le BELLE et la BETE
【第五夜】
翌朝の目覚めも、サンジは天蓋付きベッドの中だった。
ああ、まだゴーイングメリー号には戻れてないんだなあ…と、いつものように思ったが、不思議と、今日の目覚めはそれほど不快ではなかった。
むしろ、穏やかな。
原因などもう、わかっている。
一晩中サンジを包んでいた、緑のふかふか。
それはまだサンジを包み込んだまま、同じ布団の中にいる。
温かなもこもこにいったん顔をうずめてから、サンジはゆっくりと起き上がった。
─────自分を強姦した奴をベッドに引っ張り込むなんて、ほんと、俺はどうかしてんな…。
起きる気配もなく、ぐっすりと眠っている魔獣を見下ろして、サンジは思った。
寝ぼけていたとはいえ、自分が信じられない。
もっと信じられないのは、ぬくぬくのほかほかに包まれて、自分が安心しきって熟睡してしまったことだ。
─────しっかりしろよ、俺。…ゾロだぞ。こいつは。
だけど自分でわかっていた。
ゾロだから、だ。
ゾロに包まれて、熟睡した自分。
ゾロなのに。
ゾロだから。
意識が眠りに引き込まれる直前、「サンジ」と呼んだ魔獣の声を、サンジは覚えていた。
「サンジって呼んでみろ、クソゾロ。」と挑発したサンジに、魔獣は、なんのためらいもなく名を呼んだ。
メリー号のゾロが、一度として紡いだことのない名前を、いともあっさりと。
あの甘く響く、セクシーな低めのテノールで。
抗いがたい強烈な睡魔に引きずり込まれながら、サンジの意識は驚愕していた。
あの声が己の名を紡いだ事に。
鼓膜を愛撫されたような、体の芯に絡みつくような、蜜のような声。
刹那、サンジが覚えたのは、酩酊したような陶酔感だった。
くらりと強い酒を一気に呷ったような、濃厚な眩暈に襲われながら、サンジの意識は眠りの中に引き込まれていった。
そして目覚めた今の、この穏やかで満たされた想い。
ただ名前を呼ばれた、それだけで。
こんなにも。
サンジは緩く目を閉じて、息をついた。
ゆっくりと目を開ける。
魔獣はまだ眠っている。
どうせちょっとやそっとじゃ起きないんだろう。
ほんの少しだけ、サンジは口元で笑った。
熟睡する魔獣は、起きている時のような剣呑とした空気など発していない。
まんま大きなぬいぐるみだ。
可愛くすら見えてしまう。
不意に、昨夜の魔獣を思い出す。
大胆にも犯した奴の寝所に忍んでおいて、それなのに、ただ立ち尽くしていた。
まるで置き去りにされた子供のように。
あんな果てしない虚無を湛えた瞳は、この男には似合わない、とサンジは思った。
メリー号のゾロにも、この魔獣にも。
本能のままにサンジを貪ったのだから、この男はそこに何の思いも残さず、平然としていればいいのだ。
どこまでも不遜で、傲慢な男でいればいいのだ。
弱々しくうなだれるこの男など、見たくない。
魔獣がサンジに何かを隠しているのは気づいている。
よくはわからないが、時間がないらしいことにも。
この身を貪ることで、サンジにはよくわからない“それ”が解消されるのならば、魔獣は何度だってサンジを組み敷けばよいのだ。
当然のような顔をして。
顔色ひとつ変えず。
それこそがこの男に、一番ふさわしい。
魔獣が食らいたいと思うなら、思う様サンジを屠ればいい。
サンジの肉は魔獣を満たすだろうか。
光の加減で金色に光る琥珀の瞳に浮かんだ、強い飢餓を消すことが出来るだろうか。
もしこの身で魔獣を満たせるのならば、それこそ骨の一片にいたるまで、魔獣に捧げてもかまわないのに。
魔獣が、あの鋭い牙でサンジを噛み千切り、咀嚼し、飲み込む。
飲み込まれたサンジは、魔獣の体内の隅々までいきわたる。
魔獣の体を作る、ひとかけらの細胞になる。
そうしてサンジは魔獣に溶けていく。
自分の思考がとんでもないところまで暴走している事に気がついて、サンジは慌てて、それを頭の中から追い出した。
頭を振って、それでもまだもやもやとした熱が頭の芯に残っていたので、それを振り払うように、ぱふん、ともう一度、魔獣の毛に顔をうずめた。
