∞ シャケノベイビー 2 ∞
【 ZORO 】
甲板で昼寝をしていたゾロは、食欲をそそるいい匂いが鼻腔を擽るのに気がついて、目を覚ました。
なんだか懐かしい夢を見ていたような気がする。
目覚めた瞬間、頭の中から霧散してしまったけれど、ひどく甘酸っぱい、鼻の奥がつぅんとするような、胸の奥がきゅんとするような夢、だったような気がする。
ああ、どこかで魚焼いてるんだな、と思った。
魚を焼く香ばしいにおいが、どこからか漂ってくる。
当たり前だ。
ここは港だ。
見たとこ漁業の町だ。
飯の支度に、どこかで魚を焼いてるんだろう。
焼き魚のにおいは、ゾロにとって郷愁の匂いだ。
剣の稽古に明け暮れた毎日。
勝てなかったくいな。
勝てなくて悔しくて、日が沈むまで竹刀を振った。
あの時の、燃えるような夕日。
カラスにからかわれた。
どこかで犬が鳴いてた。
赤とんぼ。
夕日が沈んで浮かんだ、まん丸お月様。
先生の奥さんが呼んでた。
先生のうちで食べたご飯。
ああ。そうだ…。
きっと、そんな夢を見ていた。
軽く頭を振って、その思いを散らしてから、ゾロは立ち上がった。
今、何時だろう。
太陽は傾きかけている。
クルー達は、船番のゾロをおいて、みんな島に降りていた。
腹が減ったな、とゾロは思った。
コックも買出しに船を降りた。
コックがいないとなると、ゾロは自力で食事を何とかしなければならない。
どうするかな、と考えながら、ラウンジを見上げる。
…煙…!?
ラウンジから、微かに煙らしきものが出ているのに気がついて、ゾロはギョッとした。
火でも放たれたか、と大慌てで階段を駆け上がる。
ぬかった。
まるで気づかず寝てるなんて。
勢い込んでドアを開けた。
2004/05/27