GRAYxCLAUDIA V
顔に明るい日差しが当たるのを感じて、グレイは目を覚ました。
まだなんとなく眠気の残る頭が、次第に目覚めてくる。
刹那、グレイは、雷に打たれたようにびくっとし、慌てて半身を起こした。────起こそうとした。
左腕に、柔らかな重みがあり、体が起こせない。
視線を落としたグレイの顔に、ほっとした表情が浮かぶ。
すぐにそれは、いとおしさを含んだ微笑へと変わる。
腕の中に、安心しきって眠っている、クローディアがいた。
その寝顔が、昨晩の事が夢などではないと、グレイに語っている。
「クローディア…」
そっと名をつぶやくと、クローディアがうっすらと目を開けた。
目の前に、グレイを認めて、まだ眠たげだった瞳が、一瞬はっとしたように見開き、すぐにその頬が見る見る赤面したかと思うと、クローディアは、グレイの胸に顔をうずめてしまった。
「おいおい…。どうした? ん?」
柔らかなブラウンの髪に口付けながら、グレイが優しく囁く。
「…………………恥ずかしい…………………」
消え入りそうな声で言う。
グレイはくすっと笑うと、体を起こして、クローディアから身を離そうとした。
クローディアはいやいやをしながら尚もグレイに抱きついてくる。
その柔らかな体を受け止め、グレイは、体を入れ替えてクローディアを組み敷いた。
それでも尚、両腕を顔の前で交差させるようにして、顔を隠すクローディア。
グレイが、その腕を、優しくほどく。
恥ずかしそうに目を伏せた、クローディアの顔が現れた。
「クローディア。」
囁くと、潤んだヘイゼルの瞳が、はにかみながら上を向いた。
そっと、グレイがクローディアに口付けをする。
触れるか触れないかの、優しいキス。
すぐにそれは、おはようのキスには濃密過ぎるほど、濃厚なキスへと変わる。
「ん… ふ…っ…」
それはクローディアが幼い頃から夢見たままの、愛する人からの甘い甘い口付けで、クローディアを瞬く間に幸福感の極みへと押し上げた。
「クローディア…」
耳元で名を囁かれるだけで、泣きたくなるほどのせつなさで、心が震える。
自然と、二人の足が絡み合う。
素肌の感触が、こんなにも心地良いものだという事を、クローディアは初めて知った。
逞しいなめらかな肌のあちこちに、無数の傷が刻まれた、グレイの体。
それはそのまま、これまでのグレイの生き様を物語っていた。
クローディアには想像も出来ないほど、数々の試練と困難を乗り越えてきた肉体…。
不意に、
「きゃっ」
グレイの指が、つうっと背を撫ぜ、クローディアはそのくすぐったさにびくりとした。
「グ…グレイ…」
クローディアの背を滑ったグレイの手は、そのまま、柔らかな尻を弄ぶ。
「あ…!」
クローディアが恥ずかしさに身をよじる。
「やっ…ん…」
悪戯な手は、尻の谷間を割り、更に奥へと潜ろうとする。
「いやぁ…ん…っ」
クローディアが慌ててグレイの顔を見ると、グレイはいたずらっ子のような顔で、くすくすと笑っていた。
ぷうっとふくれるクローディア。
「いやっ! もぉ!」
くるん、と寝返りを打ち、グレイに背を向けてしまう。
と、すぐにグレイが、後ろからクローディアを抱きすくめた。
クローディアの首筋に、唇を這わせる。
「ひゃっ…!」
その時、クローディアは、己の尻に当たる硬い感触に気づいて、ぱっと顔を赤らめた。
俄かに鼓動が早くなる。
背中から回されたグレイの手が、クローディアの乳房を鷲掴みにし、やわやわと揉みながら、乳首をつまみ上げる。
「あ… はぁ…っ…」
昨夜、何度睦んだか知れないのに、体は瞬く間に、浅ましいほど相手を欲して反応してしまう。
グレイの手の中で、クローディアの乳首がぷっくりと硬く隆起する。
「んふ… あっ… ひぅん… あぁ…っ」
耳に届く自分の声が、恥ずかしいほどに甘い。羞恥を掻き立てられ、尚更、体の芯が熱をもつ。
ふと、グレイがクローディアの乳房から手を離した。
「……?」
快感が突然途切れ、クローディアの顔に戸惑いの色が浮かぶ。
グレイがクローディアの体を、ころんと仰向けに返す。
かと思うと、グレイの唇が、クローディアの乳首に吸い付いてきた。
「っあ!」
クローディアがのけぞる。
硬く尖った乳首を、ねっとりと熱い舌が舐め上げ、唇がついばみ、吸いたてる。
もう片方の乳房も、グレイの大きな手が、揉み潰さんばかりの勢いで、こねくり回していた。
「あっ… グレイっ… あふ…っ は…」
更に空いた手が、クローディアの内股に滑り込む。
「はぅ…!」
ぬるんっと濡れた感触が、秘裂を撫で上げた。
自分ではっきり分かるほど、そこが濡れそぼっている事を知り、クローディアの羞恥は脳天まで駆け上がった。
────だめぇ…! …っちゃう…!
