血と狂気の咆哮
朱紗真悟は悪夢に魘されていた。
あの日 以来、毎晩。それは恐ろしい淫夢だった。
いっそ本当にただの悪い夢だったのならどんなに良かっただろう。
けれど、全身を襲う強烈な倦怠感と共に目覚めた朱紗は、毎朝思い知るのだ。
あの出来事は、夢などではなかったと。
この悪夢は、全て、あの日起こった真実だったのだと。
その証拠に、今、朱紗の傍らに、あの少女はいない。
朱紗を好きだと言ってくれた、結婚したいと言ってくれた、甘い口付けを交わした、柔らかい髪の少女はいない。
朱紗に残されたのは、あの日の出来事によって凶暴なまでに覚醒させられた超能力だった。
その肥大した超能力は、朱紗自身の目は見ていなかったはずの、あの陵辱の瞬間を、正確にサイコメトリーした。
それが毎晩、夢に現れて、朱紗を苦しめていた。
映像は鮮明だった。
まるでビデオテープを再生しているかのようにくっきりと、生々しく、正確に、朱紗の中で蘇る。
いや、映像だけではない。
その卓越した能力は、あの時あの場にいた全ての者の感情すらも、余さず拾い上げた。
朱紗にとって、それはまさに地獄だった。
己自身の怒りと、恋人が味わった恐怖と絶望、そして脳を焼き切るような陵辱者の欲望。
それがほぼ同時に、一斉に、朱紗の内に噴き出すのだ。
夢の中で、朱紗は、朱紗自身であり、汚される恋人であり、彼女を襲う陵辱者であった。
夢の始まりはいつもまちまちだった。
学校での会話からの事もある。夕刻の下校時の事もある。
けれどいつも、それはあの日の惨劇へと繋がる。
その日の朱紗は、夢の中で必死で走っていた。
彼の頭の中には一つのことしかない。
──── 早く、早く…
──── 早く警察へ…
──── 待ってて朱紗君、すぐに助けを呼んでくるから…
朱紗は、
あの時 の雪代小百合と、完全に同調 していた。自分の足がもどかしい。
焦るばかりで全然足は進んでいないような気がする。
恋人の身が心配で、不安で、その目に涙が滲む。
「きゃっ!?」
不意に視界が閉ざされる。
前へ進めない。
一瞬、訳がわからなくなった耳に、粘着質な男の声。
「お〜っとぉ。どこ行こうってんだい。美少女さんよ。」
心臓が跳ね上がる。
それでもまだ、少女の脳裏には、自分の身に降りかかろうとしている事への恐怖は、上っていない。
「離して、お願い」
──── 早く
「お願い、逃がして」
──── 早く行かないと、
「離して…!」
──── 朱紗君が殺されちゃう
「いやーーッ!!」
せつないほどけなげな少女の想いと同調している朱紗の意識は、同時に、陵辱者の意識をも拾い上げ、吸い取る。
──── いひひひひ
逃げる柔らかで華奢な躰を、抱きとめる。
──── うへへへへへ
ブラウス越しに、ブラの手触り。
──── たまんねぇ、このスケ。
いい匂いがする。
──── たまんねェ。犯りてェ。
もがく躰。
──── ちくしょう、犯りてェ。
甘い悲鳴。
──── 犯 り て ェ。
力を入れれば折れてしまいそうに細い躰。
そのくせしなやかで、柔らかい躰。
弱々しい抵抗。
震えて、泣くことしかできない瞳。
学校で見ている時とはなんという違いなのだろう、この手の中の存在は。
あの、幼ささえ感じさせるほど、清く無垢なあの少女が、今、目の前で痛々しく怯えている。
──── やめろ!
朱紗自身の意識が絶叫する。
──── 雪代さんから手を離せ!
