳天から一気に血の気が引いて慌てて体を起こせば、自分の性器はまだ相手の中に入ったままで、ずるりと引き抜くと、ぐちゅりと濡れた音がして、腫れて赤く充血した後孔から、僅かに血が絡んだ白濁液がどろりと大量に溢れてきた。

自分一人でどれだけ射精したんだと思うほどの量だった。

 

よく見れば、サンジの腹や床にも精液が散っていて、どうやらサンジも射精したらしい事に、ゾロは縋るように安堵した。

たとえ生理的な反射だとしても、サンジが幾ばくかでも快楽を感じてくれたのなら、それだけでも救われるような気がした。

 

ほんの爪の先ほどの微々たる救いでしかなかったけれど。

 

サンジは抵抗らしい抵抗はしなかった。

悲鳴も上げず、やめろとも嫌だとも言わなかった。

目が合った時、嘲るように笑ってみさえした。

 

サンジは自分の体で証明してみせたのだ。

ゾロのサンジへの想いが、単なる肉欲だと。

 

蔑んで、貶めた。

鮮やかなほどに。

 

それに気がついた瞬間、ゾロはあまりの絶望感に眩暈を覚えた。

 

「ちくしょう…!」

ゾロは渾身の力で、拳骨を床に叩きつけた。

信じてもらえない事が悔しくて悔しくてならなかった。

ゾロを否定するためだけに、いとも簡単に自分の躰を投げ出して見せたサンジが、腹立たしくて情けなくてならなかった。

ゾロが、後味の悪い慙愧の念に苛まれながら、サンジの躰を浴室に運んで、サンジの赤く腫れぼったくなって精液にまみれた後孔を、丁寧にぬるま湯で洗うのを、サンジは、どこか投げやりな目でただ見ていた。

「すまなかった」とゾロにしては珍しく殊勝に詫びたけれど、サンジは何も答えず、無表情だった。

 

 

 

次の日、サンジはもう昨夜の事などなかったかのようにいつも通りのコックだったが、ゾロは改めて「本当に悪かった」と頭を下げた。

その上で、「それでもやっぱり俺はお前が好きだ」と真摯に告げた。

ところがサンジは、一瞬、目をぱちくりさせた後、すぐに、まるで男娼のような淫蕩な笑みを浮かべて、

「何? 姦り足りなかったか? 今夜もスル?」

と、襟を寛げて、その首筋の赤い吸い痕を見せつけたのだ。

ゾロは絶句した。

あくまでも人を茶化すような態度のサンジに憤り、同時に、白い肌に己がつけた赤い刻印に幻惑された。

しかも、一度覚えたサンジの肌の感触は忘れがたく、…とどのつまり、ゾロはついその夜もサンジを抱いてしまったのだ。

 

三界一の大馬鹿者と言えよう。

 

だが、良くも悪くも諦めの悪いのがロロノア・ゾロである。

それは幼少のみぎりから遺憾なく発揮されている。

二刀流で挑んで二千戦して一勝も出来なかったくいな。

あの少女に勝つ事は、もう永久にできなくなったけれど、あの敗北の悔しさは忘れない。

刀二本で勝てなかったから、刀を三本にした。

ここら辺りの発想は大変に子供らしい。

もっとも、おかげで三刀流のゾロの名は不動のものとなったのだから、あにはからんや。

 

ゾロは、自分の目標を下方修正した。

口で言っても伝わらないのなら態度で伝えよう。

サンジが、ゾロの想いを愛情ではなく性的欲望だとしか認めないのなら、いっそ体で虜にしてしまおう、という単純明快かつ短絡的な思考。

三刀流になったいきさつと発想はあまり変わりない。それもどうか、ロロノア・ゾロ。

だがしかし、そもそもサンジという男は情が深い。

物にでも人にでも、すぐに感情移入して許容してしまう。

如何な嫌いな相手といえども、毎日のように肌を合わせ恋人のようにいちゃついていれば、さすがに情も移るはずだ。

しかもその間、ゾロはサンジとエロい事し放題だ。

古今東西ありとあらゆる性戯の粋を尽くして、サンジの性感の開発に勤しむも良し、ゾロでなきゃイけなくなってしまえば尚良し。

これを一石二鳥と言わずして何ぞや。

そのままなし崩しに絆されてくれればめっけもんだ。

ある意味、非常にポジティブシンキング。

そんなわけで、伴侶候補から一躍セックスフレンドに成り下がったゾロではあったが、それなりに前途は洋々であった。

 

