詳しい登場人物と時系列 2
災厄の神サクラクラーチ/女神サクラクラーチ
- 本名/倉内咲良(くらうちさくら、1932(昭7)年06月12日−1946(昭21)年12月18日)
- 稲生祐士の妹の孫にあたる。
- 稲生祐士の妹は結婚して倉内姓となり、三男一女(男女男男)の母となるが第四子を生んだ7年後に病没。
- 第三子の次男は許婚がいたにも拘らず、これを嫌って贔屓の芸者を落籍して同棲する。
- だが親族の反対により結婚することができず、許婚も解消することが許されず、しかたなく芸者とは長らく内縁関係となる。
- やがて男児が生まれるが、慎重な性格の母は男児では引き離されるかもしれないと考え、女児と偽り、「咲良」と名づける。
- 数年は親子三人で幸せに暮らしていたが、父は親族からの圧力により、やむなく許婚と結婚する。
- 妾と子の存在はすぐさま正妻の知るところとなり、激怒した正妻は、人を使って妾宅を襲わせる。
- 妾はこの時の暴行が原因で数ヵ月後に死亡。咲良は性別を隠したまま本宅に引き取られ、倉内姓となる。
- それでも、父親がいるうちは正妻は咲良には手が出せなかったが、やがて戦争が勃発。父親は出征する。
- 父親が不在となったとたん、咲良は正妻から苛烈な虐待を受けるようになる。
- 全身から生傷が耐えないような生活を強いられ、眠る間際に幸せな人生を空想することだけが唯一の拠り所だった。
- 空想の中での咲良は幸せな子供だった。
- 頭の中の世界だけは、誰にも汚させはしなかった。
- 眠りに付くまでのほんの僅かな時間だけが咲良に許された幸せな時間だった。
- ある時、空想の中で一つの世界を見る。
- その世界は、妖精がいて、魔物がいて、美しい金に光る白い龍がいた。
- 白い龍は、とても大きな山から飛来してきては、人々を救ったり悪者を懲らしめたりしていた。
- 大きな山は、実は神様が姿を変えたもので、白い龍はその神様のお使いだった。
- 自分の空想のはずなのに不思議だな、それとも夢を見ているのだろうか、と思いながら、咲良はその世界を毎晩眺めるようになる。
- そして、あの白い龍が、いつか自分を救いに来てはくれないだろうかと夢に見るようになる。
- 咲良が見ているのは、勿論、ユージーノーの箱庭世界だった。
- 咲良はユージーノーの血族だったため、咲良の中に流れるユージーノーと同じ血を媒介として、ユージーノーの作り上げた箱庭世界にアクセスすることができたのだ。
- ユージーノーはすぐに、自分の箱庭世界が現実世界の誰かから覗かれていることに気が付いた。
- そして咲良を知った。
- 咲良は、ユージーノーの血脈を持ち、生前のユージーノと同じように想像力が豊かで夢見がちで、そして命の危機に晒されている者だった。
- ユージーノーは咲良の境遇を知り、同情したが、現実世界においては既に死人であるユージーノーにはどうしてやることもできなかった。
- やがて、現実世界では終戦を迎え、咲良の父親の戦死通知が届く。
- この頃になると、倉内家の財政は苦しくなりつつあった。
- 正妻は、まだ14歳にもなっていなかった咲良を遠縁の資産家に養子という名目で嫁がせる。
- 結婚相手となった遠縁の息子は知的障害があり、咲良は更なる暴力に晒されることとなった。
- そしてついに、咲良が男であることが露呈し、激昂した相手の過度の暴行によって咲良の命は絶たれる。
- 享年14(歳)。
- その瞬間、ユージーノーは、咲良の魂を箱庭世界へと召喚する。
- 咲良は、ユージーノーと同じく、現実世界の輪廻の輪から外れ、箱庭世界の神となった。
- 最初のうち、咲良は、ユージーノーの山に佇んだまま、ただ茫洋と世界を眺めていた。
- あまりに過酷だった生前の記憶が魂を疲弊させていて、咲良は平凡に平和に暮らす人々を見守るだけで、幸福感に浸っていた。
- そのうち、咲良はヴェルメリオが人界へ飛んでいくときに、その背に乗って共に行くようになった。