日向ぼっこしている猫のようなにおいがする。
太陽とほこりと汗の匂い。
メリー号のゾロの髪に顔をうずめても、こんな匂いがするのだろうか。
温かさに包まれていると、またとろとろと眠りに誘われそうな気がした。
安眠毛布だ。まるで。
けれど毛布というにはやや毛質が硬い。
─────きちんとトリートメントとかすりゃもっとふかふかになるんじゃねぇのかなあ。
そういえばこの城には風呂とかあんのかな。
そんなことを考えながら、サンジは魔獣の体をきゅうっと抱きしめて、それから思い切って体を起こした。
名残惜しいが、もう朝食を作らないといけない。
ベッドを出るとき、唐突に思い立って、魔獣の頬に小さなキスをしてみた。
「へへ。」
魔獣は熟睡したままだったが、サンジはちょっと照れくさい気分になった。
慌ててベッドから飛び降りて、手早く身支度をすると、振り返りもせずに駆け足で部屋を出ていく。
だからサンジは、気がつかなかった。
サンジが部屋を出た直後、魔獣がカッと目を開けた事に。
実はサンジが抱きついたときもキスしたときも、魔獣が起きていた事に。
「何…だ、今のは…。」
動揺した声で呟いて、緑の毛の下の顔を、耳まで真っ赤に染め上げていた事に。
◇ ◇ ◇
この城には、食事をする部屋が3つある。
朝餉の間、昼食の間、晩餐の間。
朝日が差し込むように作られた朝餉の間は、白いレースとピンクを基調とした清楚な部屋で、丸い大きなテーブルがおいてある。
たぶん、サンジと魔獣は、このテーブルの差し向かい、という一番遠い距離で食事をするのが本来なのだろうが、サンジが食事を作るようになってから、朝餉の間だろうと昼食の間だろうと晩餐の間だろうと、テーブルの片側半分は使われたことがない。
いつでもサンジは、もう片側半分、魔獣とサンジとチョッパーが隣り合わせで食事が出来る一番近い位置に配膳していた。
会話も出来ないほど遠くの位置でそれぞれ食事をして、何が楽しいというのだろう。
それがサンジの持論だった。
けれど今朝は、この近しい距離が、なんとなく照れくさい。
照れることなんか何もなかっただろう、と内心己を叱咤しながら、サンジは手早くナイフとフォークをテーブルに並べた。
そうだ。何もなかった。
何かあったというなら、強姦されたときの方がよほど何かあった、というのに。
体を繋げもしなかった。
何一つ思いを交わしてもいない。
愛を告げてもいない。
魔獣が何を考えているかなど、これっぽっちも知らない。
ただ、一緒に眠っただけだ。
それなのになんでこんなに照れくさいんだろう。
まるで…。
まるで、そうだ、これは。
─────新婚の、朝のようだ。
「ッッッがあああああああああッッッ!!!」
いきなり叫んで壁に頭を打ち付けだしたサンジを、起きてきたチョッパーがびっくりして凝視する。
「サ、サンジ、どうした?」
「………なんでもねぇ。」
何が新婚だ。何考えてる。しっかりしろ、俺。
慌てて厨房に駆け込む。
大鍋に湯を沸かして、目にも留まらぬほどの速さで賽の目にしたじゃがいもを放り込む。
さやいんげんの筋を取って食べやすい大きさに切り、それも鍋に放り込む。
それを待っている間にオリーブオイルとバターでタマネギとマッシュルームを炒める。
焦がさないように炒めたら、火から降ろして粗熱をとる。
茹であがったじゃがいもとさやいんげんも広げて粗熱をとる。
じゃがいもとさやいんげんが冷めたらジェノベーゼソースで和えて、ココット型に盛り付ける。
マッシュルームとタマネギは、牛乳とコンソメを加えてミキサーにかける。
丁寧にミキサーにかけて、更に濾してなめらかにする。
なめらかになったら鍋に移して弱火でじっくりと火にかける。
沸騰直前で火を停め、生クリームを加えて、塩コショウで味を調える。
スープ皿に入れて、刻んだパセリを散らす。
フライパンにバターを放り込んで、刻んだハムとタマゴを流し入れ、フォークでかき混ぜる。
綺麗なスクランブルになったらそれも皿に盛り付ける。
ガスコンベックのドアを、がこん、と開けると、ほわん、と焼けたパンのいい匂いがあたりに満ちる。