じっくりと味わえるようになったサンジの躰は格別だった。

ノースブルーの女は肌が綺麗で抱き心地がいい、と海賊狩りをしていた頃に小耳に挟んだことがあったけれど、男もそうだとは知らなかった。

白磁の肌はなめらかできめ細かく、引き締まっているくせに潤うような弾力があり、えもいわれぬ感触で、どこか淫蕩で艶やかだ。

凌辱の日、あれほどまでに我を失ったのは、怒りのせいだけではなかったのだ、と改めて気づかされた。

サンジの躰に、男を惑わせるような魔性が潜んでいるのだ。

ゾロはすぐにサンジとのセックスに夢中になった。

伴侶にしたいとまで惚れた相手とのセックスだ。溺れない筈がない。

サンジの抵抗が甘いのをいい事に、ゾロは隙さえあれば、昼といわず夜といわず、サンジを手近な物陰に引っ張り込んではその妙なる肢体を思う存分貪った。

抱いても抱いても、まだ足りなかった。

発情期の犬よりもハァハァとサカっているゾロを、サンジは強姦魔だの色情魔だの言いたい放題だったが、ゾロは涼しい顔をして右から左に受け流した。

嫌だったら死ぬ気で抵抗すればいいのだ。

抵抗しない時点でサンジも受け入れてるのと同じだ。

本気で抵抗しないサンジが悪い。

なぜサンジが抵抗しないのか、とまでは、思い至らなかった。

いや、ちらりと頭を掠めはしたが、ゾロの想いを肉欲だと決め付け、それをサンジ自身の躰を使って証明してみせた以上、後に引けなくなったのだろう、くらいにしか思っていなかった。

ゾロもまた、いっぱいいっぱいで冷静さを失っていたと言えよう。

 

もっとも、サンジとの事でゾロが冷静だったことなど、『狩り勝負』でも『プリンス』でも『ボールマン』でも、覚えてる限りじゃあ一度もいのだが。

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

 

