† Birthday Present †
儀式のように、それは始まる。
「ゾロ…。」
眠るゾロに、遠慮がちに声がかけられる。
それは普段の彼を知っていれば、おおよそ彼らしくないとしか思えない、囁くような声で。
「ゾロ。」
そんな小さな呼びかけくらいでは、ゾロは起きない。
何しろ嵐の中でも平気で寝ていた男なのだから。
けれど彼は、ゾロが起きない事に安堵の息をつく。
「寝てろ…そのまま…。」
小さく呟いて、そっと彼は、ゾロの傍らに腰を下ろした。
静かに息を殺したまま、彼は、自分のズボンのファスナーを下ろして、ペニスを取り出す。
それは既に半ば熱を持っていて。
彼は、ゆるゆると、自らの手でそれに刺激を与える。
殺していた息が、次第に乱れてくる。
「…っ…、く…、………ふ…ッ…。」
噛み締めた唇から、それでも耐え切れずに声が漏れる。
眠るゾロの傍で、彼は息を殺して、自慰をする。
時折ゾロの寝顔に視線を走らせながら。
「ん…ッ…、ゥ…、は…ァ…ッ。」
吐息交じりの微かな声は、淫らに熱くなってくる。
手の中の熱が、くちゅくちゅと濡れた音を立て始める。
白い顎を反らせて、彼は無心に自慰を続ける。
さらりとした金色の髪が、体の動きに合わせて揺れる。
彼だけの秘密の時間。
「んん…。」
彼は自らの手で、昂まっていく。
背徳の快感に目が眩む。
「────ゾロ……ッ…!」
あえかな声とともに、彼の背がのけぞった。
びくびくと上体が不規則に痙攣する。
吐精の瞬間、彼は、ハンカチで自身を覆った。
ぴゅくん、ぴゅくん、とハンカチの中に快楽が吐き出される。
絶頂の瞬間、ゾロの名を口にした事に、はたして彼は気づいているのか。
しばらく背をそらして絶頂の余韻に体を震わせていた彼は、やがて、はあ…というため息とともに、自分の精液でまみれたハンカチと吐精を終えたペニスをしまった。
それからまたゾロの顔を見て、ゾロが完全に寝入ってるのを確認して、また安堵のため息をつく。
くっ、と、不意に、彼の喉が鳴った。
くくく…くっくっくっくっ…と、小さな笑い声を立て始める。
けれどその双眸からは、滂沱の涙が滴り落ちていた。
彼は笑いながら涙を流していた。
「………………ごめん…な…、ゾロ……。」
微かな、本当に微かな声が、震えながら詫びる。
そうして、ゆらりと立ち上がると、彼は、ゾロの寝顔をまた見て、そっとその場を立ち去った。
その背後で、ゾロがはっきりと目を開けて、出て行く彼の後ろ姿を見送っていた事も知らず。
サンジは寝ているゾロの傍で息を殺して自慰をする。
ゾロは気がついているのに寝たふりをしている。
それは奇妙な奇妙な…秘密の時間。
◇ ◇ ◇
「じゃあ今日一日、なんでも言う事聞いてやる。」
そうゾロが言い出して、宴会は最高潮になった。
その日も、いつものとおり甲板で寝ていたゾロは、空腹と妙に浮ついた賑やかさで、目を覚ました。
ラウンジに行き、その室内の明らかな宴会仕様と、テーブルの上にでんと置かれたデコレーションケーキの上に乗せられた「Happy Birthday SANJI!」のプレートを見て、やっとゾロは、今日がサンジの誕生日であることを理解する。
「お誕生日おめでとう、サンジくん。」
「ハッピーバースデー、サンジ!」
バースデープレゼント、と称して、船長は似てんだか似てないんだかよくわからない物真似メドレーを披露した。
ナミとロビンはサンジの両頬にキスをした。
サンジは当然、骨まで蕩けてぐにゃぐにゃになっていた。
ウソップは炎貝でコンロの火力を強化したらしい。
チョッパーは疲れが取れるドリンク剤。
「ゾロは?」
チョッパーにそう言われて、ゾロは困った。
当然プレゼントなど用意しているはずがない。
くくっ、とサンジが笑った。
「ゾロは今日が何の日かも知らねェんじゃないか?」
いや、それはさすがにわかった。
「ゾロにプレゼントなんて甲斐性あるわけないじゃない。」
ナミも呆れたように呟いた。
ましてや、年中いがみ合っているサンジの為になど。
ゾロとサンジは仲が悪い。
それはクルーの誰もが知っている。
例え今日が何の日か知ってても、ゾロがサンジの為にプレゼントを用意するとは思えなかった。
サンジもその場の雰囲気を適当に流して、新しいワインを抜こうと席を立ちかけた、その時、
「じゃあ今日一日、なんでも言う事聞いてやる。」
