HAWK x BARBARA
そりゃまあ、ムカつくかムカつかないかと言えば、ムカつく。
けれど、それを露骨に人前で露にするには、女の26歳というのは、ちょっとばかり微妙な歳かな、とバーバラは思う。
だいたい、船を失って酒びたりの海賊が、酒場で踊っていた旅芸人一座の踊り子とデキちまう、なんて、陳腐以外の何物でもない。
何物でもないが、デキちまったもんは仕方がない。
仕方がないが、それまで花束抱えて日参しては熱烈な歯の浮くようなセリフで踊り子をかき口説いていた海賊が、ヤッちまったとたんに、ぴたりと舞台を見に来なくなった。…なんて、あんまりにもお約束過ぎだ。
おまけに、どうしたんだろうと思っていた矢先に、他の女と宿屋から出てくるのに鉢合わせした日にゃあ、一体これは何の茶番劇だ?と笑いすら起こってくる。
「バーバラがそんなだからホーク船長がつけあがるんだわ!」
さっきからナタリーは幼い顔を真っ赤にして怒っている。
運悪く、というか、宿屋の前で、バーバラが、ホークと女に出くわした時、バーバラの隣にはナタリーがいた。
怒るより呆気にとられていたバーバラの代わりに、ナタリーがホークに食って掛かったのだ。
しかし、幼いナタリーの抗議に、ホークは大人の狡さでのらりくらりと言い逃れ、ナタリーはその怒りの余波を、帰ってきてから女性陣全員の前でぶちまけた。
おかげで、事態は女性陣全員の知るところとなった。
というわけで、現在、ちょっとしたミーティング中である。
信じらんない! もう、信じらんない! を何度も繰り返しながら、ナタリーは怒っている。
「ま、男なんてそんなもんだって。」
顔を紅潮させながら怒るナタリーの額を、軽く指先で小突きながら、ミリアムが、ふふん、と鼻先で笑った。
「男が優しいのはヤルまで。ヤッた後は、“釣った魚にエサはやらない”ってね。バーバラのデカ乳も舐められたもんねぇ。」
「いや、デカ乳はこの際関係ないだろ。」
とりあえず、シフが突っ込む。
ま、そりゃさぞかし船長も舐めまわしたんだろうけどさ。と、エロぐちを叩きながら、隣に座ったバーバラの巨乳を、人差し指でぷにぷにと突っついてみたりもする。
バーバラが黙ったまま、シフの額に、でこピンで応戦する。
それをはらはらとして見ながら、クローディアが、
「バーバラ…どうするの?」
と聞いた。
「ちょん切っちゃえ!」
いきなり、アイシャが言い出した。
「…アレをかい?」
シフが、いきなりの過激発言に目を丸くする。
意見の内容より、それが、まだナタリーと歳も大差ないようなタラール族の少女の口から飛び出した事に驚いているらしい。
「そりゃいいや!」
ミリアムが吹き出した。
「ちょん切れちょん切れ、そんなもん。あたいのレイピア貸そか?」
ゲラゲラ笑いながら言う。
「レイピアなんて生易しいわ! シフのガーラルフレイルでダブルヒットよ!」
アイシャ、更に過激発言。
「…それって、ちんこどころか本体が死なないかい?」
突っ込み役はやっぱりシフ。
だがさすがに、おずおずと、だがはっきりと、
「あの…私の大弓もお貸ししましょうか?」
とクローディアが言い出した時は、
「だから死ぬって!!」
と、全員が突っ込んだのだった。
* * *
「…てな感じの話になったのよ。」
後日、バーバラは、舞台がはねた後に、後フォローよろしく、口説いてる頃に戻ったかのように大きな花束を持ってきたホークに向って、その時の議論の話をしてみせた。
「ちょん切られちゃあ叶わんなあ。」
笑いながらホークが言う。
その様子からは、ホークが、浮気がバレても、バーバラがいちいち騒ぎ立てたりしない女であることを熟知している─── たかをくくってるとも言う ───のが、ありありと読み取れた。
一回や二回の寄り道が何だって言うんだ。俺というレイディラック号は、必ずお前という港に帰っていくんだ。俺が本当に愛しているのはお前だけだよ、バーバラ。
そんなセリフを白々しく吐きながら、本当に久しぶりにバーバラの舞台を見にきたホークの顔には、罪悪感などこれっぽっちも浮かんでいない。
ほんとに舐められたもんだ、とバーバラは思う。
いや、乳をじゃなくて。
バーバラに浮気を咎める気配がないのを察して、ホークは早くもそれを無かった事にしたようだ。
しゃあしゃあと、今夜はお前を眠らせないぜ、だのと嘯いている。
バーバラは、肩を抱く手に素直に身を任せながら、恋人の耳に蠱惑的に囁いた。
────長い夜になりそうね。
* * *
旅芸人一座が町に逗留している間、芸人達は、宿に泊っている。
バーバラの部屋に入ったホークは、一瞬、違和感を覚えた。
以前に来たこの部屋とは、何かが違っている気がする。
が、それを確かめるのよりも早く、バーバラの柔らかい唇が、それを霧散させてしまった。
貪るような、荒々しいキス。
がっついてやがる。
と、ホークは、濃厚な夜の予感に、ほくそ笑んだ。
気にしてない素振りをしててもやっぱり女だな。浮気に発奮したか?