全く同時に、雪代の悲鳴がそれに被る。
「やめて 何もしないで お願い!」
そして、陵辱者の剥き出しの欲望。
──── もっと泣け。もっと喚け。もっともがけ。もっと俺を楽しませろ。もっともっともっともっと も っ と
ブラウスが引き裂かれる。
悲鳴のような音を立てて、薄い布地はあっけなく裂かれる。
その音が、まるで自分の身を裂いている音のように思える。
心が、裂かれる。
──── 怖い。
陵辱者にとってはそれが、プレゼントの包装紙を破く時のような、心躍る音に思える。
ブラウスの下から純白のスリップが現れる。
透ける肌の線に、途轍もなく煽られる。
少女を包む、淡い色彩。
柔らかい薄茶の髪、ぬけるような白い肌、清楚な下着。
薄暗い闇の中にあって、それらだけが光り輝く汚れなき存在に思える。
これを、今から犯すのだ。
この、白く美しいものを、めちゃくちゃに犯して、汚して、ずたずたに陵辱するのだ。
少女の心は恐怖で塗りつぶされている。
──── 怖い。
それしかない。
──── 怖い 怖い 怖い 怖い
恐怖のあまり、体が竦む。
──── 助けて 誰か
逃げようとしているのに、体がうまく動かない。
ハアハアハアハア、という男の荒い息遣いに、全身が粟立つ。
──── 助けて 朱紗くん
スカートが剥ぎ取られる。
「いやーーーっ!! やめてーっ」
必死で泣き叫ぶ。
その悲鳴は、陵辱者を煽るだけだというのに。
なんという甘い声なのだろう、と陵辱者は思う。
まるで妙なる歌声のようだ、と。
──── 可愛い顔をして、嫌がってる素振りをして、泣き叫んでるふりをして、この女は俺を誘ってやがる。
その誘いに、自分はただ忠実に従っているだけなのだ。
スリップを引きちぎる。
現れた肌の美しい白さに、一瞬息を呑む。
「やめてーっ」
その悲鳴のなんと甘美な事か。
抵抗を封じるため、頭を押さえつける。
同時に頭を押さえつけられる痛みも感じる。
指先に髪が絡む。
耳元でぶちぶちと髪が切れる音がする。
手の中に髪が抜けて残る。
恐怖と痛みに悲鳴を上げる。
耳に届く可憐な悲鳴に、うっとりとする。
誰か助けて、と闇に手を伸ばす。
誰が逃がすか、とその体を引き寄せる。
朱紗自身は触れる事の叶わなかった、なめらかな肢体。
その感触を朱紗の意識が拾い上げたとたん、それは何よりも強く、朱紗の心を絡めとる。
──── 雪代さん…雪代さん雪代さん雪代さん…
その名の通り、雪のように透き通るような白い肌。
いい匂いがする。
柔らかい。
体を覆うものを全て剥ぎ取り、零れ出た乳房を鷲掴みにする。
夢中で、柔らかな乳肉をこね回す。
少女の心の痛みも我が事のように味わっているのに。
少女の絶望が心にひたひたと染み入ってくるのに。
少女の恐怖が己の心をも凍らせているのに。
少女の悲鳴も耳に届いているのに。
何より朱紗自身の意識がその行為を許容できず憎悪しているのに。
朱紗の手は止まらなかった。
力任せに乳房を捏ねる。
まるで握りつぶそうとしているかのように力をこめる。
それでも手の中の肉は、どこまでも柔らかく、優しく、手のひらを押し返してくる。
──── ちくしょう、好きモノのカラダしやがって…
そう思ったのは、陵辱者か、朱紗か。
薄桃色の乳首に齧りつく。
少女の体がびくりと震える。
──── このまま食いちぎってやりてェ
歯を立てる。
「あうっ!」
ぎりぎりと歯に力をこめる。
「いや〜っ! ああーっ!」
少女の体がのけぞる。
もう噛み千切れる、というところで、口を離す。
がくがくと少女の体が痙攣した。
まだ痛みが残っているであろう、そこを、再び咥える。
「ひっ!」
舌を使って激しくしゃぶる。
「痛い… やめて…」
少女がすすり泣く。
──── 何が痛ェだ、クソアマ。俺がしゃぶってやってんのに痛いだと抜かすか。
乳暈ごと咥えなおし、思い切り吸引する。