と、ゾロの声がした。
サンジが、ぽかんとした顔で振り向く。
ナミも驚いた顔をした。
すぐにルフィが、
「よーしゾロぉ!しっかり働け!」
と、はしゃぎだし、あっという間に宴会は盛り上がった。
騒ぎ疲れたクルー達がそれぞれ眠りについた頃、ゾロとサンジは二人きりでラウンジの中にいた。
まだ酒を飲むゾロに背を向け、サンジは後片付けをしている。
「何でもする、ってな本気か…?」
サンジがシンクに向かったまま振り返りもせず言った。
「あァ。」
だけど腹掻っ捌けとか船降りろとかはなしな、とゾロが答えると、サンジが小さく笑った。
そしてゾロの前に立つ。
見下ろすサンジの顔は、今までゾロが見た事もない表情をしていた。
「なに、簡単な事だ。」
そっとゾロの両手をとり、後ろ手に回す。
「このまま指一本動かすな。」
「一言も喋るな。」
「絶対に動くな。」
「日付が変わったら全て忘れろ。」
「…そんで二度と思い出すな。」
「…………約束、だ。」
できるか…?と耳元で囁かれ、ゾロは目だけで頷いた。
「…いい子だ。」
ふ…とサンジは笑うと、上着を脱いでゾロの前に跪いた。
◇ ◇ ◇
ゾロの足の間で、金色の頭がゆっくりと上下している。
温かで柔らかな口腔に絡め取られたゾロのペニスは、もう既に限界まで反り返り、その凶暴な幹に血管を浮かせている。
動くな、とサンジに命じられたゾロは、まるで本当に拘束でもされているかのように自らの両手を背中に回したまま、サンジの手がゾロのズボンの前を寛げても、その性器を口に含んでも、身じろぎ一つせず、抵抗もしようとはしなかった。
けれど、ゾロは目を見開いてサンジを見ている。
何かを訴えかける、必死な眼差しで。
そりゃそうか、とサンジは自嘲する。
ゾロはサンジがこんな事をする訳がわからないに違いない。
自分の事を嫌いなはずの、女好きのコックが。
ゾロの目の中の感情を読み取るのが怖くて、サンジは、視線を合わせることもできずに、ただゾロの股間に蹲る。
ゾロのペニスが口の中で固くなっていくのが嬉しい。
サンジに言われたことを忠実に守って動かずにいるのに、時々快感に耐え切れずか、ゾロの腹筋に力が入ったり、息を詰めたりするのが嬉しい。
だけどゾロはサンジのそんな心なんて知らなくていい。
忘れてしまって構わない。
誕生日だから。
お酒を呑んでいるから。
ちょっと、浮かれてしまっているのだ。
だから。
ゾロは全部、忘れていい。
ゾロのペニスから一旦口を離して、サンジは立ち上がってズボンとパンツを脱いだ。
上のシャツは脱がなかった。
ゾロの前で全て脱いでしまう事は、心も無防備になってしまうようで、怖かった。
何だか息苦しくて、ネクタイを外す。
ボタンも外して、襟元を大きく開けた。
呼吸がうまくできなかった。
シンクの上の棚のハンドジェルに手を伸ばして、気がついた。
自分の手がかたかたと小刻みに震えている事に。
それを見ないふりをしてケースを取り、ゾロの前に戻る。
左手でゾロの屹立したペニスを扱き、右手でジェルを掬い取って、自分の後孔に塗り込める。
ぬるりと自分の中に自分の指が入り込む感触に、サンジは、一瞬、身を竦めた。
誰に強制されたわけでもない、自分で選択した行動なのに、ひどく惨めだった。
唇を噛んで、サンジは自分の後孔をジェルで慣らし続けた。
「…っ…。」
不意にゾロが、息を吸って何かを言いかけそうになった。
サンジが顔を上げると、ぐっと詰まったように押し黙る。
…そうだ。今、強制されているのは、ゾロの方だ。
言葉を封じられ、動きを封じられて。
サンジは、ジェルを、張り詰めたゾロのペニスにもぐちゅぐちゅと大量に塗りつけると、立ち上がり、ゾロに抱きつくようにして、足を開いて跨った。
ゾロが息を呑む。
恐ろしく真剣な眼差しで、サンジを見つめ続けている。
その真剣な瞳が何を言いたいのか、サンジにはわからない。
軽蔑か、嫌悪か。或いは同情か。
「てめェが…悪いんだ、ゾロ。」
サンジは自嘲の笑みを漏らす。
「てめェは、無駄に優しいから。俺の誕生日なんてシカトしときゃよかったのに、てめェは無駄に…、俺みたいな嫌いな奴にも、無駄に優しいから、こんなことになるんだ。」
そう囁いて、震える息を殺して、サンジは、ゾロのペニスを後孔にあてがい、ゆっくりと腰を下ろした。
体を割り開いて侵入してくる質量に、ぐ、と息が詰まった。