服を脱ぐのももどかしく、バーバラの乳房を鷲掴みにする。
相変わらず素晴らしくデカい乳だ。
柔らかいくせに、張りがあって弾力があって、揉み応えがある。
いつまで揉んでいても揉み飽きない感触だ。
ホークを立たせたまま、バーバラは跪き、ホークの前を寛げ、固く張り詰めたモノを咥え込んだ。
熱くぬめる感触がホークを包み、思わずホークが陶然となった瞬間、
ぴしゅんっ!
鋭く射抜く音がして、ホークは身動きひとつ出来なくなっていた。
驚愕に目を見開いたまま、声すらも出すことが出来ない。
いつの間に手にしたのか、バーバラが大弓をホークを向けていた。
本当にクローディアに貸してもらったらしい。
ホークの頬を掠めるように、バーバラが放った矢が、壁に刺さっている。
何しやがる、と、声は出せないので心の中で怒鳴り、ホークがバーバラを見る。
バーバラは愉快そうに笑っていた。
「バトルでろくに使いもしない“影縫い”が、こんな事に役立つとは思いもしなかったわ。」
弓の初級技“影縫い”は、実際には影を縫っているわけではなく、矢の衝撃で相手を驚愕催眠にかけ、動きを封じる技だ。
普段のホークならみすみすかかってしまうはずのない技だったが、かけられた場面が場面だったために、完全にかかってしまっていた。
何とか技から逃れるべくもがこうとするが、眼球以外は全く動かせない。
ズボンの前を開けて陰茎を晒したまま、という情けない姿で固まっている。
かろうじてまばたきができるのみだ。
「あんたは勘違いしてるのよ、ホーク。」
バーバラが静かに言った。
「あたしはあんたが思ってるほど扱いやすい女じゃないつもりだし、それに、あんた一筋ってわけでもないのよ? あんまり舐めた真似してると、あたしにも考えがあるからね。」
静かな口調に、密かにドスが篭もっている。
ホークは、一瞬、何をされるのかと、ぞっとした。
まさか、本当にちょん切られるのか?
まさか、大弓の次はミリアムに借りたレイピアがでてくるのか?