「ひっ」
ついでに牛の乳搾りよろしく乳房を絞り上げる。
「ううーっ」
さんざん嘗め回し、しゃぶり尽くしてから乳房を解放してやると、薄いピンク色だった小さな乳首は、痛々しく、赤く腫れ上がっていた。
乳首の皮は裂け、血が滲んでいる。
乳房も指の跡がくっきりと残っている。
己が刻んだ所有者の証に、目が眩んだ。
もっと刻み付けなければ。
この体に、俺のしるしを刻み込めなければ。
もう片方の乳首にも齧りつく。
今度はどうしてやろう。本当に噛み千切ってやろうか。
ミルクの代わりに血が噴出すまで吸い尽くしてやろうか。
咥えた歯に力を込めると、少女が悲鳴を上げた。
「やめて… 痛い… 痛い…」
悲痛なその叫びに、陵辱者の下卑た欲望は更に膨れ上がる。
──── ひひ… 可愛い声で泣きやがって…
口の中の乳首をぐにぐにと噛み続ける。
そのたびに、組み伏せた躰は、新鮮な魚のように跳ねた。
少女がすすり泣いている。
それはどこか喘ぎ声のようにも聞こえる。
本当に喘がせてみたい、と思った。
乱暴に噛み続けていた乳首を離す。
そこはもう、ぐずぐずに傷ついていて、もはや快感を覚える器官ではなくなっている。
代わりに下乳からなだらかな腹部に向って、べろべろと嘗め回した。
可愛らしい臍にも舌を突っ込んで嘗め回す。
少女の美しく清らかな体が、陵辱者の唾液でぬらぬらと汚れていく。
喘ぎ声が聞きたいのに、少女からは、歯を食い縛ったような、うう… うう… という呻きしか聞こえて来ない。
焦れて、申し訳程度に生えている産毛のような陰毛を鷲掴みにした。
そのまま引きちぎる。
悲鳴と、ぶちぶちぶちっという感触があって、柔らかな毛が手の中に残る。
それを喰った。
口に入れて咀嚼した。
可愛い女は毛もうめェ、と言って、いひひひひと笑ってやると、少女が、ひっと引きつった悲鳴を上げた。
この期に及んでまだ躰が逃げを打つので、膝頭を押さえてがばっと大股開きにしてやった。
──── 濡れてやがる…
そこに明らかなぬめりを見て、陵辱者の意識は狂喜する。
女の体は、快楽を感じていなくとも生理的な反応で愛液を分泌する。
例えば意に添わぬ行為を強要された時にも、それは自らの内臓を傷つけないための自己防衛の役割を果たす。
だが、陵辱者にそんな女の生理はどうでもよかった。
己の愛撫で女陰が濡れた、それだけの事だった。
──── 濡れてやがる。感じてやがるんだ、このスケ。犯されて感じる雌豚だ。
夢中で、その滴りを啜る。
じゅるじゅると言う音に、少女の可愛らしい顔が歪んだ。
「やめて…」
羞恥と恐怖に、少女の体は震えている。
指で女陰を思い切り広げて、膣と言わず尿道と言わず舌を突っ込んで味わう。
「あーーーッ」
少女が、イヤイヤをするように首を振る。
──── 全くいい声で啼きやがる。たまんねェ。
下半身に集まった血液が、どうしようもないほど膨れ上がっていくのを感じる。
──── 早ぇとこ突っ込んでぶっ放してぇ。
この柔らかな肉の最奥で。
既に、陵辱者の股間では、そのどす黒い欲望が、禍々しく屹立していた。
それは、朱紗自身の持つ凶暴性で、現実のそれよりも尚、巨大に、邪悪に、猛り狂っていた。
およそ、人間の性器とは思えないような、醜怪な肉槐。
これを、この凶悪な肉を、少女のこの可憐な秘裂に力任せに捻じ込むのだ。
思うだけで、ごぽり、と、尿道から音を立てて先走りの液が滴り落ちる。
少女が怯えた目で己を見ている。
その目は涙で濡れている。
必死で、その全裸の身を庇っている。
ぞくぞくと背筋に欲望が走る。
──── 喰らってやりてェ
ごくり、と喉が鳴った。
目の前の白い体に掴みかかる。
視界の隅に、少女の引きつった顔が掠ったが、もう止まらなかった。
──── やめろ
──── やめてくれ
──── 雪代さん
──── うおおおおおおお
──── 雪代さんを離せ!