焼きたてのふんわりしたくるみパンを、手際よくバスケットに盛り付ける。
それらを、サンジは黙々とやり続けた。
料理に没頭していないと、自分の頭が何を考え出すかわからなかったからだ。
ふんわり焼いたくるみのパンと、じゃがいもとさやいんげんのバジルサラダ、ハムとタマゴのスクランブル、マッシュルームのポタージュ。
それらがテーブルに並び終わる頃、魔獣が朝食の間に姿を現した。
魔獣が朝食の間に入ってきたとたん、サンジは思わず硬直してしまった。
「お、お、おはよ…。」
いつもなら「早く席につけ、飯だ」くらいの乱暴な口を利くところなのに。
そして何故か魔獣の方もおかしな態度だった。
いつもならサンジに何を言われても無言で席につくのに、「おはよ」とサンジに言われた瞬間、パッとサンジを見て、それからあちこちに視線を彷徨わせて、
「…ああ。」
と生返事ながら応答して席についたのだ。
その後も二人の態度は何だかおかしかった。
魔獣はフォークを取ろうともせずに、ただぼうっと給仕するサンジを眺めていたし、サンジはサンジでその視線を意識してしまって、なにもないところでつまづいて転んだりしていた。
ふとした拍子に目が合ってしまったりすると、サンジは、顔を赤くしてへらりと笑って見せ、魔獣は慌ててスープ皿に顔を突っ込んだりする。
食事の間中そんな調子で、チョッパーはそんな二人を、不思議そうに小首を傾げて見ていた。
◇ ◇ ◇
朝食が終わると、昼食の時間まで城内を散策するのがサンジの日課だった。
というより、それしかやることがない。
城に来た当初は、光る花達に城内を案内してもらっていたサンジだったが、この頃はあてずっぽうでうろうろすることが多かった。
本当に迷ってしまったら光る花を呼べばいいのだ。
もっともサンジは魔獣と違って、一度歩いた道は大体覚えているし、二度歩けばそれはもう完璧になる。
サンジの部屋、食堂、図書室、展望窓、中屋上、庭園、などはもう、花の案内なしでも行けるようになっていた。
通ったことがある通路をわざと避けて、あっちに行ったりこっちに行ったりしてるうちに、サンジは広いバルコニーに出た。
バルコニーからは庭園が見下ろせるようになっている。
今は雪が覆っているこの庭園は、春になったらどれだけ美しい花々が咲き乱れるのだろう。
そう思いながら庭園を眺めていたサンジは、ふと、庭にいる魔獣の姿に気がついた。
魔獣は、夜のうちに降り積もった雪を、丁寧に丁寧に掃き清めている。
雪はしょっちゅう降るのだ。
綺麗にしたってすぐ雪に覆われてしまうのに、魔獣は作業を続けている。
庭園の外に積もった雪を見れば、魔獣がこの庭園を毎日履いているのだろうくらいの事は、容易に想像がついた。
ああ、この庭園を綺麗にしていたのは、魔獣自身だったのだ、と、サンジは知った。
この庭園を大切にして、慈しんでいたのは、魔獣自身だったのだ。
─────そういやあ、俺、ジジィが薔薇を折っちまった事、謝ってねェな…。
サンジがこの城にいるのは、まさにその薔薇の代償ではあったが、それはそれとして。
─────それに、ドレス…新しくしてもらった礼も言ってねェ。
魔獣は薔薇の枝に積もった雪を、ひとつひとつ丁寧に鳥の羽で払っている。
大きな体躯に似合わない、丁寧で丹念な仕事。
その無心な黙々とした姿は、メリー号で鍛錬する剣士を思い起こさせた。
サンジはしばらく魔獣を眺めていた。
そうして自分の考えにふけっていたが、不意に、「そうだ。」と、顔をあげると、
「光る花のレディ達?」
と、花を呼んだ。
庭仕事を終えた魔獣が、城に戻ろうと踵を返すと、戸口のところにサンジが立っていた。
魔獣が驚きに目を丸くする。
「いつからいた。そんな肩を出した服で外に出るんじゃない。」
そう言って、サンジの肩を掴む。
「冷たいではないか。」
顔を顰めた魔獣を見て、サンジが微笑んだ。
「そういうてめェは、こんな雪空の中、長いこと外いたってのに、あったけぇな。」
肩に置かれた手に頬を摺り寄せると、魔獣はビクッとその手を離した。
サンジが少し驚いた顔をする。