まさか、本当にシフのガーラルフレイルでダブルヒットかますつもりじゃないだろうな。
死ぬぞ、いやマジで。
ビビるホークを横目に、バーバラが部屋の隅のクローゼットの鏡戸を開ける。
それからホークの前に戻ってきて、その体を突き飛ばした。
クローゼットの中に、ホークの体が倒れ込む。
自分では指一本動かすことが出来ないのに、人の手ならたやすく動かされることが、屈辱的だった。
どうするつもりだ、と、目で訴える。
そして、その時、先ほどから感じていた違和感のわけに気がついた。
このクローゼットの戸は、木の扉で、鏡ではなかったはずだ。
ホークの目が扉を見ている事に気づいたバーバラは、
「一座の手品師が舞台で使う鏡よ。」
といいながら、ホークを中に閉じ込めたまま、クローゼットの戸を閉めた。
すると、鏡だとばかり思っていた扉が、ホークからはガラス戸になっている。
「そっちからはこっちが良く見えるでしょう? こっちからは、ただの鏡に見えるんだけどね。」
バーバラはそう言うと、じゃ、ちょっと待っててね♪ と、クローゼットの中のホークにキスを投げて、部屋から出て行ってしまった。
一体何をするつもりだ、と思いながら、残されたホークは、何とか“影縫い”を解こうと、再び悪戦苦闘したが、必死の努力にもかかわらず、一向に体は動かせなかった。
どうやらバーバラが解いてくれるまで、技はかかったままのようだ。
しかしまぁ、ちょん切られる事はどうやらなさそうだ。
それにしてもバーバラはどこへ行ったのだろう、まさかこのまま放置するつもりじゃ、と、ホークが思い始めた時、人の気配がして部屋のドアが開いた。
見知らぬ人影に、ホークは思わず身を隠そうとするが、体は全く動かない。
一瞬パニックになりかけ、クローゼットの戸がマジックミラーであることを思いだした。
侵入者からホークの姿は見えないのだ。
ホッと息をつき、ホークは、侵入者が誰であるか見極めようとした。
それは若い男だった。
全く知らない顔だ。
ぎょろぎょろとした目の、痩せた男。
すぐに、バーバラが入ってくる。
「ああ、バーバラ… 僕がどれだけアムトに感謝してるかわかるかい?」
ぎょろ目の男がバーバラに言った。
バーバラが、男の首に手を回し、口付けで答える。
唖然とするホークの目の前で、バーバラが服を脱ぎ去り、ぎょろ目がその大きな乳房にむしゃぶりついた。
「ああんっ!」
──── おい…! 待て! やめろ!
声が出たら間違いなく大声で叫んでいたに違いない。
「あ… はあっ… ふ… あァッ…」
バーバラが甘い声を上げる。
その豊満な乳房を、夢中で弄んでいるぎょろ目男。
男の手の中で、その大きな乳房が自在に形を変える。
ホークには、その感触がまざまざとわかる。
あの乳房がどれだけ柔らかいか。
どれだけ素晴らしいか。
男の手でもたっぷりと余るほどデカくて、鷲掴みにすると指の間からむにゅりとはみ出してくるほどに柔らかいくせに、手を離すとぱるん、と震えながら、何事もなかったかのように元の形に戻る。
つんと上を向いた乳首がまたいやらしく、ぷっくりと隆起した乳輪ごときつく吸い上げてやると、尚も固くしこってくるのだ。
巨乳のくせに敏感で、こね回しているだけで女陰はみるみるぬかるんでくる。
本当なら、あの乳を思うさま貪っているのは、あの男ではなく、この俺のはずなのに!
ホークは、すぐにでも室内に躍り込んでいきたかった。
しかし、体は身動き一つ出来なかった。
────くそっ…! 浮気の面当てのつもりか?
クローゼットの中で、ホークは歯噛みした。
実際は影縫いのせいで歯を食い縛る事など出来ないのだが、ホークの頭の中では、自分はぎりぎりと歯軋りをしていた。
ぎょろ目の男は、バーバラの乳を力任せに鷲掴み、ひたすら揉み回している。
巨大なマシュマロを揉んでいるような、いつまで揉んでも揉み飽きない感触を楽しみながら、赤ん坊が乳を飲むように乳首に吸い付いて、じゅるじゅると音を立てて、乳首を吸っている。嘗め回している。
そのたびにバーバラは、嬌声をあげながら、びくびくと体を震わせた。
────畜生、畜生、畜生、畜生!
ホークの目は怒りで血走っている。
バーバラの乳をたっぷりと堪能したぎょろ目男は、もう一秒も待てない、といった風情で性急に猛った自身を取り出すと、そのままバーバラに覆い被さった。
「ああっ!」
性急な行為だったが、バーバラの上げた声にはっきりと快楽の響きがあったあたり、バーバラ自身のそこも、既に充分すぎるほどに潤っていたのだろう。
────淫乱女め…!