ゾロの息も一瞬跳ねる。
大量に塗りたくったジェルのおかげで、耐えられないほどの痛みはないが、それでもこの総毛立つほどの異物感だけはどうしようもない。
足が痙攣を始め、体が支えられなくなって、ずるりと自重で、ゾロのペニスが体の奥まで潜り込んだ。
「ひッ…ッッッ!」
腹の中を突き破りそうな衝撃に、サンジの背が、がくがくと震えながらのけぞる。
ゾロが明らかに焦ったような顔をして身じろぎした。
「ッ、動、くな…ッ!」
ゾロの気配を察して、サンジが叫んだ。
息を荒くつき、蒼白な顔をしながら、それでも強い光を放つ瞳で、ゾロを見据える。
「う…ごく、な、喋るな、…ッ…約束、だ。」
言われて、ゾロが言葉を呑む。
ゾロが押し黙ったのを見て、サンジはほっと息をついた。
ゾロの肩に両手をかけ、椅子の端に膝をついて、ゆっくりと腰を動かしだす。
「…ふ、ゥッ…、くっ…。」
繋がったところから、ぬちゃっ…ぐちゅっ…という、聞くに堪えない淫らな音がした。
引き抜くたびに、腸が裏返りそうな強烈な排泄感がして、全身に鳥肌がたつ。
腰を落とすと、容赦なく腸壁をごりごりと擦られる。
辛いけれど、気持ちいい。
ゾロのペニスが自分の中にあっても萎えないのが嬉しい。
ゾロの息が気持ち良さそうに乱れるのが嬉しい。
眩暈がするほどの、快楽。
こんなところで快感を得ている俺はどんな淫乱だ、と思う。
同時に、ゾロだからだ、ゾロだからこんなに。と強く思う。
もっともっと全身でゾロを感じたくて、全身でゾロを飲み込みたくて、サンジは思い切り腰を落とした。
淫乱な娼婦のように、淫らに腰を振った。
もっと。
もっと。
もっと、奥まで。
ゾロが、体の奥まで入ってくる。
体の中が、ゾロでいっぱいになる。
絶望的なほどの幸福感。
でももう、終わりにするから。
だから…。
「俺ん中、にっ…、精液ッ…ぶちまけろよ…、ゾロッ…!」
今だけでいいから俺を満たして。
◇ ◇ ◇
─────ベソかいてるみてェなツラ、しやがって…。
自分に跨って、唇を噛み締めながら腰を振るサンジを見ながら、ゾロはそう思った。
まさか動きも声も封じられるとは思わなかった。
あげくに、「忘れろ」「二度と思い出すな」ときたもんだ。
こんな、忘れようったって忘れられないような事を一方的に仕掛けておいて。
今にも泣きそうな顔でゾロに跨っておいて。
サンジは、自分がどんな顔でゾロを誘ったか、気が付いていないに違いない。
こんな顔をするならなぜ、心を伝えてこない?
なぜ、最初からゾロを諦めている?
けれどそれは、全て気がついていながら、何も言わなかった自分も同じか、とも思う。
眠る自分に気づかれないように自慰に耽るサンジを初めて見た時には、心臓が止まるかと思った。
取り澄ました普段の顔からは考えられないほど、艶を含んだ淫らな顔で、サンジは自分の性器を慰めていた。
そのくせ終わると必ず泣き出す。
せつなそうに、悲しそうに、声を殺して。
ゾロには長い事、その涙の意味がわからなかった。
けれど、今日、サンジの微かな声は、「ごめん…」と呟いた。
それでなんとなく、ゾロにはサンジの心がわかってしまった。
ほんとにバカだな、こいつ…。
きっと今度は、自分が一歩を踏み出す番だ。そう思った。
思った矢先に、抱きしめる事も、告げる事も封じられた。
思いつめた暝い瞳で、初めてゾロに触れてきた。
きっとサンジは、自分の想いにケリを付ける気だ。
だが、ゾロだって、ただみすみす、サンジが自分から去っていくのを享受するわけにはいかない。
忘れられるわけ、ねェだろうが。
ゾロだって、どれだけ耐えてきたと思っている。
泣きながら自慰に耽る痩身を、どれだけ抱きしめたかったか。
一人で寝ているときに限ってサンジがやってくると悟ってからは、わざと男部屋に帰らなかったり、クルーとは寝る時間をずらしたりした。
ゾロはちらりと壁にかかった時計に視線を走らせた。
もうすぐ、日付が変わる。
その時キスをして、抱きしめて、好きだと耳元で囁いてやったら、さて、この男はどんな顔をするのだろう。
そう思いながら、ゾロは、できるだけ時間を引き延ばすために、下っ腹に力を入れて襲いくる射精感に、根性で堪えていた。
END.
2005/03/06
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