だがすぐそれはまた穏やかな微笑に戻って、
「ずっと外で仕事してて、汗かいたろ。ひとっ風呂浴びようぜ?」
と言った。
「あァ?」
訝しむ魔獣に構わず、サンジはその腕をとってぐいぐい引っ張っていく。
魔獣も戸惑いながら、サンジに引かれるまま歩いていく。
長い廊下を、二人は手を繋いで、黙って歩いていく。
けれどサンジの口元には柔らかな笑みが浮かんでいた。
そうしてサンジが魔獣をつれてきたのは、大浴場だった。
これもまた、サンジの記憶の中から再現してきたかのように、アラバスタの浴場と寸分違わない作りになっている。
脱衣場に入ると、サンジは無造作にドレスを脱ぎ捨てた。
「洗ってやっからてめぇも脱げよ。」
そう言いながら、女物の下着もぽいぽいと脱ぎ捨てる。
返事がないので、おかしいな、と思って振り向くと、魔獣は目の前で大胆なストリップを始めたサンジを見て、完全に硬直していた。
「あー…。」
がりがりと頭をかくサンジ。
「いちいち過剰反応してんじゃねぇ。俺ァレディじゃねぇっつってんだろうが。」
全裸のまま魔獣に近づくと、魔獣の体がびくりと震えた。
「ふ、ふ、服を着ろ!」
もう滑稽なほど慌てふためいている。
─────強姦までしたくせになに言ってやがんだ、こいつは。
うろたえる魔獣を鼻で笑って、サンジは魔獣の傍にずいっと寄った。
「いちいち過剰反応すんな、つったろうが。そういう態度とられるとなぁ、」
すっと身を屈める。
「こっちだってこっぱずかしいんだよッッ!!」
思い切り魔獣の体を浴室に蹴りこんだ。
油断していたのだろう、魔獣の体は受身もとれず浴室に転がり込む。
それを追って浴室に入り、魔獣が身を起こそうとした瞬間に、上から容赦なくお湯をかけた。
「何しやがる!」
さすがに魔獣が怒鳴った。
「何、って洗ってやる、つったろうが。はい、座って。」
頭の上からシャンプーをぶちまけた。
まだ何かを抗議しようとした魔獣は、目にシャンプー液が入りそうになったのか、慌てて目をつぶる。
魔獣がおとなしくなったのを見て取って、サンジは、よしよし、と魔獣の頭を洗いだした。
「うわ。てめェ、泡たたねぇぞ。どんだけ洗ってねぇんだよ。」
全身毛なので、どこまでが頭だかわからないので、そのまま全身にもシャンプーをかける。
毛が湯を吸って指通りが重いので、爪を立てて洗ってやったが、魔獣は痛そうな素振りも見せない。
濡れて、毛が魔獣の体に張り付く。
馬鹿でかいと思っていた魔獣の体が、案外そうでもない事に気づく。
だが、楽にサンジよりも一回りはでかい。
密集した毛の下にあるのは、鋼のように鍛え上げられた体躯だ。
触れると硬い筋肉なのがわかる。
薔薇のお世話しかしてないように見えるのにこの筋肉はどうだ。
それとも、あの薔薇一輪で、メリー号のゾロが振り回してたダンベルの重さくらいあったりしちゃうんだろうか。
頭に使ったシャンプーをそのまま体にもふりかけて、サンジはしゃこしゃこと魔獣の体を洗った。
「お客さん痒いとこありませんかー?」
ふざけて聞くと、魔獣は小さな声で、「いや。」と答えた。
どうにも困ってしまっているらしい。
サンジを力づくで強姦した魔獣と同一人物だとはとても思えなくて、サンジはちょっと笑った。
広い背中を、爪を立てて洗っていく。
洗っているうちに、犬か何かを洗ってやっているような気持ちになって、うっかり魔獣の肛門に指を滑らすと、魔獣が唸って飛び上がった。
「あ、悪い。」
そうだった。これはゾロだった。
ゾロのケツ洗ってやるこた、ねぇよな。
魔獣の前に回って、頭を抱え込むようにして、耳の後ろも洗ってやる。
角のところはどうやって洗ったらいいのかなあとちょっと考えて、まあ同じでいいだろ、と泡をつけてしゃかしゃか洗う。
すると、魔獣の体がだんだん前傾姿勢になってきた。
洗いにくいので体を起こしたいのだが、魔獣は何故かどんどん屈みこんでいく。
「おい、体起こせよ。洗いにくい。」
そう言ってひょいと魔獣の体を覗き込んで、サンジは、あ、と思った。
魔獣の性器が勃ち上がっていた。