サウザンドサニー号は大型のスループ船だ。

新しく仲間になったフランキーは、各クルーが快適に過ごすための個室を用意してくれた。

ゾロには、見張り台をかねた展望台に本格的なジム。

日がな一日、ゾロはここで鍛錬をしている。

小腹が空いたな、という頃になると、タイミング良く「野郎共、おやつだ!」という声が聞こえてくる。

条件反射のようにぐーっと腹が鳴るが、ゾロはぐっと堪えて待つ。

何故なら、そうするとコックの方からおやつ片手に来てくれるからだ。

ちなみに、言うまでもないが、『野郎共』の中に女は含まれていない。

あのアホコックは、へらへらと女共にさんざん媚びを売ってケツを振ってひとしきりお給仕とやらをしてやってから、残りのクルーを呼んでおやつを振舞うのだ。

あの徹底した女尊男卑っぷりは、もはや感心すらする。

正直言えばゾロは面白くない。

だからこそ、サンジがナミにアホ面晒しているのを見ると、いちいちケンカを売らずにはいられなかった。

だが。と、ゾロは、鍛錬の手を止めて、壁にもたれかかってどさりと床に腰を下ろした。

─────俺はナミも知らねェコックの顔を知ってる。

平素とは打って変わった、潤んで蕩けた甘い蜜のような表情。

コックのあの極上の痴態を知っているのは自分だけなのだ。

ゾロだけが見る、ゾロの為だけの顔。

歓喜で眩暈がしそうだ。

思いだして、うっかりゾロの股間が反応しかける。

その時、展望台へのはしごを上ってくる気配がした。

ゾロは軽く目を閉じて、にやりと笑った。

「何だ。まじめに鉄団子振ってんのかと思ったら寝てやがんのかよ。しかたねェマリモだなあ。」

ふわりと甘い匂いとともに、つっけんどんな憎まれ口がした。

その憎まれ口がゾロにはもうたまらない。

ゴクツブシだ無駄飯食いだと野放図に言いたい放題なのに、サンジを取り巻く空気はいつも優しくて甘やかだ。

それはこのサンジを包む甘い匂いのせいかもしれないし、憎まれ口を叩きながらもわざわざおやつを持ってきてくれるような気質のせいかもしれない。

以前は癇に障って仕方なかったサンジの悪口雑言は、体を繋ぐようになってから、ゾロには睦言にしか聞こえなくなった。

「ほら、おやつここ置くぞ。とっとと食え。」

トレイを置こうとするサンジの腕を、ゾロが掴んで強く引く。

「うわっ…!?」

がしゃん、とトレイが床に落ちたっぽい音がしたが、そこいらへんはゾロ的に華麗にスルー。

「ッッてめェッ!!」

食って掛かってきそうなのを、上手投げの要領で柳腰を引き寄せて、力任せに押し倒して、

「んじゃイタダキマス。」

と、サンジの唇に噛みついた。

「んんーーーッッッ!!!!!!」

おやつの味見をしたのか、自分の分は先に食べたのか、サンジは匂いだけじゃなく口の中も甘い。

「ば、かやろ…! 食えって言ったのはおやつだ、俺じゃねェ!!」

そんな抗議も華麗にスルー。

もがく躰を押さえつけてキス続行。

ちょっと潮風でパサつきぎみだけどサラサラな髪に指を通しながら、ちっさい頭を逃がさないように固定して、しつっこくねちっこく、ゾロはサンジの口の中を舐め回す。

この関係の始めの頃、サンジは、「セフレなんだからキスは嫌だ」と、かたくなに抵抗していた。

だが当然の如くゾロは「そんなの知ったことか」とばかりに無理やりサンジの唇を奪った。奪ったどころか、エロ親父ばりに口の中じゅう舐め回して舌を吸いまくってやった。

だってゾロはセフレだけに治まる気なんかさらさらない。

「俺はお前に本気で惚れてるから口だって吸う。」

男らしくそう宣言して、サンジが窒息しそうなほどキスを繰り返した。

「待っ…! ゾ…!」

サンジの抵抗はいつも初めだけだ。

深いキスを繰り返すと、すぐにくってりと力が抜け、躰を預けてくる。

蒼いビー玉みたいな目はうるうると熱っぽく潤んできて、磁器のように白い頬は薄い桃色にぽやっと上気してくる。

可愛いなんて生易しいものじゃない。

何なんだこの生き物は。

できあがりかけたサンジを手早く剥く。

正気に戻るとまたぎゃあぎゃあうるさいから、目がとろんとしているうちにさっさと剥く。

とっとと剥く。

こんでほぼ完全攻略完了。

そして剥きたて茹で卵の如きお肌を存分に堪能するのだ。