ホークの脳はもう完全に沸騰していた。
そのくせ、目は二人の痴態に吸い寄せられ、逸らす事ができない。
元より、指一本動かす事は出来ないのだ。
だが、もしかしたらそれは、ホーク自身が、動かせない、と思い込んでいただけかもしれない。
何故なら、目の前で濃厚な狂態を見せ付けられ、ホークの股間はすっかり勃起していたのだから。
「あっ ああんっ いいっ いいわぁっ いっちゃうっ いくうっ!」
滑稽なほどかくかくとせわしなく腰を動かしていた男の背が、急にびくびくと震え、男が果てた。
「ああ…。最高だよ、バーバラ…。」
バーバラの乳の中に顔を埋めて、しばし余韻に浸った男は、やがて体を上げ、身支度を整えると、またバーバラの素晴らしさを褒め称え、帰っていった。
見送るつもりか、バーバラが、全裸にコートを羽織っただけ、というとんでもない格好で、その後を追うように部屋を出て行く。
ようやく終わったか、とばかりに、ホークはため息をついた。
頭の芯がじんじんする。
股間も勃ち上がったままだ。
早く帰ってこい、バーバラ。
そしてこのふざけた技を解きやがれ。
そうしたらぶん殴って朝まで犯してやる。
バカにしやがって、クソ野郎が。
嫉妬で血走った目が、バーバラが出ていったドアを凝視する。
が、再びそのドアが開いたとき、ホークはまたしても愕然とした。
ドアが開いて入ってきたのは、バーバラではなく、二人の男だった。
────二人…!?
先刻のぎょろ目男とは別の男達だった。
一人はいかにも荒くれ者といった風情の筋肉質の男で、もう一人は細身で気障な仕草の優男だった。
やはり見覚えはない。
見覚えはないが、バーバラの舞台を見にきていた客なのだろう。
「今夜の踊りも最高だったよぉ、バーバラ」
「おまけに今夜は、こんなサービス付とはな」
そう、口々に言いながら、二人交互にバーバラにキスをする。
バーバラが、コートのボタンを外して、するりと肩からコートを滑らせた。
その下は、全裸だ。
ひゅうっと、優男が口笛を吹いた。
「すげェな…」
マッチョの方も感嘆の声を漏らして、早速バーバラの巨乳を弄り始める。
優男がバーバラの背後に立ち、振り仰いだバーバラの唇に、口付けを落とす。
バーバラの手が優男の股間を撫で始めた。
あまつさえ、舌なめずりまでしている。
ズボンがずり下ろされた頃には、男のそれはカチカチに固くなっていた。
それをバーバラの口が深く咥えこむ。
「うあっ…!」
男が上擦った声を上げた。
見ているホークにも、先刻、咥えられた感触がよみがえる。
あの、熱くぬめる感触が。
根元まで深く咥え込んで、喉の奥できゅっと締めてくる、絶品のテクニック。
大胆にディープスロートしながら、舌は生き物のようにうねうねとモノに絡み付いてくる。
極上の奉仕を受けるのが、何故自分ではない?
────いったい何がしたい、バーバラ!
バーバラは四つん這いになって、優男の股間に顔を埋めている。
頭が上下に動いている。
優男はバーバラの頭に手を添え、顎を反らしてのけぞっている。
相当気持ちがいいらしい。
マッチョ男が、バーバラの尻を掴んで、後ろから己の砲身を突き入れた。
バーバラの背が震えるのがホークから見えた。
優男のペニスで塞がれた口が、くぐもった声を上げる。
マッチョ男がリズミカルに腰を使いだした。
大きくグラインドさせながら、砲身を根元まで突き込む。
勢いよく肌がぶつかる、ぱんっぱんっという音が響く。
バーバラも腰を振ってそれに答えていた。
思わず生唾を飲み込みたくなるような、いやらしい腰の動き。
バーバラは舞台に立っている時もあんな風にいやらしく腰をくねらせて踊る。
見ている男達の殆どが、股間を突っ張らせながら、阿呆のように口を開けて、それに魅入るのだ。
「くっ…出すぞ、バーバラ。」
マッチョ男がずるりと剛直をバーバラから引き抜いた。
そのまましごいて、バーバラの背に勢いよく射精する。
「あ…俺、もっ…!」
バーバラに咥えられている優男も、ぶるりと背を震わせた。
口の中に出したらしい。
優男の放出が終わったあとも、バーバラはしばらく男のペニスをしゃぶっていたが、やがて顔を上げると、ごくり、と音を立てて口の中のそれを飲み干した。
飲み切れなかった白濁が口の端を伝う。
──── ………ッ…!
