■ Plus ■


 

「声、出せ…!」

欲望に掠れた声で切羽詰ったように言われ、サンジは、ふるりと体を震わせた。

 

この声が好きだ。

 

いつもサンジに与えられる冷たい声とは違う、せつなく響く声。

優しささえ感じるほど、甘く掠れる声。

まるで、────愛されているのではないかと幸せな錯覚をしそうになるような、声。

 

「抑えるな… 声出せ…!」

おかしな事を、とサンジは思う。

 

いくら外見が優男でも、こうやって女がわりに組み敷かれているとしても、サンジの体はどこをどう見ても“男”だ。

女のような、甘い軽やかな声は出せない。

 

ただの処理だ、とゾロは言った。

女の代わりだ、と。

 

であれば、声など出しては興ざめもいいところだろう。

 

サンジは唇をきつく噛んで、声を押し殺す。

 

誘ったのはサンジだ。

男に突っ込まれねェとイけねーんだよ、とあけすけな言葉で、ゾロを煽った。

てめェも溜まってんだろ、と。

 

思いもかけずゾロが乗ってきた時は、内心喜びすら、した。

 

 

 

────愛していたから。

 

 

 

男として対等に立つ事を引換えにしても、仲間として信頼を得る事を引換えにしても。

男としての矜持を根こそぎ傷つけられようと。

ゾロに触れられるだけで、それだけで、よかった。

 

「気ィ散らしてんじゃねェ…。」

ムッとしたようなゾロの声で、サンジは我に返った。

 

乳首を強く摘ままれ、サンジの喉がひくっと鳴った。

慌てて喘ぎを噛み殺す。

愛撫に耐える。

 

案外律儀な男だな、と思う。

処理に使う男の体を、ゾロはさっきから執拗に愛撫している。

舐められ、吸われて、サンジの乳首は固く立ち上がっている。

背筋を這い登る快感に、サンジがどれだけ必死に歯を食い縛っているか。

 

やめてほしい。

 

勘違いするから。

 

もしかしたらゾロも自分と同じ気持ちなのではないかと、期待してしまうから。

 

もっと物みたいに扱ってほしい。

引き裂くように乱暴にしてほしい。

いっそ意識が飛ぶまで、犯してほしい。

 

手荒く体をうつぶせにされ、腰を持ち上げられ、サンジは安堵した。

この姿勢なら、これ以上サンジの男の部分をゾロに晒さなくてすむ。

ゾロがどんな目でサンジを見ているのか、見ずにすむ。

 

ゾロはどんな顔をしてサンジの痴態を見ているのだろう?

欲望にぎらついた目か。

それとも、軽蔑に歪んだ目か。

 

ゾロの目にこの体は、どんな風に映ってる。

男のくせに、娼婦のように男を誘い、あられもなくケツを差し出してる、このみっともない姿は。

 

ぐり、と太い先端がサンジの中にめり込んだ。

 

「くッ…────!」

噛み締めた唇から悲鳴が漏れそうになり、サンジは慌てて自分の手で口を塞いだ。

それでも、ゾロの砲身は大きすぎて、受け入れるサンジの体は竦み上がる。

「ふ… うっ… うぅ…っ!」

噛み締めた唇から、塞いだ指の隙間から、声が漏れる。

それでも必死で、唇が白くなるほどに噛み締めて耐えていると、いきなり顎を捕まれて上を向かされた。

突然の事で、塞いでいた手が外れる。口が開く。

 

その瞬間、後ろから力任せに奥まで貫かれた。

 

「んああああッ!!」

 

遮るもののなくなった口から、悲鳴が上がる。

 

「最初っからそうやって喘いでりゃいいんだ。感じないふりでもしてやがるつもりか?」

耳元で低く囁かれ、サンジの体は思わずビクビクと震えた。

 

そこからはもう、なにも考えられなくなった。

「ヒッ! あ…! うあ… ああっ アッ!」

ゾロの熱いペニスが、何度も何度もサンジの腹の奥を抉る。

突かれるたび、目の前がちかちかする。

 

もっともっと痛くしてくれればいい。

もっともっと奥まで挿れてくれるといい。

もっともっとなにも考えられなくしてくれるといい。

 

サンジとする時、ゾロは服を脱ぎもしない。

いつでもサンジだけを全裸にして、体中を執拗に愛撫する。

だから、サンジは、ゾロの肌の温度を知らない。

ゾロの胸の厚さも、腕の強さも、心臓の音も、上半身を走る傷の感触も、何一つ、知らない。

 

ただ、サンジに触れる手の平は途轍もなく熱い。

サンジを舐め回す舌も、サンジを穿つ性器も、耳元に囁かれる声も、吐息も、たとえようもなく、熱い。

 

この熱だけが、サンジにとって確かなものだった。

 

END.

2004/04/08


「Plus」は仏語で“もっと”。


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