【 飽食 】 side:SANJI
まるで餓えた獣だ、と思った。
餓えた肉食獣の目だ。
限界まで腹を減らして、獲物を探してうろつきまわる、餓えた、切羽詰った、ぎらついた、獣の目。
この目には覚えがある。
“あの時”の、俺の目だ。
腹が減って腹が減って死にそうで、ジジィを殺してでも生き延びようとした、あの時の、俺の目だ。
何でそんな目をしている?
何に餓えている?
何をそんなに餓える事がある?
どんな飯を出しても、どんな酒を出しても、決してその目から消えない、飢餓。
何が食いたい?と幾度聞いただろう。
別に、と答えながら、奴の目は俺に底知れぬ飢餓を訴えてくる。
いったい何を餓える。
野望へのそれか?
充分クソ強ェだろう。てめェは。
そんな、がつがつした目をしなくても、この船にいる限り、いくらでも強い敵は現れる。
そしててめェは、どんどん強くなるんだろう?
女か?
溜まってでもいるか?
それとも忍ぶ恋でもしているのか。かなわぬ恋に焦がれてでもいるのか。
似合わねェな。
てめェはそんなタマじゃねェだろう?
想う相手がいるならモノにすりゃいい。
口説くでも押し倒すでもすればいい。
故郷に置いてきた女でもいるのか?
それにしちゃ、あまりにその目は物騒なんじゃねェか?
恋っつうよりむしろ、…人を殺してェような、目だ。
日に日にそれは強くなる。
時おり、狂気のような色さえ見え隠れする。
ふざけるな。
俺の前で、そんな目をする事は、許さねェ。
俺の前を、餓えた目をしてうろつく事は、許さねェ。
だから────────────
「餓えてんだ、てめェに。」
そう言われた瞬間、安堵すら、した。
─────なんだ、俺でいいのか。
俺を食えば、この餓えた獣は満たされるのか。
自分のシャツが裂かれる音を、どこか遠くで聞いた。
ああ、俺はこれから、こいつに食われるんだ、と、そう思った。
魔獣に男を食う趣味があるとは知らなかったな。
…男に食わせたことなんかないけど、ほんとに俺なんかで空腹が満たされるのかな。
奴が俺の顔を覗き込んでくる。
なんて目で見てやがる。
ぎらぎらとした、闇の中でも光りそうな、金緑の目。
肌にぴりぴりと感じるこれは、もうほとんど殺気と区別がつかない。
そのまま喉笛を食いちぎられるんじゃないかという勢いで、唇に、噛み付かれた。
奴の舌が、入って来る。
熱ィ…
なんでこんなに熱ィんだ、こいつの舌…
熱、でも、あんのか?
奴の舌が、執拗に俺を舐める。
俺の舌を絡めとり、唾液を啜る。
まるで極上のクリームでも舐め取るかのような舌の動きに、俺は戸惑う。
こんなキスは、心底惚れてる奴にするもんだ。
キスのつもりは…ねェのか?
この口付けに意味はないのか?
ただ本能のままに、俺を食っているだけか?
俺に息をつく暇を与えないほど、奴の舌は俺の口腔を蹂躙する。
さすがに呼吸がとまりかけて、奴の顔を押しのけて、息をついた。
しつけェよ。
そんなにがっつかなくても、逃げねェっての…。
いきなり首に食いつかれた。
突然だったので、思わず身構えた。
本当に首を噛み破られそうな気がして。
熱い舌が、首筋を舐め、喉仏をくすぐり、鎖骨を確かめる。
クソ熱ィ…。
火傷しそうだ。
その熱さに、くらりと眩暈を感じた。
やべェ。
この感覚は、やべェ。
……持ってかれる。
奴の舌が俺の乳首を舐め上げた瞬間、ぞくり、と俺の中で明らかな何かが蠢いた。
「………っ………」
漏れかけた声を、慌てて噛み殺す。
とたんに、奴の喉が、ごくり、と鳴った。
かあっと体が熱くなる。
ちくしょう、今の、声、聞かれた。
…気づかれた。
きっと、気づかれた。
俺が…喰われたがってる、事。
奴の指が、俺の胸元に触れた。
こいつ、指も熱ィ…。
乳首を爪で弾かれた。
思わず息をのむ。
触るな…。
触るな、やべェ…。
全身が、総毛立つのがわかる。
嘘、だろう…?