そう思った瞬間、また突然グレイが愛撫の手を止めた。
────あっ…!?
せつなさが、つき上げる。
グレイは、乳房には触れず、わき腹に優しく口付けている。
別のところに触れてほしい、など、クローディアに言える筈もない。
ただ、泣きそうな目で必死に訴える。
すると、グレイがクローディアの乳首をきゅっと摘み上げた。
愛撫が再開され、クローディアの体はまた熱くなる。
が、クローディアの意識が快感に翻弄されそうになると、グレイはまたすっとクローディアから手を離す。
「グ…レイ…!」
たまらずにクローディアが泣き声を上げた。
「どうした?」
したり顔で聞き返すグレイの反応を見た瞬間、クローディアは、自分が焦らされてる事に気づき、かぁっと赤面した。
「いじわる…っ!」
体の芯がくすぶっていて、せつない。
グレイはそんなクローディアをにやにやしながら見おろしている。
「や…だ、もぉっ! グレイのバカ…っ!」
起き上がり、全く力の入ってない拳で、グレイの胸板を叩く。
せつなくてせつなくて、クローディアの目に涙がにじむ。
「何がさ?」
グレイの指が、クローディアの乳首をぴんっと弾く。
「きゃうっ」
クローディアの体がはねた。
「いじわる…! いじわる!」
もう半ば泣きそうだ。
「お…願… グレイ…!」
体の疼きを止めて欲しくて、頭がおかしくなりそうだった。
すっと、グレイがクローディアの耳元に口を寄せる。
「どうしてほしいのか、言ってごらん。クローディア。」
とびきりの、甘く掠れた声が囁いた。
どくん、とクローディアの心臓が大きく鳴った。
こんな時ばっかり、そんな風に囁くなんて、ずるい……!
クローディアが、精一杯の抗議の目を向ける。
グレイのすました顔が憎たらしくて仕方がない。
しかし、グレイとて、実のところそれほど余裕があるわけではなかった。
その股間の剛直は痛いほどに反り返り、びくびくと震える先端から雫が零れ出ている。
それを目にした瞬間、クローディアは、自分の体の奥から、じわっと蜜があふれ出してくるのを、はっきりと自覚した。
や…だ、あたし…!
自分の体の浅ましい反応に、クローディアは動揺する。
クローディアの中に、自分の体の反応をいやらしいと思う気持ちと、それ以上にたまらない気持ちとがせめぎあっている。
頭の芯が、じんじんと痺れる。
せつないよ… せつないよ、グレイ…!
「グレイ… お…ねが…い…。おっきいの…欲しいよぉ…」
もはや自分が何を口走ってるのかわからなかった。
グレイの喉が、ごくり、と鳴った。
「よく…できました…。」
にやりと笑おうとしたが、できなかった。
うっとりと上気した、甘えた顔でねだる、クローディアの顔。
その初めて見る艶かしい表情に、グレイは目を奪われていた。
焦らしているつもりで、限界が近いのは自分の方か…。
クローディアの体を押し倒し、その足に口付けしながら、広げる。
ふと、グレイは、クローディアの体から強張りが解けている事に気がついた。
いつもならこうして挿入しようとすると、クローディアは硬く目を瞑り、唇をかみ締めていたのに…。
いとおしさが、募る。
クローディアの心が、すぐ近くにあった。
一瞬ごとに、グレイの心はより強くクローディアに惹かれていく。
もうこれ以上愛するなど出来ない、と思えるほど想いは強いのに、次の瞬間には更に強く、グレイの心はクローディアにからめとられていた。
餓えていたのは…欲望ではなく…せつないまでに人を恋うる気持ちだったのだと、グレイは思い知っていた。
心が寄り添うだけで、こんなも満たされるのだという事を…。
グレイがゆっくりと、熱い蜜の中に身を沈めると、クローディアが白い首筋を見せてのけぞった。
「っは…あ…あああぁああぁぁ…」
クローディアが、思わずグレイの逞しい肩に爪を立てる。
グレイがゆっくりと腰を動かしはじめると、熱く濡れ滴る蜜が、淫猥な音を立てた。
クローディアの中を、グレイのモノが奥の奥まで探る。
その圧倒的な質量に、クローディアは喘いだ。
クローディアの細胞の一つ一つにまで己の痕跡を残したくて、己を刻み付けたくて、グレイは、奥をえぐるように、深く、深く何度も腰を打ち付ける。
「ひあ… はうっ… ん…っ ああんっ…」
淫らに喘ぐクローディアの声に、どうしようもなく溺れていく自分がいる。
できることならこのまま、溶けて、一つになってしまいたかった。
己の腕の中で、固く結んだ蕾から、匂い立つように咲きほころんでいく、いとおしい花。
食べてしまいたいような、衝動がつき上げる。
けれど、その想いは、今までのように、グレイの内で凶暴なものに歪む事は、もはやなかった。
ただ、ひたすらに、いとおしい。
こんな想いを、グレイは知らなかった。