クローゼットの中から見ているホークの背筋が、ぞくり、とした。
一瞬、自分のモノを飲み込まれたように錯覚した。
けれどホーク自身の剛直は、天を衝いたまま、ひく、ひく、と射精欲求を訴えて、震えている。
──── くそ… 出し…てぇ…
せめて手が動けば自分でしごけるものを。
二人の男達もまた、事が済むとバーバラと連れ立って部屋を出て行った。
ホークは、重いため息をついた。
勃ったままの股間が痛い。
頭ががんがんして何も考えられない。
しばらくすると、バーバラは、また男を連れて戻ってきた。
どうやらバーバラはこの調子で、今夜はホークに、自分と他の男との情事を延々と見せつけ続けるつもりらしい事に、気づく。
──── もう勘弁してくれ…
心底、そう思った。
浮気した事なら謝るから。
もう二度と他の女には目もくれないから。
なんだったら土下座したっていい。
だいたい今回の浮気だってほんとに行きずりのただの浮気だったのだ。
相手の女の名前も知らない。
顔だってなんだかもう思い出せない。
舞台も毎日見にいく。
一番でかい花束を持っていく。
だから。
だから許してくれ。
お前に触れさせてくれ。
お前の中でイかせてくれ。
バーバラ。
頼むから。
けれど、ホークの体は身じろぎ一つ出来ない。
声を出す事も出来ない。
目の前の光景から顔をそむける事も出来ない。
気が、遠くなりそうだった。
今度の男は、まだほんの子供と言ってもいいような少年だった。
どこかおどおどとした様子で入ってくる。
──── こんなガキがやれんのかよ。
もう半ばヤケクソに、吐き捨てるようにそう思った。
少年は、まるで女神を見るような崇拝の目でバーバラを見ている。
「さっき、濃いのを全身にかけられちまってね。」
バーバラが少年にそう囁くと、少年がぱっと顔色を変えた。
「体中ザーメンだらけなんだよ。」
言いながら、するりとコートを脱ぐ。
裸身が現れた。
「…舐めて綺麗にしてくれるかい?」
少年が息を呑むのが、ホークにもはっきりと聞こえた。
まるで母親にするようなキスを、少年がバーバラの頬にする。
それから、猫がミルクを飲むように、一心にバーバラの首筋を舐めだした。
丹念に丹念に、少年はバーバラの全身を舐めていく。
けれど、決して唇や乳房、性器には触れない。
そこに触れるのは最大の禁忌とでも己に課しているかのように。
執拗な丁寧さで、少年は、バーバラの首筋を舐め、背を舐め、腹を、脇を、腕を、そして指の一本一本を丹念にしゃぶる。
ホークがバーバラの身体をこんなに丁寧に愛撫した事はない。
だいたいがいつも、バーバラの口戯にホークはたやすく煽られてしまい、夢中で巨乳を貪った後、淫裂が濡れているのを確認して性急に自身を埋め込んでしまう。
だが…。
──── 舐めて、みてぇ…。
自分も。
自分も、あの少年のように。
バーバラの脇の下に頭を突っ込んで、さんざん舐め回してみたい。
或いは、指の一本一本を口に含んで、舌を絡めてみたい。
ごくり、とホークは生唾を飲み込んだ。
指一本動かせないはずなのに、口内に湧き出た己の唾を嚥下できた事に、目の前の光景に心を奪われているホークは気がつかなかった。
少年は、バーバラの臍に舌を突っ込んで舐めている。
バーバラの臍には、小さな金のピアスが通してある。
ガーネットのついた小さなリングのピアスは、バーバラが舞台で踊っているとき、バーバラの臍で照明を受けながら、やけにエロティックに揺れる。
そのピアスも、少年は舐めた。
少年は、叢を避けて太股を舐め、膝の裏を舐め、足の甲を舐めて、今度は足の指を順々に口に含んだ。
指の股も丹念に舐めながら、少年は、はぁっ…と、欲情しきった熱い息を吐いた。
バーバラの乳にも陰部にも触れていないのに、バーバラから愛撫も受けていないのに、少年の若樹は洋服の上からわかるほどに勃ち上がっていた。