甘やかすように唇にちゅっとキスしてから、耳たぶを軽く噛む。

「んッ……!」

それだけでサンジはぴくんと身を竦ませる。

首筋も弱い。

舌先でつうっとなぞるだけで、サンジは竦ませた躰を色っぽくくねらせはじめる。

首筋から鎖骨の輪郭を唇と舌で確かめながら、ピンクの乳首を、きゅむっと摘まんでやる。

「ふ、アッ……!」

これでもう可愛らしく喘ぎ始める。

尚もきゅむきゅむと乳首を捏ね繰り回していると、

「…ッ……ん…ッ…、…あァ…、……ぁ…!」

と、喘ぎはどんどん甘ったるくなる。

ちょっと弄っただけで、とたんに可愛らしくなるコックさんに、ゾロは思わずにやりとした。

もっともっと可愛くしてやる。

とろけるように愛してやる。

小さいくせに、つんと尖り始めた乳首を、転がすように舌であやす。

「あ…、あっ…、ア、ぁ、んんッ…!」

もう初めての時のような乱暴はしたくなかったから、ゾロはサンジの躰がとろっとろに蕩けるまで舐め回す。

全身舐め回して、ようやくサンジの性器までたどり着くと、そこはもう蜜をとめどもなく溢れさせながら勃ちあがっている。

そこも当然しゃぶって舐めて啜りまくる。

後孔だって舌を突っ込んで舐め回す。

「ふ、ゥあ…ッ…、や、アアっ…!」

そうすると、サンジは壮絶によがりはじめる。

その色気たるや高級娼婦だって足元にも及ばないと思えるほどだ。

「やめ…、や、あああっ!! やめろッ…ああっ…!」

だから、サンジが嫌がって恥ずかしがって泣きが入るまで舐め回す。

「ひぁっ…、ゾロっ…、も、や…、やだ、や…、ひぃッ…!」

そうして、サンジの乳首と同じ色のぷるぷるした性器から、とぴとぴっと遂情の二〜三回もして、ひんひんぴぃぴぃ本格的に啼き始めたら、ようやっと、子作り防止ゴム風船完全装着済みのゾロちんMAXを挿入して、サンジの一番感じるところをこりこりと擦ってやるのだ。

「あああーーっ! ああっ…アーーッッ!!」

勿論、装着目的は子作り防止の為でなくサンジのお腹の安全の為だ。

こんなにこんなに気を使って恋人を抱く俺様偉い。えっへん。

 

…なんて悦に入ってたらば。

 

 

「お前ってほんと、俺の体だけが目当てな。」

 

サンジから血の気が引くような事をあっさり言われた。

ざーっと一気に引いていった血の気が、次の瞬間には、猛烈な勢いで脳天まで駆け上がる。

「ふざけんなッッッ!!!!」

思わず怒鳴った。

「こんなに俺が精魂込めて抱いてやってんのに、“体目当て”だと!? バカにすんのもいい加減にしろ!!」

だが激昂するゾロに比べて、サンジは淡々と見えるほどに静かだった。

「バカになんかしてねぇよ。むしろ、俺の方だろ、バカにされてんのは。」

「なん、だと…!?」

「精魂込めて抱いて“やった”から“本気で惚れてる”? それこそバカにすんなよ、ゾロ。」

嘲りの表情を浮かべて、サンジは鼻でせせら笑った。

「てめェが惚れてんのは、所詮セックスの相手としての俺だ。コックとしての俺を、お前はまるで尊重していない。見下してすらいる。」

「そんな事ねェ!!」

ゾロは真っ青になった。

何という事を言い出したのだ。サンジは。

一体何を持ってサンジはそんな事を言うのだろう。

サンジを愛しているのと同じくらい、自分がどれだけサンジの料理を楽しみにしているか、どうしてサンジにわからないのだろう。

「俺はコックとしてのお前にも惚れてる! お前の飯は絶品だ!」

必死のゾロの言葉を、ふん、とサンジはまた、鼻先で笑った。

そして、黙って人差し指で何かを示した。

 

 

 

その指差す方を見て、ゾロは絶句した。

 

 

 

サンジが持ってきてくれたおやつが、床に落ちていた。

 

 

皿が割れ、その上のオヤツは無残に崩れてしまった姿で。

 

 

 

 

「俺の目の前で俺の作ったもんを床に落とさせておいて、“コックとしても惚れてる”? は! ちゃんちゃらおかしいぜ。」

 

 

 

 

サンジの乾いた笑い声を、ゾロは呆然と聞いていた。

 

 

 


* NEXT *



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