─────あー…、そっか。これを隠そうとしてんのか。
魔獣の巨大な性器ははちきれんばかりに魔獣の股間で張り詰めている。
見ているだけでも辛そうだ。
─────つか、こいつ、俺で勃つんだ…。
そりゃ、もう、一回姦られちゃってるけど。
でもあの時は、性行為と言うより、いかにも獣に食われたって感じだった。
サンジはこの世界では何故かレディという事になっているようだが、ドレスを脱いでしまえば、この体はどこをどう見ても男の体だ。
柔らかな乳房はないし、股間には魔獣と同じモノがぶら下がっている。
まあ、魔獣の性器はサンジよりもはるかに規格外のサイズだが。
なのに魔獣は、この体に、欲情するというのだろうか。
─────こんなバカみたいにでけェもん、力任せにぶち込みやがって。
それでも今の魔獣は、あの時の凶行が嘘だったかのように、サンジから必死で体を隠そうとしている。
勃起したからといって、性衝動のままにサンジを組み敷くようなことはしない。
それを嬉しいと思うのは、間違っているだろうか。
魔獣の心がちゃんとサンジに向いているように思うのは。
サンジはゆっくりとその場に膝をついた。
顔を覗き込むと、魔獣は明らかにうろたえている。
サンジの視線を避けるように屈もうとする体を、サンジは両手で制した。
指先で魔獣の胸元に触る。
指で、魔獣の毛の下の肉体を探る。
なんとなく気づいてはいたが、そこに、袈裟懸けの傷はなかった。
それでもサンジの指は、そこにはない傷をたどるように動く。
左の肩口から、心臓の真上を通って、右のわき腹へ。
くすぐったいのか、魔獣がかすかに身じろいだ。
わき腹の下まで指を滑らせると、どうしたって猛った性器が目に入る。
魔獣の顔を見上げると、魔獣は困ったような情けないようなうろたえたような目をサンジに返してから、そっと目をそらした。
サンジも少し困ったように笑って、そして、おもむろに魔獣の性器を掴んだ。
「──────ッッッ!?」
魔獣が驚いて腰を引こうとするのを、サンジは強く性器を掴んで許さない。
「離、せ…ッ!」
魔獣が後ろへ逃げようとする。
「洗ってやるって、言っただろ…?」
サンジが囁いて、泡でぬるぬるになった手を上下に滑らせた。
途端に魔獣が息を呑んで硬直する。
魔獣の動きが止まったのを見て、サンジはゆっくりと魔獣の屹立した性器を洗い始めた。
両手で掴んで、泡を塗りつけながら上下に擦る。
えらのはった先端の、段差のところも指の腹で丁寧に擦る。
亀頭にも満遍なく泡をつけて、丹念に。
魔獣の息が荒くなってくるのがわかる。
それでも魔獣は、膝の上で拳を握って、サンジには触れようともせず、ただじっと耐えていた。
サンジも、洗う、という建前を崩すことなく、魔獣の屹立した性器を擦り、根元の毛を泡立て、両手で優しくその下の陰嚢までも洗っていく。
それを何度も繰り返しているうちに、ついに魔獣が、
「も、う、手を…はな、せっ…!」
と、掠れた声で小さく叫んだ。
その声を聞いた瞬間、サンジの背筋にぞくぞくっと電流が走った。
魔獣の制止を聞かず、なおも執拗に魔獣の性器を“洗う”。
サンジは、自分のペニスも屹立している事に気がついた。
さすがにバツが悪くて、魔獣からは見えないように腰を引く。
サンジの手の中の魔獣の性器はもう、泡以外のものでしとどに濡れている。
先端からはとろとろと蜜が零れ落ちてきている。
それを、サンジは、舐めたいなあ、などとぼんやり考えていた。
これが泡だらけでなかったら、口の中に入れてしまっていたかもしれない。
突然魔獣の手がサンジの肩を掴んだ。
「これ以上はよせ。お前を、汚してしまう…!」
欲情に濡れた、そのくせ必死な声だった。
「大丈夫…。」
サンジがうっとりと呟いた。
「俺、が…綺麗に、してやる…って言った、から…、」
とろんとした目が魔獣を見上げた。
「…かけろよ、俺に…。」
次の瞬間、熱い飛沫がサンジの肌に降り注ぎ、サンジもまた、屹立した性器から白濁を迸らせていた。
2005/08/18
お風呂でいちゃいちゃ。
サンジ君がだいぶほだされています。