触れられてるだけだ。
なのに、なんで、こんな…。
やべェ。
俺、やべェ。
ゾロの指が性急に俺の乳首を弄る。
もう片方の乳首に、歯を立てる。
電流が走ったような快感に、俺の体が震えた。
必死で声を殺す。
奴は執拗に俺の乳首を弄る。
そのたびに背筋をぞくぞくと快感が走る。
もう、半ば何も…考えられなくなっていた。
奴が、不意に強く俺の乳首を噛んだ。
強い痛みに、思わず声を上げると、すぐに緩やかな快感が与えられる。
噛んだのを詫びるかのように、優しく、舐めている。
かと思うと、また、乳首を歯で咥えられる。
乳首を咥えた歯に、力が込もった。
ゆっくりと、じわじわと、乳首にゾロの歯が食い込んでくる。
鋭い痛みが、容赦なく襲ってきた。
このまま、噛み千切られるのかもしれない。
そう思った瞬間、心に、──────愉悦が走った。
そのまま、俺を、食いちぎれ………ゾロ………
けれど、ゾロは俺の胸から顔を離した。
噛まれた乳首が、じんじんと疼く。
奴に気づかれないように、注意深く、詰めていた息を吐いた。
何故か一瞬、間があって、もしかしたらゾロは俺を喰う気をなくしたのかもしれない、と頭を掠めた瞬間、下着ごとズボンを引っぺがされた。
あ、と思う間もなく、俺のモノが奴の口に吸いこまれる。
なっ…─────────!????
「て、めェっ…! 正気、かっ…!?」
男のモンだぞ?
女じゃねェんだ。
それを咥えられるなんて、信じられねェ。
なんで、そこまで、する?
喰うためだけか?
ゾロ、言えよ。
言ってくれよゾロ。
何でお前は俺を喰ってる?
何の意味がある?
「っふ…う…っ んんっ…!」
熱ィ…
てめェの口ン中、熱ィ、よ…
「ひっ、アッ! くぅっ…!」
気持ちいい。
すげェ、気持ちいい。
熱い舌が、俺のモノを舐め回している。
余すところなく。
根元から先端にかけて、何度も何度も熱い舌が擦り上げる。
「ふあッ! あ、────や、め…!」
なんで。
なんで、だ…?
なんでこいつは俺を喰らう?
なんで俺は、こいつの好きにさせてる…?
俺…は…
「ゾ、ロ…っ!」
俺は…
名を口走ると、奴が先端を強く吸った。
「ふっ… うぅっ…!」
思わず腰が浮く。
クソ馬鹿野郎。
そんな風に、したら、出、ちまう、…って。
何とか奴の口から体を離そうと身をよじるが、奴は俺の腰を掴んで離さない。
益々強く吸い上げる。
よせ。
ゾロ…!
「…くっ!」
耐え切れず、奴の口の中に吐精した。
ちくしょう。
信じらんねェ。
どーすんだよ、てめェ。
その口の中のもん。
ところが、信じらんねェのは、むしろその後だった。
驚いた事に、奴は、口の中のもんを、…呑んだ。
まるでそれが極上の酒ででもあるかのように、うまそうに、喉を鳴らして、呑んだ。
しかも、俺の目を見ながら。
そんで、笑いやがった。
・・・・・・・・・・・・・・・・っ!
呑む、かよ、ふつー…。
俺の、出したもん、だぞ。
男の、だぞ。
ちくしょう。
そういうこと、するな。
ゾロ…。
クソ…。
奴の顔がまともに見れねェ。
不意に膝を持ち上げられ、俺は、びくりとした。
膝を割られ、足を開かされ、不覚にも俺の体は、震え出す。
そうだ。
これで、終り、じゃない。
俺は、喰われる。こいつに。
犯される、んだ…。
やべェ、怖ェ。
奴の手が俺の尻を掴んで、開く。
奴の指が、俺のそこに、触れる。
「…ッ…!」
怖ェ。
躰が、竦む。
「力を抜け。」
抜けるか、クソ野郎。
「力を抜け。抜かないなら鬼徹で裂く。」
…ゾッとした。
本当にやる。
こいつなら、言ったことは本当にやる。
けれど、竦んだ体は、なかなか言う事をきかない。
「む…りだっ… ゾロ…っ!」
やっとの思いで、それだけを言う。
すると奴は、力任せにそこに指を突っ込みやがった。
「うあっ…」
痛ェ。
痛ェ痛ェ痛ェっ!