朱紗の意識もまた、悲痛な叫びをあげる。
だが、恋人を無残に陵辱しているのもまた、朱紗自身なのだ。
猛り狂った欲望が、怯え震える、けれど柔らかい肉の中へ、ずぶずぶと沈んでいく。
「きゃあああーっ」
瞬間の、内臓を抉る、激痛。
瞬間の、全身が震えるほどの、快感。
得体の知れないことをされているという、途轍もない、恐怖。
ついに犯してやったという、途轍もない、充足感。
痛みは、何度も何度も、少女の体を抉った。
快感のあまり、何度も何度も、少女の体を抉る。
その部分が、熱い。
その部分が、熱い。
まるで、真っ赤に焼けたナイフでも突き刺されているかのようだ。
まるで、熟れた果実のようにどこまでも柔らかく、狭く、熱く、欲望を包んでくる。
──── 朱…紗、く…
何か取り返しのつかないものを、確かに失ってしまったという、愕然とした思いが、少女を恐ろしく深い絶望へと、叩き落す。
微かな意識が、愛しい恋人の名を紡ぐ。
助けて、とも、やめて、とも、その瞬間、思わなかった。
ただ、会いたい、とだけ。
恋人に会いたい、と、ただ、それだけが募った。
もう一度、抱きしめて。
名前を、呼んで…。
深く暗い喪失感の中で、恋人の存在だけが、かろうじて少女を正気の縁に縋りつかせていた。
凶器は、執拗に少女を犯し続ける。
陵辱者は、夢中で少女の体を屠っている。
侵入者を拒む、狭く頑なな秘裂。
強引にこじ開けると、それは妙なる快感をもたらす締め付けと化す。
柔らかく、熱く、ぬるりと誘い込んで、驚くほど貪欲に、吸いついてくる。
うっかりするとすぐにでも放ってしまいそうだ。
もっと喰いたい、もっと犯したい、と、とめどない欲望があとからあとから湧いてくる。
思い切り奥まで突き刺すと、信じられないほどの圧迫感の先に、こりこりとした子宮口の感触がある。
そこをぐりゅぐりゅと擦り上げるようにしてやると、女は悲鳴を上げてのけぞる。
だが、その膣内は、突如こっちをすべて搾り取ろうとするような、うねうねとした壮絶にエロい蠕動運動を始め、きゅんきゅんと不規則に締め上げては吸いついてくる。
それに極上のなめらかで柔らかな肌と、すすり泣く可憐な声と、可愛らしい顔がついてくるのだ。
──── すげぇ。
──── この女、すげぇ。
貪っても貪ってもまだ足りない。
まだ喰らい足りない。
数え切れないほどの女を犯してきた。
処女も何人も犯した。
けれど、こんな蜜壺を持った女はいなかった。
こんな女には初めて会った。
──── この女は絶品だ。
──── この肉は極上だ。
不意に、違和感。
違う。
──── 俺は女を犯したことなどない。
──── 女の肉の感触など知らない。
──── 雪代さんに触れてなど、いない。
心が、軋む。
──── この女はいい。
やめろ。
──── 食いでがある。
やめろ。
──── もっともっと犯してぇ。
やめてくれ!!!
違う。俺はこんなこと思っていない。俺は違う。俺じゃない。俺は違う。違う違う違う違う!
──── 俺じゃない。
──── 俺は知らない。
──── 雪代さんの肌の感触も。
──── 雪代さんの乳房の柔らかさも。
──── 雪代さんの膣内の熱さも、狭さも、ぬめりも。
──── 俺は知らない。
では、これは何だ?
現実に少女を犯していたのは朱紗ではない。
だが。
今、この悪夢の中で、こうして、愛しい恋人を卑劣な手段で無残に屠っているのは、紛れもなく朱紗真悟自身であった。
現実には朱紗は恋人を犯してはいない。
それどころか指一本、その肌には触れていない。
朱紗は、その肌の感触を知らないのだ。
では、これは?
今ここでこうして生々しく感じるこれは、…何だ?
朱紗の超能力は、全てを忠実に再現して、全てを朱紗の身に蘇らせた。
けれど、朱紗の心は、以前の朱紗のままだった。
朱紗の心は、突如発露したその力に、対応できないでいた。
──── 俺じゃない。
──── 雪代さんを犯したのは俺じゃない。
──── あいつらだ。
あいつら?
あいつらって誰だ?
──── 俺だ。
──── このスケ犯したのは俺だ。
──── 確かにバージンだったぜ
──── いただかせてもらったぜ
──── なかなかのもんだったぜ!
違う!
俺じゃない!
──── 俺だ。
畜生、あいつら!
──── 俺が犯した。
雪代さんをよくも!
──── なかなかのもんだったぜ
許さない。
──── いやーっ
雪代さん!
──── 助けて朱紗くん!
うおおおおおおおおおお
──── 俺が犯した。
──── 俺はお前だ。
──── これが俺自身でないと何故言える?
──── 触れたくはなかったか? この肌に。
──── こんな風に犯したいと思ってはいなかったか?
──── 犯しただろう? 想像の中で何度も。
──── 何回おかずにした?
──── その頭の中で、何回この女を汚した?