ふふ、とバーバラが薄く笑う。
開いている方の足が、少年の股間を擦り上げた。
「あ! アッ…!」
少年が身悶えた。
バーバラは、足の指で器用に少年のズボンをずり下げる。
ぴょこん、と皮を被ったピンク色の若樹が顔を出す。
綺麗にネイルを塗った足が、少年の若樹をしごきあげた。
「ふああっ…!」
もう片方のバーバラの足指を口に含んだまま、少年は喘いだ。
けれどバーバラは少年を足で蹂躙する事をやめない。
足の親指と人差し指の間に挟んで、強引に皮を引き下げる。
つやつやのピンク色の亀頭が露出した。
「ああッ」
ついに少年は、バーバラの足から口を放し、ブリッジをするように身体をのけぞらせた。
びくびくと全身を痙攣させ、可愛いペニスからぴゅぴゅっと白い液が断続的に迸る。
──── イきやがった。
バーバラの乳にも性器にも触れず、服も脱がず、唇にキスさえせずに、少年は射精した。
けれど少年の顔は穏やかで、満ち足りてすら、いる。
うっとりと、あの、女神を崇拝するような眼差しで、少年がバーバラを見上げた。
まるでバーバラが途轍もなくやんごとなき高潔な身分の女性に見えてくる。
少年は、自分の出したものも全て綺麗に舐めとり、そして、バーバラに連れられて部屋を出て行った。
ホークは幾度目かのため息をついた。
脳の神経が、焼き切れそうだった。
バーバラはまた部屋を出て行った。
帰ってくる時はまた別の男を連れてくるのだろう。
いつまで…。
いつまで続く。この気違い沙汰は。
ホークの股間は、風が吹いただけでも射精してしまいそうなほど、張り詰めている。
こんな状態で、ずっと耐えなければならないのか…。
もし、パーティーの誰かが今のホークを目にしたなら、その憔悴しきったありさまに驚くだろう。
このほんの数時間で、ホークは驚くほど面変わりしていた。
目は血走り、顔面は蒼白で、そのくせ股間だけは破裂しそうなほどパンパンになっている。
心なしか、頬もこけたような気すらする。
バーバラに触れたい。
気が狂いそうだ。
誰かが部屋に入ってくる気配がした。
今度はどんな奴だ、と目をやり、瞬間、ホークは愕然とした。
──── エ…エルマン…!?
バーバラの一座の、会計係だった。
がつん、と頭をぶん殴られたような衝撃があった。
エルマン、だと?
まさか、この男とも、ヤるのか?
本気か?
そんな仲だったのか?
いつからだ?
まさか、ずっと以前からか?
俺が口説く前からか?
どす黒い醜い嫉妬がホークの矜持を生々しく引っかく。
行きずりの男達とはわけが違う。
旅芸人一座は、全体が大きな家族も同然だ。
だからエルマンはホークよりもずっとバーバラの近しい位置にいる。
けれどそれはあくまでも家族として、とホークは思っていた。
男と女の関係ならば、端で見ていれば空気の流れでそれとわかる。
バーバラとエルマンの間にデキてるような空気はなかった。
バーバラは一座の誰ともそういう関係にはなかったはずだ。
それに、一座の全員が、ホークとバーバラがデキた事を知っている。
エルマンだって当然知っている。
第一、バーバラがエルマンのような男で満足できるはずがない。
バーバラは肉感的で性欲も強い女だ。
バーバラのような女には、体躯も逞しく全身を筋肉で覆われたような男が似合いこそすれ、エルマンのような男では、似つかわしくないどころか、いいとこ下僕だ。
エルマンは、丸眼鏡に珍妙なドジョウ髭のちび男で、貧相で貧弱で、背もバーバラより低く、強い近視で、力もない。
実際にはエルマンという男は、肉体的に劣る分、とても頭がよく知性もあり、冷静沈着で語学堪能、小難しいマネージメントやスケジュール調整、興行の交渉等を全て引き受け、座長に次いで一座の信頼と尊敬を集めているのだが、根っからの海賊であるホークにとっては、エルマンの見てくれは、男の範疇にすら入っていなかった。