指で、裂く、つもりかよっ…!
傷みで、何をされてるのかよくわからない。
ただ、何本もの指に、むりやり孔を広げられているような感覚は、ある。
見んな… そんなとこ…!
男の、ケツ穴、だぞっ…!
マジ、かよ。
限界まで広げられた、と思ったら、いきなり熱くぬめるものがそこをぞろりと撫ぜた。
「────ヒッ!!」
ゾロが、俺のそこを、舐めていた。
「…く… ふ、 っあ…! や…やめ…」
やめろゾロ。
そんなこと、するな…!
挿れるなら、とっとと突っ込め。
慣らすみたいな事、しなくていい。
やめろ。
「あ、 ァ …あ … 」
それとも、これも、ただ、喰っている、だけ、か?
ゾロ。
こーゆーのは、
愛撫 、っつうんだ… ボケ…
思いもかけない快感に、全身から力が抜ける。
一度イかされたってのに、体はすぐに快感を追い始める。
もうやめて欲しいような、より強い刺激が欲しいような、たまらない掻痒感。
ふと、ゾロの愛撫がやんだ。
すぐに、別の何かが押し当てられる。
来る、と思った次の瞬間─────────
灼熱が、全身を、貫いた。
「──────ッ !!!!! 」
悲鳴を、上げたかもしれない。
突っ込まれたそこが、とんでもなく、熱かった。
真っ赤に焼けた鉄の棒でも突っ込まれてるのかと思うほど、感じたのは、“熱さ”だった。
とんでもなく、熱い。
じりじりと、皮膚がその部分から、焼けていくようだ。
裂、けた、のか?
痛みというより、熱い。
ずるりと引き抜かれ、思い切り奥に突き込まれる。
「うあっ… ァ、ああっ!」
新たな熱が送り込まれる。
体の、中から、焼かれるようだ。
ああ、そりゃ…いい調理法だぜ。
内臓を、食うなら、一番、うまく、食える…。
「くぅ…っ… ッ! アアッ… う… 」
俺は何を喘いでんだ。
「んんッ! は… あ… あっ…!」
すげ、みっともねェ、声。
「いっ…! あ、 くぅ・・・っ!」
悪いな。
出そうと思って出してるわけじゃ、ねェんだけどよ。
「…か、はっ…! うあ、…っ…」
熱いって… ゾロ…
「んひっ! あぁあぁああっ」
な、あ…、俺、は… うまい、か…?
内臓を抉りこむように最奥まで貫かれた瞬間、腹の中の熱が、尚一層温度を上げて、…弾けるのが分かった。
ゾロの目が餓えていくのがいやだった。
高みを目指すはずの男が、クソくだらねェ事に気を取られているのが、我慢できなかった。
だから、奴に喰わせた。
“俺”を。
なのに。
奴の目から、餓えは消えなかった。
奴は俺を喰らう。
肉食獣が獲物をがつがつと貪るように、俺を、喰らう。
なのに、奴の目から餓えは消えない。
どうすれば、満たしてやれる?
どうすれば、てめェの餓えは満たされる。
何が欲しい?
何が望みだ?
俺はどうすればいい?
「俺を見ろ。」
奴が言った。
「俺を見てくれ。」
振り絞るような、声。
「足りねェんだ。」
「体だけじゃ、足りねェ。」
「てめェの、心が、欲しいんだ。」
驚いた。
奴の瞳から、──────…涙が溢れていた。
「──────サンジ……………!」
血を吐くような声で、初めて、名を呼ばれた。
だから。
だから、思いっきり、笑ってやった。
ばーか。
正真正銘のアホだな、てめェ。
てめェ、もう、さっきから俺の心ごと喰っちまってるんだよ。
気がつきもしねェのかよ。ばーか。
俺の心は、もうとっくにてめェの腹ン中だ。
わかんねェんなら、口に出して言ってやるよ。
「いいぜ。喰えよ。心ごと。」
喰わせてやるよ。てめェにだけだ──────────
ああ…。
これで俺も…──────満たされる………………
END.
2004/03/06
日記に勢いだけで書いたのをだいぶ加筆したもの。