ガラスの器のように繊細な朱紗の心に、どろどろに煮えたぎった溶岩と化した
超能力 が、注がれる。
──── 俺が犯した。俺が犯した。違う俺じゃない。俺だ。お前だ。お前は俺だ。やめて。朱紗くん。俺が犯した。俺が。助けて。ひひひひひ。やめてゆるして。たまんねぇばーじんだ。やめろゆきしろさんをはなせたすけてすさくんかわいがってやるぜころしてやるやめていいおんなだきゃあああああころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる
ぴしり。
どこかで音が聞こえた。
脆い心に、ひびが入る、嫌な音だった。
朱紗の心は、その巨大な力に呑み込まれる。
どろどろに溶かされる。
完全に、自我を失うほどに。
残ったのはただ、欲望だけ。
どこまでも飢えた、永久に飢え続ける、欲望だけ。
いつしか、朱紗の体は、禍々しい変容を遂げていた。
紅蓮の焔が朱紗の体を包む。
いや、焔は朱紗自身から噴き出していた。
欲望が、強烈な飢餓が、朱紗の体を変える。
全身がわさわさと黒い獣のような毛に覆われる。
体躯も獣のように巨大になる。
ぐがあああああああああああああ
その咆哮ももはや人間のものではありえなかった。
そして、その股間からはまさに化け物と形容するしかない性器が、膨れ上がっていた。
それは根元から8本に分かれ、それぞれが大蛇のようにうねり、鎌首をもたげていた。
全て、人外の大きさと、太さで。
あの時の陵辱者は全部で8人。
その8人のばらばらな意思と欲望を、朱紗が全てその身に吸い取った結果の、邪悪なる変容であった。
──── ゆ き し ろ サ ン …
愛しさとせつなさと、──── 欲望。
喰いたい。
その白い肌を噛み千切り、咀嚼して、飲み込みたい。
8本の陰茎が、逃げる少女の体に絡み付く。
──── 犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ
1本が柔らかな口腔を犯す。
1本が震える乳房に巻き付く。
1本がもう一方の乳房に。
1本がただひたすらに肌の感触を楽しんでいる。
1本が尻穴を穿り返そうとしている。
そして残り3本は先を争って少女の膣に我先にと潜り込んでいる。
そこにあるのはただ、欲望だけ。
犯したい、喰らいたい、という、動物的な本能とも呼べる、純粋な欲望だけ。
朱紗から生えた8本の大蛇は、ただひたすらに、少女の体を喰らう。
少女の悲鳴も、恐怖も、絶望も、全て喰らう。
もし。
もしこの場に美剣千草がいたら。
この悪夢を目にする事が出来たなら。
欲望のままに少女を屠る8匹の大蛇が、朱紗の強大な力により蘇った
八岐大蛇 の幼体である事に気づいただろう。その恐るべき魔は、朱紗の超能力の発露と同時に朱紗の内に出現し、じわじわと朱紗自身を食いながら成長し、やがて朱紗の呪縛から解き放たれ、世界を喰らう最凶の魔へと変貌を遂げるのだ。
だが、それは今、まだ弱い幼体で、けれど少女一人なら易々と殺せるぐらいの強さを十分に持って、朱紗の恋人を犯していた。
びゅる。
大蛇が精液を吐いた。
びゅる びゅるる びゅく びく どくっ
8匹の大蛇が次々に射精する。
その毒と悪臭を、美しく汚れのない少女の体の、中と言わず外と言わず、撒き散らす。
汚す。
少女はもう動かなかった。
人形のように地面に身を横たえたまま、指一本動かせないでいる。
その虚ろな、見開いた大きな瞳からは、涸れる事のない涙が、とめどなく、後から後からあふれては、汚れた頬を伝う。
その唇が、小さく動いて、声にならない声で、微かに朱紗の名を呟いた。
「雪代!」
思わず叫んで、朱紗は飛び起きた。
しん、とした室内。
自分の部屋だった。
それが夢である事に気づいて、けれど、雪代の身の上に起こった現実である事にも同時に気づいて、朱紗はため息をついた。
柔らかな朝日が室内に射していた。
朱紗は、じんじんと痺れるように痛い頭をなだめながら、のろのろとベッドから這い出た。
機械的に服を着替え、歯を磨き。顔を洗う。
あれから一週間がたっていた。
あんな事があったのに、変わらずに朝がきて、学校が始まるのが不思議でならなかった。
雪代小百合はあの日から学校には来なくなった。
陵辱者たちも、何事もなかったかのように学校に来ている。
俺は無力だ、と朱紗は思った。
自分の無力さを痛感していた。
守れなかった。
実は朱紗は、目覚めと同時に、夢の内容を一部忘れていた。
雪代が陵辱された日の事を夢に見たのは覚えていた。
けれど、夢の中で、己までもが雪代を犯していたことは忘れていた。
もちろん、自分が禍々しい化け物に変容した事も。
或いは、朱紗の心が、自分自身を保つために無意識の内にその記憶を心の底に閉じ込めたのかもしれない。
今の朱紗はただ、自分の無力さに深い虚無を覚える、力も何も持たない一般生徒に過ぎなかった。
今、自我をも砕く強大な力は、朱紗の内にひっそりと眠っている。
ほんの少しのトリガーですぐさま爆発する危険性を孕みながら。
宇宙最大といわれた魔もまた共に。
END.