エルマン自身が、舞台に立てない分、雑事を全て担うほどによく働く男だったので、それが逆に災いして、ホークは初めてエルマンを見たとき、本気でろくに役に立ちもしない下働きだと思っていたくらいだった。
それだけに、今、目の前で、バーバラがエルマンをそういう相手に選んでいる、という事が、ホークには、歯噛みするほどに認め難かった。
──── 許さ…ねェ…
怒りに目が眩んだ。
殺してやる、とすら、思った。
バーバラが、エルマンの胸倉を掴むようにして引き寄せ、噛み付くようなキスをした。
一方的にさんざん舐りまわし、手を離すと、エルマンは腰が抜けたようにすとん、とその場に膝をついた。
赤い顔をして、しきりに眼鏡を直している。
そのくせ、やけに冷静な声で、
「あんまり誉められたやり方じゃないと思うけどね。」
と小さく呟いた。
「黙って。」
と、バーバラが言い、エルマンの身体をそのまま床に押し倒す。
しかたないなあ、というような、ため息を、エルマンは一つついた。
その様子からは、二人が睦み合う事が、これが初めてではないと、雄弁に窺わせた。
バーバラはエルマンに馬乗りになって、エルマンの服を脱がせている。
エルマンは仰臥してなすがままだ。
その態度は横柄にすら、見える。
やりたいんなら勝手にどうぞ、というような不遜な雰囲気だ。
バーバラの身体になど興味もない、というようなその態度に、今までとは全く別の次元の怒りが、ホークの中で募る。
ホークが欲しくて欲しくてたまらない身体を、こんな、こんな男が、ぞんざいに扱っている。こんな男が。
そうだ。
欲しくて欲しくてたまらなかったのだ。
まるで緋色の炎を纏っているかのような真紅の髪を揺らめかせて、惜しげもなくその豊満な肉体を、満座の観衆に視姦させながら、誰一人として指一本触れさせないような強い光を放つ瞳を持つ、この豹のようにしたたかでしなやかな女が。
そうしてなりふり構わずくどいて、手に入れたはずなのに、何故こんな事になっているのか。
やれやれ、とエルマンは小さく呟いて、またため息をついた。
「演目を分けようと思うんだけどね。」
やってる真っ最中とは思えないほどのんびりとした口調で、エルマンが言った。
相変わらずバーバラにさせるがままだ。
「分けるって?」
バーバラがエルマンのズボンを剥ぎ取りながら聞き返した。
「バーバラ達は酒場で踊ってても問題ないけど、…むしろ酔っ払い向きだけど、手品や軽業は酔客相手にしても意味がないだろう。夜組と昼組に分けようかと思ってね。」
バーバラがシックスナインのポーズでエルマンの身体に覆い被さった。
「昼間っからパブで?」
くったりと力のない陰茎を、口に含む。
「いや、街角で。この町の子供たちを相手に出来たらと思って。」
こんな状況で、ごく普通に会話をしている事が、まるで夫婦の寝屋でも覗いているような、生々しさだった。
自分の女であるはずのバーバラが、まるで他人の女房に見える。
嫌な焦燥感が、ホークの背筋を撫でた。
「ああ、そりゃいい。ナタリーにも歌わせてあげな。お天道様の下で歌いたかろうよ、あの子も。」
バーバラがもごもごと咥えながら喋り、ねだるように腰を揺らした。
「…臭いよ。」
ハンカチが落ちましたよ、みたいな口調で、エルマンが言った。
「あんたで5人目だからね。」
よくやるよ、と、エルマンはまた小さく呟いた。
エルマンが、無造作にバーバラの秘裂の中を掬い上げるように指を2本突っ込んだ。
じゅぶ…、という卑猥な音がする。
「ザーメンだらけだ。」
あん、とバーバラが喘いだ。
「あ、は…、2本くらいじゃ、全っ然足りないよ。」
「だろうねぇ。」
言うなり、エルマンは手首を回すようにして、拳をバーバラの淫裂に埋め込み始めた。
ホークが目を見張る。
──── よせ… やめろ…!