こんなにも甘く、せつない想いを。
クローディアの足をわざと大きく開かせ、その太く大きなモノを誇るように、ゆっくりと出し入れする。
「や…だっ… 見ちゃ、やっ… 」
クローディアが恥ずかしさに身悶えする。
グレイからは、その羞恥に満ちた顔も、股間の淡い翳りも、グレイの剛直を飲み込む秘裂も丸見えになっている。
「俺のを嬉しそうに咥え込んでるぜ?」
「やあぁぁぁんっ…」
言葉で嬲ると、秘裂が急に締まった。
その快感に、グレイは思わず喉の奥で「くっ…」と呻く。
グレイの動きが早くなった。
「あ あっ あぁああああ…」
声が一段と高くなる。
次の瞬間、クローディアの胎内がびくびくと震え、グレイの熱い迸りを受け止めた。
* * *
「……………バカ…」
クローディアが小さくつぶやいた
「バカバカバカバカ!」
愛撫を焦らされ、はしたない言葉でねだった事が、今になって急に恥ずかしくなったのだろう。クローディアは真っ赤な顔をして唇を尖らせ、怒っている。
グレイは、そんなクローディアの様子が可愛くて溜まらず、くすくすと笑い出す。
それがまたクローディアの怒りを煽り、クローディアはやおら起き上がると、枕を掴んで思い切りグレイの顔めがけて振り下ろした。
「バカッ!」
「わっ! やめろって、クローディア。よせ!」
グレイは慌ててクローディアの腕を掴んで、引き寄せる。
「グレイなんて…グレイなんて…もぉ!」
「……嫌いになった?」
不意に問われ、クローディアは、どきりとして顔を上げる。
グレイの灰色の瞳が、クローディアを見ていた。
その瞳に真摯な光がある。
「………大好き……」
クローディアが囁く。
灰色の瞳が微笑んで、優しく口付けてきた。
グレイの首に手を回し、身を預けるクローディア。
そのまま二人の体は、再びベッドに沈み込む。
「ん………」
グレイの唇と舌が、クローディアの唇を、輪郭を、耳朶を、首筋をなぞる。
「あ………」
クローディアの唇から甘い吐息が漏れる。
「……ちくしょう、きりがねぇ…」
不意にグレイはつぶやくと、名残惜しそうにクローディアにもう一度口付けをして、起き上がった。
「…グレイ?」
クローディアが怪訝そうに半身を起こす。
グレイはその額にキスをして、ベッドから降りた。
できうる事ならいつまでもクローディアを抱きしめていたい。
だが…。
「クローディア…。」
グレイはゆっくりと息を吸った。
「今日で、一週間だ。」
クローディアが息を呑んだ。
グレイは、自分が意外なほど穏やかな気持ちでいる事に、内心驚いていた。
あれほどこの日を恐れていたはずなのに、今、グレイの心の中は、何処までも穏やかで、優しい柔らかいもので満ちていた。
途切れる事なくグレイを苛つかせていた心のもやもやも、嘘のように澄み切っている。
闇の迷宮から、心が解放されていた。
もう二度と、自分の心の闇にとらわれることはないだろう…。
たとえ、このままクローディアと永遠の別れになるとしても、この想いだけは決して消えないだろう、と、そう思えた。
「グレイ………」
それでも、クローディアの顔を正面から見るのは、辛かった。
我知らず、目を反らしてしまう。
クローディアは、いい君主になるだろう。
帝国の政情は不安だが、クローディアがいれば、皇帝も心強くなろう。
俺も元の生活に戻るだけだ…………
とん、と背中に柔らかい感触が当たった。
クローディアが、グレイの背中に自分の頭を、こつんと押し当てていた。
「グレイ…」
声が、心なしか潤んでいる。
「宮殿へ行くのはいや………」
クローディアが、グレイの体にそっと手を回す。
「あたしは……グレイと一緒にいたい…」
グレイが目を見開いた。
振り返り、クローディアを見つめる。
見上げたヘイゼルの瞳に、涙があふれていた。
「グレイが…あたしを嫌いでも…あたしは…グレイが好きだから…。」
クローディアが、切なげに目を伏せる。
その言葉にグレイは驚く。
昨日の今日で、あまつさえ、たったの今、これほど愛を交し合ったのに、どこをどうしたら俺がクローディアを嫌い、だなんて言葉が出てくるんだ?
そこまで思って、不意に思い至る。
何度睦んだか知れないのに、グレイは、己の気持ちを、クローディアに言葉で伝えていなかったことに。
自分の愚かさに自嘲して、グレイは、クローディアの小さな肩を優しく抱き寄せた。
「グレイ…?」
クローディアを抱く、グレイの腕に、力がこもる。
クローディアの息が詰まりそうなほど強く、強く、グレイが抱きしめる。
「…………クローディア……………」
宝物を抱きしめるように、グレイが囁く。
それから、微かに、聞き取れないほど微かに、けれどはっきりと、その声が言った。
────愛しているよクローディア…
END.