- 意識体である咲良は人間の目には見えなかったが、邪気のない子供や霊力の高い人間の中には、ヴェルメリオの背に少女のような姿が乗っているのを見る者もあった。
- 何年も何年も人々の暮らしを追っていけば、やがて負の部分も目に入る。
- ある時、咲良はある国で生前の自分と同じように虐げられている幼子を見た。
- その国は貧富の差が激しい国で、幼子は貧民層として生まれ、当たり前のように親からも兄達からも他人からも理不尽な暴力を受けていた。
- それを目にした瞬間、咲良の長年にわたって鬱屈してきた怒りが爆発した。
- 怒りのあまり力の加減ができず、咲良は、その国の人々を、国ごと大波で流してしまった。
- 咲良は自分が引き起こした惨劇に戦くと同時に、自分の力に酔った。
- そして咲良は災厄の神サクラクラーチとなった。
- その惨劇を見ていた近隣の国の人々は、サクラクラーチを恐れ、咲良を祟る神として祀った。
- 必死でサクラクラーチに許しを請う人々の姿に、サクラクラーチの怒りはやっと収まった。
- だがその頃には、サクラクラーチが大波で流した国は、焦土と化し、そもそもの誘因となった幼子すら、その大波で命を落としていた。
- サクラクラーチは深い悔恨に襲われた。
- そして、神の力を恐れ、人間としてのささやかな幸せに焦がれた。
- サクラクラーチは、人としてこの箱庭世界で幸せになりたいと思った。
- だがそれには人としての器を手に入れなければならない。
- 思案の末、サクラクラーチは、人形を咲良の代わりとして動かす事を思いついた。
- 子供の頃によくやっていた人形遊びのように。
- そのためのひとがたを一つこしらえ────ようとして、サクラクラーチは迷った。
- 女性体にすればいいのか、男性体にすればいいのか、わからなくなってしまったからだ。
- 倉内咲良の生前の性別は男だったが、倉内咲良は生まれた時から女として育てられてきた。
- 倉内咲良の性自認は女だ。初恋の相手は叔父だった。
- しかし倉内咲良の体は男だった。女の体など、幼くして亡くした母のもの以外見たこともない。
- 迷った挙句、サクラクラーチは女性体のひとがたを作った。
- 女の体を知らなかったから、母によく似ていた一人の人間の女をモデルにして、その女の一生を観察して、その通りに成長するよう作った。
- そしてその体に自分の意識を宿らせた。
- 人の体は脆弱で、神としての力を使えばすぐさま飛散してしまいそうで、サクラクラーチはひとがたの現身に宿っているときは神の力を使わないようにした。
- そうして人の人生を謳歌し始めたサクラクラーチだったが、なかなかそれはうまくいかなかった。
- お姫様のような人生を歩みたい、と、王の娘として生まれてみたが、国のために政略結婚をしなくてはならなくなったり、絶世の美女に生まれてみたが、外見ばかりに惹きつけられる男達に求婚されるばかりで、幸せとは言いがたい人生だったりした。
- なにより、慣れない女の体は違和感ばかりが強くて、サクラクラーチは戸惑うばかりだった。
- ならば、と今度は父に似せて逞しい男性体のひとがたを作り、その中に宿ってみたが、男としてふるまうのはさらに苦痛で、サラクラーチはそれも断念した。
- 結局サクラクラーチが一番しっくりきた体は、生前のような華奢な男性体で、そのうえで仕草は女性のようにふるまうのが一番楽だった。
- そうしてサクラクラーチは、いろいろな人生を何度も楽しんだ。
- 時には、何かのきっかけで神の力を爆発させてしまうこともあり、それはそのまま各地にサクラクラーチの神話として残った。
- だから、災厄の神としてのサクラクラーチは男神として祀られており、別の国では復讐の女神として祀られている。
- のちに軍神ハルトクラーチと夫婦神であるとみられるようになってからは、夫婦円満の神としても知られるようになる。
2015/10/23
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