自分の大切な女が、壊されるのではないかという、明確な、恐怖。
「んああっ!」
高い声を上げて、バーバラの背がのけぞった。
緋色の髪がばさりと広がる。
その間からのけぞった美しい首筋が一瞬覗き、すぐにそれはまた、激しく振り下ろされた頭で、緋色の髪に隠された。
「あ! あっ ああん すご、いっ! あふぅっ ううーっ!」
エルマンの拳が淫裂に沈んでいくにつれ、バーバラの背は猫のように丸まり、かすかに震えだした。
「あぅぁ ああっ んっ んあっ ふ」
けれどその声に苦痛の響きはない。
ただひたすらに快楽を追っている、声。
じゅぶ ぬちゃ ぐじゅ ぐちゅる ずぷ にちゅ ぢゅぬっ
「あんっ ア あぁ〜っ、あぁ、あっ んあ イイっ あっはぁっ!」
男の拳を胎内に受け入れて、バーバラは激しく腰を振る。
重そうな巨乳が誘うように揺れる。
己の女が、あられもなく乱れる姿を、クローゼットの中から息を詰めて見つめるホーク。
「あ、深、深…いっ く、あっ ひぃ」
あんなものでなく。
「ああっ あっ ア ふあっ んんっ」
自分のこの限界まで張り詰めたモノを。
「はあっ …っあ、ひぁ… あふ あああ…!」
あの淫らに濡れる穴に思うさま捻じ込みたいのに。
「イクの?」
──── イク…のか?
「い、い… イク、い、あっ イクっ うあ イク イク…」
その顔は快楽にとろけきっている。
「も、だめ、イク っあ、イク ああ」
ずる じゅぽ ぐぷ にゅぷ ずりゅ ぬじゅ ぶぢゅる
不意に。
バーバラの視線が、ホークを捉えた。
──── !
向こうからこちらは見えないはずなのに、まっすぐにホークを見つめる瞳。
さっきまで確かに度をこした快感に濁っていたはずの瞳が、はっきりとホークを挑発していた。
「あっンん ふあ あああ」
喘ぎながら、その視線はホークから外されない。
──── クソっ… なんて目ぇしやがる…
男の欲望を壮絶に煽るような、そのくせ、触れただけで喰われそうな。
まるで、こちらが、犯されているような。
淫蕩な、捕食者の、目。
男を骨抜きにする、魔性の目だ。
その扇情的な目が、ホークを鷲掴みにしたまま………… 嘲笑った。
「ひあっ! イク う ゥ あ イクぅぅっ…ぁーっ…!」
荒い吐息に消されるような掠れた嬌声を上げて、バーバラの豊満な肉体が達した瞬間、クローゼットの中のホークも、射精していた。
激しく全身を痙攣させながら。
女の目に犯されながら。
* * *
「なに、あれ。」
憮然とした表情を隠しもせず、ミリアムは、カウンターに頬づえをついたまま、器用に顎をしゃくって視線の先を指した。
シフは、ミリアムが指した方に顔を向け、舞台の上でエキゾチックな踊りを披露する踊り子に目をやり、それからその視線を、踊り子を嘗め回すように見上げている阿呆どもにおとしてから、ミリアムに向き直って、ちらりと片眉をあげて見せた。
「“ちょん切られた”って事なんだろうよ。」
にやりと笑う。
「えっ? バーバラったらほんとにおちんちんちょん切っちゃったのっ?」
二人の会話を横で聞いていたアイシャが、ギョッとして、思わず口を挟む。
その横にいたクローディアは「アイシャったらっ!」と真っ赤になってアイシャの口を塞ぎ、ミリアムは爆笑のあまり、腰掛けていたスツールから転げ落ちそうになった。
「比喩だよ、比喩!」
おちんちんとか、嫁入り前の娘が言いなさんな、と、シフがアイシャを軽く、「めっ!」としたので、アイシャは我に返って赤くなって俯いた。
「だってぇ、あんな船長、初めて見るんだもの…。」
アイシャの言葉に、今度は全員でその方向を見た。
「本当ね…。」
「ねぇ? どうよ、あれ。」
「アイシャ、クローディア、よ〜く見とくんだよ。あれがね、“尻に敷かれた”って言うのさ。」
女性陣全員の、やや呆れた視線を一身に浴びて、舞台前の客席の一番前のど真ん中、持ち主の顔が隠れるほどの馬鹿でかい花束を持って、陸に上がったカッパ、キャプテンホークは、アホ面の観衆の中でもひときわだらしのないアホ面を晒して、舞台の上の恋人を見つめていた。
今日も舞台が終わったら、ありったけの愛と賛辞と美辞麗句で彼女を口説こうと思いながら。
END.
◆◆ あとがき ◆◆
クソ間抜けなホーク船長が大好きなんです。
あと、おちんちん、て言ってしまうアイシャってカワイイな、と思いました。
でも、フィストファックはやりすぎだろ、私。